D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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時間掛かってしまったけど、なんとか書き上げました。デート回……!


EPISODE 40

 

 

 

「あ、そうだ。未羽にちょっと聞きたいことがあったんだ」

 

 

 

____時間は遡り、卒業式前夜。

 

 

 

幼なじみの豊満な胸部装甲を堪能したり、明日のデートプランのことを思い出して慌てて考えたりする中でふと、ボクは以前から疑問に思っていたことを思い出した。

 

 

「未羽の“不思議な力”って、殆どボクのと同じだよね? ……未羽から視て、ちょっと変だなって思う人っているかい?」

 

「……“視えない人”のこと?」

 

 

抽象的な問いかけだったものの未羽には通じたみたいだ。

 

……それはつまり、ボクの抱いた疑問を未羽と共有出来ることに他ならない。

 

 

「……ボクの力のことは前に話した通りなんだけど、明らかに“縁”が沢山ありそうなのに全く視えない人達がいるんだ。……多分、未羽ならすぐ分かると思うけど」

 

「……海央ちゃん、だよね?」

 

「正解。でも海央ちゃんだけじゃないんだ」

 

 

想定通りの答えが出たことに嬉しく思う反面、それはそれで疑問が深まる事となる。

 

 

「本校の逢見先輩に盾石先輩、常坂妹、鳳城さん、そして“風邪で休む前の鷺澤”。で、海央ちゃんを入れたこの6人は、恋愛請負でも上位に入るほど相談数が多い……けれど、何故か“フラグ”が視えないんだよね」

 

「……気の所為って訳じゃないよね、やっぱり」

 

「気の所為で片付けるには違和感が大き過ぎる。で、そう考えると同じ様な男子達にも疑問が出てくるんだ」

 

「……常坂先輩と芳乃先輩だね」

 

 

常坂兄に芳乃。この二人は色々とモテない理由はあれど、それでもフラグが全く無いなんて思えない。ボクから見てもこの二人は優良物件なのだから。

 

でも、実際にはこの二人のフラグは視えない。ボクから見れば、あまりにもそれは不自然極まりなくて____

 

 

 

 

 

____まるで、ここから先の未来なんて無いかのよう。

 

 

 

 

 

……そんな不吉な言葉が、一瞬脳裏に浮かんでしまった。……そんなことなんてあり得ないはずなのに。

 

 

「……もしかしたら、この例外の人達には何か共通の秘密でもあるんじゃないかって思うんだよね。特に芳乃や海央ちゃんは実家が何をしてるかなんて絶対に教えてくれないし」

 

 

一瞬だけ頭に浮かんだ不安を振り払う様に言葉を紡ぐ。

 

【咲三】。芳乃が追い出されたと言う家。追い出されたとは聞いたけど、何が原因で追い出されたのかは分からないまま。

 

単純に言いたくないだけなのかも知れないけど、人には言えない理由……それも、後ろめたい何かがあるのかも知れない。

 

それはきっと、芳乃が隠してる“何か”にも繋がってるだろう。

 

 

……うん、芳乃はボク達に何か隠し事をしている。

 

 

それは、ふと同じ時間を共有していく内に気づいたことだ。

 

それがなにか詳しくは分からない。けど、普通の学生が抱えるようなものとはまた違うと思っている。そして“フラグ”が視えないのもそれと関係してるんじゃないかって。

 

ボクや未羽にも不思議な力はあるんだ。だから、芳乃達にもそんな力があってもおかしくないだろう。

 

……もしかしたら、芳乃の抱えてる秘密は、ボクなんかじゃ手に負えないのかも知れない。

 

 

けれど、だとしても____

 

 

「____それで、この恋が止まるのかって言われたら、絶対に無理だよね」

 

 

もう一人の“幼なじみ”の助言で自覚した、この焦がれるほどの想い……恋心は、それくらいで止まる訳が無い。

 

それはこの数日、それに散々振り回されたからこそ断言出来た。だって今でさえ、芳乃のことを想ったらすぐに心臓が高鳴ってしまうんだから。

 

……常坂妹の言う通り、ホントにボク、ダメになってるなぁ。

 

そんなことを考えていると、未羽がボクの顔をじっと見つめてからすごく柔らかい笑みを浮かべてくる。

 

え、なに、どしたの?

 

 

「……ふふ、ひよりちゃん、芳乃先輩のこと考えたでしょ? 今すっごくかわいい顔してるよ」

 

 

真正面からそんなことを言われて一瞬固まり、次いで両手で顔を隠す。

 

……は、恥ずかしっ!? どんな顔してたか分からないけど、だらしない顔だったかも知れないよね!?

 

羞恥心に襲われて顔を隠すついでに蹲ると、未羽が鈴のような声を鳴らして笑い出す。

 

……この恨みは忘れないからね未羽。未羽に良い人が出来た時に絶対にからかい倒すからね!?覚悟しとくように!!

 

 

「じゃあ、明日のデートでもう……その、告白……しちゃうの?」

 

「……それも悪くないかも知れないけど、その前に芳乃の気持ちを確かめたいなって。ある意味で、その為のデートでもあるし」

 

 

その芳乃の隠し事にも、もしかしたら触れることが出来るかも知れない。

 

それにほら、ボク以外の誰かを芳乃が好きになってる可能性だって無きにしもあらずだし。……と、付け加えると未羽が不思議そうな表情を浮かべる。

 

 

「……ひよりちゃんって、やっぱり自分のことになるとポンコツだよね」

 

「いきなり未羽に罵倒された!?」

 

「どっちかと言うと……ヘタレ?」

 

「未羽!? ねぇちょっと火力高過ぎない!? 普段絶対に使わない言葉を使うだけでボクに大ダメージを与えるのやめて!?」

 

「……ひよりちゃんと一緒にいる時の芳乃先輩を見ていたら、すぐ分かると思うんだけどなぁ……」

 

 

小声で未羽がなにか呟いてたけど、ポンコツどころかヘタレ扱いされたことへのショックが大きくて全然聞き取れなかった。ヘタレだけは断じて否定します。断じて。

 

……ポンコツなのは否定出来ないんだけども!

 

 

「ひよりちゃんの“恋愛ポテンシャル”はまだ残ってるよ。大丈夫」

 

「……うん」

 

「だから、明日はがんばってね!」

 

 

でも最後にはしっかりと笑顔でエールを送ってくれたので、やっぱり未羽は良い子だと思う。

 

 

 

___そんなこんなありながら、迎えた当日。

 

 

 

結局、デートプランを練れなかったボクは、半ばヤケクソになりながらアドリブで何とかすることを決意するのでした___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 40-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____デート。

 

 

 

 

 

つまりは逢い引き。もしくは逢瀬。

 

男と女がプライベートな時間を共に過ごすと言う概念。

 

基本的にはお互いに少なからず思い合ってる男女により行われ、互いの理解を深めたりするものだ。去年のクリスマス頃から白河の恋愛請負を手伝う様になったおれもそれくらいは理解してる。

 

で、それを踏まえたうえで、昨日白河にデートの申し込みがあり、それを受けたおれは今、何故か全面鏡張りの迷宮の中に“一人”でいた。

 

四方八方を鏡に覆われたこの迷路の中では視界など行動の妨げにしかならない。そう判断したおれは目を瞑り、視界以外の感覚を全開にして、鏡張りの迷宮のコンセプトを真正面からガン無視にした上で早歩きで突き進んでいく。

 

普通なら鏡にぶつかったりする筈だが、そんなこともなくおれは迷いなく進んでいた。

 

そこが迷路である限り、出口と言うものは必ず存在する。そして出口は外に繋がっている。故に迷路と言えど必ず空気の流れは存在している。

 

その中から空調によるものを省いて出口に繋がる空気の流れを捉えれば後はそれを辿るだけ。

 

手間も時間も掛かることはない、迷路の必勝法である。なお、屋内に限るし普通の人間には出来ないので悪しからず。

 

そうして迷わず出口を抜けてから目を開けるも、その日の眩しさに思わず目が細まる。

 

 

「驚愕……ホントにボクより早く出口についてるなんて……!」

 

 

日の光に目を焼きかけていたおれの後ろで、一足遅く迷路___香々見ワンダーランドのアトラクションの一つである【カガミの迷路】から出て来た私服の白河が、信じられないと行った表情を浮かべていた。

 

 

「だから言ったろ? 空気の流れを掴めば迷路なんて余裕だって」

 

「人類どころかゴリラでも出来なさそうな攻略方法持ち出すのやめない?」

 

「悪いな、勝負には手を抜くなってのがおれのポリシーだ。そして誰がゴリラだ誰が。大御所芸人の顔と魔合体させて末代まで笑い転がしたろか?」

 

「年末の特番でやりそうなネタですね!? それはそれとしてやっぱりゴリラじゃないですかゴリラー!」

 

 

子ゴリラとの組み合わせは破壊力あるよなー。

 

あれ見た後に杉並がSSR野郎陣の顔をゴリラと合成した写真見せて来て、一登と叶方共々、腹筋が崩壊仕掛けた記憶がある。杉並も杉並で真顔で見せてくるもんだからシュール過ぎて笑いが止まらなかった。あとで女性陣にも見せたら一人残らず撃沈してたので破壊力は過去一だろう。

 

……閑話休題。話を戻すか。

 

実は【カガミの迷路】には同時に入ったおれ達だったんだが、そこでいつものクセと言うか、「先に出口に到達したほうが勝ちですよ!」と言う白河に「受けて立つぜ」と返した結果、競争になってしまったと言うわけである。

 

……なにやってんだろう、おれら?

 

 

「……ええ、良いでしょう、この勝負はボクの負けを認めますとも! さぁ、次行きますよ次!」

 

「はっ、上等だ。次も勝ってリードしてやるよ」

 

「言ったね? 因みに次は【ジャッジコースター】だから覚悟しようか♪」

 

「負けた腹いせに初っ端から切札を切りに来やがったなテメェ!?」

 

 

そんな感じで、次のアトラクションに向かいながらいつもの軽口を叩く。

 

……ところで、うん、ちょっと聞きたいことがあるんだが。

 

 

 

完全にいつものノリになってるが、これは果たしてデートになるのか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____波乱の……、や、杉並があまりにも杉並過ぎた卒業式と、SSRの今期の活動もきっきり締めて終えたあと、急いで私服に着替えて待ち合わせ場所に行ったおれは、無事に白河と合流することができた。

 

それから問題なくワンダーランドに入場してからは、とりあえず目に付くアトラクションを遊び倒す方向で園内を回っていた。

 

白河曰く、本来ならもっとちゃんとしたプランを考えてくる筈だったらしいが、どうにも纏まらなくてアドリブに任せることにしたらしい。……少しヤケっぱちな表情だったことについては目を瞑ろう。

 

と言うかそもそもの話だが、そう言うの考えるのは男の役目だと思うので、おれもその場で謝ると白河もなんか慌てて謝りだして、こっちも更に謝り倒して……それからお互いに「なんだこれ」って感じで笑ってしまったのは御愛嬌だ。

 

で、そんなこんなありながら、【カガミの迷宮】を後にして次の目的のアトラクションであるジェットコースターこと【ジャッジコースター】に向かおうとしていたのだが____

 

 

「……あれ? なんだか入場口の方、なんだか騒がしくありません?」

 

「……ホントだ。なんかあったのか?」

 

 

【ジャッジコースター】の入場口が見えてきた辺りで人集りが出来ていた。並んで待ってるのではなく、野次馬みたいな感じの集まり方で。

 

 

「____申し訳ありません! 【ジャッジコースター】はただ今マシントラブルの為、運転を見合わせてるんです!」

 

「んなっ」

 

 

白河と顔を見合わせてから、その人集りに近づこうとした所で、有里栖にそっくりな顔立ちのアリスが急に目の前に現れる。

 

相変わらず気配や出現の際に予兆がないので、思わずびっくりしてしまった。「こんな感じでビックリする芳乃ってなんだか新鮮ですね」って感じで白河に笑われてしまったので、そろそろ慣れたい所だ。

 

で、それはともかくとして、だ。

 

 

「びっくりした、アリスか。って、マシントラブル?」

 

「はい、復旧時期も未定となっています。……申し訳ありませんが、他のアトラクションをお楽しみいただけたらと思います」

 

 

心底申し訳なさそうに謝る所を見ると、本当に想定外のトラブルだったんだろう。

 

それならそれで、他の所を楽しめばいい話だ。

 

 

「了解だ。代わりにオススメのアトラクションとかあったら教えてくれないか?」

 

「【ジャッジコースター】みたいにスリルのあるものなら尚良しだね」

 

 

白河と視線を合わせて頷き合ってからアリスにそう言うと、アリスは一瞬目を丸くした後に、元となった有里栖のような満面の笑顔を浮かべる。

 

 

「承知しました! でしたらあちらの【ラビットフォール】は如何でしょうか? 今でしたら百戦錬磨のスタッフさん達の活躍により待ち時間もあまりありません!」

 

 

エプロンドレスを翻してから近くの案内板の中のアトラクションを指差すアリス。

 

確かSSR結成前、プレオープンしたばかりのワンダーランドに皆で来た時、一登と有里栖が乗ったって言う、高所からの自由落下を楽しむ……いわゆるフリーフォール系のアトラクションだったか。

 

なるほど、確かにこれならスリルも楽しめるな。

 

 

「待ち時間も無いのならナイスチョイスだと思いますよ。芳乃も良いですよね?」

 

「ああ、早速行ってみるか。ありがとな、アリス」

 

「いえいえ、ごゆっくりお楽しみください!」

 

 

そう笑顔で言ってからフッと、出現した時と同じ様に前振りなくアリスは消えた……かと思えばまた別の客の前に現れていた。気配がないこともあって、相変わらず不思議な感覚を覚える。

____なにはともあれ、早速【ラビットフォール】へと向かう事にする。【ジャッジコースター】からそこまで遠くないので移動時間もさほど掛からない。

 

更に言えばアリスの言う通り、プレオープンから経験値を蓄積したであろう熟練のスタッフさん達の案内によって待ち時間はほぼ無いようなもので、あれよあれよと言う間におれと白河は【ラビットフォール】のゴンドラに身体を固定させられていた。

 

それからゆっくりと地面から天辺まで上がっていく最中、いつもと同じ様に白河と軽口を叩き合う。

 

 

「ジェットコースター並に頑丈に固定されてるな。……いざって時はどうやって外すべきか」

 

「その【いざって時】ってのは一体なにを想定したものなんですかね……?!」

 

 

そりゃ怪異とか襲って来た時に……って流石にワンダーランドみたいな悪意とか真逆の感情が集まる所じゃ、怪異なんざ発生しようがないか。

 

 

「所でジェットコースター数回で音を上げる様な芳乃じゃ、こう言うフリーフォールはどこまで持つかな♪ 情けない悲鳴を上げると面白いと思うんだよね♪」

 

「心の底から愉しそうだなオイ。……まぁ、これはあくまで落ちるだけだからな。学校の屋上くらいなら余裕で飛び降りれるから今更感はある」

 

「ちょくちょく人間やめてる発言しますよねキミ!? しかもホントに出来そうだからタチが悪い!」

 

 

出来そう、ではなく出来るので、尚更タチが悪いのは内緒だ。

 

 

「そう言う白河だって去年のクリスマス関連のアレコレからしょっちゅう飛び降りしてんだろうが」

 

「正解も正解。まぁ、あれの場合はキミが真下にいたからこそ心置きなく飛び降りれる訳で…………」

 

「だからそんな信頼は全く持っていらん……って、どした? 急に言葉を止めて」

 

 

いきなり時間が止まったかのように動きを停止したかと思うと、今度は静かにおれの方を見て、そのまま流れるように今の時点でも結構離れている地面を続けて見やると「あ」と呟いてから、その表情を強張らせる。

 

 

「……え、どしたんおのれ?」

 

「い、いえ、そう言えば芳乃が真下にいるからボクはアイ・キャン・フラーイ! ってしてたと考えたら、その芳乃が真横にいる場合はどうなるのかなって、思ってしまいまして……」

 

「あ」

 

 

普段、白河の飛び降りが成り立つのは絶対にキャッチ出来るおれが真下にいる為だ。おれが下にいる間は白河を絶対に落とさない自負がある。

 

……や、そんな自負なんぞ持ちとう無かったのだが。

 

 

「ま、まぁ、たかが絶叫系アトラクション、今更怖がるのもおかしいってものですね! はっはっは!」

 

「そりゃそうなんだが」

 

 

白河の言う通り、ジェットコースターにあれだけ慣れてる奴ならフリーフォールくらいは大丈夫だろうと思う。

 

……思っていたのだが……その考えに反して、ゴンドラが高く昇っていくにつれて白河の表情は強張っていき、口数も明らかに少なくなる。

 

と言うか少し震えてないか、オイ?

 

 

「……白河、ホントに大丈夫か? いつぞや出歯亀がバレそうになった時以上に顔真っ青だぞ?」

 

「なんでその例えにしたのかな!? それに、へ、平気平気。これくらいの高さならなんとも___ぴゃ!?

 

 

《ガコンッ!》とゴンドラが頂上に到達すると同時に、白河の口からなにやら聞いたことのない声が漏れ出していた。

 

「ぴゃ」って。

 

いや、「ぴゃ」って。

 

 

「……初めて聞いたぞ、「ぴゃ」っていう珍妙な悲鳴出す奴」

 

「う、ううるさいですよ! 芳乃こそ何時までその余裕そうな表情を保ってられるかな!?」

 

「明らかに現在進行系で余裕を失ってる奴が言っても、ただの強がりにしか聞こえないんだが?」

 

「しゃらっぷ! 誰が余裕を失ってるですか!? ……いいでしょう、時期尚早ですがボクの本気を見せてやろうじゃ___」

 

 

顔を真っ赤にした白河の言葉は最後まで紡がれることはなかった。

 

なぜなら次の瞬間、フッと身体が軽くなる感覚がしてから、【ラビットフォール】がその本領を発揮する……つまり、自由落下を始めたからだった。

 

 

 

 

 

「ぴにゃぁあぁあぁあああひいぃいいぃ〜〜〜っ!?!?」

 

 

 

 

 

そして同時に、今まで聞いたことのない様な……と言うか人間に出せるのか分からないレベルの悲鳴が白河から出て来る。

 

腹の底から……否、魂の奥深くから捻り出したような事件性のありそうな本気の悲鳴だった。

 

……本気ってそっちの方向なのか?本気で悲鳴を出すって意味だったのか? や、それは今はどうでもいい。

 

 

「うぉい! やっぱりフリーフォールの方はダメなんじゃねぇかーー!?」

 

 

ゴォォオオオッ!!と、勢いよく落下する中で、その悲鳴に負けないくらいに声を張り上げる。

 

ジェットコースターで般若心経を唱えられる奴のまさかの姿に、思わずツッコミを入れざるを得なかったのだ。

 

 

「はははははじめてなんですから仕方ないでしょう___ぁ、ああぁあぁあぁいやああああぁぁあぁ〜〜〜〜っ!?!?」

 

 

もはや取り繕う余裕もなく涙目になって叫び倒す白河。

 

普段から散々女の子らしいことを否定していた癖にコレである。

 

……正直、あまりのレアな姿故に可愛いとは思うが。いや、うん、ホントに可愛い。

 

「まぁ、こんな白河を見れるのも悪くはないな」と、場違いにも考えてしまったおれは、きっと後で罰が当たるだろう。

 

最も本人は溜まったものでは無い筈だ。

 

地上まであと数秒。

 

たったの数秒。

 

されど、まだ数秒。

 

その数秒の間にどれだけ恐怖とスリルを更新し続けるのか。

 

「ぴにゃぁぁああっー?!?!」と、前代未聞級の白河の絶叫を聞きながら、素直にフリーフォールの浮遊感を楽しみつつ、そんなことを考えるのだった。

 

 

 

 

………………………………

 

 

………………

 

 

……

 

 

 

 

 

「白河? おーい白河ー? ……ダメだ、完全に放心してやがる」

 

 

口からえくとぷらずまー的な感じで魂が半分出した様なその姿に、おれは苦笑するしかなかった。

 

現在地は【ラビットフォール】近くの休憩ベンチに白河だけ腰掛けてる。

 

 

本人の言葉通りならフリーフォールに挑戦したのはさっきのが初めてだったんだろう。

 

恐らく経験を積めば、それこそ以前ジェットコースターの時見たく般若心経を唱えながらでも乗れるのだろうが。流石の白河も経験のない初見の絶叫系マシンを乗り越えられる余裕はなかった、と言うことか。

 

なお、おれの方は案の定大丈夫だった。ジェットコースターみたく上下左右に振られなければ問題ないのだろう。

 

 

「う、うぅ……ボクの初めて(の絶叫)を、芳乃に奪われてしまったよ……」

 

「おのれ、わざと人聞きの悪い言い回しをしてやがるな?」

 

 

暫くして喋れるまで回復した白河の第一声に、思わずチベットスナギツネみたいな表情になりながらツッコミを入れる。

 

転んでもタダでは済まさないのが、あまりにも白河ひよりと言う女の子らしい。

 

 

「大体、人の手を握りながら強がっても形無しだろうに」

 

「〜〜〜〜〜〜っっ!?!」

 

 

白河の柔らかい掌により固く握り締められた己の手を軽く掲げる。

 

実は【ラビットフォール】の自由落下の最中、恐怖心が限界にまで達した白河は無意識の内に隣にいたおれの手を握り締めてしまっていたらしい。

 

おれもそれに気付いたのは【ラビットフォール】を降りようとした時だった。放心してる白河の方を見たらいつの間にかこうなっていた。

 

その掌は今も離される気配がない。

 

こうやって指摘しても変わらず、その掌はおれの手を掴んだままだった。

 

よほど怖かったのか、離す余裕もないのか。はたまた別の要因か。

 

 

 

「……仕方…………じゃ……」

 

「……ん?」

 

 

ふと、小声で白河が何事か呟く。

 

なんだろうと思ってると顔真っ赤にした白河が若干の涙目に上目遣いでおれを見上げ、しっかりとした言葉を口にする。

 

 

「……仕方、ないじゃないですか。フリーフォール系は初めてだったし。それに、いつもボクをキャッチしてくれる芳乃が真下にいないんですから……流石に怖かったんですって」

 

 

言ってからプイッと顔を背け、より強く手を握り返す白河に対して、おれはその言葉の意味を把握してから静かに天を仰ぐ。

 

……ちょっと今のズルくないか? いつもは強がるくせになんでこのタイミングで弱音を吐くのか。

 

あんまりに威力が高かったので思わずおれもベンチに座る。手は繋いだままで。

 

あんな事言われたら、離す気にはなれなかった。

 

 

「……その、手を握られるのが嫌だったら、いつでも離していいですよ?」

 

 

だから、遠慮がちに投げかけられる言葉に、静かに首を横に振るう。

 

 

「……別に嫌じゃねぇよ」

 

「……ほんと?」

 

「嫌だったら、そもそもデートなんかしないだろうが」

 

 

それから思わずぶっきらぼうに返して、その小さな手を握り返す。

 

ついでに視線どころか顔も背けてしまった。気恥ずかしさからだが、いつもの様に瞑想の要領で心を落ち着かせることも何故か今は出来なかった。

 

その原因は、繋がってるままの手の温もり。

 

自分とは違う体温を共有してるその感覚が、どうにも気になってしまって集中が削がれてしまうからだろう。

 

ただ、それで嫌な感覚なんか感じない。

 

 

「そう、ですか……嫌じゃない、ですか。……なら良かった。……ふふっ」

 

 

顔を見なくても笑ってるだろうデート相手の、漏れ出た様な笑い声。

 

決して不快ではないけれども、気恥ずかしさが勝ってしまってか、暫く白河の顔が見れそうに無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

△ ▼ △ ▼ △ ▼

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

____それから、なんとかお互いのメンタルが元に戻ったおれ達は、怒涛の勢いで色々なアトラクションを制覇しに行った。

 

 

 

「提案、これを力いっぱい回して先に目を回したほうが負けの勝負はどうかな?」

 

「流石に他の客の迷惑になりそうだから却下!」

 

 

 

____ワンダーランドのモチーフ元となってる【不思議の国のアリス】のイメージに近い紅茶のティーカップ型の定番アトラクションや、

 

 

 

「ドードー鳥のゴーカートって……なぜにドードー鳥???」

 

「【不思議の国のアリス】にドードー鳥が出て来るからね。ゴーカートと組み合わせたのは……制作陣のセンスかな?」

 

 

 

____ドードー鳥をモチーフにしたゴーカート型のアトラクションで一進一退のレースを繰り広げたり、

 

 

 

「やべぇぞ白河、さっきのワゴンで売られてたチェロス、目ん玉飛び出るくらい美味ぇ……!」

 

「そこの屋台のクレープも中々ですよ! アリスモチーフの飾り付けで見た目も味も楽しめる逸品です!!」

 

 

 

____小腹が空いたらショップ街のワゴンなどで軽食を取り、その美味しさに揃って舌鼓を打ち、

 

 

 

「おおう、結構ガチな鎧とか武器が並んでやがる。……つか待て、なんか曰くありそうなのも混じってねぇか?」

 

「曰くありそうなのってどれ!? なに怖いこと言ってるのかな!?」

 

 

 

____ランドマークとなってる【ハートクイーン城】の見学なんかもして、

 

 

 

「おおおお!?遠心力で振り回されるって、こんな感覚なのか!?」

 

「風を感じて結構楽しいですねこれーー!!」

 

 

 

____飛び跳ねる白ウサギモチーフの空中ブランコに振り回されたり、

 

 

 

「……フリーフォールや空中ブランコの後にメリーゴーランドだと、拍子抜けしねぇか?」

 

「正解。でも、これはこれで楽しいものですよ♪」

 

 

 

____これまた定番のメリーゴーランドなど、とにかく色々回って行って、気がつけば日も暮れ始めた頃。

 

おれ達が最後に選んだのは、ワンダーランド内でもハートクイーン城にならんで存在感があり、香々見学園のSSRの溜まり場でもよく見えていた観覧車だった。

 

 

「結構高くまで上がるんですね、これ」

 

「だな。香々見学園どころか香々見島を一望出来るな。……所で、【ラビットフォール】より高いけど大丈夫か?」

 

「流石に観覧車なら怖くないですって」

 

 

日も暮れ始めていたこともあり、青かった空は夕焼けの色が差し込み、一日の終わりが近付いてきたことを如実に知らせてくる。

 

楽しい時間というのは本当にあっという間に終わってしまう。観覧車が終われば、後はもう最後のパレードだけだろう。

 

 

「ね、芳乃。今日は楽しかったかな?」

 

 

対面するように向かいの椅子に座ってる白河の言葉に、おれは頷く。

 

 

「ああ。皆でワイワイやるのも良いけど、今回みたいに二人で遊び倒すのもすごく楽しかったよ。……それは白河もだろ?」

 

「ふふ、どう思います? これで皆で行ったほうが楽しかったー。なんて言ったら」

 

「……それは流石に意地が悪いと思うぜ」

 

 

からかう様な白河の言葉に少し拗ねた様に返すと、心底楽しそうに白河が笑い出す。

 

 

「正解。意地悪だったね、これは。……二人だけで遊び倒すの、ボクも楽しかったですよ。うん、心の底からそう思いました」

 

「……そっか」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

なんだか気恥ずかしくなって来て思わず視線を逸らして窓の方を見る。

 

同じタイミングで白河も窓の方に視線を向けていたので、多分、同じ理由だろう。

 

窓から見えたのは夕焼けに染まる香々見島。

 

香々見市の町並み、湖の桜の木やワンダーランドのすぐ近くの香々見学園などが視界に映る。

 

それを、白河と二人っきりで眺めていると言うのは、……なんだろうか。感情を言葉に出来ない。

 

 

 

……ただ、この時間が終わるのが惜しい。

 

 

 

そう、思ってしまっていた。

 

 

「……質問……と言うか例えばの話なんだけどね」

 

「ん?」

 

 

ゴンドラが頂点にまで近付いてきた所で、なんだか改まったかのように白河が声を掛けてくる。

 

 

「例えば、芳乃のことを好きな女の子がいるとします」

 

「……例えの時点でハードルが高いな」

 

 

おれを好きになるとか、もの好きも良いところだと思うが。

 

そんなおれの思考を呼んだのか。ジト目になった白河が人差し指をおれに向けて口を尖らせる。

 

 

「はいそこ、話の腰を折らない! ……その女の子は芳乃とも今の時点でも仲が良いんです。けど、女の子が自分の思いを自覚してからは、もっと深い仲になりたいと思ってしまいました」

 

 

話の始まりこそ茶化してしまったが、それからは白河の“例え話”を黙って聞く。

 

例え、と言うには、白河の言葉に隠しきれない熱が籠もっているような気がしたからだ。

 

 

「……もし、今、その子が芳乃ともっと……今よりもっと深い仲になりたいって言ったら、どうします?」

 

「それは……恋愛請負か?」

 

「だから例えば、ですよ。まぁ、恋愛請負なのはそうですけど」

 

 

真っ直ぐおれの目を見つめる白河に、おれも改めて向き直ってから一呼吸を置いて、改めて思考を回していく。

 

……ここ最近クソボケだのなんだの言われてた気もしなくはないが、流石にこの“例え話”の意味には、幾らおれでも気付く。

 

だからこそ、返答には真摯に応えなければ行けないだろう。

 

一呼吸、深く息を吸って吐いてから、自身の中の“想い”を言葉として紡ぎ出す。

 

 

「……その女の子がさ、おれの予想通りの奴なら、おれもその子と____」

 

 

だが、その次の言葉を紡ぐ直前、

 

《ガコンッ!》と言う音と共に、おれ達の乗った観覧車のゴンドラの中の照明が消えて、更に観覧車そのものが動きを止める。

 

 

「へ、ちょ、まっ、ひゃっ!?」

 

「っ、危ねえ!?」

 

 

その反動で前のめりに倒れそうになった白河を慌てて支えようと抱き寄せる。

 

……その結果として、白河を抱きしめる形になってしまった。何時ぞやの再現みたいだ。

 

これはアレか? らっきーすけべ? とか言うのに入るのか? や、んなことは今はどうでもいいんだよ。

 

今、優先すべきは状況確認だ。

 

 

「あー……その、大丈夫か?」

 

「ひゃ、ひゃい。大丈夫、です」

 

 

……顔真っ赤にして言っても、全然大丈夫そうには見えないんだよな。

 

とは言え、この状況だと仕方ないだろう。なにせ距離感ゼロの密着スタイルだ。

 

……いつぞやのロッカー密着事件を思い出す。あの時と違って、顔真っ赤になってるのは白河の方なのだが。なお、おれは気合で抑え込んでる。がんばれ理性。負けるな理性。

 

 

「……その、芳乃は大丈夫です? 腰とか打ってない?」

 

「おれの頑丈さは、白河も知ってるだろ?」

 

「……そうですね。流石はゴリラ」

 

「誰がゴリラだ。ったく」

 

 

間近で困った様な笑みを見せる白河に、おれも苦笑で返す。

 

現状、今までにないくらいに密着した形だが、ロッカー事件の時の様に取り乱したりはしない。今はその前に確かめなければならないことがある。

 

 

「これは、観覧車が止まったのか?」

 

「……みたいだね。またマシントラブル、なのかな?」

 

 

明かりもなくなったままだが、取り敢えず揺れが収まったこともあり、白河と離れようとしたが……その白河が全然離れようとしなかった。

 

 

「こ、こう言うとき、男の子は甲斐性を見せるものですよ?」

 

「……つまり?」

 

「……暫くこのままで居させてください。芳乃の側なら、ボクも安心出来るので」

 

 

そう言って更にぎゅっと、強くしがみつく白河に対して、おれは抵抗しなかった。

 

女の子に抱き着かれるなんて、言ってしまえば役得。ってこともある。

 

けど、もっと正直に言えば、そのまま離れるのは少し寂しく感じてしまったんだ。

 

だから、その華奢な身体を少しだけ強く抱き締め返す。

 

一瞬だけ白河がビクッと震えるも、すぐに力を抜いて、おれの胸元に頭を、そして全体重を預けるようにもたれ掛かってきた。

 

彼女の温もりが、その存在がそこにあると言う証拠たる熱が、服の上から肌を通じて広がり伝わってくる。

 

ドクン、ドクン、と白河の心臓とおれの心臓の音が重なっていく。

 

温もりごと溶け合うような心地の良いその感覚は、ふとすれば屈服したくなるほどの魔力を持っているだろう。

 

 

「……芳乃の心臓、高鳴ってますね。ここにいると、よく分かります」

 

「……こんなの不可抗力だ。仕方ないだろ、ばか」

 

「ふふ、キミはホントに意地っ張りだね」

 

「おのれにだけは言われたくない」

 

 

言ってから、二人で笑い合う。

 

意地っ張りなのはホントにお互い様だ。

 

知り合って、語り合って、同じ時間を共有し続けて、お互いのことはなんだかんだ理解してるのだから。

 

……観覧車はまだ直らないらしい。なら、偶然出来たこの延長時間を有効に活用すべきだろう。

 

 

「……さっきの“例え話”の続きだけどな」

 

「うん」

 

「その女の子がさ、おれの予想通りの奴なら……おれも、その子と……もっと深い仲になりたいと思う」

 

「……うん」

 

 

ギュッと、しがみつく手の力が更に強くなる。心做しか、その体温も上がってるように思う。

 

 

「それは紛れもないおれの本音なんだ。……けどな、今はまだ無理だ。まだ、やらなきゃいけないことがある」

 

 

____それは、ある意味で約束された予定調和。

 

 

おれが先視の魔法使いとして視た、あのクソッタレな未来が存在し続ける限り、絶対的に降りかかる問題だった。

 

 

「……その”隠し事“が何なのかは、やっぱり教えてくれないんですよね?」

 

「悪い。でも、もう1〜2ヶ月も掛からないと思う」

 

「…………予想より短い期間だったことに、ちょっとビックリしてるんですけど。なんなら年単位でかかると思いましたし」

 

 

まるで拍子抜けしたような白河の言葉におれは苦笑する。

 

こっちからすれば十年近くも待った事なのだ。……申し訳無いが“その子”にはもう少し待って欲しい。

 

“使命”を果たさない限り、おれはずっと、あのクソッタレな未来に縛られ続ける。そして”約束“を守り通さなければ、一登と二乃が死ぬ。

 

それに、あの先視の通りクソッタレな未来になったなら、一登と二乃だけじゃない、【黒無】のせいでこの島も……世界そのものがどうなるか分からない。

 

それは今、抱き締めてるこの温もりだって例外じゃない。

 

 

「……全部、なにもかも片付けて、背負ってるものも全て清算し終えた時に、おれの方から”その子“に伝えたいんだ。____この想いを」

 

 

だから、全てが終わるまではこの想いに蓋をする。

 

……まぁ、もう手遅れな気もしなくないが。

 

なにせ、半ば告白してる様なものだからな、この”例え話“。

 

それでも、蓋をしなければいけない。半端な気持ちでは戦い抜ける訳が無いと思うから。

 

 

「……ホントは”その子“も色々と言いたいことがあると思うけどな」

 

「____大丈夫ですよ。これはあくまで”例え話“ですから」

 

 

腕の中の”その子“……白河が顔を上げる。夕陽に負けないくらい真っ赤に染まっていて、それでも目を離すことの出来ない綺麗な顔だった。

 

 

「でも、”その子“は待つのは性に合わないんですよね」

 

 

それから、いつか見た笑顔にも負けないくらいの輝く様な笑顔で、白河は宣言する。

 

 

「キミにも事情があるんだろうけど、”その子“は芳乃を待ったりしません。寧ろガンガン攻めていきます。

 

だから……覚悟しといてくださいね、芳乃。

 

___キミには、とびきりのハッピーエンドをプレゼントしましょう。受取拒否は出来ませんので、悪しからず!」

 

 

夕陽が完全に水平線の向こうに消える前に、一人の少女がそう宣言する。

 

負けず嫌いな彼女らしい、あまりに勇ましい宣言に、おれは一瞬唖然としながらも次の瞬間には笑ってしまっていた。

 

 

 

 

……ホント、コイツには敵わねぇなぁ。なんて思いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ところで、この観覧車はいつになったら直るんです……?」

 

「日も完全に暮れてるのに照明がねぇから真っ暗だな。……つか、そろそろ一回離れねぇか……? 流石に気恥ずかしくなって来た」

 

「ほう、もう音を上げると? ボクの猛攻はまだまだ始まったばかりなんですよ♪」

 

「なんで心の底から愉しそうにしてんだテメェは……!? 待て、一回落ち着け!」

 

「ふっふっふ、ここまで距離を縮めれば幾ら芳乃がゴリラでも反撃に一手遅れることは必須! 」

 

「指をワキワキと動かしてホントに何をするつもりなんだよ!? そして誰がゴリラじゃ誰が! 白いゴリラと黒いゴリラの念能力発動すんぞコラ」

 

「ゴレイヌさん!? 日常までゴリラに染まってるからやっぱりゴリラじゃないですかゴリラー! と言うかそのくらいで止まると思わないことですね!?」

 

「アクセルベタ踏みしてやがる、この恋愛請負人!?」

 

 

先程までの真剣な様子とは一転して、いつもの……いや今までより一歩前に進んだ白河がその猛攻を発揮する直前、《ガコンッ》と言う音と共に観覧車が動き出して、ゴンドラの中の照明も復活する。

 

どうやら、やっと復旧したみたいだ。

 

 

「おや、ようやく直ったみたいだね。まぁ、地上に戻るまではまだ時間があるんだけど♪」

 

「ブレーキまでもが壊れたのかテメェ?! と言うか、おれだっていつまでも無抵抗だと思うな____」

 

 

 

 

 

 

____ウ……ヤ………イ。……ネ……マ……シイ……。

 

 

 

 

 

 

流石にそろそろ実力行使すべきか迷った所で、動きが止まる。酷く耳障りな”声“と、微かな悪意の気配……そして覚えのある魔力を感じ取ってしまったからだ。

 

 

「……な、に……?」

 

「……芳乃?」

 

 

あまりに突然だったから、”声“の方は殆ど聞き取れなかった。

 

悪意の気配も微かで全容は掴めない。けれど、同時に感じ取った魔力は忘れるはずもない。

 

 

 

____なにせ、それはつい数日、おれと氷室が協力して斃したはずの怪異……鵺のものだったからだ。

 

 

 

ただ、それも一瞬。次の瞬間には魔力も気配も消え去り、何も感じられなくなっていた。

 

気の所為か? と断じるにはあまりに早計だった。

 

 

「……白河、今一瞬、何か聞こえなかったか?」

 

「え? いえ、ボクには何も……と言うか、何か聞こえたの?! 怖いこと言うのは反則ですよ反則! ただでさえキミ、そう言うのにも強そうなんですから!」

 

「や、悪い。気の所為だったみたいだ」

 

 

「ホントです? 何かいるんじゃありません?」なんて、ちょっとビクつきながら辺りを見回す白河に内心で「かわいいなコイツ」と思いながらも、別の思考では冷静に先程感じた魔力について思考を回していく。

 

……直接、確かめないといけないな。

 

と、このデートを無事に終えた後の自分の行動について考えつつ、何故か脇を執拗にくすぐろうとして来る白河の猛攻を、ゴンドラが地上に降りるまでなんとか捌き続けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 





原作のひよりと此処のひよりの違いは、まだ”余裕“がある内に恋を自覚したので、積極的になってる所なのですが、加えてうちの主人公のメンドイ所をそれとなく見抜きつつあるのでちょうどいい距離感を確保しつつ立場を確保して猛攻する方向に。

負けず嫌いと言う性格を考えると、これくらいするだろうなって考え、こんな描写に。

まぁ、此処から更に色々やる予定何だけど。……と言うかコイツら、例え話でお互い想いを通じ合わすとか、なんつーメンドイことやってんだ……! ?
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