D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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やっぱりダ・カーポシリーズって義妹とか義姉とか付き物ですよね……?


PROLOGUE 7

 

 

 

 

『___【取替の悪戯(チェンジリング)】の修得、意外にも早かったな。正直、俺はもっと時間が掛かると踏んでいた』

 

 

『もともと適正があったのもあるだろうけど、同時に灯火がそれだけ本気で取り組んでたって事なんだろうな』

 

 

 

じいちゃんと師匠が、修練に取り組むおれを見ながらそんなことを呟く。

 

 

おれはおれで、手に持っていた特性のビー玉を、これまた特性の印を付けた物と即座に入れ替え、また別の物と即座に入れ替える練習をしていた。

 

 

大事なのはビー玉と取り替える物のイメージをしっかり持つこと。

 

 

取り替えれる物が複数あって、その上であやふやなイメージで発動すると、この魔法は失敗して無駄にマナだけ消費する事にもなるし、最悪の場合は取り替えるべき物がどこかに消えてしまう。

 

 

消えたものが戻ることは基本的にない。この魔法を学ぶ時、師匠から散々注意された。

 

 

だから多少出来る様になったからって油断しない……そもそも、油断なんて出来るような立場ですらないのだから。

 

 

 

『しかし、こんな手品みたいな魔法でどうしようって言うんだ? 確かに面白い魔法ではあるが』

 

 

『なんだ芳乃、なにも聞いてないのか? 聞いてみるといい、俺は面白いと思ったぞ』

 

 

『……お前が面白いって言う時点で、碌な事じゃなさそうなんだよなぁ』

 

 

 

などとじいちゃんが申すので、隠す事なく考えてる事を伝えた。

 

 

伝えたら伝えたで、じいちゃんは頭を抱えた。なんか変な事を言ってしまっただろうか?

 

 

 

『……おい■■、いや常坂。お前、それを聞いて良くGOサイン出したな……!』

 

 

『ガッハッハッ! な、面白いだろぉ?』

 

 

『アホかぁ! よしんば出来たとして、“それ”を何処で用意する気なんだ!?』

 

 

 

あっ。

 

 

なるほど確かに。魔法の修得に必死になりすぎて、そこまでは考えてなかった。

 

 

と、正直に言うとじいちゃんが更に頭を抱えた。

 

 

なんか、ゴメンナサイ。

 

 

 

『おい常坂、この孫は何も考えてないぞ? 大丈夫なのかホントに!?』

 

 

『問題ない。そこは俺が考えておいたさ。と言うわけで出番だぞ保護者』

 

 

『オイコラ、一体どうするって言うんだ? この国じゃ灯火が望む物は手に入らな……おい、まさか』

 

 

『察しがいいなぁ。って訳だ、ちょっと行ってくるぞ』

 

 

 

え、どこに? どこに行くって言うのさ師匠?

 

 

 

『___こいつの求める物の本場、つまりアメリカだ!!』

 

 

 

じいちゃんがまたまた頭を抱え、師匠が楽しそうに笑って、おれはひたすら困惑していた。

 

 

え、アメリカ? マジで???

 

 

え?

 

 

え???

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-PROLOGUE 7-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………じいちゃんゴメン。考えなしで、思いつきで言ってしまって、ほんっっっっっとうにゴメンナサイ……!!」

 

 

朝、目覚めると同時に、今はもういない、穏やかな眠りについたじいちゃんに謝る。

 

おれが香々見学園に転入する少し前、通常では入学式のある頃にじいちゃんは亡くなった。

 

ばあちゃんによれば、十分に長生きはしたらしい。

 

寧ろおれが来てから、本来より長く一緒にいれた。とまで言ってたので、もしかしたら魔法で寿命を誤魔化してたのかもしれない。

 

師匠ほどじゃないけど、じいちゃんもかなり高位の魔法使いらしくて、【手のひらから和菓子を出す魔法】も、どうやら即興で作り出したオリジナルの魔法らしい。

 

寿命を誤魔化す魔法くらい知ってても不思議じゃないだろう。

 

それが少し申し訳なくて、それ以上の感謝もあった。

 

 

「ちと早いが、飯食って修練始めるか」

 

 

心のなかでもう一度じいちゃんにお礼と、やっぱり無茶振りへの謝罪を言って、ベットから降りる。

 

白河の手伝いも、週末の今日が実質的な最終日。

 

いつも言ってる事だが、気合を入れて臨もう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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12/21 金曜日 晴れのち雨の模様。傘は忘れずに。

 

 

朝の修練も終えて早速登校……っと思ったが、少々早く起き過ぎたようだ。

 

今、学校に行っても誰もいないだろう。聞き取りの消化をするのも考えたが、誰もいないんじゃ聞き取り調査もクソもない。

 

二度寝するにも、ここで二度寝すれば寝過ぎて遅刻確定の自信がある。それでは本末転倒だ。

 

となると、どこかで暇を潰すしかない。

 

さて、何処で暇を潰そうかと考えた所で、なんとなく向かった先、

 

 

 

___水鏡湖。

 

 

 

香々見島の少し高い場所からなら必ず見る事が出来る大きな湖。

 

その湖畔にある、浮島のような場所にある一本の大きな桜。

 

浅瀬となっている所から近付けるそこに、おれは来ていた。

 

 

「相変わらず、でっけー桜の樹」

 

 

桜の樹を見上げながら呟く。

 

今は冬なので枯れているが、春になれば満開の桜と、鏡のような湖面が桜を写して、幻想的な風景となる。

 

春になったら一度どころか何回も見に行きたい場所なのだ。

 

確か、キャッチフレーズがあった気がする。『天空に咲く桜』だったか?

 

香々見市の観光名所としても上がってたはずだ。

 

 

「桜が咲いてなくても、何故か偶に見に来たくなるんだよな、ここ」

 

 

少し町の方から離れてる事もあって、ここはとても静かだ。

 

魔法の修練をするのにも、人払いをすればうってつけかも知れない。

 

 

「…………ん?」

 

 

そこでようやく気付いた。

 

大気のマナが揺れ動く感覚。

 

 

 

即ち、マナを魔力に変換し、誰かが魔法を行使した気配。

 

 

 

「…………」

 

 

警戒を強めて、浅瀬を渡って桜の樹から離れる。

 

魔法の種別は……この感じはさっきも言った人払いの類か?

 

魔法使いがこの手の魔法を使う時、決まって一般人に魔法を見られたくない時だ。

 

……嫌な予感がする。

 

予想より早く“その時”が来たのかと考えつつ、浅瀬を渡りきった所で___横合いから、風を切る音が聞こえてきた。

 

 

「!? チッ!」

 

 

前方に跳ぶようにその場から離れる。

 

音の元凶は……小柄な、女の子……?

 

犬耳の意匠を持つパーカーのフードで顔を覆って、デニムショートパンツに、ブーツと言った動きやすそうな服装の小柄な女が、スゴイ勢いで飛び蹴りを放ってきた。

 

……おい、どう見てもマトモに当たったら死ぬ威力だぞあれ?

 

大砲並みの威力のそれに内心で冷や汗を流していると、着地した女がこっちに視線を向ける。犬耳のフードを深く被ってるのでよく分からないが。

 

 

「誰だよ、おのれ。いきなり蹴りかまされるような知り合いは居ないはずなんだが」

 

「…………」

 

 

返答はなく、代わりに構えられる。

 

どうやら問答無用らしい。

 

ため息を吐きながらブレザーとネクタイを取り、鞄と一緒に投げ捨てる。

 

投げ捨てた鞄が地面に着いた瞬間、トンデモナイ早さで相手が突撃してきた。

 

いや、マジで、早……ッ!?

 

 

「くッ!」

 

 

またもギリギリで避ける。

 

明らかに人体の限界を超えた速度と威力の飛び蹴りに対して、相手が身体強化の魔法を使ってると判断して、こちらも魔力を全身と五感に張り巡らせて強化を施す。

 

 

「__やぁっ!!」

 

 

3度目の突撃。裂帛の気合から放たれるそれに対して、流石に3度目ともなれば目も慣れるものだ。

 

 

「(強化状態を保ったまま腕で蹴りを受け止めて、関節技に持ち込んで動きを封じる……!)」

 

 

腕を交差して蹴りを受け止める。強化を施した腕の防御は、しかし予想より呆気なく難なく弾かれてしまう。

 

蹴りを受け止めた両腕は鈍く走る痛みにより麻痺をしていた。

 

 

「弾かれ__ッ?!」

 

 

追撃の回し蹴り。躱すために後ろへ跳び、更なる追撃も後ろ宙返りで避けて下がる。

 

予想より、遥かに重い一撃。肉体強化の度合いは、おれより上のレベルか。

 

……いや、違う。これは、実家で習った体術と同じ、“魔力を放出”して威力を底上げしてる……?!

 

だからだろう。腕がまだ若干痺れてやがるのは。

 

 

「見た目チンチクリンなのに、おれよりゴリラかよ……!」

 

 

白河辺りが見たら言いそうな感想を呟きながら、ポケットに手を伸ばす。ここは手札を切るか。

 

しかし、考えてる間もなく、【取替の悪戯(チェンジリング)】で使う特製のビー玉を取り出そうとした所で、また距離を詰められる。

 

マジか、敵意を感じなかった……?

 

 

「(ヤバっ……!)」

 

 

敵意を全く感じなかったその接近に反応が遅れる。被弾を覚悟しつつ、間に合わないと思いながらも腕を交差させようとして、

 

胸に衝撃が走る。

 

一瞬、拳を打たれたのかと思ったが、様子がおかしい。痛みがないのだ。

 

よく見ると、襲撃者が頭を擦りけている。

 

ぐりぐり、ぐりぐりと。

 

うん、意味が分からないと思うけどホントにその通りなのだ。流れが全く斜め上に変わって心の底から困惑してる。

 

いつの間にか背中に手も回されて抱きしめられており、その上でぐりぐりと頭を擦り付けられている。相変わらず敵意も感じられない。なんか、勢い良く振られる子犬の尻尾も幻視してしまった。

 

その弾みか、襲撃者のフードが外れる。

 

姿を現したのは、自分と同じ髪色をしたショートヘアー。

 

それがぐりぐりと頭を擦りけている。……かつて妹分の後輩がよくしていたどうしょうもなく見覚えのあるその仕草に、脳裏に浮かんだ名前を呟いた。

 

 

「オマエ、もしかして“海央”か……?」

 

 

ピタッと動きが止まる。恐る恐る上げられた顔は、やはりというか、見覚えのある従姉妹で後輩な妹分のもので、

 

 

「……えへ。久しぶり、お兄ちゃん」

 

 

なんて、照れ笑いを浮かべながら懐かしい呼び方をされた。

 

 

 

 

___“咲三 海央(サキミ ミオ)”。それがこの妹分の名前である。

 

 

 

 

かつて先輩後輩として共に先視の魔法の修練をしていた少女が、成長した姿で目の前に現れた事にびっくりしてると、海央は再び頭をぐりぐりと押し付けてきた。

 

昔からよくしてきた海央の癖だ。なんか色々と思い出したぞ懐かしい。

 

……いや、そうじゃなくて!

 

 

「いやいや、なにしてんの、おのれ?! と言うかいきなり襲ってきたのはなんなんだ!?」

 

 

あからさまに生身の人間に放ってはならない威力の飛び蹴りだったんだけど!?

 

 

「いやぁ、お兄ちゃん……トーカ先輩がいるのを見かけたので、あれからどれぐらい強くなったかなぁって試してみたくなりまして」

 

「試しで危うく人殺しになりかけたぞ、おのれはァ!?」

 

 

マトモに当たればミンチより酷い目にあったのは想像に難くないのだが。と言うか、最後に至っては被弾を覚悟したぞ。

 

と言うか、あの蹴り。どこぞで見覚えがあると思ったら、やっぱり咲三式の体術か!?

 

 

「てーか、離れろ馬鹿っ。テメェ、その犬みてぇな癖まだ治ってなかったのかよ!?」

 

「いやですー! 離しませんー! 何も言わずに姿消して咲三の家からも姿消した罰ですー! しばらくあたしのおにいちゃん成分の何年ぶりかの補給に付き合ってくださいー!」

 

「なんだその理解不能な成分は!? って、力強っ!離れねぇ!?」

 

 

絶対に離しません!と言わんばかりに完全に両腕でホールドしながら、頭をぐりぐりと擦り付ける妹分、いや駄後輩。

 

さっき幻視した尻尾と相まって、完全に甘えモード全開の子犬そのものである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

___で、それから海央が落ち着いたのは割と時間が経ってからだった。

 

一頻り、謎の成分補給を済ませた駄後輩はスッキリした表情をしている。逆におれは朝から疲れ切っている。なんでこうなった。ホントにどうしてこうなった。誰か教えてくれ。教えてクレメンス。

 

ぼちぼち学校にも人が登校し出す頃だろうが、こっちはこっちでそれどころじゃなくなってる。

 

 

「で、なんでおのれは香々見島にいるんだよ?」

 

「ちょっとお父さん……当主からの任務です。当主の先視で、ちょっと良くない流れが視えたらしくて、あたしが修行も兼ねて対処に来ました」

 

「……相変わらずって訳か、【防人】は」

 

 

___【防人(サキモリ)】。

 

 

それは、先視の魔法使いを中心に集まった魔法使い専門の治安維持組織。及びそれに属する魔法使い達の総称。

 

先視にて魔法、及び怪異の関わる未来の事件を感知し、場合によっては暴走した魔法使い、怪異そのものの鎮圧・排除をもって、それの解決を志す……要は魔法使い専門の自警組織って奴だ。

 

代々先視の魔法を継承している魔法使いの一族、【咲三家】が当主を務めており、先々代からは『御役目』から解き放たれた葛木より【正義の魔法使い】としての役目も受け継いでいる。

 

 

……そして、その【防人】を纏める【咲三家】は、おれの実家でもある。

 

 

「と言うか、あたし怒ってるんですけど。なんであの人が鎮圧されたあとも戻って来なかったの? 元凶のあの人がいなくなったなら、咲三の家に戻ってきても良かったじゃない」

 

 

腰に手を当てて「あたし怒ってます」アピールをする駄後輩。先程見せた猛攻とは全く似つかわない、海央自身の素の姿に、思わずため息を吐く。

 

 

「……そんな簡単に済む問題じゃねぇんだよ。幾らおれ自身に非がなくても、血縁上の父親はアイツ___咲三の家と【防人】を裏切ったクソヤロウだ。居場所なんてないだろうが」

 

 

【防人】にとっても、咲三の家にとっても許し難い所業を行った男。

 

防ぐはずの災害を寧ろ拡大させようとして先視を悪用した危険人物。

 

師匠から見ても生粋の悪と称された愉快犯。

 

 

 

“咲三 灯真”

 

 

 

ここ最近にも夢に出たクソヤロウにして、かつて咲三の家の当主にもなっていた、おれの血縁上の父親。

 

自身の絶望感により、他者の不幸を望むようになった破綻者。

 

そして___未来の怨敵。

 

一度その企みを阻止されてなお諦めないその精神性から、防人により幽閉措置の取られてる筈の男である。

 

 

「あの男のやったことはそれだけ重罪なんだよ。血が繋がってるだけの息子にも謂れのない責が及ぶくらいにはな」

 

 

___【防人】に於ける咲三の家の役割は、未来視による事前の危険の予知が大きい。

 

良くないモノまで視てしまう可能性がある先視だが、上手く使えば他者の危険をも予知できる。

 

しかし、やろうと思えばその逆、避けようのない死の未来を視て、その未来を固定させるなんて事も出来る。

 

あのクソヤロウがやったのが正にそれだった。

 

幸福そうな人間の未来を、謀略や魔法などで不幸な方向へ向かわせ先視で固定させる。

 

そうして無惨な最期を遂げる人間の下へ趣き、嬲り、嘲笑う。

 

母さんを亡くしてからは、影に隠れてそんな胸糞悪い非道を繰り返していたらしい。

 

おれは勘当されて宛もなく彷徨っていた所を芳乃の家に保護された直後だったため知らなかったが、それが発覚した当初は魔法使いの間では凄まじい大事件となったらしい。

 

その時点で、被害者も相当出ていると聞く。

 

 

「でも、それならあたしだってあの人の親戚だし、お父さんに至ってはあの人の実の弟なんだよ?」

 

「おじさんこと今の当主は率先してクソヤロウを止めた側にして立役者だからな。その直系のおのれも含めて例外なんだよ」

 

 

当然の如く、黙ってる訳も無かった当時の海央の親父さんを中心とした【防人】達の手により、クソヤロウは交戦の末に撃破。捕縛されている。

 

それからは【防人】の管理下で幽閉されてる筈だ。……筈、なんだがな。それに関してはいずれ分かることか。

 

 

「それに加えて、おれは先視の魔法を継承せずに、別のカタチへと変えちまってる。【防人】の望むレベルの先視は二度と使えん」

 

 

それが使えないとなると咲三の人間としては相応しくない。と言う理屈である。前時代的だが、先視の魔法によって立場を確立してる以上は、これは仕方ない事だ。

 

 

「なによりおれ自身、もう咲三の家の敷地を跨ぐ気はない」

 

 

どんな理由があったにしろ、あのクソヤロウの意図があったにせよ、おれを捨てたのは咲三の家なのだ。

 

おじさんと海央には悪いが、心情的にもあの家には関わり合いにはなりたくないし、二度と【咲三灯火】とも名乗りたくない。というのが本音である。

 

そう言うと海央はため息を吐いた。その表情には「やっぱり無理か」と見える。

 

 

「………………はぁ。お父さんに聞いた通りだよ。トーカ先輩は二度と咲三の家には戻ってこないって、言った通りだった」

 

「……海央には正直悪いと思ってるよ。当主の跡継ぎ関連の重責、全部おのれに背負わせちまったもんだし」

 

 

それは本来ならおれが背負うべきものだ。

 

経緯がどうあれ、その責から降りてしまった事で、この後輩に全てを押し付けた事が気掛かりでもあった。

 

しかし海央は首を横に振る。

 

 

「あたしはこれくらい何とも思わないよ。寧ろ芳乃のお祖母様から聞いて憧れてた【正義の魔法使い】にもっと近付けるもん。頑張りがいがあるんです!」

 

「……変わってないな、ホントに」

 

 

「あたし、せいぎのまほうつかいになるんだー!」って常日頃言いながら修練をしていた幼い妹分の姿を思い出す。

 

ホントに成長したもんだ。先視の魔法の修練だってあるだろうに、さっきの襲撃に使ってた身体強化だって凄まじい練度だった。

 

きっとおれが消えてからも魔法の修練を頑張っていたのだろう。夢だった【正義の魔法使い】になるために。

 

 

「どやっ。どやどやぁ」

 

 

そんなおれの心情を察したのか、腰に手を当てて、全くないペチャパイを張り上げて渾身のドヤ顔を決める駄後輩。若干イラッと来たのは気の所為じゃない。

 

 

「……なんか、今とても失礼なこと考えなかった? 具体的にはあたしの胸辺りのことで」

 

 

ドヤ顔から一転して自分の胸に手を当ててジト目。コロコロと表情が変わるのも変わってない。あとついでにいうと背丈は伸びたがそれ以外は変わってない。

 

当然だがペチャパイもである。同じ年代であろう、とある風紀委員長代理とはえらい違いだ。いや、比べるのも流石に酷か、あれは。

 

 

「………………フッ」

 

「……おいこらお兄ちゃん、その目はなんですかその目は。なんですかその哀れむような視線はっ!? 喧嘩売ってますか!? 売ってるんですね! 買いますよその喧嘩ぁ!! どーなんです? なにか言いたいことあるなら聞きますよこらぁっ!」

 

「いや……成長しても貧乳だなと」

 

「身も蓋もなければ鍋まで残らない発言だよねそれ!?」

 

 

ぷんすかぴー!と怒りを顕にする駄後輩。怒りっぽい性格も変わってねぇな。

 

懐かしさが次々に湧いてきてしみじみしてると身体強化した拳を打ってくるのでそれを避ける。

 

本来なら制裁は受けるべきだろうが、死ぬレベルのそれに当たる訳には行かないので避けるしかない。

 

避ける。

 

避ける。

 

避ける。

 

避けてから、また避ける。

 

 

「なんで! 当たら!ないんですかーー!? さっきは、ギリギリだったのに!」

 

 

むきーー!と感情を全開にする駄後輩。その間も飛んでくる拳やら蹴りを避け、いなし、躱し続ける。

 

 

「理由としては3つあるな」

 

 

駄後輩の攻撃を的確に捌きながら、その理由を説明する。

 

 

「1つ、単純におのれの速度に目が慣れた」

 

 

拳や蹴りが出るときの身体の動かし方、さっき戦った分も含めれば駄後輩の次の動きも予測が出来てくる。

 

 

「2つ、動きが直線的過ぎる」

 

 

その身体強化に隠れてはいるものの、動きそのものは真っすぐで直線的なものが多い。フェイントなどもあまり使用しない。性格的な問題だろうが、これだと次の行動予測がより簡単になってくる。

 

 

「最後に3つ、おのれ感情的になり過ぎ」

 

 

個人的にはこれが最大の理由。

 

感情で出す力は爆発的なものがある。それこそ物語の主人公みたいに。想いの力で世界を改編するおれ達魔法使いも例外ではない。

 

でもあまりに感情が大きければ、それは敵意となり殺気となり、相手はそれを察知する事も出来る。それを読み取れば次の予測も可能。

 

想いだけが前へ行きすぎてもダメなのである。

 

 

「以上、3つの要点から、おのれの次の行動予測はより正確となる。なので___」

 

 

海央の拳を掻い潜り、カウンターとして軽めの腹パン。戯れてるようなものなので威力は抑え目。

 

海央は身体強化をかけてるだけあって、ダメージにはならない。けど、初めて食らった反撃に海央が目を丸くする。

 

動きが僅かに止まる。その瞬間にこっちも身体強化の魔法を施して海央の背後へ回る。

 

慌てて振り向いた海央の、その隙だらけなおでこに、構えてたデコピンを一発。

 

ただのデコピンと思うなかれ。身体強化した指から繰り出されるデコピンは威力抜群なのだ。

 

バチィン!という音と共に海央がおでこを抑える。

 

 

「あいたぁ!?」

 

「___この様に、隙を突く事も容易となる。ついでに言えばそこをかれたら脆いという弱点も出て来たな」

 

 

なので、その隙だらけの顔面目掛けて拳を放ち、寸前で止める。流石に女には当てねぇよ。

 

 

「ほい、おれの勝ち」

 

「う、うぅぅぅぅぅ!!? 負けたぁああ!! 貧乳呼ばわりされた挙げ句に負けたぁ!!」

 

 

一本取られた悔しさからか、海央がジタバタ暴れる。

 

あー、そういや昔、組手で負けた時もこんな感じだったなぁ。マジで変わってねぇなコイツ。

 

 

「『魔法の強さは子供のような純粋さから。魔法の精度は分別のある大人の精神力から』」

 

「うぅぅー……なんですそれぇ……?」

 

「おれの師匠の言葉だよ。その両方が合わさって初めて立派な魔法使いになれる……らしい。その点で言えば、おのれはもう少し大人の分別さが足りなかったな」

 

 

身体強化の強さは確かにおれ以上。だが、言ってみればそれだけなのだ。

 

精細に欠ければ動作は雑となり、それが積み重ねれば大きな隙となる。

 

 

「先視の魔法を扱うなら特に注意しとけ。幾ら力が強くて遠い未来が見通せても、精度を損なえば余分なモノまで視てそれを確定させかねない」

 

「あう、なんか、魔法使いとしても負けてる気がするぅ」

 

「咲三の魔法使いでなくなっても、魔法の修練は続けていたからな。……まぁ、師匠が良かったってのもあるが」

 

 

じいちゃんから見ても数段上の大魔法使いだったらしいし、師匠。

 

あの豪快な笑い方が特徴的な体育会系大魔法使いの事を思い出してると、ジタバタしてる海央が立ち上がった。

 

 

「うぅ、本当だったら、トーカ先輩倒して、あたしも成長したんだぞってカッコよく決める所だったのにー!」

 

「成長はしてたよ。でも、おれも成長してたってハナシなだけだ」

 

 

幾ら咲三の人間でなくなっても、あの時から鍛え続けてたのだ。そう簡単に駄後輩に遅れは取る気はない。いや最初は遅れを取ったけど。

 

 

「……でも、手合せでは確かに負けました。けど! 勝負はあたしの勝ちですよ、トーカ先輩!」

 

 

が、海央はなぜか先程とは表情を一転させて不敵な笑みを浮かべる。

 

おい、なんの話だ? 全く話が読めなくて疑問符を浮かべる。

 

そんなおれに対し、海央はとてもとても、それはとても楽しそうな顔で告げる。

 

 

「せーんぱいっ♪ 今、何時何分ですか♪」

 

「……………………………………あっ」

 

 

サッと血の気が引く。

 

おれは今、学生だ。

 

魔法使いだけど、学生だ。

 

慌てて鞄から取り出したTABを確認する。この位置からだと遅刻ギリギリの絶妙な時間になっていた。

 

……テメっ、まさか!?

 

 

「先視を使ってトーカ先輩がここに来るのは視てたので、せっかくなのでドッキリを仕掛けました!」

 

 

どやぁ!とまた無い胸を張る駄後輩。

 

おのれ、それが本当の狙いかァ!?

 

先視まで使って、最初から謀ってやがったなァ?!

 

そうなるとコイツ、おれに実力見せつけた上でこの展開に持ち込む気だったな!? 鬼か悪魔か貴様!? やり口が割とえげつないぞコラ!?

 

慌てて投げ捨ててた上着を着て鞄にネクタイを押し込む。とてもじゃないが付け直してる時間もねぇ!

 

 

「ほらほら、早く行かないと遅刻になっちゃいますよー♪」

 

「愉しそうだなおのれ!!」

 

「愉しいですよそりゃ♪ 先輩、悪戯には結構引っかかってくれるもん♪」

 

 

ああ、思い出したわ。おのれ割としょーもない悪戯をおれやおじさんにも仕掛けてたなァ! 巻き添えで説教食らったのも纏めて思い出したわチクショウっ!?

 

 

「くっそ覚えとけよおのれ!? 次会ったら締めるからな絶対に!」

 

「あたしが覚えてたらねー♪」

 

 

身体強化もかけた上で走り出そうとして……ふと思うところがあって立ち止まり、海央の方へ視線を向ける。

 

一分一秒を争うが、これだけは言っておいた方がいいだろう。

 

 

「どしたんですトーカ先輩?」

 

「いや、次いつ会うか分からんから今言っとくわ。___元気そうで良かったよ。うん、それだけは良かった」

 

 

ぽんっと海央の頭に手を置いて優しく撫でる

 

昔と同じ様に、痛がらない様に、そっと。

 

 

「あっ……」

 

 

途端に悪戯めいた顔から気の抜けた表情になる海央を見て、少し笑いながら手を離す。

 

 

「そんじゃな。風邪引くなよ?」

 

 

別れの挨拶は手短に。

 

前は言えなかった事を、今回はしっかり言っておく。

 

よし、心残りはなくなった。あとは、全力疾走するのみ___!

 

魔力を身体に張り巡らせて身体強化全開で走り出す。

 

せっかく早起きしてたのに遅刻なぞ、してたまるか……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うー、もぉ……それは反則だよお兄ちゃん……」

 

 

真っ赤になった顔を隠すように、お気に入りの犬耳フードを被る。もうここには誰もいないけど、念のため。

 

あんな悪戯を仕掛けて余裕もないのに、こっちの気遣いは忘れないとか反則も良いところだ。そんな所も変わってない。

 

 

「また、会えると良いなぁ。でも、今度会ったら怒られるかなぁ。けど、会いたいなぁ……」

 

 

会ったら会ったで、今度は何の話をしよう?

 

からかいがいのある兄の普段の話でも聞いてみたいかも知れない。

 

……貧乳呼ばわりはいただけなかったが。あたしは成長期なんですこれから成長するんです!

 

期待値はまだあるんです! あるんです!!

 

きっと!!!

 

と、そんなことを考えながらこの場を後にする。

 

手合わせでは負けてしまったけど、気分はすこぶる良い。

 

このあと任務をやらなきゃだけど、それが終わったら非番なので、兄が生活してる島を回るのもいいかもしれない。

 

次はいつ会えるだろうと、まだ視えない未来を想い、歩き出す。

 

 

 

___兄との再開は、思わぬほど早いとも思わずに。

 

 

 

 




◇防人
魔法使いの少ない■■の国において、先視の魔法使いを中心に集まった魔法使い専門の治安維持組織。及びそれに属する魔法使い達の総称。
先視にて魔法の関わる未来の事件や怪異の発生を予知して、それの解決を志す。

1000年近く続く組織でもあり、政治から離れて歴史の裏で暗躍した悪しき魔法使いや怪異達と戦い続けた戦闘集団。
暴走した魔法使いの鎮圧・排除。怪異による異変の解決など、常人には対処できないものを対処するために存在する。

代々咲三家が受け継いでおり、以前は灯火の父親である咲三灯真が当主を努め、灯火は次期当主として研鑽を積む最中だった。
先々代からは、『御役目』から解き放たれた葛木より『正義の魔法使い』としての役目も受け継いでいる。
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