D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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ここからオリジナル要素とか自己解釈とか増えて来ます。


PROLOGUE 6

 

 

 

 

『___魔法の確立、成功だな。多少驚きはしたが、お前の願いのことを考えれば、なるほど納得の行く結果だ』

 

 

 

汗まみれで息も乱れ、体内の魔力も限界近くまで減少した状態のおれに、髭が特徴的な師匠が、そう語りかけてくる。

 

 

『後はこの状態のまま安定させればいい。それが終われば、他の魔法も使えるようになるだろう。何かリクエストはあるか? ある程度なら俺が教えられるぞ』

 

 

 

それなら、と、自分の中で考えていたことを話す。それを聞いた師匠は、目を丸くした。

 

 

 

『そんな魔法で良いのか? 確かにそれなら、使い方を考えれば面白いことが出来るが』

 

 

 

うん、それでいいんだ。その魔法なら、やってみたいことが出来ると思うから。

 

 

 

『良いだろう、しっかり叩き込んでやる。だが、少し速度を上げるぞ? 俺も孫達の面倒を見無ければならんからな』

 

 

 

師匠はそう言うが、どこか楽しそうだ。

 

 

後で聞いたが、おれの発想が結構面白かったらしい。

 

 

自身の魔力が安定した後、早速修行に入ったおれをしごきながら、師匠はやけに楽しそうな顔をしていたとさ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-PROLOGUE 6-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なので、西洋における錬金術や、東洋における陰陽五行等の思想・学問は全く以て科学であったのだ。

 

現在ではオカルティックなもの扱いで、似非科学なんかの題材として小説漫画ゲームなどの題材にされることが多いが、当時は最新科学だった。

 

神学や西洋音楽もそうだ。音楽は現在でいうところの神の数式、もしくは標準理論へ近づける最も近い学問だと思われ_____」

 

 

 

 

12/20 木曜日 時刻は昼前。天気は雨のち晴れ。教室は現在、泉ちゃんの独壇場。

 

 

 

 

付属3年はこの時期、この時間はロングホームルームとなっているため、我らが担任、泉ちゃんによる雑談が繰り広げられている。

 

雑談と言っても泉ちゃんの知識の一端が聞けるので、普通に聞いても面白いし、魔法使いの視点から見ても興味深い話だったりするので、実はノートに写したりもしてる。

 

そんなことをしてるのは、おれを除けば根が真面目な有里栖くらいだろうか。有里栖の場合は、更に録音までしていて死角がない。

 

おれは指の訓練と音の聞き分けの鍛錬も兼ねてるので板書だけに留めているが、録音というのもありだよな。万が一聞き逃したらちょっともったいないし。

 

そう思ってしまうくらいには泉ちゃんの話は面白い。

 

今日は「式」についてから始まり、今ではオカルトと呼ばれるものが当時の最先端技術であったこと、それらを考慮して考えると過去の考えも決して無用のものではない事を語っている。

 

代々、各々の血から血へ魔法の継承を続けていた魔法使いから見ても、それは間違いではないと思える。最もおれは生家から追い出された半端者の野良魔法使いなので、本職とはまた見解も違うんだろうけどな。

 

まぁ、固定概念に囚われない、という点では、今の在り方はとても性にあってると思うが。

 

そんな事を考えつつ、ノートへの書き取りと聞き取りも同時にやるマルチタスクをこなす。日々の学生生活すら、やろうと思えば修行になるのだ。

 

 

「む、時間か。お前ら付属3年はこの時間帯はロングホームルームとなってるが、明日で最後だな。また適当な話をするのでよろしく」

 

 

「じゃ」と、教壇から降りて教室を後にする泉ちゃん。相変わらずチャイムがなった時の切り上げの速さは見事である。

 

と言う訳で昼休みとなった訳だが、行き先は決まってる様なものだ。

 

近くの席の白河と有里栖を見る。白河は既に準備完了済みで、有里栖はまだ板書中。

 

 

「芳乃君、書き取り早いよー!?」

 

「指先の訓練も兼ねてるからな、割と得意なんだよ」

 

「真面目だね二人とも。別に写さなくても良いはずなのに」

 

 

白河の言葉に苦笑しながら頷く。確かにそうなんだけどな?

 

 

「いや、泉ちゃんの話は面白くてさ。参考になる所もあるからノートに書くのが癖づいちまって」

 

「私もそんな感じ」

 

「鷺澤は優等生だなって納得出来るけど、芳乃には違和感あるのは何故だろうね? やっぱりゴリラだから?」

 

「誰がゴリラじゃ。満月見て巨大化したり金髪碧眼になって宇宙最強になったろうかコラ」

 

「それ、ゴリラじゃなくて戦闘民族の大猿ですよ?!」

 

「クリ○ンのことかー!で有名だよね」

 

 

某国民的少年バトル漫画のアニメ化で、あまりにも有名なシーンである。少年漫画はああいう覚醒要素がホントに面白い。でも最近は金髪だけじゃなくて赤に青に、仕舞いには銀色にまでなったりしてたが。

 

 

「そっち準備出来てるかー?」

 

「有里栖がまだ書き取り中ー」

 

「あ、大丈夫! もうすぐ、終わ……終わった!」

 

 

一登からの呼び声に返答した所で有里栖もノートの書き取り終了。

 

一登も二乃も準備完了済みだ。

 

 

「それじゃあ移動しましょうか?」

 

「今日も良いかな? 午前中降ってた雨も、いつの間にか上がってるから大丈夫そう」

 

「そうだな。にしても雨が降ると屋上は使えなくなるなぁ……」

 

「こんなに毎日集まるのは今だけでしょうし、クリスマスまで晴れてくれれば助かりますね」

 

「それもそうか」

 

 

そういや今日も逢見先輩がご飯用意してるんだろうか? 常坂兄妹の様子を見ると分からないらしいが。

 

 

「無かったら後で購買か食堂行けばいいですし」

 

「まぁ屋上からなら、跳び下りたらすぐに食堂に行けるか……」

 

 

あい・きゃん・ふらーーい! って感じで。

 

 

「屋上から跳び下りたら普通は死んじゃうんだよ!?」

 

「しかも出来る前提で話してますよこの男!?」

 

「サラッと人外発言するのやめいっ。あとそれが出来るのはこの学校ではお前だけだっ」

 

 

フルボッコでツッコまれる。ツッコミを入れてない二乃もメチャクチャ首を振ってる。当方に味方はいないらしい。

 

なるほど、これが孤独か。多分違う。

 

 

「同士達、時間は限られてる。行くぞ!」

 

「先に行ってるよー」

 

 

教室の入り口で、杉並と叶方が飛び出していた。

 

確かに、ここで駄弁るより屋上に行ったほうがいいな。

 

 

「それじゃあ、俺たちも移動するか」

 

 

一登の一言によりみんなで移動を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「今日は、おにぎりでーす♪」

 

 

そして冬晴れの空の下、ピクニックで使う防水シートを床に広げてから、逢見先輩は笑顔でバスケットの蓋を開ける。

 

そこにあるのは大小様々のおにぎり、で…………っ!?

 

!?!?!!!!?!?!!?!!?!?!

 

 

「おい、灯火? なんか動きが止まってるぞ? 灯火?とーかー?」

 

「____」

 

「ふむ、見ただけで芳乃が思考停止するレベルの絶品か。いや、確かにこれは……!」

 

「てっぺんにちっちゃく具が乗ってて、一目見て分かるのがすごく気遣いを感じます。そして美味しい……」

 

「大感激。しかも判る人は少ないかも知れませんけど、握り方が達人の域ですよ! 相当な数を握って初めて会得できるフワフワ感。それでいて崩れない。

 

この道50年の女将が到達できる領域……いや、それ以上ですよ!?」

 

「___ハッ!? ハァッ、ハァッ……! こ、呼吸止まってた……!!」

 

 

白河の解説が終わると同時に思考が現世に戻る。

 

あっぶねぇ。危うく酸素不足で死ぬ所だった……。

 

 

「あ、戻ってきたね」

 

「ホントに意識が飛んでたんですね……」

 

「脳内で百回くらいシュミレーションしたけど、やはりまだおれには到達できない領域だった……!」

 

「あの一瞬でなにをしてんだお前は」

 

「見ただけでも恐れ慄くし、そして、」

 

 

とりあえず両手を合わせていただきますしてから、手に取ったシャケのおにぎりを一口。咀嚼してから飲み込む。米の旨味を引き出す塩加減といい、具のシャケも米とマッチした焼き加減。

 

感想を述べるなら、涙が出そうなほど美味しい……!

 

 

「味もまた、絶品過ぎる……!!」

 

「いや、そんな泣きそうにならんでも」

 

「一登、おのれは普段食べ慣れて舌が肥えてるかもしれねぇけどな、逢見先輩の料理、おにぎり一つでもホントにスゴいんだぞ……! スゴイんだぞ……!!」

 

「お、おう」

 

「スゴイんだぞ!!!」

 

「3回も言わんでいい」

 

 

くわっ!と目を見開く。大事な事だから2回いや3回言う。

 

貴様ぁ! この絶品料理を毎日食べてると言うのか貴様ぁ!!せめて有り難みを忘れるなよ貴様ァ!!

 

 

「ふふ、褒めても何も出ないよー? はい、こっちの唐揚げもどうぞー♪」

 

 

ぎゃー! まだ絶品が控えてやがったー!! と内心で悲鳴を上げながらも次々に出て来るおかずを迎え撃つ。

 

……どれもこれも、自分で作る奴より遥かに数段上の美味しさなので、もはや防御貫通攻撃を食らってるようなものだが。

 

梅干しすらも自家製だから恐れ入る。叶方がメチャクチャご機嫌に頬張ってるよ。おれも後で食べよっと。

 

 

「と、食べてるだけでお昼休みが終わるのも困るし、今日の放課後の方針だけでも決めとかないとな」

 

「うむ、やることは連日変わらない。同士達には引き続き露払いをやってもらう」

 

「おう、任せとけ。っと、ちょっとリスト確認しておくか」

 

 

と、一登が片手でおにぎりを持ちながら、もう片方の手でTABを取り出してリストの確認に入る。

 

 

「おれはまた運動部の聞き込みやっとくわ」

 

「え、でもなんか一部の武道系から狙われてるんじゃないの?」

 

「来るって分かってるなら幾らでも対処できるって。それより情報アドバンテージがあるなら有効活用しねぇとな」

 

 

そもそものハナシだが、不意打ち程度でおれをどうこう出来ると思わないでほしい。と、梅干しのおにぎりをもっきゅもっきゅと食べながら考える。

 

うん、やっばいなこれ。酸っぱさと塩気が良い感じに食欲をそそってもう一つ食べたくなる。

 

逢見先輩、おかわりー。

 

 

「逆に芳乃君を倒すなら、どうしたらいいのかな?」

 

「? 決まってるじゃねぇか」

 

 

え? と言う有里栖に対し、その手に持ってる逢見先輩製の絶品おにぎりを指差す。

 

 

「絶品料理」

 

「……ものすごく、納得の出来る答えだったね」

 

「イベントアイテムあれば楽なタイプだったかぁ」

 

「逢見先輩がいるだけで攻略が余裕じゃないですか」

 

 

苦笑する有里栖に叶方と白河。まぁ、逢見先輩クラスとなると、後はばあちゃんくらいしか思い付かないので、そんな弱点になるほどでもないと思うが。

 

 

「やっぱり、昨日からまた増えてるんだな」

 

 

TABで依頼リストを見ていた一登が呟く。

 

昼飯前におれも確認したが、白河の活躍もあって依頼者数がまたまた増えてるようだ。

 

 

「クリスマス前の駆け込みは聞いてましたけど、本当にこんなに駆け込みで来るんですね……」

 

 

まぁ、確かに。そんな急ぎ足で大丈夫なのか?とか、もう少し時間かけるもんじゃねぇの?とか思うわな。

 

 

「常坂妹の言いいたいことは判るけど、世の中案外そういうものと言うか、それで良いというか、もっと言うと「それが良い」っていう人たちもいるんだよね」

 

「ずっと秘めてきた想いが今になって……とか、運命的な一目惚れ! とか、そんな風に肯定的に受け止めても良いかも知れないね」

 

「なるほどです、そういう風に言われると少し理解できます」

 

 

ふむ、そういう場合での恋愛発展もあると言う訳か。

 

 

「しかしすごいな。二乃がゴメンナサイした後から見事に二乃案件が激減しているな。というかほぼゼロ。効果てきめんだった訳だな」

 

「フッ、効率よくかつ最大限に情報を流したからな。当然の結果だろう」

 

 

どんな情報の流し方をしたんだよ、おのれ。たった一日、いや昨日の夕方から今日の朝までの間で学校中に浸透するとか普通出来ないぞ?

 

 

「しかし、有里栖やそら姉のも殆ど無いんだなぁ。正直たくさんいるんだと思ってた。あ、変な意味では無いんだけど!」

 

「あー、多分、逢見先輩は常日頃から「彼氏は作らない」って公言してるからじゃね?」

 

「うん、そうだね。あとは、最初から断るように白河さんに頼んであるんだ」

 

「正解。逢見先輩はもちろん人気があるけど、かなりハッキリ恋人を作るつもりがないって言ってるからね」

 

 

なるほどな。それならリストには乗らなくて当然か。乗る前に弾かれてるんだし。

 

 

「鷺澤に関しては牽制の結果かな……?」

 

「例の暗黙協定って奴だな」

 

 

有里栖も白河も頷く。本人の預かり知らぬ所で……主にヤロウ共が決めたであろう抜け駆け禁止の暗黙協定。

 

同じ男子なのに一登がよく知らないのは、一登が最も「今の有里栖」に近い場所にいる男子だからだろう。次点だとおれや杉並や叶方と行った……不本意だが変人組に入る連中なのだが。

 

その結果、妬みで一方的に一登をよく思わない連中も湧いたりしたが、それはおれと杉並で遠ざけてたからな。なお、その中でも柄も質も悪い連中は、杉並の情報網とおれのオハナシで黙らせたりしたのは一登には内緒である。

 

当時、「この二人を組ませたらダメでしょ」と叶方が呆れて言ってたが、さて、どんな意味だったのやら。

 

 

「でもまぁ、暗黙は暗黙でしかないし。何かのキッカケで崩れたりしたら、面倒になるかも知れないね、ふふ」

 

「光栄なことなんだけどね、私も今はそれどころじゃないかな……」

 

「”今は“、か。ふふ、意味深」

 

「わわわ!? そんな深い意味はないからね、ひよりん!? これフリじゃないからね!」

 

「ふふ、どうだろうね? ふふふ」

 

 

わぁ、楽しそー。恋愛請負人、幼馴染にも容赦ねー。

 

思わず餌を見つけて遠くの木に飛ぼうとするムササビを幻視しちまった。

 

 

「そういや白河の依頼ってのも見たことないよな……って、白河目当てだったら、そもそも白河本人に依頼はしないか」

 

 

ふと気付いてすぐに思い直す。そりゃ意中の人に恋愛請負なんかしないわな。それもう告白だし。

 

 

「まぁ、ボクみたいなのに告白する人なんていないんじゃないかな。学園を騒がすトラブルメーカーだし」

 

「そうかぁ? 白河だって有里栖や二乃や逢見先輩にも負けないくらい、かわいいだろ」

 

「んなっ!?」

 

 

正直な感想を口に出すと、なんか白河が見たことのない顔をしていた。オマケに顔がトマトみたいに真っ赤になってる。

 

…………いや、うん、ちょっと待て。

 

暫し考えてから叶方の方へ視線を向ける。叶方は叶方で呆れた視線をコチラに向けていた。

 

 

「…………叶方、ひょっとして今おれは、とてつもなく恥ずかしい言葉を口走ったのか?」

 

「そこで気付ける辺り、灯火はまだ一登よりはマシそうだよねー」

 

「待て、そこでなんで俺に矛先が向くんだよ?」

 

「そういう所だぞ同士達よ……」

 

 

杉並と叶方が揃ってため息を吐く。

 

一登は混乱して、おれは思わず気恥かしさから頬を掻く。

 

 

「あれ、あれー? ひよりん顔真っ赤だよ? 照れちゃったのかなー?」

 

「べ、別に照れてませんから! ……なんですかその顔は!?」

 

「いやー、確かにひよりんもかわいいですなーって。打たれ弱いところが、かわいいですなーって」

 

「さーぎーさーわーッ!!」

 

 

「わー!ひよりんが怒ったー!」と、有里栖の逆襲からの追いかけっこ開始。

 

美少女同士の戯れは、心を穏やかにさせる。

 

 

「平和だなぁ……」

 

「確かにそうだけど、火種になった灯火がそれ言っちゃダメだって」

 

 

やっぱりダメか? ……ダメかぁ。

 

 

「全くもう、油断も隙もありませんよ。このゴリラ、もしや結構タラシなのでは……? タラシゴリラなのでは……?」

 

「ゲフンゲフンッ! とにかく話を戻そうか。まず次にやることだが____」

 

 

わざとらしい咳をした杉並による軌道修正を受けて話を戻していく。一登と二乃だけはなにか別の話をしていた気もするが、途中で合流。

 

昼休みの残り時間いっぱい、役割分担や手順などについて話し合った。

 

 

 

___今日の放課後も忙しくなりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

▼ △ ▼ △ ▼ △

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だはぁー……流石に疲れた……!」

 

 

___その日の夜。とりあえず今日の分の聞き込み調査を終えて、自室のベットに崩れ落ちる。

 

ただの聞き取りだけならあまり堪えないのだが、武道系の部活に限っては嫉妬心に駆られたヤロウ共の襲撃が待っているので、それにいちいち対応してたら流石に体力に自信持っていても疲れた訳である。

 

特に今日は明日の事も考えて、襲撃をしてくると思われる部活全てを回り不満を持ってる奴ら全てをハッ倒していたので、余計に疲れていたりする。

 

それでも少し遅れた分は明日に回すしかないだろう。

 

怪しい武道系の部活は全部を回ったはずなので、明日は普通の聞き取りに専念できるだろう。

 

クリスマスイヴが月曜だった事、土日には基本依頼が入らない事を考えれば、明日が実質的な最終日でもある。

 

気合を入れて臨もう。

 

 

「飯は……ご飯の残りと挽肉あったっけな」

 

 

あとは玉ねぎも。調味料と卵もあったので焼飯でも作るか。

 

にんにくの特製タレにつけたままの鶏肉もあったから、唐揚げもいってみるか。逢見先輩の食べたあとだと改良の余地が幾らでも思い浮かぶが、既に味付けしてるやつを変えるのは危険だよなぁ。味がグチャグチャになりそう。

 

あと多めに作るか。多分、匂いに釣られて叶方と杉並も来るだろうし。

 

と、言う感じで夜の献立を決めたので、部屋着に着替えてからエプロンを装備して調理場まで行く。

 

冷蔵庫から各種材料を取り出して、調理開始、しようとした所で……、

 

 

「ん?」

 

 

ふと、TABから着信音が響く。が、そのTABはベッドの上に置いてある。自室の中だし普通に取りに行けばいいが、今日見た夢の内容を思い出して、丁度いいかとマナを練り始める。

 

 

「……今は誰もいねぇし、ちょっとズルすっかね」

 

 

ボソッと呟き、ポケットに仕舞っていた物を取り出す。

 

真ん丸のガラス玉……いわゆるビー玉と呼ぶそれに、魔力を込め、

 

 

「【取替の悪戯(チェンジリング)】」

 

 

その魔法の名を言霊として呟くと同時、手に持ってたビー玉が消え、代わりにTABが手の上に現れる。

 

師匠に教えてもらった魔法。手に触れた物と予め印を付けた物を文字通り取り替える、妖精の悪戯の再現をする魔法。

 

割と高度な魔法らしく、習得に丸一年くらい掛かってたりもしている。

 

おれの持ち物には普通には見えない位置に、この魔法に対応した印を付けているので、もしTABを無くしてもこれを使えばすぐに手元に持ってこれたりする。

 

最も、あくまで「取り替える」魔法なので、対象と取り替える物が無ければ発動できない不便さもあるが。

 

兎にも角にも、TABの方だ。

 

通話の方で掛けてきてるのは………あれ?

 

 

「もしもし、ばあちゃん?」

 

『あ、やっと出た。久しぶり灯火』

 

 

変わらない温かくも優しい声。通話を掛けてきたのはおれの現保護者にして、元【正義の魔法使い】。

 

 

 

___芳乃 姫乃。 旧姓、葛木 姫乃。

 

 

 

『お役目』として『正義の魔法使い』を全うした一族の、最後の一人。

 

と、言うのは、あくまでばあちゃんやじいちゃんから聞いた話だ。既に葛木の御役目とやらも無くなって久しいらしいし。……この話をすると、何故かばあちゃんとじいちゃんの惚気話に繋がってメチャクチャ長くなるので、あまり聞いては行けなかったりする。

 

 

「久しぶり、ばあちゃん。いきなりどうしたん?」

 

『あら、かわいい孫に電話をかけるのはおかしい? 灯火ってば香々見学園に行ってからは三日月島にあまり帰ってきてないじゃない』

 

 

どこか拗ねたような口調で言ってくるばあちゃんに苦笑してしまう。この人、以外と子供っぽいんだよなぁ。外で見せてる顔と身内に見せる顔が違うというか、今思うとなんか二乃に近い気配を感じるというか。

 

 

「いやぁ、割と学生生活充実してるっつーか、大抵は杉並に色々と巻き込まれたりしてるというか、今も現在進行系で忙しくてさ」

 

『そうなの? それも杉並君の?』

 

「いや、また別のクラスメイトの手伝いだよ。それがまた大変だけどやり甲斐あってさ」

 

 

と、白河の行ってる恋愛請負の事。

 

クリスマスが近いことで普段の7倍近く依頼が集まってる事。

 

一登達などの気のおける悪友や他の知人達とそれを手伝ってる事を伝える。

 

 

『スゴイのね、その白河って女の子。それに前々から聞いてたけど、常坂さん所のお孫さん、優しいのね』

 

「一登もだけど、みんなお人好しだよ。まぁ、そんな感じで今は割とバタバタしてる」

 

『楽しそうでなによりね。……でも、貴方にはやるべき事もあるでしょ? そっちは疎かにしてはいない?』

 

「重々承知してる。今でも魔法の修練も鍛錬も続けてるんだからな」

 

 

ポケットから取り出した追加のビー玉を手のひらで弄びながら応える。

 

【取替の悪戯】も、一応は師匠に語った時に思い描いてた完成形にはなっているので、あとは練度を高めるだけ。

 

 

『……そうね、もう時期も近いんじゃない?』

 

「4〜5ヶ月くらい先から油断出来なくなるな。そこからはバイトもやめて、全日警戒に移る予定だよ」

 

『……本当に、それは来るの?』

 

「来る。間違いない」

 

 

ばあちゃんの疑問に対して、おれは断言する。

 

かつて視た光景、視てしまった今より先の時間。

 

先視の魔法___それが視せたのは、反吐が出るほどのクソッタレな未来。

 

 

「先視で視た未来は、より強固な概念としてカタチになる。まず間違いなくあの日視た未来は、おれの目の前に現れようとする」

 

 

その時に備えるだけ備えた。準備もした。練度も今より高めていくつもりだ。

 

【切り札】も……ぶっつけ本番で使うしかないけど、あるにはある。

 

 

「どのみち、向き合わなきゃならないんだよ。おれが望んでなくても奴は絶対に来る」

 

『そうね、それは兄さんと常坂さんも言ってたわ』

 

「寧ろ、おれよりばあちゃんの方が心配だよ。予定通り、片が付くまではちゃんと安全な所に行っといてくれよ」

 

『……こういう時、力がないのは歯がゆいわね』

 

 

今のばあちゃんにはもう、かつて【正義の魔法使い】として活動していた頃の力はない。

 

長年、葛木の家を支えると同時に蝕んでたらしい「鬼」の力も、じいちゃんがなんとかしたとか。惚気話のついでに聞いたことがある。

 

【正義の魔法使い】の役目も、今は形を変えて他に移ってるしな。……面倒なのが、この問題にそれらを頼れないって所だろうか。

 

 

『……ちゃんと無事に帰ってくる事。兄さんとの約束、忘れてないわね?』

 

「無事に終われるかは保証できない。いつもじいちゃんにそう言ってたけどな」

 

 

沈黙が辺りを支配する。暫く続いたそれは、ばあちゃんのため息により打ち破られる。

 

 

『まったくもう。兄さんと同じでいざって時に頑固な厄介な所が似ちゃったわね』

 

「ありがと、それは最高の褒め言葉だよ」

 

 

『褒めてません』とお叱りを受けるも、ばあちゃんも笑っていた。

 

 

「あ、悪い。今から飯作らなきゃだからもう切るな」

 

『あ、ご飯まだだったの? ごめんなさい、長話になっちゃったわね』

 

「いいよ、暫くまだ三日月島に帰れないしな。たまにはこうやって育ての親とコミュニケーション取らねぇと」

 

『じゃあもう一つ聞きたいんだけど、数日前に学園からひったくり犯2名を叩きのめしたって聞いたんだけど本当? ヤンチャした事についてちょっとお説教が必要な感じ?』

 

「あ、TABの電池がもう切れそうー。すまんー、もう切るなー」

 

 

『あ、コラ待ちなさい灯火っ!』と、なんか言ってきたがもう聞こえてない。

 

ばあちゃんの通話を強制切断してTABをまた【取替の悪戯(チェンジリング)】でベットに戻す。手元に戻ってきたビー玉はポケットに仕舞った。

 

 

「……いや、そりゃ保護者だし連絡行くよな。おのれ泉ちゃん」

 

 

地味にばあちゃんの説教は怖い。そして長い。今から説教を受けたら飯を食いっぱぐれるのは間違いない。

 

なので、この判断は間違いではない。

 

間違いではないが、全部のケリを付けた後でも、三日月島に戻りにくくなったのではなかろうか……?

 

兎にも角にも飯を作るか、そろそろ「おなかすいたー」って感じで叶方がやってきて、杉並もいつの間にか入って来そうだしな。

 

お気に入りの中華鍋に火を通しながら、食事の準備を開始する。

 

おれの使命はともかくとして、まずは実質最終日の明日に備えよう。その為にも飯だ飯。

 




◇芳乃 姫乃
灯火の現在の保護者で料理の師匠。
想い人の義兄と結ばれ、その身に宿っていた力を捨て去る事が出来た。そのため【正義の魔法使い】としての役目は他に譲っている。
今は、灯火の行く末を三日月島から取りあえず灯火が良い人を見付けられるまでは見守るつもりで、魔力で寿命を誤魔化している。
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