D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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思ったより早く次が書けたので投稿。

前回最後の補足と日常回です。


EPISODE 43

 

 

 

「やれやれ、思っていたよりも簡単に事が済みましたねえ。……それで、どうですか? 久しぶりの外の空気は」

 

 

「……どうもないね。変わらないよ、封印される前と……何も変わらない」

 

 

____そこは【防人】の本部から……いや、この島国の首都からも遥か遠く離れた山に作られた監獄だった。

 

公的には存在しないとされてるものの、“表”に出す事の出来ない罪人や咎人を収容するために、その場所は存在を許されていた。

 

許されていた……と過去形になってるのは、現在その監獄が業火で燃え盛っているからだ。

 

収容していたものも、施設を管理するものも、等しく炎に包まれており、今も焼け爛れる苦しみから来る悲鳴が聞こえてきている。

 

その地獄を眺めながら、二人の男がまるで世間話をするかの様に話し合っていた。

 

 

「貴方の信望者(シンパ)の協力で、未来視の出来る現在の【防人】の当主を騙し通した上にワタシをここまで運び込む。……随分と出来た話ですねえ」

 

「なんてことはないさ。【先視の魔法】の強みも弱点は僕も熟知してるし、十年前に予め彼らに指示をしていたこともある。それに_____この光景は、もう視えていたからね」

 

「……十年近く前の未来視ですら、その通りになるですか。同じ魔法使いからすれば、やはりとんでもない代物ですねえ」

 

 

一人は長髪の美丈夫。【人形遣い】と呼ばれる魔法使い。

 

そしてもう一人は、この監獄の最下層に収容されていた囚人。

 

伸びっぱなしとなった髪を炎風に揺らしながら、燃え盛る監獄を眺めている。

 

 

「糸賀君、僕が君に依頼してた実験はどうだった?」

 

「失敗ですよ、失敗。質のいい怨念や邪念を幾ら用意しても、出来る“怪異”は単体具現型のものばかり。概念型への変容は確認出来なかったですねえ」

 

「ふむ……まぁ、思い付きで構築した理論じゃその程度か。灯夜達の目を引いてくれただけでも良かったとしておこうか」

 

「……十年近くかかった計画が、ただの思い付きだったことにワタシは驚愕してるのですが???」

 

 

まさかのカミングアウトにより目を見開く【人形遣い】に、囚人は愉しそうに笑う。

 

 

「暇潰しにはなっただろう? 僕からして見れば、万が一にでも成果が出れば儲け物でしかなかったんだ」

 

「……はぁ。まぁ、良いでしょう。この男に負けてしまったワタシの運の尽きですねえ。兎にも角にも契約は果たしましたよ。“依頼されてた物”も渡しましたし、早くワタシを自由にして下さい」

 

「ああ、ご苦労さま、糸賀君」

 

 

囚人が【人形遣い】に手を翳す。

 

カチリ。と言う音が、【人形遣い】の首辺りから響くと、そこに仕込まれていた“魔法”が解除され、マナの粒子へと還っていく。

 

それは、かつて囚人が【人形遣い】にかけていた保険。自身に従わせる為に着けさせた【首輪】だった。

 

 

「……魔法使いとしての知的好奇心で聞きますが、この首輪の魔法、ワタシが貴方の指示に従わなかった場合はどうなったのですか?」

 

「こうなるかな」

 

 

パチンッと囚人が指を鳴らす。

 

燃え盛る監獄に予め仕込まれていた魔法が起動し、そして___盛大な爆発と、更なる爆炎を引き起こす。

 

炎は渦巻く竜巻となり、それは未だに生き残っていた幸運な者達をも残さず焼き尽くすトドメの一撃となった。

 

周囲の山々へと燃え広がっていく業火を背にした囚人は、たった今自身の行った所業には目もくれず、穏やかな笑みを【人形遣い】へと向ける。

 

 

「分かりやすいだろう?」

 

「……イカれ具合はアナタの息子といい勝負ですね」

 

「……なんだ、まだ生きてたのか、アレは」

 

 

穏やかな笑みから一転して、表情から一切の感情をなくした囚人に、【人形遣い】は心の底から楽しそうに笑顔を浮かべる。

 

 

「ええ、ええ。元気にワタシの邪魔をしてくれてますよ。……貴方との契約も終え自由になりましたし、そろそろ彼を殺して構いませんね?」

 

「好きにするといい。アレについては僕にはもう関係がない話だ」

 

 

もう用がないと言わんばかりに囚人は歩き出す。

 

その先には、囚人の帰還を待ち望んでいた魔法使いの者達が控えていた。

 

 

「それではさようなら、【咲三(サキミ) 灯真(トウマ)】さん。良き旅路を」

 

「さよならだ糸賀君。もう、2度と会うことはないだろう」

 

 

自らの裡に悪意を抱き、その悪意のままに魔法を使う魔法使い達は、そこで袂を分かつ。

 

 

 

____それぞれが、とびきりの悪意を抱えたまま。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EPISODE 43-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………ねっむ」

 

 

 

 

 

____3/17(日) 春の訪れを感じる昼下がりにて。

 

 

 

 

 

ワンダーランドに出現したグレムリンとの戦いで消費した弾丸の補充と武器の整備も終えたおれは、春の陽気に誘われてフラリと散歩に出ていた。

 

今いるのは水鏡湖の湖畔公園で、テキトーなベンチに座って春休みを満喫している人の往来を眺めていた。

 

空は青く、風は穏やかで、桜の香りが漂い、とても心地良い。

 

その中で訪れた春の季節を楽しむ者、長期休暇を満喫する者、変わらず仕事に就く者、ありとあらゆる人々の営み。

 

それを、ただただ眺める。

 

 

「………………」

 

 

その中で思い出すのは昨日の早朝、グレムリンとの戦いを終えた後の防人の当主(おじさん)との通話の内容だった____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『____言い訳になるが、本来なら先視の魔法で分かるはずだった怪異の大量発生については、クソアニキの信望者共のせいで察知が出来なかったんだ。奴ら、先視に使う地図に細工をしていやがってな。個人的に使った極近未来の先視でようやく気付いた』

 

 

TABの通話モードにより話されるのは、事の経緯と原因だった。

 

 

『オレ達が把握していない信望者が実行犯で、わざとこちらが把握してる奴らを大きく動かすことでカモフラージュされたようだ』

 

「無駄に知恵が回る……この時のために実行犯を隠しきってやがったな」

 

『間違いなくクソアニキの策だ。十年前にオレが一度ブッ飛ばす前にもう仕込んでいたんだろう』

 

「当主、咲三灯真を収容していた施設は……」

 

『オレが全ての怪異を片付けた時点で全焼の連絡が入った。囚人も看守も保守要員も関係なく、生存者はクソアニキを除いてゼロだ』

 

「そんな……」

 

 

海央が息を呑む。

 

確か罪を犯した魔法使いを収容する専用の施設だったか。保守要員だけでも相当な人数になりそうだ。

 

 

『で、防人本部を襲った怪異には、オマエらから報告のあった【人形遣い】の趣味の悪い人形が核になっていた。下手人は間違いなく奴だな』

 

「……どうりでこっちがバタバタしてる時に奴の横槍が入らねぇ訳だ」

 

『オマエらが手を焼くって、そっちに出てた怪異はそんなに手強かったのか?』

 

「手強いっていうか、ひたすら面倒だったと言うか……」

 

 

海央が思わず目を泳がせたのは、色々とやらかした自覚があるからだろう。今言うことでもないので、おれも特にツッコまないが。

 

取り敢えず指に口を当ててアリスには黙っておくようジェスチャーで伝えると首を振って了承の意を確認出来た。

 

 

『ともかく信望者共の大半は縛り上げたが、クソアニキに合流した奴もいるらしい。……全く、情けねぇ。分かってたのに結局防ぎきれなんだ。コレだから組織のトップってのはやり辛ぇ……』

 

 

ああ、うん。この人、元々バリバリの現場主義だもんな。クソオヤジの件がなければ今も最前線で暴れてたろうし。

 

 

「にしても信望者って奴ら、あのクソオヤジの為にここまでするとは……」

 

『奴らからすれば、クソアニキは今でも咲三の当主なんだろう。なんせアニキは歴代の【先視の魔法使い】の中で、最も“可能性”があると言わしめた存在だからな』

 

「可能性?」

 

『トウカもよく知ってるだろうが、先視の最大の難点は【視た未来が必ず来る】事だ。……良い未来も、悪い未来も、術者が“視た”時点で等しく必ず引き寄せる』

 

 

……それは確かにおれが一番よく分かってることだ。

 

術者の視覚を通してあやふやな未来をよりカタチあるものとする。それが【先視の魔法】の本質だ。

 

なら、おじさんの言う可能性って言うのは……。

 

 

「【先視の魔法】の改良……いや、デメリットを無くすことか」

 

『そうだ。これは代々の咲三の当主が取り組んで来た命題の一つとも言える。……視た未来を固定せず選べるのなら、どんな未来を視たとしても対処できる。救えない人々も救える。どんな災厄だろうと跳ね除ける。

 

_____そして、未来を思い通りに出来る』

 

 

……なるほど、それが信望者共がクソオヤジに拘る理由か。

 

なにせ奴は、咲三灯真は、歴代の咲三の当主の中でも、最も優れた魔法使いと呼ばれていたのだから。

 

確かに、視た未来が固定されないなら、都合のいい未来だけを引き寄せることだって可能かも知れない。いや、実際に可能なんだろう。

 

……だけどそれは、

 

 

「それは、人の身で扱うには過ぎた力だろ」

 

 

思わず、“左目”に触れながら、そう反論する。十年近くこの先視の“呪い”に掛かっているからこそ断言出来る。

 

……ただでさえ、今のままの【先視の魔法】でも人には余る力なんだ。

 

 

『オレもそう思う。歴代の当主達も、先々代のオヤジだってそう思っていたはずだ。だが、それで納得しない奴らは昔からいた』

 

「………………」

 

『そして、そんな奴らはアニキの才に目を付けた。奴らが期待してしまうほど、あのクソアニキの才は絶大なんだよ。___本来、一子相伝で継承されていくはずの【先視の魔法】を完璧に複製してしまうほどにな』

 

「「!?」」

 

 

氷室と、そして項垂れていた盾石の二人が息を呑む。

 

それは魔法使いから見れば、絶対に有り得ない所業だったからだ。

 

本来、一族固有の魔法って言うのは親から子へと儀式を通して継承されていくものだ。盾石達の魔法もそうだろう。一度完全に継承されれば、継承者以外はその魔法は使えない。

 

なお、海央の【先視の魔法】はまだ継承の途中だ。徐々に引き継がせることで魔法そのものを馴染ませていく段階らしい。おじさんがまだ先視の魔法を使える理由がコレ。

 

だけど、クソオヤジ。奴だけは違う。

 

奴が生み出した“ある魔法”が、その常識を塗り替えてしまった。

 

継承を続けて来た魔法使いからすれば、悪夢のような魔法。それが____

 

 

『……話が大分逸れたな。話を戻すぞ』

 

 

おじさんの言葉に思考が戻る。……確かに、今は状況の把握と今後について話す方が建設的か。

 

 

『取り敢えずアキラ、ジン、ミオ____【防人】の当主として命ずる。オマエら三人は本部の状況に関わらず香々見島に留まれ。その際の裁量も現場の判断に委ねるが、この命令は香々見島の異変が収束するまで続くものとする……でもってトウカ』

 

「なんすか?」

 

後は頼むぞ(・・・・・)

 

 

そう一方的に告げてからおじさんは通話を切った____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……かったりぃ」

 

 

三日月島にいる純一さんの口癖を、思わず呟く。

 

言うだけ言って通話を切ったことについては思う所があるものの、向こうも【防人】の立て直しで大変なんだろう。言ってみればクーデターも良い所だしな。

 

この島にいる海央達を実質的に自由にしてるのは、今盾石達が戻っても【防人】の内輪揉めに巻き込まれるだけだからだろう。

 

それから後は……“仮に自分が倒れた”時のことを考えている、か。

 

あのキングコングが具現化したような人が簡単にやられるとは思えないけど……もしもの時は____

 

 

 

「____わっ!」

 

 

 

「っっっ!?!?!」

 

 

____ズルっ、ドテンっ!

 

 

あまりにも深く思考し過ぎていたのだろう。

 

突如として背後から出て来たその強襲に、無警戒、無防備、ノーガード極まりない状態で受けてしまった結果、座ってたベンチからズリ落ちてしまうほど驚いてしまった。

 

 

「大金星! 遂に芳乃への不意打ちが成功しましたよ! ……って、アレ? 予想より遥かに驚いてるような? 芳乃、大丈夫です? おーい?」

 

「…………」

 

 

その下手人____私服姿の白河は最初こそ喜んでいたものの、あまりにも予想以上の効果が出たことに逆に訝しんでいるようだった。

 

 

「不覚……! 不覚にも程がある……!」

 

 

そんな中、地面にずり落ちたおれは、自身へのあまりの情けなさと羞恥により頭を抱えそうになっていた。

 

ホントになんたる不覚か……!

 

 

「あ、大丈夫そうですね。流石芳乃、頑丈さは変わらずだね」

 

「……実際に頑丈だしな。さて、それはそれとして」

 

 

よっと立ち上がり、汚れを落としてからにっこりと白河に微笑み……白河の呼吸を読んで隙を掴み取り、事前動作のない最速、最短、そして神速の手刀を繰り出す。

 

 

____咲三式体術・燕大刀……もどき。

 

 

それは空舞う素早い燕すら捉える一閃。

 

熟練者なら鋼をも断つ一撃を、しっかりと手加減しながら白河の頭上に振り落とす……!

 

狙いは____

 

 

「つむじぃっ!」

 

「ぎにゃーぁ!?」

 

 

スッパァンッ!!と、ものの見事に頭頂部に当たった手刀を直しながら一息吐く。

 

まぁ、やり返すのはこの一発だけでいいだろう。

 

 

「ぼ、暴力はんたーい! と言うか見えなかったんだけど今の手刀!?」

 

「やっかましいわっ!? 油断も隙もないなこの恋愛請負人は!? あと手刀はちゃんと手加減したわ!」

 

「あれで手加減したの!?」

 

「海央が手加減しないで放ったら、20枚ほど重ねた瓦が綺麗に真っ二つに斬れる技だぞ?」

 

「そんな物騒な技を人に向けて放たないでくださいよ!?」

 

 

それはそう。と言うか、どっから湧いてきたんだコイツ!

 

そんなおれの疑問を読み取ったのか、フフンと腰に手を当ててドヤ顔を晒す白河が口を開く。

 

 

「いやぁ、まさか買い物行くついでに公園に寄ったら普段から気を張ってる芳乃が珍しくぼーっとしてたんで、去年のリベンジって感じで、ついつい」

 

 

してやったり。と言った表情の白河に深く息を吐いてから脱力する。いや、まぁ、自分自身の不覚なのでなんとも言えないのだが。

 

しかし、ここまで白河が接近してたのに全く気づかずひ思考に没頭するとは……不覚だし未熟にも程がある。

 

これが白河じゃなくて【人形遣い】だったらどうするつもりだ。クソッタレめ。

 

 

「……あの、怒ってます?」

 

「え」

 

「その、すごく難しい表情してたからさ」

 

 

……いかん。顔に出てたか。ホント、今日はポンコツ極まりないな。

 

 

「や、別に白河には怒っていないんだ。……悪かったな」

 

 

白河に謝ってからベンチに力なく座る。

 

すると白河もその隣に座り、おれの顔を覗き込んでくる。

 

 

「そっか。……例の“やらなくちゃいけないこと”関連かな?」

 

「……まぁな」

 

「……やっぱり、ボクに話せないこと?」

 

「…………ああ」

 

「ん、分かった。なら、無理には聞かないよ」

 

 

そう言ってから白河は「んー」と少し考える素振りをした後、ふと何かを思い付いた様に目を輝かせる。漫画とかなら光る豆電球のマークが出る感じ。

 

で、一体なにをするつもりだ? と思っていたら、「よいしょっと」と、そのまま体をこちらに傾かせて、おれの太ももに頭を乗せて……ちょっと待て、オイ、ホントに待て。

 

なにしてんのおのれ???

 

 

「……一応聞くけど、なにしてんの?」

 

「ひざまくらー」

 

「それ、普通は逆なんじゃねぇかな……?」

 

 

この手のアレコレに疎いおれでもそれくらいは分かる。普通はする方とされる方が逆なんじゃないか? このひざまくらって奴。

 

しかし白河は「ひざまくら」をしたまま、おれの方を見上げるとチッチッチッと指を振る。なお、それでランダムに技が出たりはしない。

 

 

「このボクを常識で測ろうなどととは、芳乃もまだまだだね! 」

 

「一応親切心で言っといてやるけど……今のセリフ、すごく杉並っぽいぞ?」

 

 

「ファーハッハッハッ! 同士よ、この俺様を呼んだか?!」と高笑いする奴の声が脳内再生される。うん、いつも通りに脳内でも大変やかましい。貴様はどこぞの復讐者か? いいからハウスしろ、ハウス。暫く出て来んな。

 

 

「ぐっ! まさかの所でダメージが……! でもでも今日のボクはこれくらいじゃ止まりません!」

 

「いつも止まってない様な気がするんだが。アクセル踏みっぱなしな気もするんだが」

 

 

この前のワンダーランドのデートから、とうとうブレーキも踏まない様になったよな。プリ◯スミサイルか、こやつ。そのうち事故るぞ?

 

 

「正解だけどしゃらっぷ! ……いいから、はい、芳乃は右手を出す!」

 

「あ、ああ」

 

 

完全に白河のペースに呑まれてるのを自覚しつつも、言う通りに右手を出すと、その右手を掴まれる。

 

そのまますごい力で白河の頭に右手を押し付けられる。……えーと、なんなんだこれは?

 

 

「撫でてください!」

 

「……What?」

 

「なんでいきなり流暢な英語!? ……いいから無でれ! さっき手刀を打たれた分が痛かったんで、その罰です! ほら、早く早く!」

 

 

くっ、コイツも痛い所を突いてきたな……! と言うか、なんでいきなり……いや、ひざまくらの時点で言っても無駄か。

 

断っても多分この体勢のままウザ絡みに移行するだろうし、不承不承ながらも先程手刀を打った頭頂部を、ゆっくりと撫で始める。

 

 

「……ん」

 

 

充分に手加減して打ったし、タンコブなんてものが出来てる訳もない。

 

……それより気になると言うか、流石はと言うか、しっかりとトリートメントしてるのだろう。ツヤのある髪は柔らかくしっとりとしている。

 

指から伝わる感覚も、滑らかで指通しも良く……とてつもなく触り心地がいい。

 

 

「……流石というか、丁寧にケアしてるんだな」

 

「あ、分かります?」

 

「まぁ、な。おれ指の感覚が結構鋭いから割と分かるんだよ」

 

「ふふ、女の子は常に努力を怠らないんです。そう言う芳乃も、撫でるの上手いですね」

 

「撫でるの上手いって、なんだそりゃ。ねこ撫でたりしてたら慣れるだろ……あ」

 

「……ほう、それは猫の寄り付かないボクに対しての挑発かな?」

 

 

ぷくーっと頬を膨らませる白河に思わず苦笑する。そう言えば、何故かねこが寄り付かないんだよな、こやつ。

 

そう思ってると白河の指がおれの左の二の腕を抓り出す。地味に痛い痛い痛い待ってホントに痛い!?

 

 

「悪かった。ホントに悪かった。誠心誠意謝罪するので許してください。あと抓るのやめてくれ。地味に痛い」

 

「却下、大・却・下 ! お猫さまと触れ合えないボクの恨み辛みを思い知るといい……!」

 

 

おどろおどろしい言い方してんのに、その動機があまりにも可愛すぎる。どんだけねこに飢えてんだこやつは。

 

とは言え、このまま抓られ続けるのは嫌なので何かしら打開策を考える。

 

 

「分かった、そこまで言うなら今度『月見団子』に行った時に白河に甘えてもらう様にクロにでも頼んでみる」

 

「ホントですか!?」

 

「頼んでみるが期待はするなよ」

 

 

対価としてクロには盛大に甘え倒されそうだが致し方ない。

 

と言うよりねこの触り心地を知らない白河が流石に不憫だし。……個人的に、ねこと戯れる姿を見たくもある。

 

 

「大歓迎! なら、さっそく明日にでも『月見団子』へ行きましょうか!」

 

「……え、明日?」

 

「『思い立ったが明日』とも言いますしね」

 

「微妙に違くねぇか?」

 

 

正確には『思い立ったが吉日』である。明日だと絶妙に元ネタの諺の存在意義をなくしてるだろ。

 

……などとツッコミの言葉が思い浮かんだけど、どうするか。【人形遣い】の件もあるが……実は海央達からは「いい加減に休めよゴラァ(要約)」と言われてたりする。

 

最初に怪異が現れてからほぼ真っ先におれが対応してるし、人形遣いとも戦ったし、鵺との戦いでも無茶したし……や、うん、そりゃ言われるか。

 

 

「ね、ダメかな? 勿論、急用が出来たらそっちを優先してもいいから」

 

「……それはそれで、白河に申し訳ないんだけどな」

 

「大丈夫だって。……キミに何かあるのはボクも考慮済みだよ。その上で出来る限りキミと一緒の時間を過ごしたいんだ。だから、今もこうやってキミと間近で触れ合ってるんです」

 

 

「ひざまくら」しながらも、まっすぐおれの目を見つめながらそう言う白河に言葉が詰まる。

 

……くそ、不意打ち食らった。

 

そんなおれの心情を察してか、白河がこれまた楽しそうに笑ってから、白河らしい悪戯っぽい表情を浮かべる。

 

 

「ガンガン攻めて行くって言ったからね。キミがやるべきことを終えるのが先か。ボクに根負けして屈服しちゃうか、どっちが早いかな?」

 

 

個人的な理由で思いに応えきれないと言う、あまりにも情けない体たらくだと言うのに、それでもここまで真っ直ぐな好意を示されるのはむず痒くて仕方ない。

 

なんかもう顔が見れない。恥ずかしさとか、申し訳なさとか、色々と重なって。

 

 

「あれ? 照れちゃってます?」

 

「……うっせ。こんなの照れるしかないだろ、ばか」

 

「むふー♪ それならボクは大満足です♪ それで、明日はどうする?」

 

 

ここまでお膳立てされたら断るのも悪い。

 

どのみち、休めって言われてるんだ。いい機会だろ。

 

 

「そうだな、行くか」

 

「やった♪」

 

 

ひざまくらの体勢のまま、なんとも嬉しそうにする白河に、色々と諦観とかの思いも込めて、もう一度その頭を優しく撫でる。

 

白河は白河でそれを受け入れて、満足そうに目を細めた。

 

 

「……春なこともあって今日は暖かいからかな、なんだか眠くなって来ましたよ」

 

「……寝ててもいいぜ。暫くしたら起こしてやる」

 

「感謝です。正に至れり尽くせりだね」

 

 

そのまま呼吸も穏やかに寝始めようとして……ふと、白河がもう一度おれの目を見てなんとも愉しそうな表情を浮かべる。

 

 

「ところで、ボク買い物のついでに此処に来たって言ったんだけど、実は一人じゃなかったんだよね♪」

 

「………………は?」

 

 

その言葉の意味を理解した時、おれは本日2度目の不覚をしてしまったのだと理解した。

 

おれ達のいるベンチから少し離れた……絶妙に気配察知の届かない距離に、見知った顔が何人もいたことに、ようやく気づいたからだ。

 

 

「買い物行くって時にたまたま同じタイミングで寮を出てね? 芳乃を見かけるまで一緒に行動してたんですよ♪ それじゃ、おやすみー♪」

 

 

と、そう言うだけ言ってからもう一度目を瞑る白河。だが、今のおれはそれを気にするだけの余裕はもうなかった。

 

遠目からこちらを見ているのは、数人。そう、数人だ。

 

まず一人、美嶋さん。

 

白河と幼なじみでいて寮にも住んでるのなら、白河の買い物に付き合っていても、まぁ仕方ないだろう。白河にひざまくらしてるおれを見て顔真っ赤にしてることについても問題はない。あの子はああ言う反応がデフォルトだ。……問題なのは次からの面子だ。

 

二人目は海央……アウトである。

 

どう考えてもこのあと盛大に茶化される未来しか視えない。先視を使ってないけど分かる。そんな駄妹は顔真っ赤にしつつもカメラでパシャパシャしてやがる。おい、バカ、やめろ。

 

三人目はちょこ……ああ、うん、おのれも寮住まいだもんな。

 

海央とも仲いいし休日だから一緒にいても無理ないわ。でもその片手に持ったハンディカメラで一体何を録画してるんだ貴様は……!

 

そして四人目は盾石……終わってる。

 

現状、考え得る限り最悪の人選だった。……なんでよりにもよって、しかも今日この瞬間に限って白河達と行動を共にしてたんだよテメェ! ものすっっっごい生暖かい目でニヨニヨこっち見て笑うなまた弾丸をぶっ放すぞゴルァ!!

 

まさかまさかの寮に住んでる女子オールスターズだった。そんな面子についさっきまでの白河とのやりとりを見られてたとか……羞恥心で軽く百回は死ねる……と、考えた所でTABから魔法使い用のCOMUにピコン♪と、メッセージが届く。

 

差出人は2名。海央(バカ)盾石(アホ)からだ。

 

………………非常にメッセージを開けるのが戸惑われるが、後で開いた方がダメージがデカいと判断し、覚悟を決めて開ける。

 

 

『白昼堂々とひよりん先輩とイチャイチャするなんて……このあたしの目でもこの未来は視えなかったよ!』

 

『やかましい』

 

『避妊はしっかりな?』

 

『過程とか諸々省いて結論だけ述べんなブッ殺すぞ』

 

 

バカとアホにツッコミと言う名の返信を送った所で、ピコン♪と、更にここにはいない、もう一人からのメッセージが入って来る。

 

 

『お嬢と先輩の荒ぶり具合から、芳乃と白河さんがイチャイチャしてるのは分かった』(小指をピコピコするアニメーション付き)

 

『テメェはどこからそんなムカつくアニメーション画像を拾って来やがった!?』

 

 

最後の差出人は氷室(ボケ)だった。

 

つか氷室ぉ!? ここ最近容赦なくボケ倒して来てるけど、テメェそれが素なのか!? 天然ボケキャラなのか!? そうなのかッ!?

 

想像通りにどいつもこいつも碌でもないメッセージだった。海央は取り敢えず今日の夕飯もピーマンをたっぷり使った青椒肉絲だ。残すのは許さん。

 

出来ることなら今すぐ盾石もしばき倒したいが、白河が本気で寝息を立て始めたので、ひざまくらしてる状態じゃ動くことも出来ない。

 

氷室も含めて今度纏めて叩きのめすとしよう。……や、ホントに覚悟しとけよテメェら……!

 

 

「すぅ……んふふ、ねこまみれ……♪」

 

「……夢の中ではねこまみれなのか」

 

 

既に夢の中に入ったらしい白河の寝言に思わず脱力する。

 

なんでコイツはこんなにも無防備になれるのか……。前々からの疑問だったが、今のおれはなんとなく答えが分かってしまっている。

 

____自惚れでなければ、おれがいるからなのだろう。

 

傍におれがいるから、コイツはここまで無防備になれる。安心出来る場所だと思ってくれている……その事実を改めて目の当たりにして、それはそれでおれにダメージが押し寄せる。

 

主に羞恥という名のダメージだが。顔が熱くなるのも、今は止められる気がしない。

 

 

「あー、もう、ホントにかったりぃ……」

 

 

精神的な疲れがドッと押し寄せるも、心の隅ではこの平和な日常を過ごせることを嬉しく思ってるのだから始末に負えない。

 

視界の端でキャーキャー言ってるバカとアホが見えるけど、もう無視しとこう。

 

半ば投げやりな気持ちになりながらも、穏やかな寝息を立てる白河を起こさないように、もう一度、その髪を撫でるのだった_____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「……ふむ、この方が彼の大事な人、と言った所でしょうか」

 

 

 

____その日の夜。

 

 

その男は自らが使役する人形が記録した映像を、拠点としている船の上で眺めていた。

 

 

人形越しに直接見ることも出来たが、件の少年はその人形越しの視線すら見破った事がある為に、自立行動させた意思無き人形を少年達が気づかない距離で控えさせていた。

 

 

 

「なるほど、【咲三】の魔法使い達は人の悪意にすぐ反応出来ると言う噂がありましたが、あながち嘘でもないようだ。……フフ、やはり彼は面白いですねえ」

 

 

 

【人形遣い】と呼ばれた男は笑う、嗤う。楽しそうに、愉しそうに。

 

 

 

演目の終幕(フィナーレ)は決まりました。なら、開幕(オープニング)は……彼女を利用するとしましょうか。彼女もまた、彼にとって大切な人なのですから」

 

 

 

映像に映っていたはしゃぐ少女達の中にいる一人に注目する。

 

 

 

「特上の舞台と、最高の配役を用意した上で、彼には踊っていただきましょう。……嗚呼、愉しみですねえ。最後の最後に彼が浮かべる絶望の表情を早く見たいものです」

 

 

 

己の悪意のままに、

 

 

 

歪んだ願望のままに、

 

 

 

底のない欲望のままに、

 

 

 

その男は、ただ、ただ、嗤い続けた_____

 

 




そろそろ、この章を終わらせたい今日この頃。

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