D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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半年以上も放置してすまない……すまない……リアルが大変だったんだ。ついでに三国志世界でオッサン達にモテモテになってたんだ……!


EPISODE 38

 

 

 

 

____PiPi♪ PiPi♪ PiPi♪

 

 

 

 

「ふわぁ……ねっむぅ……って、どこだここ……?」

 

 

TABの目覚ましの音で目を覚ます。

 

それから目を擦って体を軽く伸ばして……ふと、ここが自分の部屋じゃないことに気が付く。

 

 

「…………あ、そうだ。昨日は灯火の部屋に泊まったんだったか」

 

 

妙に物の少ない、それでいて逆にキッチンには調理器具の充実してるチグハグな部屋。

 

杉並に借りたマットのおかげか、床で寝てた割には目覚めはすこぶるいい。

 

 

「って、その灯火はどこに行ったんだよ」

 

 

ベッドは既にもぬけの殻。

 

本来ならいるはずの住人の姿が見えないことに疑問を抱いていてると、COMUの方にその住人からのメッセージが入ってることに気が付いた。

 

 

『メシは冷蔵庫の中に入ってるから、レンジ使って勝手に食ってくれ。で、鍵は郵便受けに入れといてほしい。おれは野暮用だ。また学校でな』

 

 

……とのことらしい。

 

ふと、時計を見る。

 

普段家で起きる時間に目覚ましをセットしていたけど、ここは学生寮。

 

学校は目と鼻の先だ。

 

つまり、登校するにしてもまだまだ余裕がある。

 

 

「……だっていうのに、俺より早く起きて何してんだあいつ……?」

 

 

そんな疑問が頭に浮かぶ。

 

しかも朝飯を作る余裕まであった辺り、早起きが状態化してるのだろうか?

 

まぁ、灯火なら杉並みたいに変なことはしてないだろうと結論づけながらも、取り敢えずお腹が空いたので早速メシを食う為に、もそもそと起き上がるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 38-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____ドパァンッ!

 

 

 

 

鳴り響くのは、聞き慣れたそれより威力を抑えたマグナム弾の発射音。

 

的にしていた空き缶が跳び上がり、目を細めると同時にそこを狙って更に連射。

 

銃声と缶を撃ち抜く軽快な音が6発分、しっかりと響いてから、空を踊っていた空き缶が地面に落ちる。

 

その缶を回収して銃痕を確認し……溜息を吐く。

 

最初に空けた穴に通ったのは3発だけ。あとの2発はズレてしまっている。

 

 

「……むぅ、鈍ってやがる」

 

「平然と飛んでる空き缶に全弾叩き込んでるのに、何が鈍ってるんよ?」

 

「ストイックなのにも限度があるだろう……君はアレか? 実は修行バカかなにかなのか?」

 

「こう言うところはお兄ちゃん、バカになるよねー」

 

「うるせーぞ外野ども」

 

 

 

 

 

3/14(木) 天気は晴れ時々曇り。体調も良好。

 

 

 

 

 

いつもの森の中での射撃訓練に茶々を入れてくる魔法使い組3人の言葉に、思わず額に青筋が浮かぶ。

 

しかし怒っても仕方ないことをすぐに理解したので、溜息を吐きながら愛銃のリロードを済ませてビー玉と取り替え、洗浄の魔法も使ってから地面に脱ぎ捨てていたブレザーを着る。

 

 

「あれ? 訓練はもうええん?」

 

「今日はいい。集中し過ぎたら学校遅れるしな」

 

「まだ大分早い気もするが……」

 

「今日はホワイトデーだからな、早めに行って菓子を用意するんだよ。……あ、おのれらは生チョコだけな」

 

「バレンタインなんもあげてへんのにホワイトデーのお返し貰ったんやけど!?」

 

「しかもまた絶妙に美味そうだな……!?」

 

 

クラスの連中にあげる分のついでに【取替の悪戯】で取り出した袋を魔法使い二人に渡すと大変面白いリアクションをもらった。

 

で、なんかソワソワしてる海央には別の袋を渡す。

 

 

「海央はこっちな。あのチョコケーキの礼だから、SSRの皆には野郎共の総力で作った特別品だ」

 

「! お兄ちゃん、ありがとーーー!!」

 

 

破顔してお礼を言ってから高速ダッシュでハグをかまして、お約束の頭をグリグリ押し付ける甘え方をする妹分に思わずほっこりしつつ、海央に渡したのと同じものを盾石に渡しておく。

 

 

「悪い盾石、ソラさんにコレ渡しといてくれねぇか?」

 

「ミオちゃんと同じ奴やね。ふっ、ウチが摘み食いしないと思うた____ごめんなさい冗談です。ですのでどうか般若みたいな顔で睨まんといてぇ……! そのガトリング向けるのも堪忍してぇ……!」

 

 

ガチャンと、【取替の悪戯】で愛銃と取り替えたミニガンを無言で構えると、流石に悪ふざけは出来ないと察したのか盾石が両手を上げて降参の意を示す。

 

……うん、ツッコミがてら大型火器の取り替えも試してみたけど、魔力の通りに問題は無さそうだな。

 

 

「兵器をツッコミで使う人間なんて、多分君くらいなものだぞ……?」

 

「なんなら撃っても良かったんだが、弾が勿体ないからな」

 

「ウチの生命、ガトリングの弾より安いん!?」

 

 

ごーんっ!?と、分かりやすくショックを受けつつツッコミをする盾石に海央と氷室も苦笑する。……実はボケるよりツッコミする方がコイツは輝くのではないだろうか?

 

そんな思考は脳の片隅に追いやりつつ、本日の早朝訓練を終える。

 

氷室も鳳城の護衛があるので同じタイミングで離脱、海央はもう少し魔力の制御訓練をするらしく、盾石はその付き添いだ。

 

 

「……やっと春が来たって感じだな」

 

 

ぼちぼち咲き始めた桜に春の訪れを感じながら、香々見学園までの道のりを1人でのんびり歩く。

 

……そう言えば、明日は卒業式なんだよな。

 

ふと、思い浮かんだのは付属生徒としての区切りの行事。

 

杉並がまた何か企んでるだろうし、今度は便乗してハジケてみるのもアリかもな。

 

 

「フッ、俺を呼んだか同士よ」

 

「うぉう!? て、 テメェ! 脈絡なく湧いて出てくんじゃねぇよ!」

 

 

不用意に奴のことを考えたのが不味かったのか、完全に意識外から声を掛けられて心底ビックリする。不覚極まりない。

 

つか、毎度毎度思うが、ホントにどこから湧いて出て来るんだよコイツ!? この周辺、遮蔽物ないよな!? 魔力も感じなかったから魔法でもないよな!?

 

 

「最近、貴様には察知される事が多かったからな。たまたま見掛けたので気配遮断∶EXの隠行にて近づいた」

 

「暗殺者かテメェは!? さらりと人外の所業してんじゃねぇ!」

 

 

評価規格外のスキルを容易くと使ってんじゃねぇよ、ホントに暗殺者の英霊かなんかか、おのれは。

 

そんなおれのツッコミはさらっと無視して相変わらずのニヒルな笑みを浮かべる杉並。あ、これは悪巧みしてる時の顔だな。

 

つまり、いつも通り。通常運行。本日も香々見学園は平和である。

 

 

「丁度いい、少し相談と行こうか。明日の卒業式のサプライズについてだ。今回は芳乃も1枚噛むつもりなのだろう?」

 

「だからなんで分かるんだ……いや、まぁいい。で、なんか面白そうなこと思いついたのかよ」

 

 

あまりにも良いタイミングで話を振ってきたが、まぁ杉並だからで納得しとこう。それより今は降って湧いた悪巧みを聞くほうが楽しそうだからな。

 

 

「うむ、卒業式に相応しい楽曲を選ぼうとしているのだが候補が多くて絞りきれなくてな。この中ならどれが最適か、貴様の意見も聞いておきたい」

 

 

なんで卒業式の楽曲をコイツが選んでるのか? なんて疑問は野暮だ。

 

許可なんて取るはずもなく、ゲリラ的にやるつもりなのだろう。

 

 

「楽曲か……どれどれ」

 

 

言いながら杉並から渡されたTABを確認すると……なるほど、確かに卒業式に流したら非常に面白そうな楽曲が幾つかリストアップされていた。

 

どれを流しても良さげだが、ふと脳裏に電流が走り、閃いたいたことを口に出す。

 

 

「……おい杉並。これ、わざわざ一つだけ選ぶ必要なくねぇか」

 

「ほう、その心は?」

 

「____全部、流しちまおう」

 

 

ニヤリと笑いながらおれがそう言うと、杉並は一瞬だけ呆気に取られた後に、心底愉しそうに破顔した。

 

 

「……ふははははっ! なるほど、その発想は盲点だった! 感謝するぞ同士・芳乃!」

 

「お褒めに頂き恐悦至極ってな。おのれなら、明日までにタイミングばっちりなメドレーにするくらいは余裕だろ?」

 

「無論だ! 明日を愉しみにしてるといい!」

 

 

などと宣い高笑いしながら去っていくバカ1号。……学園とは真逆の方に進んでるが、まぁ始業時にはいつも通り何食わぬ顔で席に着いてるはずだ。

 

奴に対して心配するだけ無駄だと言うのは、この付属生活で嫌ってほど理解出来たし。

 

まぁ、そのバカに便乗してバカをするおれもまた、バカだよなぁ……。と、バカの3段活用しながら歩みを進める。

 

 

兎にも角にも、今日も元気に学生やりますか、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……で、気が付いたら放課後なんだよな」

 

 

 

____時刻は夕方。現在地は屋上のSSR溜まり場。

 

 

 

意気込んだものの、明日が卒業式と言うこともあって面白そうな授業は泉ちゃんのくらいしかなく、ほぼほぼ自習だったり本校でのカリキュラム選択の話だったりで、言葉通りに気がつけば放課後となっていた。

 

 

「卒業式の前日だからね、教師陣も忙しいんだと思うよ」

 

「特にここ数年は確実に騒動が起こるからねぇ」

 

 

白河と叶方の言葉にニヤリと笑うバカ1号。

 

そのキザっぽい笑みに、付き合いが長いSSRの面々も「あ、これ明日の卒業式もやらかすな」と察した表情になる。

 

すまんな皆の衆、それにおれも1枚噛んでいるんだ。まぁ、実働は杉並だけだし、それは置いておくとして、だ。

 

いつもの溜まり場に勢揃いしたSSRの面子だが、さっきまではテントの整理整頓を行っていた。テントの中は几帳面な女性陣がいることもあって普段から整理されており、軽く掃除をするだけで終わったのだが。

 

強いて言うなら杉並のガラクタと置きコスメとか言う叶方の化粧品ポーチがあったことくらいだろう。それも一登の指摘で持ち主達に持って帰ってもらうことで解決したので、今はホワイトデーのお返しのバームクーヘンを肴にして雑談に花を咲かせていた。

 

なお、バームクーヘンはお目々をキラキラとさせた有里栖が非常に美味しそうに食べていたので高評価は間違いないだろう。

 

ここにいる付属3年の連中は基本的に本校へ移るだけなので、あまり世間一般的な卒業式の感覚はしていないのだろうが、それでも卒業式は卒業式。

 

付属で過ごす学園生活の集大成と言うこともあり、語ることは山ほどあった。昨日も野郎共でそれなりに語ったが、女性陣も混じることで話が止まることもない。

 

春、夏、秋、冬、各季節を繰り返しながら過ごした日々は、大事な思い出となっている。まぁ、悪ふざけし過ぎて怒られる事も多々あったが。

 

その中で個人的に印象深かったのは去年のSSRを結成する切っ掛けとなったクリスマス前の白河の恋愛請負の手伝いと、バレンタインでのレジェンドバトルパーティーだろうか。

 

……そういや、あのクリスマス前のドタバタからか。白河との距離が近付いて行ったのは。

 

 

 

「……っと、そろそろいい時間ですかね」

 

 

ふと、その白河が空を見上げながら呟く。

 

気が付けば空の色は鮮やかな夕焼けの色に染まっている。白河の言う通り、帰宅するにはいい時間だろう。

 

 

「そうだね、わたしも夕飯の買い物に行きたいし」

 

 

TABの時計を見ながらソラさんが呟く。

 

……そういや冷蔵庫の中身、一登の分の朝飯作ったことで完全に空になってたな……おれも買い物行くか。

 

 

「あ、私も行きますよ、そら姉。買い置きのお菓子も減ってましたし。兄さん……は、鷺澤さんの見送りですね」

 

 

二乃の言葉に「え?」と声を漏らす一登に、若干の不本意さと呆れの混じった表情で二乃は言葉を続ける。

 

 

「鷺澤さんはまだ病み上がりですしね。昨日と同じ様に鷺澤さんを安全に届けてください」

 

「オレはバイトだし、杉並は見送りなんて柄じゃないだろ?」

 

「心外だな。鷺澤嬢を送る間にどれだけのトラブルを巻き起こせるのか、見せてやっても良いんだぞ?」

 

 

なお、冗談でもなんでもなく、コイツならマジでトラブルを巻き起こすだろうから、有里栖の表情が青褪める。

 

無意味に怖がらせるのやめい。おのれが言うとホントに洒落にならん。

 

 

「だから任せられないんだって……」

 

 

溜息をつく叶方に高笑いする杉並。それを見て一登も察したらしい。

 

まぁ、昨日の一登の話を聞いてると断ることはないだろう。と言うか流石におれも杉並に送らせるのは奇想天外な意味で駄目だと思う。

 

……ちょっとだけ、どんなトラブルを持ってくるのか気になったのは内緒にしておこう。流石にそれは怒られる。

 

 

「よし、わかった、俺が家まで送ってくるよ。有里栖もそれでいいか?」

 

「あはは……ごめんね、気を遣わせちゃって。みんなもありがとう。また、明日ね!」

 

 

そう言ってぺこりと頭を下げる有里栖に気にしないように言うと、そのまま一登と有里栖の二人が昇降口に降りていく。

 

それを皮切りに他のメンバーも自分の荷物などを纏めてから昇降口に向かっていく。杉並に至っては既に姿も気配もない。だから忍者かおのれは。

 

溜息を吐きながらおれも忘れ物がないかを確認してから昇降口に向かおうしたところで……ふと、服の袖が引っ張られる感覚がして立ち止まる。

 

なんだ……? と思いつつ振り返ると、白河がおれの袖を指で摘んでいた。それで足が止まってる内に屋上にはおれと白河だけになる。

 

夕焼けの空の下で見る白河の表情はどこか恥ずかしげと言うか、なんというか……上目遣いで見て来てる事もあって、少し心臓に悪いと言うかグッと来ると言うか。

 

……ヤバイな。昨日、一登に話しちまったせいで余計に白河に対して意識しちまってる気がする。二人っきりなった瞬間にこれかよ。

 

とは言えいつもの瞑想の要領でそう言う感情は絶対に表に出さない。

 

そんな風に平静を装いながら白河に問いかける。

 

 

「白河……? なんだ、どうかしたのか?」

 

「……少しだけ時間を貰っていいかな? そんなに長く掛からないからさ」

 

 

なんの話だろうか? と思ったが、話すとするなら、例の美嶋さん関連の依頼の件だろうか。

 

けれど、それならわざわざ皆が帰った後で個別に呼びかけるだろうか?

 

兎にも角にも、断る理由は特にない。そんなに時間が掛からないなら、買い物にも支障がないしな。

 

 

「分かった。……で、なんの話なんだ?」

 

「圧倒的感謝!……うん、話って言うのは、察してるかもだけどボクがキミに依頼してた未羽の件についてだよ」

 

「ああ、やっぱりか」

 

「うん、端的に言うと依頼は達成。ってことになるかな」

 

「じゃあ、もう美嶋さんの男性恐怖症とやらは大丈夫ってことか?」

 

「まだ苦手意識はあるだろうけど、芳乃と一緒に遊べるくらいなら大丈夫なはずだよ。……あと、着地点が変わっちゃったしね」

 

「ん?」

 

 

最後、なにか小声で言ったような気がしたが上手く聞き取れなかった。意識してないと人並み外れた五感も役にたたねぇよな……。

 

そんなおれの様子を察してか苦笑しながら首を横に振る。

 

 

「なんでもないよ。……で、ここからが本題です!」

 

「え、ここから?」

 

 

いや、今のが本題なんじゃないのか?

 

と、思わず?マークが頭の上に浮かぶ。

 

 

「それでですね……芳乃、明日の卒業式が終わったら、暇かな?」

 

「……暇っちゃ暇だな。緊急の要件でもない限りは」

 

 

怪異なり【人形遣い】が出るなら、そっちを優先すべきだろうが……まだ病み上がりってことで出撃を禁じられそうなんだよな。

 

無理して動いたと見なされたら駄妹から本気の“大牙拳砲”を喰らいかねない。マトモに当たれば身体が消し飛ぶので決してツッコミとかで出していい技じゃないんだけどな、アレ。駄妹はポンポン出してるけど。

 

 

「そっか……じゃあ、明日、卒業式が終わったらボクと一緒にワンダーランドに行きませんか?」

 

「……なぬ?」

 

 

あまりに不意打ち気味なその申し出に、思わず間抜けな声が出てしまったが許してほしい。

 

や、いきなりこんなこと言われたら誰でもそうなるだろう。

 

 

「休みの日までボクの依頼に付き合ってくれましたし、その御礼も兼ねてどうかなって」

 

 

確かに休みの日も付き合ったが、そんな気を使わんでも良いと思うが……でも明日? チケットとかどうするんだよ?

 

と、おれの疑問を先読みしたのか、白河がスカートのポケットから2枚のチケットを取り出す。

 

……準備がよろしいことで。

 

 

「なお、チケットは既に準備済みです」

 

「……見切り発車にも程があるだろ。おれに用事あったらどうするつもりだったんだよ」

 

「その場合はこのチケットが無駄になるだけだね」

 

 

ニヤリと悪戯っぽく笑う恋愛請負人に思わず溜息を吐く。

 

そう言えばおれは絶対に断らないだろうって計算してるよな。

 

 

「…………だ、ダメかな? ボクと行くのは嫌、かな……?」

 

 

でも次の瞬間には少し不安そうに言って来るので、おれはもう一度溜息を吐く。

 

……身長差もあって上目遣いで聞いてきてるのだが、それは反則だと思うんだ。

 

や、今更断る理由もないんだが。

 

 

「嫌じゃねぇよ」

 

「……ホント?」

 

「こんなことで嘘なんかつくかよ。……卒業式終わったら、寮で私服に着替えてから行こうぜ、ワンダーランド」

 

 

少し気恥ずかしくなりながらも答えると、白河はまるで花開く様な笑みを浮かべる。

 

 

____それは、今まで見た笑顔の中で一番眩しく思えるものだった。

 

 

……さっきの不安げな上目遣いといい、そんな無邪気な笑顔といい、心臓に悪い表情を直視するこっちの身にもなってほしいものだ。

 

そんなおれの心情を知ることも無いだろう白河は、とても楽しげな笑顔のままコチラに改めて向き直る。

 

 

「ふふ、やった……! それじゃ明日、卒業式が終わったらワンダーランドの入口前で待ち合わせしようか!」

 

「りょーかい」

 

「フッフッフッ、芳乃の乗り物酔いがどれだけ改善されたか確かめて見ようじゃないか」

 

「流石に前みたいなエンドレスジェットコースターはやめてくれ……!」

 

 

地味にキツかったんだぞ、アレ。

 

クリスマスのアレコレを思い出してげんなりとするおれに対して、白河は心の底から楽しそうに笑う。それに釣られて、おれも頬が緩む。

 

……それと同時に自分の中にある何かが、強くなっているのを感じ取る。

 

決して不快ではないその感覚の正体……流石のおれでも、これ以上は“これ”を見て見ぬ振りは出来なかった。

 

 

「じゃ、ボクもそろそろ帰ります! 今日は未羽とご飯を食べるので、また明日!」

 

「おお、また明日な」

 

 

そう言って屋上の出入り口まで行ってから、なんとも楽しそうな笑顔を浮かべながら振り向く。

 

嫌な予感がしたときには、既に手遅れだった。

 

 

「___あ、一応言っときますとデートですからね! そこのところはしっかり理解しといてくださいよ?」

 

 

その言葉に対してのおれの返答は聞かずに、白河はそのまま屋上から出て行く。……あんにゃろ、最後に爆弾投下して行きやがった。

 

その気配が遠ざかるのを確認してから、おれは愛用のキャンプ椅子に座り込んで、深く息を吐きながら夕焼けに染まる天を仰ぐ。

 

脳裏に浮かぶのは、ついさっき直視してしまった白河の心からの笑顔だ。

 

 

「……何が【惹かれてる】だ、もうそんな段階通り越してんだろ、これ」

 

 

昨日、一登に打ち明けた言葉を思い返して思わず自嘲する。

 

高鳴る鼓動が妙に煩い。

 

あの白河の笑顔を思い浮かべる度に、自分の中から生まれてく感情が何かしっかりと自覚してしまい、打ちのめされるほどに思い知る。

 

自覚した。

 

自覚してしまった。

 

いつからだ? と言われれば、いつか見たあの笑顔が始まりだっただろう。

 

初恋を自覚するのも遅かったが、他人の恋愛成就の手伝いをしておいて、自分のそれをハッキリと自覚するまでにここまで時間が掛かるとは。

 

これじゃあ、クソボケと揶揄されても否定なんて出来ないし、一登のことを言えたものでもない。

 

……なんて、間抜けなんだろうか。

 

 

 

 

 

「____クソッタレ。おれ、もうとっくの昔に白河にイカれちまってんじゃねぇか」

 

 

 

 

積もり積もった想いを吐き出すような独白は、誰にも聞かれることなく夕焼けの空へと消えていった____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……それで、ひよりちゃん。芳乃先輩は上手く誘えたの?」

 

「そこは問題なし! 明日は精一杯がんばってみるよ」

 

 

 

____場所は女子寮の未羽の部屋。

 

 

 

無事に芳乃をワンダーランドに誘えた後、真っ直ぐに寮に戻ったボクはそのまま未羽の部屋まで来てから、屋上での経緯を話していた。

 

 

「なら、あとはひよりちゃんの頑張り次第だね」

 

「……未羽にはホントに世話になりっぱなしだね」

 

「そんなことないよ。芳乃先輩とひよりちゃんが付き合うなら、結果的にわたしの願いも叶うんだもん」

 

 

……未羽の願い。

 

それはボクの恋愛請負を止めること……と言うのは実は少し違っていた。

 

それ自体は間違いじゃない。けど、その裏にあったのは……どこまでも未羽らしい優しさだった。

 

 

____それを知ったのは二日前、“ケジメ”を付ける為に未羽の部屋に来たとき。

 

 

二人っきりになってから、色々と話した。ボクがどうしてここ最近、未羽と芳乃を巻き込んで色々と連れ回していたのかも。

 

それから風邪を引く前の鷺澤に諭され、自分の思いに気付いたこと。

 

その思いをどうこうする前に、今まで好き勝手してたケジメを付けなきゃいけないと思って未羽の部屋にまで来たこと。

 

……それと、まだ誰にも話したことのないボクの“秘密の力”のことも、全部話した。話すことが出来た。

 

 

『……そっか、やっぱりひよりちゃんにも不思議な力があったんだね』

 

 

【ひよりちゃんにも】……と言うもの言いに思わずボクは目を丸くした。それから未羽も自分の秘密を……未羽の力のことも打ち明けてくれた。

 

未羽のそれは、ボクの“力”と非常に似通ったもので、その詳細を聞いたとき、なんで未羽がボクの恋愛請負を必死で止めようとしてくれたのか、ようやく理解できた。

 

未羽の視点から見れば、きっと気が気でなかったはずだ。

 

 

 

 

なぜならボクが恋愛請負を……あの銃を使う度にボクの“フラグ”が____

 

 

 

 

「で、芳乃先輩とどんな感じにワンダーランドを回るの?」

 

 

思考の渦に囚われていたボクを、未羽の問い掛けが引き摺り出す。

 

 

「え、どんな風にって? 」

 

「……もしかして、何も考えてなかったの? 恋愛請負をずっとしていたひよりちゃんなら、デートコースも考えてるかなって思ったんだけど……」

 

 

……未羽のその言葉に、思わずボクは目を逸らした。

 

 

「……あの、ひよりちゃん?」

 

「なにも言わないで」

 

「もしかして、芳乃先輩をデートに誘うことだけに集中し過ぎてて、デートプラン練ってなかったとか……?」

 

「……なにも、言わないでぇ……!」

 

 

とうとう図星を突かれてしまったので、冷や汗をダラダラ流し、身体をガクガクと震わせながらも頷く。

 

…………だって、だって仕方ないじゃないですかぁ?!

 

ホントなら昨日の時点で誘うつもりだったのに、ホワイトデーの準備だかで男子達は学校終わったらすぐに移動していたし、その関係で芳乃の部屋に行くことも出来なかったし!

 

 

「昨日、芳乃先輩が学校いる間に誘えばよかったのに……」

 

「無理! 絶対に無理! だって今、常坂妹を始めとする察しの良いクラスメイトから生暖かい視線で見られてるんだよ?! 」

 

 

「私達、見守ってます!」って感じの生暖かい視線がさぁ! これでもかってくらいに突き刺さるんだって!

 

 

「もう色々と察されてることに驚きだよぉ……」

 

 

未羽もやめてー! そんな呆れた目でボクを見ないでー!? 今のボクにはその視線が突き刺さるからー!?

 

 

「と言うか、恋愛請負をしてたのになんでこんな初歩的なミスを……もしかしてひよりちゃん、自分のことになると、その、ポンコツになっちゃうの?」

 

「がふっ!?」

 

 

グサッ!!と心に突き刺さるポンコツの文字にボクは机に倒れ伏せる。未羽にしては珍しい鋭すぎる切り込みだった。クリティカルヒット。致命傷まったなし。こうかはばつぐんだ。

 

でも否定出来ない。だってボクの目から見てもここ最近のボクはポンコツなんだもの……! これも全部芳乃のせいにしておこう……!

 

そんなあまりの惨状に未羽が「ポンコツなひよりちゃんもかわいいなぁ」とのたまいながら苦笑する。……この幼なじみ、気が付けば強くなってる気がする……。

 

 

「私だって成長してるんですよっ」

 

「さり気なく心まで読まないで欲しいなっ!? と言うか、その割には芳乃に抱きとめられた時には顔真っ赤にしてたくせにー!」

 

「ひよりちゃん、その話を持ち出すなら私もひよりちゃんが芳乃先輩にお姫様だっこされてたこととか間接キスの話とか持ち出すけど、いい?」

 

「……降参します、はい。ボクの負けです……!」

 

 

……駄目だー! なんかもう、色んな意味で今のボクじゃ未羽に勝てないー!?

 

 

「こうなったら……キレて誤魔化すしかない!」

 

「それ、世間一般的には開き直りって言うんだよ?!」

 

「しゃらーっぷ!」

 

 

きしゃー!と、荒ぶる鷹の構えから未羽に飛びかかって、そのワガママボディを堪能することにする。……また、おっぱい大きくなってないかな、この子?!

 

「あっ、ちょ、くすぐったいからっ。あ、んぅ、変なところ触らないでぇ……!?」と、徐々に色っぽくなってくる幼なじみのスペックに改めて戦慄する。

 

 

「ホントに未羽は素敵な女の子になったよね」

 

「……そのセリフ、私の胸に顔を埋めながら言ってなかったら素直に嬉しかったよ」

 

「これはボクの特権だから! 仮に未羽に素敵な恋人が出来たとしても絶対に譲らないボクだけの特権だからっ!」

 

「そんな特権なんて許した覚えはありませんっ!?」

 

 

その豊か過ぎる双丘に顔を埋めつつ、その感触を堪能しながらも大切な友達との時間を楽しむ。

 

なんとも平和な時間だった。

 

 

 

……暫くして、結局明日のデートコースを考えてなかったことに気付いて慌てて未羽と一緒にあーでもないこーでもないと悩んだりするけど、そこは今回は省くとしましょう。

 

うん、これも芳乃が悪いと言うことにしておこう。

 

 

 

 




この半年の間に、初代D.C. 〜ダ・カーポ〜のフルリメイクが発表されたことに歓喜しつつ、4と5の世界線とも何かしら関わりが出来ることを祈る小市民です、はい。
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