卒業シーズンに合わせたかったけど、執筆遅れて入学シーズンに卒業話を投稿することに……。
で、今回は悪ふざけ要素を詰め込んだり、各種機能を実験的に入れてみたりしてます。
____3/15 (金) 快晴 香々見学園、卒業式の日。
思い出話に花を咲かせるクラスメイト達を眺めながら机の上で頬杖を付けながらぼうっと呆ける。
その思い出話に参加しないのは……まぁ、【防人】としての任務で此処にいると言う前提があるのと、そもそも転入したのが一月前なので語る話も何も無いと言う、身も蓋もない理由があるからだ。
なんというか、浮き足立つような場違い感が酷い。
「ハァ……」
「……溜息を吐く気持ちは分かりますけどね。私も似たようなものですし」
そんな暇そうにしてる僕___氷室仁を見兼ねてか、同じ様な立場でいて、ここ一月で親交の深くなったクラスメイトにして同じ魔法使いの少女こと鳳城詩名さんが声を掛けてくる。
なお、実は前の席にいるので振り返るだけで済む彼女もまた、僕より早いが2月の頭くらいに転入して来た経緯により、同じ様な疎外感を感じているのだろう。
「そもそも氷室さん達って普通の学生としての生活もしてなかったんですよね?」
「……その通り。基本的には任務から任務で、学を修めるのも【防人】の本拠……咲三の本家で学ぶくらいだったし」
基本的に魔法使い……その中でも戦うことを専門とする僕達は閉鎖的な環境にいる。
無論、表の一般常識なども学ぶが、こうやって直接表の人間と交じって生活するのは基本的には珍しい事例である。
それ故に、此処での生活は新鮮で新しい発見も多く、有り体に言ってしまえば「楽しい」のだが、戸惑いもまた多いと言うのが本音だ。
例外なのは最初から人懐っこさ全開で周囲に溶け込めるお嬢と、基本的に社交的かつ人を振り回すのが生来から得意な盾石先輩くらいだろう。……決して僕がぼっちでコミュ障な訳じゃないのだと信じたい。
お嬢や盾石先輩以外の同年代の【防人】達はどう思うだろうか? ……と、考えるが、そちらはあまり交流もないので分からないな。
「芳乃みたいに普通の学生をしていたなら、今のクラスメイト達の感情も少しは理解できたかも知れないが……一月程度じゃ流石に無理があるよ」
「完全にぼっちですね」
「君が言うのか、君が」
思わずジト目になってしまうのは許してほしい。
【人形遣い】と接触してしまった時から鳳城さんの護衛に回ってるのだが、正直な事を言ってしまえば彼女も大抵ぼっちだ。
端正で人形のような容姿を持つ彼女だが、他人に対して壁を作ってる節がある様に思える。
それを察してか、クラスメイト達も彼女に積極的に関わろうとはしてない様だ。どこか距離を置いてるとも言えよう。
……時折やって来る杉並とか言うよく分からない男が何かと鳳城さんを勧誘をしているのも距離が置かれてる原因なのかも知れないが。と言うかほぼ間違いなくそれが原因だろう。
一体、あの男はこの学園で何をやらかしたのだろうか……?
芳乃にでも聞けば教えてくれるだろうが、聞く気力はない。それなりに【防人】として生きてきた経験が警鐘を鳴らしているからだ。聞いても理解出来る自信がないのもあるが。
「私には日野原さんがいますので」
「……そこで普段は塩対応の多い後輩を持ち出すのは反則じゃないかなと思うんだ」
そんな鳳城さんの作り出した壁を「知ったことかー!」と言わんばかりにブチ抜いて軽快な漫才のようなやり取りを毎回披露するのが、後輩でもある日野原ちよこさん。
一つ下の学年である彼女は確か、お嬢とも仲が良かった記憶がある。と言うか波長が合うんだろう。どっちも人懐っこいし。
鳳城さんの護衛を始めてから、実はそれなりの頻度で遭遇する彼女だが、なんともまぁ元気いっぱいな子である。鳳城さんにはよく塩対応をされるが、それにもめげない辺り元気が有り余ってるとも言えよう。
____キーンコーンカーンコーン。
「予鈴ですね。卒業式、何もなければ良いんですが……」
「……何か懸念でもあるのか?」
「氷室さんは気づいてなかったみたいですけど、その、登校する時にやたら上機嫌な杉並さんの姿を見掛けてしまって……」
「…………………………」
なんだろう。
僕もなんだか、猛烈に嫌な予感がして来た。
あの狂人がご機嫌に歩いてる時点で嫌な予感しかしないと思う辺り、僕も鳳城さんもあの男に大分毒されているのかも知れない。
と言うか気配を感じなかったんだけど本当に何者なんだ、あの男は。
……なお、この時点で心配した所で、時すでに遅しだったと気づいたのは、この後の卒業式が始まった瞬間からである。
-EPISODE 39-
_____今日は香々見学園卒業式の日。
付属3年の先輩さん達が付属を卒業する儀になる。
あたしこと咲三海央やクラスメイトのちょこは、付属2年生なので見送る側として他の生徒さん達と先に講堂へと来ていた。
席順の関係でちょことは離れちゃってるので、卒業式が始まるまでの時間は結構暇だったりする。
ここ最近は夜のパトロールを増やしてたこともあって、もう今の時点でねむねむ…………すぅ……うにゃ……。
「咲三さん、咲三さん、寝たらダメよ?」
「…………ハッ!? ね、寝てないよ?! ちょっと目を瞑って瞑想してただけだよ?!」
「それ、完全に寝てない?」
隣の席のクラスメイトの小声の呼び掛けに慌てて意識を戻す。
一番仲がいいのはちょこだけど、それ以外の子ともそれなりに仲はいい。特にこの子は隣の席なので話すことも多い。
この子の名前は月村音羽さん。
吹奏楽部に所属してるお淑やかで可愛らしい子で、あたしの様子にツッコミを入れながらも次の瞬間には控え目にそれでいて上品に笑う。
あたしの見立てでは有里栖先輩が本校に行った後、付属1の美少女として人気が出ると見ている。
あたしは勘が鋭いから分かるのだ。どやぁ。
「所で咲三さんってSSRに所属してるのよね? 今回、杉並先輩が何をやるか知ってたりするの?」
「ほえ? 杉並先輩が? んーん、なにも聞いてないよ?」
あたし、昨日はSSRには行かずにちょこに付き添って商店街に行ってたしなぁ……。夜はいつものパトロールだし。
杉並先輩の噂は知ってるけど、実際に今のところ言うほどの暴れっぷりは見てないんだよね。
あたしはSSRの結成から香々見学園に来たけど、恋パの時とかは他の部活の出し物に悪知恵を吹き込んでたと言うことしか知らない。
そんなあたしの様子を察してか、月村さんが困った様に眉を顰める。
「あー……そっか、咲三さんはまだ杉並先輩達の暴走は見たことないのね」
「暴走と言うか、奇行自体はいつも見てるよ?」
それも「ハーハッハッハ!!」と高笑いしながら。
気配とか全然分かんないし。……ホントに何者なんだろう、杉並先輩って。
魔法使い……じゃないんだよね? もう杉並先輩が魔法使いだったとしてもあたし驚かないよ。
むしろ納得するもん。納得しかないもん。
と言うか、お兄ちゃん達って下の学年の子達にも認知されてることをやってたのかな? この前聞いた時は「色々やった」だけではぐらかされたし。
『____それではこれより、香々見学園付属3年生の卒業式を始めます。卒業生、入場!』
っと、思考に耽ってる内に時間になったみたい。
月村さんも軽くウインクしながら「話はまた後でね」と前を向く。その仕草だけでかわいいと思ったのは内緒にしておこう。
それから進行役の先生の合図で講堂の出入り口が開いて____
《タンタタタタタ♪タンタタタタ♪タンタタタンタタターン♪》《シャラン♪》《タンタタタタタ♪タンタタタタ♪タンタタタンタタターン♪》《シャラン♪》
____次の瞬間、卒業式と言う別れの儀式にはあまりにもかけ離れた軽快かつ痛快な音楽が鳴り響く。
「え? ……え?」
思わず目を丸くする。
はて、卒業式とはこんなパレードの始まりみたいな音楽が鳴り響く愉快な式だったろうか?
……そんな訳がない。多少、一般常識の欠如してるあたしでもそれは分かる。と言うか、周りの皆も先生達も唖然と言うか、ポカーンって顔してるし。
あと、入場して来た3年1組の付属卒業生……SSRの皆もいる先輩達も困惑と羞恥の入り混じった表情を浮かべている。
例外は全てを察して悟った様な表情を浮かべてる一登先輩に叶方先輩、それから行進しながら全力で笑いを堪えてるお兄ちゃんと、いつものニヒルな笑みを浮かべた杉並先輩だけだ。
……うん、犯人はあの二人かな?! なにやってるのホントに!?
「……こ、これ、ビゼーの【カルメン】*1よ。盛り上げる時によく使われるオペラ、なんだけど……!」
「あたしでも分かるよ、これ絶対に卒業式で使う様な曲じゃないよね?!」
吹奏楽部らしくこの曲がすぐに分かったらしい月村さんの言葉にツッコむ。
明らかに場違いなBGMに困惑する下級生達。見世物にされたかの様に羞恥心に襲われる先輩達。そして慌てふためいて狼狽える先生達。
先生達の中には冷静を保とうとしてるものの、卒業式を途中で止めることも出来ないのか、そのまま3年1組の付属生が講堂に入りきると同時に更に変化が起こる。
軽快な音楽が瞬く間に別の曲に変わったのだ。
それは、まるで不安を駆り立てるような激しい伴奏の曲だった。
「でぃーえす、いれ! でぃーえす、いれ!」とか言うコーラスも入ってるそれは、やはりと言うべきかとても卒業式で使うべき楽曲ではないと思う。
……と言うか今度はなんなの!? あとメドレーなのかな!?
「モーツァルトの【怒りの日】*2!? よりにもよって、なんでその曲なのよ!?」
月村さんが目を剥く。流石は吹奏楽部、瞬時に何の曲か分かったみたいだけど今はそれどころじゃないよう!
だって次に入場して来た3年2組の先輩達の表情が、もう酷いことになってるもん! もう、可哀想なくらい羞恥心に襲われてるもん!?
あ、仁先輩としぃしぃ先輩も凄い表情になってる!? 死んだ魚みたいな目してる!
そうだよね! こんな壮大に場違いなBGMの中で入場行進しなきゃいけないもんね! 感情も情緒もおかしくなるよねぇ?! 罰ゲームなのかな、もしかして!?
観客席側にいるあたし達下級生もザワザワとする中、なんとか3年2組の入場が終わると、またまた曲が変わる。
今度は……今度はなんなの……?! と戦慄してると、不安を駆り立てるような弦楽器の音色から始まって徐々にテンポアップしていく、これまた壮大な曲だった。
壮大だけどやはりと言うか卒業式で流す曲じゃ絶対ないと思う……!
「ど、ドヴォルザークの交響曲第9番ホ短調 作品95【新世界より】*3……!」
「え、なんて???」
ごめん、あたし音楽あまり詳しくないから分かんない! でもなんとなく月村さんの表情ですごい曲なのは分かったよ!
問題は、どうしてそれが卒業式で流されてるかってことだよね?!
1組と2組の惨状から覚悟してたんだろうけど、入場して来た3年3組の先輩達も既に目が死んでいた。
そして表情も死んでいた。主に、諦めという感情のせいで。……これは酷い。
というか状況があまりに混沌としてるせいで最早これがなんの行事なのか分からなくなって来たけど、一応、卒業式なんだよね? 3年間頑張ってきた生徒さんを送り出す大事な式なんだよねぇ?!
下手な怪異より怪奇な事になってるんだけどっ!杉並先輩のことだから面白さ追求した結果なんだろうけど、やり過ぎだよ! 悪戯好きなあたしでもドン引きだよ!
あと加担したと思われるお兄ちゃんは後でお仕置きだから! 絶対にお仕置きだから!! 大牙拳砲ぶっ放すから!!
……そうして、内心で兄への折檻への決意を抱いてる内に、死んだ表情を浮かべた3年3組の先輩達の入場も終わり、遂に最後の3年4組の先輩達か入場して来る。
そして、それに合わせるように曲も変わり始めるので思わず身構える。
なにせ次で最後なんだから、絶対にぶっ飛んだ曲が出て来るとこれまでの経緯を鑑みて思った……いや、“思ってしまった”。
____流れてきたのは静かなピアノのメロディ。
先程までの3曲とは全然違う、優しくも切ない、そんなイメージを抱いてしまう旋律に、思わず思考が止まる。
……と言うか、あたしでもこの曲は知ってるかも。
思わず月村さんの方へ視線を向けると、月村さんも月村さんで呆然としながらもあたしの視線の意味を察したのか、困惑しながらも答えてくれる。
「……【旅立ちの日に】*4って曲よ、これ。卒業に定番の曲、なんだけど……」
「……最後の最後で普通にしたってこと?」
確かにギャップと言うか温度差は酷いと思うけど、少し拍子抜けのように思えてしまう。
実際、覚悟を決めて入場して来た3年4組の先輩達も、他の生徒さん達も何事かと動揺してるみたい。
更に言えば1組のお兄ちゃんも何故か首を傾げている。もしかしたら予定とは何か違ったのかもしれない。
……でも、平和に終わるならそれでも良いかも……。と考えるも、杉並先輩がそんな簡単に終わらせる訳が無かった。
それを改めて思い知ったのは、曲の所謂イントロ部分が終わってからだった。
『____白い光のなぁかにぃー、山並みは萌えてー、遥かな空の果てまでもぉ~、きみぃーは飛びぃ立ぁーつーぅ』
「「「ブフゥーーーッ!?」」」
イントロが終わってAメロが始まった瞬間、ボーカルの歌唱が入った所で、3年1組の方から吹き出すような声が聞こえた。と言うかお兄ちゃんに一登先輩に叶方先輩だった。
……その理由は、これをうたってるのが杉並先輩本人だから、だろう。
うん、めちゃくちゃバリバリに杉並先輩がうたってるんだよ!!?
めちゃくちゃイケボでめちゃくちゃ真面目にさ!!おふざけなんて一っっっ切ない超真剣な声で、なおかつ所々音程を外しながらうたってるんだよ!? 矛盾してる概念を織り交ぜてるんだよ?! 訳が分からないよ!
『勇気を翼に込ぉめてーぇ♪ 希望のぉ風に乗りーぃ♪ この広い大空にーぃ♪ 夢をー託してーぇ♪』
こんなのどうしろと!? ぶっちゃけると、あたしもう笑いを堪えるのに必死だよ?! 顔真っ赤にして下を向いて限界まで堪えてるようっ?!
状況を理解した卒業生含む生徒達や先生方の一部も必死に笑いを堪えてるよ!! 離れた席のちょことかはもう諦めて大爆笑してるし!
なんかもう、さっきまでとは別の意味で講堂が阿鼻叫喚に包まれてるんだから!? もう無茶苦茶だよぉ!!?
しかもこれ、わざわざ別々に録音したであろう低音パートと高音パートを組み合わせてるみたいで、低音と高音の杉並先輩の熱烈歌唱ボイスが同時に襲い掛かってくると言う始末。
……無駄に無駄のない無駄に洗練された無駄な編集技術を存分に使った杉並先輩の独壇場に、あたし達は最早成す術がなかったのでした……!
『今!(今!)別れの時ーぃ♪飛び立とーう(飛び立とう!)未来信じてーぇ! 弾む!(弾む!)若い! 力信じてーぇ!』
「〜〜〜〜〜っ!?!?」
「ぷっ、フフ、くぅ……?!」
やめてー!?高音パートと低音パートで畳み掛けるようにうたうのやめてー?! 横の月村さんも限界みたいで顔真っ赤にして声を抑えて笑ってるからー!?
あたしももうゴールしていいかな?! これもう笑い堪える方がバカを見るような気がして来たんだけど?!
『このひーろいー♪(ひーろいー♪)、このひーろいー♪(ひーろいー♪)おおーぞぉらにぃー♪』
そんなあたしの葛藤とは裏腹に、曲も終わりを迎えて長い……いやほんとに長く感じた地獄の様な時間にも終わりがやって来る。
この時点で講堂内ではそこらかしらで堪えきれなかった人達の笑い声が絶えず聞こえており、本来の卒業式とはかけ離れた状態となっている。
控え目に言ってもカオスでしかなかった。混沌だけが場に渦巻いていた。地獄かな???
『……以上、杉並プレゼンツ、卒業生へ贈る各種BGMと卒業ソングでした。卒業生諸君、神がかかった曲選とこの杉並による熱烈歌唱に涙して感謝するといい!!』
「「「「ふざけんなァッ!!?」」」」
とうとう色んな感情が爆発した卒業生一同及び下級生&教師陣が心を一つにして、うがーっ!と叫ぶ。と言うかあたしも叫んだ。うがーっ!って。
そのまま中央委員会こと生徒会や教師陣が杉並先輩に殺到しようとするも、既にその姿は見えず。
「____ハーハッハッハ! 残念だったな俺はここだァ!」
録音じゃない生の声がした方向に視線を向ければ、講堂の入口の扉を開けて外からの逆光を背にした杉並先輩が仁王立ちで高笑いしていた。
……いつの間に移動したの!? サラリと行われる人外の所業に思わず驚きながらもドン引きする。
「グッバイ☆サヨナラ勇気! と言うわけでさらばだ諸君。具体的には新学期にまた会おう!」
「逃がすな追え!追えぇ!!」
「杉並ぃーー!今日という今日は許さんぞ貴様ーー!?」
「最後の最後まで暴れやがってお前はーー!」
「応援を呼べー! 本校の中央委員会にも招集をかけろー!!」
「ハーハッハッハ!」といつもの高笑いをしながら去っていく杉並先輩と、ドッタンバッタンと追い掛ける先生と生徒会の混合部隊を眺めながら、あたしは深く、それはもう深い溜息を吐く。
「……ね、杉並先輩ってすごいでしょ?」
「……後でSSRのテントに行ったら、説教しとくね」
苦笑しながら言う月村さんの言葉にそう返しておく。
悪戯好きなあたしでもこれは流石に度が過ぎてると思うので、杉並先輩には後で正座してもらうとしよう。素直に従ってくれるかどうかは別の話として。
あと加担したお兄ちゃんは大牙拳砲、もう一発追加だから。
最早、卒業式の雰囲気の欠片もなくなった講堂の中で、でもなんだか楽しげな空気の漂う中、あたしは1人そう決意するのでした、まる。
△ ▼ △ ▼ △ ▼
「あはははっ!あはははははっ!! えー! 付属の卒業式そんな面白いことになってたん?! ウチも見たかったわそれー!」
「アキちゃん、笑いごとじゃないと思うよぉ……」
……波乱と混沌の付属卒業式を終えたおれ達は最後のHRも終えてから、SSRのテントがある屋上へと足を運んでいた。
で、先に来ていたらしいソラさんと、面白い話の気配を察知して来たという盾石に一連の流れを説明したところ、盾石は腹を抱えて笑いだした。どうやらツボにハマったらしい。
や、おれや一登や叶方も最後は爆笑してたけどさ。メドレーの案から更に一手間を加えて来るとは、流石は杉並。
ゼロからエンタメを生み出すと言う経験値はやはり奴のが圧倒的に多い。素直に天晴(アッパレ)と言うしかなかった。
そんな杉並だが現在は『私は卒業式でふざけ倒しました』と言う看板を首から提げて正座している。
その杉並の目の前には仁王立ちで大変御立腹な妹分。
「ふむ、教師陣と中央委員会の2陣営を退けたと思えば、まさか最後の最後で最強の刺客がいたとはな」
「杉並先輩しゃらっぷ」
「つか、なんで海央が怒ってるんだ? 何故かおれが加担したのもバレてるし」
「お兄ちゃんもしゃらっぷ」
そんなおれも屋上に来た瞬間に海央による制裁……具体的には海央の大技を受けて危うく死にかけたりもしたが、ギャグ補正ありの為に事なきを得ていた……いや、ギャグ補正ってなんぞ?
「全く、始まった時は本当にびっくりしたぜ」
「そうそう。せめてオレや一登くらいには事前に一言くらい教えといて欲しかったよ。灯火もなんか一枚噛んでたみたいだし」
そう言って少し不満気におれと杉並を見る一登と叶方に思わず苦笑する。仲間外れにされた事への不満だろう。
「前は風紀委員側というか運営側に肩入れして動いてたから、次はおれもハジケたくてな。そうなると杉並とだけ組んだほうがはっちゃけられるし」
「うん、一番組み合わせちゃいけない組み合わせだからね……」
「なんでか灯火と杉並だけを組ませるとブレーキを一切踏まなくなるからな……」
「正解。おかしな化学反応が起きちゃうんだよね」
「ほんとになんででしょうね……」
叶方に一登、更には白河に二乃まで参戦して遠い目をしてから溜息を吐く。
散々な言い様だが真実その通りなので弁解の余地もない。
一登やら叶方やらがいる普段ならおれもブレーキ役になるんだけど、杉並とだけ組むとなんかタガが外れると言うか。
ブレーキかけても碌なことにならないのは分かりきってるから、それなら乗った方が楽しそうだと思ってしまうというか。
「1組の私達の時点で『カルメン』で、しかもあの曲って最初がピークだから、周りがそれで完全に飲まれちゃったもん」
「そこから勢いを一切落とさずに「怒りの日」で2組を絶望に染めて、3組は『新世界より』で更にヒートアップ」
「トドメに『旅立ちの日に』の最初のピアノの旋律で落ち着かせてから杉並君の熱唱で全てを持って行ったよね……」
「直前の大惨事すら忘れさせる凶悪コンボだったな。全て悟った瞬間、俺も叶方も、そして灯火さえも一番最初に吹き出したよ……」
「私も笑うのを堪えるのに必死で……ふふっ、ちょっと思い出し笑いして来ちゃった……!」
一登と有里栖が波乱の卒業式の流れを振り返る。
最後の杉並のガチ熱唱だけはおれも知らなかったからな。完全な不意打ちだったからもう笑うしかなかった。
「次、お兄ちゃんと杉並先輩だけで何か企んでるの見たら全力で止めるようにするね……!」
「フッ、それで止まる俺様達だと思うか」
「一っっっ切思わないけど、それでも頑張るんです……!」
妹分がなにやら使命感を得てしまった様だが、それならそれで見つからないように悪巧みするだけなので、恐らく徒労に終わると思う。
まぁ、流石に今回はやり過ぎなので暫くは大人しくしてるが。
「まぁ、杉並は卒業式でも相変わらずってことだな」
「当たり前だろう。妥協や譲歩、遠慮や辛抱、どれも俺様の辞書にはない言葉だ。仮に俺がそういった感情を持ち合わせた時こそ、何か恐ろしい現象の前触れだと思った方がいいぞ?」
「おのれが言うと洒落にならねぇんだよな」
「そのツッコミは最もだけど、今日の灯火はツッコむ資格はないからね?」
何か恐ろしい事をのたまう杉並に思わずツッコミを入れてしまったが、そもそも今日はやらかす側だったのでツッコミの資格は剥奪されてしまったらしい。
「それでもいっちゃんと二乃ちゃんも、ちゃんと卒業したんだよね……うぅ、二人とも立派になって……お姉ちゃんは嬉しいよぉ……ふぇえ……!」
「そら姉……なにも泣かなくても」
「ソラネちゃんガチ泣きしとる……。ほら、泣き止んでな? 新学期になったら二人と一緒の本校に通えるんやで?」
「そうですよそら姉。新学期から校舎で別れなくて済むんでよ?」
「一緒の校舎……そっか、春からは一緒の校舎に通えるんだよね……それも嬉しいな……はぅううう……!」
盾石と二乃の説得に一度ピタッと止まったソラさんだったが、次の瞬間にはまた嬉し泣きを開始する。……どうやら逆効果だったらしい。
「しもうたー!? 更に泣いてもうたー!?」「嬉しすぎて感極まっちゃいましたね……!」と、慌てて盾石と二乃がソラさんを宥め始める……相変わらず愛が深い。
「じゃ、逢見先輩が泣き止むまで、今後の話をしよっか」
「春休みの間のSSRについてだな」
「正解。というわけでまずはボクから言わせてもらうよ」
「コホン」と咳払いをしてから、白河は改めて皆を見渡す。
「……もう既に色々と察してたり生暖かい目を向けてた人達にはお判りかも知れませんが恋愛請負も暫くおやすみです。少なくとも春休みが終わるまでは」
そういや、結局なんで恋愛請負を休んでたのか聞けてなかったな……なんでだろう? 後で聞いてみるか? いや、去年までならともかく今の白河なら助けが必要ならしっかり言うだろうし……。
「あー……叶方、これ、つまりそう言うことか?」
「……御名答だよ一登。クソボケ脱却レースは一登の勝ちだね、くそう」
「フッ、そして俺様の勝ちだな叶方。戦利品として甘味はいただいたぞ」
「おい、なんか俺と灯火で不名誉な賭けをしてたろお前ら……!?」
なんか悪友共がおれには分からない話題で通じ合ってる……?! なんだ、なにを見落としたんだ、おれは……!
「コホン! はい、そこの三馬鹿はいったん静かに! それでそれ以外の件についてもお休みってことで良いのかな?」
「何もなければ俺も別の任務に集中させてもらおう。少しきな臭い話が出ていてな」
「つまり杉並はいつも通り、と。オレはゆっくり買い物でもして過ごすかなぁ……灯火は?」
「……おれはおれで、やることがあるな」
叶方の言葉に意識を切り替える。
新学期……恐らく、それまでにクソオヤジが動き出すのは間違いない。あのクソッタレな未来にケリを着ける為にも、そちらに集中したい所だ。
「……オレ達で手伝えることはある?」
「いや、大丈夫だ。人手自体はあるんだ」
その言葉にソラさんを宥めていた盾石と、仁王立ちを解除した海央が一瞬だけ視線をおれに向ける。
氷室も含めて、このメンバーでやるしかない。
当然ながら魔法使いではない他のSSRメンバーを巻き込む理由はない。なので、悟られない様に笑顔を作りながら皆の方を見る。
「____新学期には全部終わらせるよ。だから、今の内に杉並の入学式の馬鹿騒ぎでも楽しみにしとくさ」
「ほう、勘が鋭いな。実は新学期に向けた新たなサプライズを考えていてな」
「現在進行系で正座させられながら悪巧みを暴露するこのクソ度胸よ」
「杉並らしいっちゃ、らしいけどね」
4バカで揃って笑う。……うん、またこんな感じでバカ話で盛り上がるためにも、しっかりケリを着けないとな。
後で盾石に、クソオヤジや【防人】の今の状況を確認してもらうか。
「じゃ、一登はどうなのさ?」
「そうだな…………ま、ゆっくり過ごすよ」
「う、うん。私もそうしようかな」
叶方の問いかけに一瞬、有里栖の方を見てから応える一登。
それに一瞬遅れて少しどもりながらも続く有里栖。
一昨日の晩にうちに泊まった一登の言う通り、思い出探しをするんだろうな。……この二人の動向には気をつけておくか。
……場合によっては巻き込まれるかも知れないし。
「それで、二乃。そら姉は……」
「いっちゃんはお野菜が苦手だったのに、今ではなんでも美味しいっていって食べてくれるようになって……二人とも偉いよぉ……くすん……」
「ダメっぽいな」
ソラさん、暴走継続中であった。常坂兄妹の小さな頃から振り返ってらっしゃる。
これは更に時間が掛かりそうだ。
「ちょっと止まりそうにないので、ソラ姉を連れて先に戻って休むことにしますね」
「二乃ちゃんだけやと心配やし、ウチも着いてくわー」
「あ、あたしも行くよ!」
「すみませんが盾石先輩、お願いします。二乃と海央ちゃんも頼んだ」
と言うか、今更だがこのあーぱー女、いつの間にかSSRにも自然と溶け込んでないか……?
「それじゃ良い頃合いかな? 常坂兄、最後の締めをお願いするよ。SSRはキミが立ち上げた同好会だからね。こういう時はトップが締めないと」
「え、俺?」
白河からの指名に一瞬思い悩む一登。
柄じゃない。とか考えてるんだろうけど、まぁ、一登のことなのですぐに意識を切り替えるだろう。
「そうだな……じゃあ、まずは、そら姉と盾石先輩、海央ちゃん以外は卒業おめでとう。恋パだったり恋愛相談だったり、色々と忙しかったと思う。
……でも、皆のおかげで上手く行ったし、すごく楽しかった。本当にありがとう。新学期に元気な姿で皆と再会出来るのを楽しみにしてるよ。
____というわけで、春休みだーーー!!! 遊び倒すぞーーーー!!」
「「おっしゃーーーーー!!」」
「良い話風に終われそうだったのに最後の最後で台無しです!?」
真面目な空気に耐えかねてか、最後にボケが入っておれや叶方がノッて、二乃が最後にツッコミを入れてから皆で笑う。
兎にも角にも、これで学生としては一区切り……と、言いたいが。
「それじゃ芳乃、また後で!」
「おう」
……おれは、ある意味でここからが本番だな。と、先に屋上から出た白河を見ながら思う。
明確に言われた以上、今から始まるのは間違いなく白河とのデートだ。
ただ、その前に確認すべきことはやっておこう。
「海央、盾石、帰る前にちょっと来てくれ」
「? はーい」
「どないしたん?」
未だに常坂兄妹の思い出を振り返って泣いてるソラさんと宥めてる二乃から離れて、二人の魔法使いが近付いてくる。
「一応の確認だ。【防人】の……ってか、おじさんの方はまだ動きがないんだよな?」
「……せやな。こっちからの定時連絡にも反応してるから、今の所は大丈夫やな」
「でも、何か連絡が来てもお兄ちゃんはまだ出撃禁止だよ? 体力はまだ戻りきってないでしょ?」
「それでも何かあったら必ず連絡してくれ。……あー、それと海央、今日は用事があるから帰りが遅くなるかもだから」
「ひよりん先輩とデートするんだよね!」
「なんで知ってる!? つか、なんで分かった?! ……あ」
図星を突かれて思わず突っ込むと駄妹とあーぱー女が揃ってによによと変な笑顔を浮かべる。
……不覚。おれ、今墓穴掘ったな!?
「そっかそっかー♪ うんうん、仲が良くて良きかな良きかな♪」
「……クッソ、これ後でからかう気満々だろ」
「そんなん当たり前やん♪ あ、そやそや、デートするんやったら一つだけ注意しとくことがあるんよ」
「……なんだよ」
嫌な予感がしなくもないが、仮にも女性視点からの注意となると聞いてたほうが良いのかもしれない。そう思い、によによしてる盾石の言葉に耳を傾ける。
「それじゃちょっとお耳を拝借……。ええか、ちゃんとゴムは用意しといたほうがええよ___うひゃあ!?」
遮音の結界と認識阻害の魔法を使った上で、ドパァンッ!と、愛銃を抜いて容赦なく引き金を引く。なお、盾石はギリギリでこれを避けた。……チッ、腐っても【防人】か。
と言うか真面目に話を聞こうとしたおれが馬鹿だった。堂々と下(シモ)の発言をしてんじゃねぇよバカタレがっ!
「し、死ぬかと思ったんやけど!? 学校内やのに容赦なく撃ってきたんやけど?! と言うか弾が掠ったんやけどぉ!?」
「やかましいわ! とっととソラさん達を送ってこい、このあーぱー女!!」
言いながら愛銃を閉まって各結界を解いて屋上を後にする。……と言うかデートだってなら、白河より先に待ち合わせ場所に着いとかないとな。
あーぱー女のせいで無駄な時間を使ったので、こころなしか、おれは早足で寮へと戻るのであった。
やはり杉並の愉快で意味不明な所業をイメージするのは難しいなぁと思う反面。学生時代にこんな奴がいたら楽しかったんだろうなぁとも思うのです。
というわけで、次はいよいよデート回だ……!