___走る。走る。走る。
ただひたすらに走る。
走って、走って、走り抜ける。
ただひたすら、遅刻などしたくない為に。
「あんの駄後輩がぁぁぁぁあああ!!!!」
身体強化による速力は相当なもので、道行く人がもし見かければ反応出来ないかも知れないくらいの速度が出てる。
魔法は本来なら秘匿されるべきものだが、このときのおれにはそんな殊勝な考えは持ち合わせていない。
大体、久しぶりに会った妹分のせいなので仕方ないのだが。
いや、ホントに、誰にも見つからずに学校まで行けますように。
-PROLOGUE 8-
___絶賛遅刻間際の瀬戸際より。
身体強化を駆使しながら走り続けた事で、校門前に来た頃には余裕を持って歩いて行けるくらいには距離を縮めれただろう。
あまりにも焦ってたので森を抜けてからはパルクールよろしく民家の屋根の上を爆走してしまったが、見つかってないことを祈ろう。
兎にも角にも校門に来た所で、身体強化を解除する。あとはまぁ、普通に間に合うだろう。
「にしても、まさか海央に会うとは思わなかったな」
咲三の家を勘当されてから会うことは一切なかった。あの日見た未来に備えて考える暇も無かっただろうが。
……いや、これは言い訳か。会おうと思えばきっと会えたのだ。
クソヤロウがその罪から当主の座から引き摺り降ろされて、おじさんが当主となった時点で、クソヤロウに同調してた奴らも処されたらしいし。
それでも会いに行かなかったのは……やはり、咲三の家そのものに忌避感や嫌悪感を抱いてたからだろうか。
「……意識を切り替えるか。今から学校だし。せっかくアイツに会えたのに嫌な気持ちになんかなりたくない」
咲三の家は嫌ってても、海央とその親であるおじさんおばさんは別だ。最後までおれの勘当に反対してたからってのもあるが、あの人達はホントにあったかいから。
海央に至っては変わらずに真っ直ぐな好意向けて来るし。それは、有り難くもあるけど。
変わらずにいた事を嬉しく思うべきなのか、成長がないと考えるべきなのか。……後者はねぇな。
「あ、おーい、芳乃ー!」
「……ん?」
ふと、そんな考え事をしながら校舎の入口まで来たところで名前を呼ばれる。左右には人はいない。となると、
「こっちこっち! 上ですよー!」
「白河?」
見上げると校舎の二階の窓から白河が手を振っていた。
アイツ朝から動いてたのか? 諸事情で遅れたとは言え、手伝えなかったのは不味かったか?
と、そんな事を考えていると、白河が窓から身を乗り出し……は? なにやってんのおのれ?
「着地ー! 任せましたー!!」
「……は?」
一瞬、その言葉の意味を理解出来なかったが、意を決した表情の白河が窓から「とうっ」とジャンプして___
いやいや、いやいやいやいやいやいや!!?
「なにやっとんじゃおのれはぁぁァァァアアアア!?」
サッと血が引く。おまっ、マジか!? マジでなにしてんだおのれはァ!?!
慌てて鞄を投げ捨て、身体強化を入れて白河の着地地点まで全力全開で走る。最速で走った事で芝生とか色々と抉れたが気にしてられない。
マントを翻した白河は後ろ向きに落ちて来る。あからさまにキャッチをおれに任せる気らしい。アホなのかアイツ。……アホだったわアイツ。
その落ちてきた白河をしっかり抱えて、衝撃をなんとか腕から全身にそして足から地面へと流す様に相殺する。
いわゆるお姫さま抱っこの体勢。なお、甘酸っぱい雰囲気なんか一切ない。
幾ら白河が軽くても人一人が落ちてくる衝撃はそれなりにある。身体強化しなくても出来るだろうが、してた方が確実だろう。
「よっし、ナイスキャッチ♪」
「ナイスキャッチ♪じゃねぇよバカタレぇ!? おのれはアホなのか?! アホだよな! アホじゃなかったらやらねぇよこのアホーーーッ!?」
うがーー!!と怒涛のアホ4段活用しつつ、ちょっと心臓バクバクさせながらキャッチした白河に怒鳴る。うん、これは怒っていいと思うんだ。
当たり前じゃい。どこの世界にいきなりノーロープバンジーかます奴がいるって言うのか。
……いや数日前におれもやってたわチクショウ。アホはおれもだった。
「いやーちょっと風紀委員に逃げ道抑えられて追い詰められてたんですよ。真下に芳乃がいて助かりました」
それを聞いて上を見上げれば呆然とした表情の風紀委員達が窓から顔を覗かせていた。美嶋さんに至っては顔面蒼白で倒れそうなくらい血の気が引いている。
いや、うん、人がいきなり窓から飛んだらそうなるよな。___とか言うおれも数日前に教室の窓から飛び出したが、おれは例外扱いで。いやダメか。ダメだよなぁ……。
「白河、おのれ……ホントに、ホンッットにその内、大怪我するぞ……? つか、おれが間に合わなかったらどうするつもりだったんだよ」
「芳乃なら間違いなくキャッチするって分かってたので、大丈夫ですよ。って、ん?」
そんな信頼はいらん。と、考えてると、ふと、お姫様抱っこ状態の白河が、鼻を俺の胸元に近づかせる。その際に白河自身のふわっとした女の子らしい匂いが鼻孔をくすぐって思わずドキッとする。
……おい、今度は何だ? 何をする気だ? てか匂いを嗅ぐな。
そんなことを考えてると、白河は「ほほう?」となんか不穏な表情を浮かべる。おいコラ、待てコラ。一体何を思いついた貴様?
「いやぁ、芳乃も隅に置けませんねぇ。こんな朝っぱらから女の子と逢瀬してたとは」
「は?」
いきなりの発言に思わず目を丸くする。
なんだ、なんでそう思った? と考えた所でふと気づく。
そういや、再会したあの駄後輩。なんか謎の成分補給とかで頭をぐりぐりしてたなと。
そりゃあんだけぐりぐりと頭を擦りつけて来たら、匂いも移るわなと。
「芳乃は誰とも縁なさそうだと思ったのですが、まさか既にくっついていた側だとは……このボクの目を以てしても見抜けなかったですよ!」
「なんか勘違いしてるところ悪いけど、違うからな?」
「またまたー♪ こんだけ女の子の匂い付けといて何もないとかないでしょう? あ、風紀委員達が来たのでボクまた逃げますね!それじゃまたあとで!」
「だから違うって、オイ待てコラ、せめてその勘違いだけは正せ! おい!?」
なんか盛大に勘違いされてる?! ああもう! これ説明にメンドイ奴だ!?
説明しようにも白河は既に風のように走って立ち去っており、弁明も何も出来なくなっている。
「あー、もう、後でなんとかするしかねぇな。でもどうやって説明すりゃいいんだ……?」
地味にメンドイんだよ実家との関係とか説明すんの。
いいや、なんかもうなるようになれ。という心境になった所で風紀委員達がやってくる。中に顔を真っ青にさせた美嶋さんもいる。
「はぁっ、はぁっ、あの! 芳乃先輩! ひよりちゃんは!?」
「逃げてったよ。アイツ、マジで元気だわ。あ、怪我はさせてねぇから安心してくれ。しっかりキャッチしたから」
そう言うとようやく安心したのか、大きく息を吐いて呼吸を整え始めた。いやホントにお疲れ様である。
「はぁ……良かったぁ。ひよりちゃんが、いきなり窓から飛び出した時は心臓止まるかと思いましたよぉ……」
「あー……なんか悪かったな。せっかく追い詰めてたんだろ?」
あんな真似するならいっそ一回捕まるべきでは? と思わないでもない。いや、おれが言うとホントに説得力ないんだが。なんなら屋上からでも飛び降りるし、おれ。
「先輩がいなかったら、もっと危ないルートにしてたかもですし。いてくれて逆に助かったというか……どう表現したらいいんでしょうか、この感情……?」
「おーけー、複雑で反応に困ったのはよく分かった。というかアレ以上の危ないルートは流石に予想つかん」
……白河、アイツ、普段どんな逃げ方してんだ?
杉並が使うような独自ルート……ていうか隠し通路みたいなのは使ってないみたいだし、純粋にあり得ない逃げ方してるんだろうか……やっぱ一回捕まった方がいいのでは? 悔い改めるべきでは?
「って、そろそろ予鈴鳴っちゃいますね。教室に戻らないと」
「やっべ。そういや時間ギリギリだったか」
今から走れば間に合うくらいか。投げ捨てた鞄の汚れを払ってから肩に担ぐ。
「そんじゃ。アイツを手伝ってる側だからアレだが、無理しないようにな」
「あ、は、はい。芳乃先輩も気をつけてくださいね? 皆さんも一度教室に戻ってください」
軽く手を上げてからその場を後にする。美嶋さんは他の風紀委員に指示してから教室に行くようだ。
風紀委員長代理も楽じゃねぇな。今度会ったら何か奢ってやるか。お疲れ様的な意味で。
とりあえず足早に昇降口を登って教室へと向かう。
朝だけで濃厚な時間だった気もするが。兎にも角にも今日もがんばろう。
あと、白河、おのれは後で正座だ、正座。
▼ △ ▼ △ ▼ △
12/21 金曜日 お昼休み前の泉ちゃんの雑談講義にて。
「___まだ今学期は終わってないし、三学期もある。そして君達は大半が本校へ進学し、また三年間を過ごす。
まだまだ一緒だが、しかし一日の貴重さは今後の人生において増すばかりだろう。今はそれがまだ判らないかも知れないが時は戻らない。充実した学園生活を送ってくれ、以上だ」
「うむ、完璧な時間配分」と、予鈴がなると同時に終了する泉ちゃんの雑談講義。
聞き取りからの板書は完璧。今日は日本の妖怪の概念の説明から始まって、今学ぶことは最先端から少し前だと言う話。
一見して繋がりそうに無い話を繋げてくるのは泉ちゃんの授業の面白い所でもある。
そんなこんなで昼休み。教室の内外が喧騒に包まれる中、一登の机に集まるのはいつもの面子。
「それじゃあ、昼休みもなるべく有効活用して頑張ろっか!」
音頭を取るのは我らがアイドル、有里栖。
拳を小さく掲げてやる気十分だ。
「ええ、時間は無駄には出来ませんね」
「正解。いったん屋上に集まって、それから昼休み中にできることをして、後は放課後に頑張れると良いかな」
「なぁに、俺の試算ならなんとか間に合うと出ている」
「予想外のトラブルもあるかもだから、なんかあったら連絡して共有な」
「りょーかいー」
「よし、行こう」
一登の合図と共に全員が動き出す。
___そうして最後の仕上げが始まった。
昼休みは逢見先輩の気配りにより、全員に一口サイズのサンドイッチが入った手提げ箱が手渡された。
動きながらもしっかり食べれる工夫を考える辺り、流石は逢見先輩である。味ももちろん絶品。隙が全くない。
お陰で昼休みはその一口サンドイッチを合間に食べる事が出来たので効率が大分良かったと思われる。
と言っても昼休みは短い。
一登がボヤいてたが、本番は放課後からである。
授業終了と同士に各自がそれぞれ動き出す。昨日のうちに襲撃してくる奴らを全て片付けたのでスムーズに行けるのがありがたい。
昨日までの内に意向が確認済みで、カップル成立を望んでる二人には白河が御約束の特製銃でバーンっとやるらしい。……そういや、白河のそれ、直接見たことないんだよな。
で、NGの所には、残りのおれ達がそれぞれ手分けしてそれを伝えていく。
目的がクリスマスへ向けて___って奴が基本なので、流石に今日のタイミングともなると直接断られたい云々という奴は少ない様だ。
仮にそう言って来ても、先方の方も時間がなく、どうしてもと言うならクリスマス後になる。お断りがスムーズに進んでるのはこういう事情があるからだそうだ。
アオハルを望む彼ら彼女らには申し訳ないが、手間暇省けるという点でコチラ側としては幸運と言えよう。
なお、白河は「自分なら纏めようと思えばなんとかなるけど、それもね」との事。場数を踏んだ恋愛請負人は言う事が違うらしい。
で、各々が走り回って、走り回って、走り抜けて、予想よりも早く、冬らしい早い日暮れを迎えるか否かのタイミングで、ようやくリストの全ての依頼を消化することが出来たのであった。
「圧倒的感謝!!みんな、本当にありがとうー! 正直、助かりまくりました!最初は全部一人でやろうと思ってたけど、とても無理でした」
いつもの屋上にて、全てをやり終えて疲弊しながらもやりきった表情(杉並以外)のみんなに、白河が心からの感謝を述べる。
「あのタイミングで最初にヘルプの提案をしてくれた芳乃と、実際に申し出てくれた鷺澤と、それに乗って手助けしてくれたみんなに、改めて圧倒的感謝です!!」
「大変だったけど、とっても楽しかった! やり甲斐がとってもあって、ひよりんが普段がんばってる理由が少し判った気がしたよ」
「うんうん! もう、わたしもこんなにたくさんの甘酸っぱい表情を見た一週間は、生まれて初めてのことだったよー!とってもすごかった!」
「そら姉と同じです。なんというか、この季節になって急に……と、最初は思っていましたが、こういうの……そうですね、機会というかチャンスというか、クリスマスって特別な日に背中を押されることもあるんだなって」
女性陣による感想。基本的に恋愛話が好きなだけあってか、充実した日々を過ごせたらしい。
「然り! 常坂妹の言う通り、こういう日だからこそ、というのは大きい! 皆、つい隙が生まれ様々な情報収集に役立つというもの。おかげで校内の情報精度をかなり上げることが出来た」
「おのれだけ趣旨が別のに変わってんだよッ!?」
スパァン!と、取り出したハリセンで頭を叩きツッコミを入れる。いや、コイツ(杉並)らしいっちゃらしいんだけどな?
「二乃ちゃんが言ってるのはそういう事じゃないと思う。絶対に。まぁ、それはそれとしてオレもすごく楽しかったよ! 杉並の手並はやっぱり参考になるしね。色んな事に応用が効くし、そこは流石だと褒めておくよ」
「はっはっはっ! 当然だな!」
「ひとつ残念なのは、ここにいるみんなが独り身ってことかな? 他の人のために頑張って充分充実してはいたけどさ」
「それは言わない御約束、って奴じゃないか」
「あはは、そうだねー」
そこで白河の目がキラーンと光った。……様な気がした。人体はそもそも光らんので、多分、比喩的な意味で。
「ふっふっふっ、叶方と常坂兄、そこはちょっと訂正。実はこの中に一人、裏切り者がいるんですよ……!」
白河の勿体つけたその言葉にザワッと空気が変わる。
一登と叶方がマジかよ!?って顔をする。
杉並が「ほう」と興味深そうに息を吐く。
女子組が降って湧いた新たな恋愛話にキャーキャー騒ぎ出す。
……おれ? 真顔でTABを見ながらリストの再チェック中。あ、チェックしてないの発見。でもこれ確か有里栖が請け負ってた奴じゃね?後で一応確認するか。
「というわけで芳乃! さぁキリキリ吐くんですよ! 今朝何をしてたのか!事細かく!どんな子と逢瀬してたのかを吐くんですよぉ!」
「まずは弁護士を呼べ」
白河の要望にジト目で返しながら、さてどうやってこれ説明したもんかと頭を悩ます。
いや、まぁ、そのままぶっちゃけようか。
「もうメンドイから最初に答えをぶっちゃけるぞ。朝に会ってたのは妹……いや正確には従姉妹なんだが」
「つまり従姉妹との禁断の愛!?」
「灯火さん!その話ちょっとくわしく!」
「ちょっと恋愛脳から離れてくれ、話が拗れる。あと二乃も落ち着け。いやホントに落ち着けテメェら」
溜息を吐きながら埒が明かないので仕方なく、今朝の出来事を、魔法使いの事を隠しながらみんなに説明する。
ある諸事情で子供の時に生家から追い出されたこと。
そのせいで十年近く会ってなかった妹のような従姉妹がいること。
今朝、早起きの暇潰しに水鏡湖に行ったら偶然、その妹分と出会ったこと。
元々人懐っこくて子犬っぽい性格だったのでメチャクチャ抱きつかれたこと。
とりあえず話せる分には全部話しておいた。
今まで家の事情とか話した事もなかったので、当然、皆は初めて知るわけで。一様に驚いたりされる。
「あー……ごめん芳乃。ちょっとデリカシーなかったですね、これは」
ようやく頭が冷えたのか、自分の発言に問題があったと思ったらしい白河が謝罪に入る。
「謝るほどじゃねぇって。こっちの事情なんて今の今まで喋った事ねぇし判る訳がない。激務の終わりでハイになってたってのもあるだろうしな。 ……まぁ、そういう訳だから女性陣の期待してるような甘酸っぱい展開はないんだよ」
「いえ、そうでもないですよ。たまたま行った水鏡湖で何年も会ってなかった昔馴染みの女の子に出会うなんて……ねぇ?」
「それはそれでロマンチックよねー♪ その子、ホントに芳乃くんに会えて嬉しかったんじゃないかなあ?」
二乃と逢見先輩がまた盛り上がってる。
……残念。たまたまじゃなくて実は先視で先回りされてただけなんだ。しかもおれが遅刻するよう時間を稼いで仕向けた上で。オマケにファーストコンタクトは人体がミンチになりかねない威力の飛び蹴りである。ややこしくなるから絶対に言わんが。
「海央のことはともかく、あの家の事なんてもう話したくねぇし、この話はここまで。で、辛気臭い空気をぶった斬る為にも無理矢理話を戻させて貰う」
そこで言葉を止めてから、改めてこの一週間について思いを馳せる。
「なんだかんだで大変だった。武道系の奴らハッ倒す羽目になったしな。でも、それを差し置いても毎日がすごく楽しかった。
切欠は白河が疲弊してるのをなんとかしたいって感じだったけど、白河の活動もそうだが逢見先輩の料理の腕を改めて知れたりしたし、みんなと一緒に何かをするって経験も出来たし、おれには縁のなさそう恋愛についても多少は趣旨を深めることが出来た。
___おれの人生の中でも、この一週間が得難い時間になったのは間違いない。そういう機会をくれた白河には、寧ろこっちから感謝してるよ。だから、ありがとな」
そう最後に白河への御礼を言うと、なんか顔真っ赤にして視線を泳がし始める。前々から思ってたが、白河って攻められると弱い方か……?
まぁそれは置いといて、最後に残ってた真打ちこと一登に視線を移す。一登は頷いてから自身も今回の活動について語りだした。
「俺もみんなと同じで、大変だったけど楽しかった。面白いことに加担させてくれた白河や有里栖、切欠を作った灯火には感謝したい。
別に日々に退屈してた訳じゃなくてさ、今回の心地いい忙しさや、みんなと一緒に一つのことを頑張れたのは付属でのいい思い出になったと思う
少しずつ関わりのある面子だけど、こんなに近づいたのは初めてだし、みんなと仲良くなれてすごく嬉しいよ。
ただ、やっぱり最後は大急ぎで手分けして事に当たったから、自分の担当してない所がどうなったか判らなかったのが残念かな。リスト見れば概要は判るけどさ」
「あー、そのリストなんだが。有里栖、おのれが担当してた依頼、チェックがしてないが記載忘れかこれ?」
「え? ……あっ!」
慌ててリストを見直す有里栖。しかし、やはりただの記入忘れだったようだ。
「ごめんなさい、うっかりしてたみたい」
「ふむ、この際だ。念の為に全員でリストのダブルチェックをしておくか」
「賛成。万が一見落としがあるといけないからね」
という訳で全員で急遽見落としがないかの再チェックを開始する。とはいえこの人数でやればそれはすぐに終わるものだ。
今度こそ、完全に全てを終えてから、皆で安堵の溜息を吐く。
「さて、これで今度こそ憂いはないな? そこで提案なのだが、先ほど同士・常坂が言っていた様に気になっていたあの件はどうなったのか? きっと知りたいことがあると思う」
そういや空手部の部長殿の件どうなっただろうか。ベストマッチだったから白河が張り切ってた筈だが。
「そこでだ! この後反省会を行おうと思っている! 各々、時間は大丈夫か?」
「反省会かー、面白そうじゃん。オレは大丈夫」
「大賛成。もちろん参加。鷺澤は大丈夫? キミが一番心配なところだけど」
「うーん、そうだね……うん、大丈夫かな。週末だしね。問題ないかな」
「私たちも大丈夫……ですよね、そら姉?」
「うんうん! 聞きたい話がいっぱい、いっぱいあったんだぁ! 良かったぁ、これでモヤモヤしなくて済むよー!」
「そら姉、目が輝いてるよ……。灯火ももちろん参加だろ?」
「ああ、確かに色々と気になってたからな」
となると、全員参加だな。まぁ、そりゃそうか。皆、気になってる話あるだろうし。
「で、どこでやるんだよ、反省会。学校はそろそろ閉まる時間だぜ?」
「ついでに言うと天気は雨予報だったな」
「くくく、安心しろ同士達。こんな事もあろうかと既に手は打ってあるのだよ」
「……おのれの事だから、先に店かなんか用意してこの提案したんじゃねぇか?」
「フッ、流石に察しがいいな芳乃、その通りだ!月見団子で既に予約を取っている!」
「用意がいいじゃねぇか……」
「杉並だしなぁ」
杉並が提案なんかする時は、既に二つ三つ何か備えてそうだからな。
「空模様も大分怪しいし、予約の時間が大丈夫ならもう移動しようか?」
「その方が良いですね。今、雨粒を感じましたし」
「あら、ほんとね……。うん、これは早く移動した方が良さそうだね」
という訳で、雨が本格的に降る前に移動を開始する。
空を見上げれば、いつの間にか夕日も覆い隠され厚い雲に覆われてる。時折頬に感じる冷たい感触は、二乃の言う通り間違いなく雨粒だ。
雨から逃げるように屋上を降り、校門を出て、目指すは商店街の月見団子。
月見団子と言えばねこ。ねこと言えば月見団子である。
ねこは癒やしだ。いやホントに。
▼ △ ▼ △ ▼ △
___さて、結論から言えば、雨足が強くなる前に月見団子に辿り着けた。辿り着いた訳だが、
「にゃー、みんなほんとにかわゆいねー。人慣れしてるっていうか、わ、くすぐったい。顔を舐めるのはやめてにゃー。 幸せな気持ちだけどくすぐったいにゃー」
「…………おいおい」
中に入ったら、なんか見覚えのある犬耳パーカーの少女がねこと戯れていた。さながら子犬と仔ねこが戯れてる感じだろうか。
というかその戯れてる奴は海央だった。またいつ会えるか判らないはずだった妹分と数時間ぶりの再会である。
いや早すぎるわ。
「……なんかあの子、香々見島では見かけないような?」
「……というか、灯火さんと同じ髪色ですよね?」
「あれ、あれあれ、もしかして、もしかして……?」
後ろにいた友人各位の視線が突き刺さる。おれは思わず天を仰いだ。偶然か? それとも先視でまた先回りされたのか?
どのみち、この状況でアイツを無視する訳にも行くまい。観念して、ねこと絶賛戯れている駄後輩に近づく。
「……オイコラ駄後輩、ここで何してやがる」
「にゃー♪……って、あれ? お兄ちゃん!?」
ねこを驚かせない様にしながらも、おれに驚く海央。
ふむ、この様子だと先視で先回りした訳じゃないらしい。と、なると偶然か。
「……おのれ、防人の任務があるって言ってたじゃねぇか? それもう大丈夫なのかよ?」
みんなに聞こえない程度の声色で尋ねる。すると海央は「にへー」と気の抜けた笑顔を浮かべる。おい、気を抜き過ぎだろ。
「そっちは昼までに終わらせたよ。後始末も問題なし! なのでちょっとお兄ちゃんのいる島を観光して、ここに辿り着いたのです」
思ったより任務はしっかりしてるらしい。そういう所はちゃんと成長してるのか。なにか感慨深いな。
「それで、お兄ちゃんはどうしてここに?」
「ダチと反省会っていう名目で打ち上げに来たんだよ。店に入ったらおのれがいてビックリしたぞ」
「わわ、そうなんだ。……お兄ちゃん、ちゃんと友達できてたんだねぇ」
「ケンカ売ってんだなテメェコノヤロウ」
失礼な。いくらおれでも友達くらい……っと思ったが、一登達以外とあまりこんな気安い関係は築けん気もするな。
そもそも学園に来た当初は、あまり人と関わる気なかったし。
「あー、灯火ー? その子ってやっぱり……?」
と、流石に一登達を待たせ過ぎたか。もう妹分がいるって話したし、ついでだから紹介しとくか。
「悪いみんな、紹介しとくわ。コイツがさっき屋上で話した従姉妹で妹分な後輩だ」
「あ、えーと、お兄……トーカ先輩の従姉妹兼妹をやらせてもらってます、咲三海央って言います! 兄がいつもお世話になってます! 気軽に海央って呼んでください!」
犬耳パーカーを揺らしてペコっと御辞儀をする海央。すると女性陣がなにか後ろの方で集まって、
「……なんですかあれ! 想像してたより遥かにかわいい女の子が出てきたんですけど!?」
「驚愕。芳乃の妹ってイメージだったから、てっきり似たような感じかと思ったら全然違いましたね。ゴリラの血筋とはとても思えない……!」
「小柄だけど、シュッとしてスタイル良くて、お人形さんみたいな感じだよね」
「素直そうでかわいいよねー。なんか甘やかしたくなるよー」
なんか好き放題言われてんな……あとゴリラって言った白河、おのれ後で校舎裏な?
そんなことを考えてると海央がおれの服を引っ張ってから、背伸びしつつおれの耳に顔を近づけて来た。
「……ちょっとお兄ちゃん、友好関係どうなってるの? 全員美男美女だよね?! どんな後ろめたい手段使って仲良くなったの?」
「人聞きの悪い言い方すんなアホっ。……ドの付くお人好しだからな、みんな。気がついたらペース掴まれて騒動に巻き込まれたりして、いつの間にか仲良くなってな」
「そうなんだ。……ってことはこっちに来てからのお兄ちゃんの事を全部知ってる感じ?」
「フッ、そうだな。学園内での芳乃の事なら事細かに把握させてもらっている」
「「うわぁ!?」」
いつの間にか背後に接近してた杉並に揃って驚く。やっべ、気い抜けてた。
「おのれは忍者か!? なんで目の前にいたのに、いつの間にか後ろに回り込んでやがるんだよ!?」
「う、うそ……、全く気配感じなかったんだけど!? あれっ、あれー?!」
「はーはっはっは!兄妹揃って油断したな!所で芳乃、どうせならその妹君も巻き込まないか?」
「賛成!せっかくだし一緒にぱーっとしません? お兄さんの話も聞きたいでしょキミも」
「え、いいんですか!?」
ぱぁっと笑顔を咲かせる海央。
「おいおい、良いのかよ? 今回の件は完全部外者だぞコイツ」
「いいじゃんいいじゃん。灯火だってこのまま妹さんハブくのは不本意だろ?」
「そりゃそうだが……」
叶方の言葉に反論に詰まる。確かにもう目ぇ輝かせてワクワクしてるコイツをそのままハブるのは可哀想な気もする。
……仕方ない。一応魔法使いとしての情報はバラさないように気をつけておくか。気が緩んでうっかり口に出さない様にしとかないと。
「じゃあ、お邪魔します!」
ぱぁっと笑顔を咲かせてコチラの輪に入ってくる駄後輩。
やはりどこかワンコらしくて、尻尾をメチャクチャ振ってる幻視をしてしまう。他の皆もそう見えるのか、なんかほんわかした雰囲気になってる。
で、そのまま海央を加えた全員で座敷席につく。
「早速なんですけど、これってどんな集まりですか? ノリと勢いで参加したので概要をよく分かってなくて……」
「あー、そこにいる白河……ムササビみたいな改造マントでツインテールの奴な? アイツのしてる活動をここにいる全員で手伝ってたんだよ」
「ふっふっふっ、その通り! ボクは香々見学園の恋愛請負人、白河ひより!」
と、おれが振ると白河がマントをはためかせてビシッとポーズを決める。右の人差し指で自身の脳天を指し、左の人差し指を天に掲げるという、ちょっと謎のポーズだ。
「要は恋愛相談を請け負って、相性が良い人をくっつかせてるんだよ白河は。なんと、成功率100%」
「わわ、すごいです! 白河さんって恋のキューピッドなんですね!」
曇りなき称賛。素直な性格から出る称賛は下手に言葉を積み重ねるよりも心に響くもので、流石の白河も少し照れてる様だ。
と、丁度定員さん……看板娘の梓さんがやって来たので注文をしようとした所で、
「いらっしゃいませ、ご注文のファーストドリンクになります」
そう言って梓さんがトレーに載せた各ドリンクを配膳していく。
ほうじ茶、烏龍茶、ホットレモネード、冷たい飲み物も含めて、だ。
杉並の方を見てみると奴も驚いていた。となると、杉並ではない?
「あ、ボクが頼んでおいたやつなので」
え? と、全員で白河の方を向く。よくわかってないのは海央くらいだ。だってここを予約してたのは杉並だろ? その杉並が知らなくて白河が既に注文してるのはおかしい。ここに来るまでにもそんな仕草はなかった。
……いやまて、もし白河が杉並と同じことを考えていたら?
「……後か先か、そのうえで杉並の考えにも気付けば、利用出来る、か」
「っ、そういうことか白河嬢!」
「お、芳乃と杉並は気付きましたか。流石ですね」
おれが言葉にすると杉並も気付いたようだ。他の皆はまだ気付かず、海央は頭の上にクエスチョンマークを浮かべてる。
「どういうことだ?」
「白河も杉並と同じ事を考えてたって事だよ」
「大正解! なにせボクがみんなに助けてもらったからね。慰安会、お疲れ様会、打ち上げ……とにかくそういったものをボクもやりたいと思ってね。それにぴったりな月見団子に予約を入れようと思ったんだ
でもそこでふと気付いてね。杉並も同じ事を考えてそうだなって、だから予約の電話で確認をしてみたら案の定って訳でね。なのでボクはそれを利用して事前にオーダーを仕込んだってわけ」
「恐らく、杉並も確認はしただろうが、順序が逆だったので知らないまま利用された。ってとこだろうな」
「同士・芳乃の言う通りだ。流石は白河嬢、出し抜いたつもりだったが、スリップストリームをかまされた気分だ。いや、さすがアッパレだ!」
運もあったが杉並を逆に出し抜くとはやるな白河。結構な快挙だと思う。
「それじゃ、お茶とジュースで乾杯しようか!せーのっ」
『かんぱーい!!』
一口飲んで、一息つく。
その後、白河が頼んだオードブルも到着したので、各々が思い思いの料理に手を伸ばしていく。
おれもそれに舌鼓を打つが、次第に集まってきたねこ達により身動きが取れなくなって来た。
「ねぇねぇ、もうそろそろみんなの今日の様子を聞きたいんだけど、どうなったの? 特にあの二年生の女の子! 前はハッキリしない感じだったのにリストには○になってたし。すごく気になってるんだけどー」
「あ、それ私と白河さんとでクリアした案件ですかね。……結局は脈はあったんですけど、それを見抜けた白河さんに驚きまして」
「ふふ。『見つけよう 恋の天狼 君の為』なんてね」
「天狼(シリウス)! そう言えば最近あまり空を見てなかったなぁ。ひよりんのシリウスはどこで輝いてるんだろうね」
「ぼ、ボクは水先案内人なので、星を見付ける役目なんだ。ボクのための星は必要ないね」
「そう? 案外近くで輝いてるかも知れないよ? 例えば___ってうわぁ!? 芳乃くんが猫で埋もれてるぅ!?」
「タスケテ」
身動き出来ない状況から更に悪化してねこの山と化したおれに気付いた有里栖がびっくりしてる。なお、目もなんか肉球で防がれて見えない状況だ。
幸せいっぱいだが、流石にあまりによろしくない状況なので、素直に助けを呼ぶ。
「キミ、ここに来るたびにそうなるんですかね!? というかホントにどうなってるんですその体質!」
「昔っから変わってないなぁ。小さい頃から野良猫にも好かれてたんですよ、トーカ先輩って」
「なんて羨ましい体質……! って、海央さん、言ってないで助けて上げた方が良いです! ほら、なんかもう名状し難いナニカになりかけてますから! 兄さんと叶方さんも笑ってないで!?」
「いや、無理……!」
「あははっ!前世でどんな徳を積んだらそんな猫にメチャクチャ好かれるんだよ灯火!」
そんなこんなで、ねこにまみれたり、白河が恋愛請負のコツを企業秘密で結局教えなかったり、各それぞれが請け負った依頼のアオハルっぷりを語り合ったりした。
海央も海央で、おれ達の活動を興味深そうに、そして楽しそうに聞いており、中々楽しい打ち上げとなったのであった。
◇咲三家
1000年近く続く魔法使いの一族。
【先視の魔法】により未来の危機を察知して魔法使い達を助けて来て、独自に治安組織を作った。
ある魔法使いの分家から派生し、離れた位置でその本家の魔法使い達をも守っていた守護者。
【先視の魔法】と言う危険な魔法を扱うことからか、代々咲三の魔法使い達は魔力やマナのコントロールに長ける傾向にある。