D.C.4 〜ダ・カーポ4〜 先視の魔法使い   作:トウリ

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戦闘描写、入ります。


PROLOGUE 9

 

 

 

___今日のあたしは機嫌がいい。

 

 

 

ずっと、ずっとずっと会いたかった、兄と慕う人に昨日やっと会えたのだから。

 

 

離れる前から変わってない兄の優しさに触れたこと。ずっと変わってないそれが、あたしにはとても嬉しかった。

 

 

それでいて、素敵な友達がいっぱい出来てたことも心からうれしい。優しくて、面白くて、あったかくて、少ない時間でも大好きになれた人達だった。

 

 

だから、今日のあたしは機嫌がいい。

 

 

……例え、目の前に、魔法を悪用する外道がいたとしても。

 

 

 

「な、なんなんだよ、このガキ……!?」

 

 

 

昨日片付けた人同様に、香々見市に入って碌でもないことを企んでたその外道に対して、あたしは手短に要件を伝える。

 

 

 

「単刀直入に言うと、あなたをブッ飛ばしに来ました【防人】です」

 

 

 

ほんと、今日のあたしは機嫌がいい。

 

 

外道相手に、わざわざ返答するなんて、機嫌が良くなければやらないもの。

 

 

いつもなら問答無用にブッ飛ばしてる。

 

 

魔法を悪用する様な人達には、容赦はしないと決めてるから。

 

 

 

「こんなガキが、【防人】だと……!?」

 

 

「ああ、御託とか、言い訳とか、理念とか、信念とか、そんなの喋らなくていいです。証拠とかも全部抑えてあるので。あなたはさっさと寝ててください」

 

 

 

相手の事情など聞く理由はない。この時点で既に動機なんかも判明してるからだ。

 

 

ましてや兄やその友達がいるのだ、この島は。ふざけた真似なんて、絶対させない。

 

 

身体強化を施して踏み込む。

 

 

トラップがないのは、既に“視て”いる。

 

 

だから、あとは突っ込むだけ。

 

 

駆け抜け、踏み込み、右の拳を振りかぶる。

 

 

兄には最終的に当てれなかったけど、この程度の外道になら、問題はない。

 

 

反省点は、後々直そう。

 

 

今はただ、目の前の外道をブッ飛ばすのみ___!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-PROLOGUE 9-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……492……493……494……495……!」

 

 

 

12/22 土曜日 時刻はお昼より少し前ほど。寮の自室より。

 

 

昨日の打ち上げは大いに盛り上がり、皆が皆、思い思いに楽しんでから打ち上げは無事に解散。

 

そんなに遅い時間ではなかったとはいえ、連日の疲れが出たのか、叶方は自室でバタンキュー。

 

杉並は分からん。奴のことだ。集まった情報とやらで早速悪巧みでもしてるのだろう。

 

そして飛び入り参加の海央だが、おれ達の話を楽しく聞いたあと、なんと宿を取ってなかったらしく、油断した所でドジを発揮していた。

 

身内のおれは男子寮なので流石に泊められず(本人は乗り気だったが、全力で皆で止めた)、海央のことを気に入ってた逢見先輩の所で厄介になったらしかった。

 

姉キャラと妹キャラの相性は抜群だったらしい。で、あとは各々がそれぞれ帰宅。恐らく全員、昼頃まで動けないだろう。それくらい激務だったしな。

 

おれはというと早起きが習慣付いてた事もあるが、それでも大分遅く目覚めて、何時もの日課である魔法の修練をこなし、今は肉体の鍛錬中である。

 

なお、指立て伏せ。それぞれ親指と人差し指で500回を3セットずつ。叶方が見た際に「あり得ない」とボヤいてた記憶がある。失敬な。人間頑張ればなんでも出来るんだぞ?

 

 

「498……499……500っと……ふぅ、取りあえず今日の分は終了」

 

 

体勢を整えてから体を入念に伸ばす。おれの場合、指は特に大事なのでそこも丁寧に。

 

汗をタオルで拭いてから、さて今日はどうするかと考える。部屋の掃除もやったし、白河の手伝いも昨日終わったので本格的にやることがない。バイトも今日はしんどいことを見越して休みにしてもらってるしな。

 

もう今日は全面的に休息日にしようか? と、考えた所でTABから着信音。

 

見れば逢見先輩からだった。

 

海央のことかな? と思い、通話モードにして出る事に。

 

 

「もしもし、逢見先輩?」

 

『あ、おはよう“トーカちゃん”。いや、もうおそようかなぁ?』

 

 

通話先のほんわかお姉さんは、普段聞いてるよりも眠たげな声だ。恐らく目覚めて間もないのだろう。

 

 

「その感じだと今は常坂家じゃなくて家っすね。海央は元気っすか?」

 

『それがね、さっき起きたら書き置きだけ残ってて、「用事が出来たので失礼します! 泊めていただいてありがとうございました諳子ししょー!」って』

 

「なんで会って間もないのに師匠呼びになってんだ、あの駄後輩」

 

 

いや、確かに料理とか家事で偉大なる先達ではあるが。 つか、ホントに人懐っこさ全開だな、あの妹属性のワンコ系後輩。

 

 

『この用事って、元さんの言ってた【さきもり】って言うののお仕事かなぁ?』

 

「ほぼ間違いなくそうっすね。ってか師匠、“ソラさん”にも防人の事を言ってたのか……って、あっ」

 

 

思わず呼び方が素の奴に戻っていた事に気付く。危ねえ。他の連中がいたら無駄に追求される所だ。

 

そんなおれの様子がおかしいのか、通話越しにてソラさんが笑う。

 

 

『今はその呼び方は大丈夫だよ? ここはわたしの自室だから、いっちゃんと二乃ちゃんには聞かれてないもの。というか、普段からその呼び方でいいのにー』

 

「いや、分かってるんすよ。ただ、習慣づけとかないと何処かでボロが出そうで」

 

『真面目だなぁ、トーカちゃんは』

 

 

逢見先輩こと、ソラさん。

 

普段は呼び方を変えてるが、師匠がおれの魔法を見てた時に実は知り合っていた旧知の仲。とはいえ滅多に会ってなかったし、本格的に絡みだしたのは一登達と仲良くなってからだが。素性を隠すためにも呼び方を変えている。

 

魔法の事も知っており、なんでも昔、師匠に助けられたとかなんとか。

 

当然、おれの【先視】の事も知っていて、万が一なにかしらの異変が起きた際にはすぐに連絡が来るよう約束している。

 

あと他にも人には言えない事情も知ってるが、そこは今は関係ないので省く。今は海央のことである。

 

 

「海央も、おれが咲三の家を出る時より成長してますしね。よほどの事じゃない限り放っておいてもいいと思います。再会した時なんかいきなり当たれば人体がミンチになるレベルの飛び蹴りを放ってきましたし」

 

『い、意外とやんちゃなんだね、海央ちゃん』

 

「まぁ、やんちゃっす。あの日、おれが水鏡湖に行くことも先視で把握した上で来て、おれが遅刻寸前になるように仕向けるくらいにはやんちゃっす」

 

『そんな情報は聞きたくなかったなぁ。ロマンチックが遠のいちゃうよ……』

 

 

あの時はややこしくなるので言わなかったが、ソラさんしかいないなら思いっきりぶっちゃけられると言うものだ。

 

 

「というか、迷惑かけませんでした? アイツ、結構ドジなので」

 

『ううん、大丈夫だよ? 寧ろ二人だけで二次会お泊まり会みたいになって楽しかったかも♪ 朝もわたしが疲れてるのを分かってマッサージとかしてくれたし、とても良い子だったよー。……まぁ、それで二度寝しちゃったらこんな時間になって、置き手紙があった訳なんだけど』

 

「いや、ホントにお世話になりました」

 

 

通話越しだが頭を下げる。この人にはマジで頭が上がらねぇ。

 

 

「海央の事は了解です。まぁ、今のアイツならよほどのドジしない限り大丈夫っすよ」

 

『そっかあ。でも、もしなにかあっても頼りになる“お兄ちゃん”がいるものね♪』

 

「……流石に、香々見島を出ちまうと分かんないっすから。【防人】の任務は基本的に人知れず遂行するでしょうし」

 

 

寧ろおれが余計な真似しちまうと咲三の家の面倒臭いゴミ共が騒ぎそうだし、極力関わり合いにはなるべきじゃないんだよなぁ。

 

 

『要件はそれだけなの。あ、あとは今日は冬至だからね。年間行事は大切に!』

 

「冬至かぁ。南瓜料理でも作るかな。夜になれば叶方も復活するだろうし」

 

『うんうん。わたしもいっちゃんに南瓜買いに行ってもらっててね。海央ちゃんがそっちにいればご馳走出来るかなって思ったんだけど』

 

「【防人】は忙しいっすから。また次に来たときでもご馳走してやってください」

 

 

『そうするねー♪』と通話を初めたときより眠気が覚めて元気になった声色でそう締めくくり、ソラさん__逢見先輩との通話は終了する。

 

まぁ、海央なら、昨日みたいにまたひょっこり出て来るだろう。いや、【防人】の任務で来てたのなら、ヤバい魔法使いが此処に来てるって事でもあるから、そんな悠長にはしてられないか。

 

昨日、ここでの任務は終ったって言ってたし、その心配はないだろうが……ないだろうが、備えはしっかりしておくか。と、取り出した特製ビー玉を手先で玩ぶ。

 

 

「アレが必要になる事態にならなきゃいいけどな」

 

 

流石に杞憂か。と、結論づけて取りあえずシャワー室へ入る。

 

まずは汗を軽く流してから、次にすることを考えるか。

 

 

 

 

 

 

 

 

___で、その日の夕方。

 

 

冬至と言う事で南瓜の料理……南瓜の小豆煮を始め、れんこんのきんぴら、こんにゃくの甘辛煮など、冬至において縁起のいいものを作っていると、疲れが取れて復活した叶方と、任務を終えたらしい杉並が匂いに釣られてやって来たので一緒に飯を食うことに。

 

相変わらず、プライベートという概念が何処かに行ってしまってる自室なのである。もう半ば諦めてるけどさ。

 

 

「いやホント、相変わらず美味いね灯火の料理! オレ、このこんにゃくの甘辛煮、結構好きかも」

 

「そうだな。下拵えもしっかり出来ているし、味付けも丁度いい。この歳でそれだけ出来るのは中々なのではないか?」

 

「おのれらと同い年なんだよな一応。まぁ、味付けに関しては、ばあちゃんにしっかり仕込まれているからな。それでもまだ逢見先輩には叶いそうにないんだけど」

 

「そら姉さんはもう殿堂入りだからねー」

 

 

恐らく今頃、常坂兄妹にその手腕を遺憾なく発揮してるであろう。逢見先輩がいなかったら、常坂家の生活はどうなるんだろうか?

 

二乃は料理が壊滅的らしいから、大変なことになりそうだ。前に一登がボヤいてたな。

 

で、食事は滞りなく進み、洗い物係はまたもジャンケンで負けた叶方が担当。「オレ最近ジャンケン負け過ぎだよなー」と泣き言を言っていったがすまんな。勝負は何時の世も残酷なのだ。

 

 

「時に同士・芳乃よ。お前の妹君___咲三嬢だが、まだ逢見嬢の所にいるのか?」

 

 

残った杉並と一緒に食後のお茶を頂いていると、杉並が気になる話を切り出してきた。

 

 

「ん? いや、昼前に逢見先輩から通話で聞いたんだが、用事があるから失礼するって置き書きを残してたらしい。朝早い内に戻ったんじゃねぇかな」

 

「ふむ、それはおかしいな。と言うのも、その咲三嬢の特徴的な犬耳パーカーを香々見島の真西、崖下の砂浜付近にて見かけてな」

 

「西の砂浜? なんでそんなところに」

 

 

というか、杉並は何しにそこにいたのか。いやそこはもういい。考えても無駄だ。どうせ碌でもない事だ。

 

で、だ。今の季節は冬。人口妖精の調整があって袖なしでも過ごせる香々見島だが、海は流石に別だ。当然ながら水温はとんでもなく冷たい。海水浴目的ではないだろう。と言うか泳ぐならスパの方へ行く方がいい。

 

……考えられるのは【防人】の任務か? まさか昨日、海央が片付けたって奴以外にも厄介なのがいたとか?

 

流石にこの島の中で厄介な奴が、それも魔法使いがいるなら見逃せない。もう少し杉並から情報を聞き出してみるか。

 

 

「話は聞いたりしてねぇのか?」

 

「無論、聞いてみたさ。俺の気配遮断にそれはそれは驚いてな。いいリアクションだった事を教えておこう」

 

「人の妹に何してやがる、おのれ」

 

 

ジト目で思わず突っ込む。なんで普通に話しかけないのか? 捻りをいちいち入れないと死ぬ病気にでもかかってるのかコイツは。

 

気力をごっそり持ってかれつつも、話の続きを促す。早いとこ必要な情報だけ聞き出そう。無駄に精神力を疲弊しかねない。

 

 

「彼女が言うには「今は問題ないし、あってもすぐにどうにかなります」とかなんとか。全く要領を掴めなかったのでな、暫く周囲を散策したが結局何もなかった。仕方ないので今日は戻ってきた次第だ」

 

 

「今は問題ない」、か。言い換えれば何時かは問題が起きるって事だな。

 

となると、やはり【先視】で何かを見たのだろう。それならその時調べても何も無い筈だ。

 

……さて、どうするか。既に部外者なおれが顔を出すのも迷惑になりそうだが、香々見島に変なのが潜んでるとなると他人事ではいられない。

 

よし、このあとちょっと様子を見に行くか。何もなければ、それはそれでいい。何かあれば……対処しよう。

 

 

「ふぅ、洗い物終わりぃ」

 

「おー、おつかれ叶方。……さて、と」

 

 

立ち上がり、首をポキポキ鳴らしながら軽く柔軟をする。

 

荒事前になる度にやる、おれ独自のルーティン。

 

それを知ってるからか、叶方も杉並も何かを察したようだ。

 

 

「出掛けんの?」

 

「ちょっと散歩にな」

 

「連れはいるか?」

 

「一人でいい」

 

「フッ、承知した。明日も休みだからな。多少遅くなっても問題はあるまい」

 

「部屋は戸締まりして、鍵は郵便ボックスに隠しとくよ。いってらー」

 

 

「サンキュ」と部屋を後にする。こういう時、あの二人はあまり詮索してくれないので正直助かる。

 

杉並も叶方も、そういう空気を読むのは抜群に上手いからな。杉並はたまに混ぜっ返すが。

 

自室を出て、廊下を歩き、階段も降りて寮を出る。

 

外界の空気は冷たく、今の人口妖精ではまだまだ冬の夜の寒さを完全には消しされないらしい。

 

空を見上げると、日は既に落ちており、代わりに真ん丸な月が空を優しく、見方によっては妖しく、香々見島を……世界を照らしている。

 

魔性のものが出るには、うってつけの夜だった。

 

 

「……満月か。こりゃ、ホントに厄介な事になりそうだな」

 

 

魔法使いにとって、月の満ち引きは大いに関係がある。

 

満月の時には魔力が上がり、新月の時には世界への干渉がやりやすくなる。己の使う魔法に合わせて大規模な術式をする際は利用すべき要点なのだと、師匠からも散々叩き込まれた。

 

満月の時に魔法使い絡みで問題が起きるなら、相当に面倒臭い事になるだろう。

 

 

「…………」

 

 

無言で、ポケットに仕舞ってあった特性のビー玉を取り出し、握り締める。

 

場合によっては、これを使う事にもなるだろうか。

 

それならそれで、覚悟を決めておくか。

 

 

「___よし、行こう」

 

 

意を決して一歩を踏み出す。

 

目的地は杉並の情報通りのこの島の西側の沿岸部にある砂浜。

 

校門を出てから住宅街から公園、そして水鏡湖を抜けて更に西へ行くだけ。

 

なので身体強化をかけてから駆け出す。自身の気配と存在感を消す魔法も使って、最短距離を突っ切るために建物の上をパルクールよろしく駆け抜ける。

 

街の喧騒にはもうすぐクリスマスと言うこともあって、クリスマスケーキの宣伝やらで街は騒がしい。

 

所々でサンタの格好をしたアルバイターが、四苦八苦しながらケーキの宣伝をしている。

 

そんなサンタの様子を見て、子供連れの親子が笑っていたりする。

 

そんなありふれた光景に、少し微笑ましく思いながらも更に西へ。

 

それなりに離れてる為、長いこと移動しなければならない。が、素の体力も鍛えており、なおかつその面でも魔法で強化をしているので早々バテる事はない。

 

その間にも、夜空は濃くなり、月の光がより一層鮮やかさを増していく。

 

やがて目的地に近付くにつれ、街や人々の喧騒が聞こえなくなり、人の生活圏からも離れ始めた森が出てきた頃、“それ”は目の前に現れた。

 

 

「……人払いの結界。これは、いよいよか」

 

 

普通の人間なら気付かない不可視の壁。

 

この壁に触れた瞬間に常人なら気が付かない内に踵を返してしまう、意識に人知れず働きかける魔法の結界。

 

加えて言うなら、中の音を結界の外に出さないオマケも付いている。こんなのがあると言う事は、やはり何か魔法的な事象が、それも厄介な事が起きてるのだろう。

 

ポケットからビー玉を取り出し、全身に魔力を張り巡らせて、結界の中に入る。これで人払いの影響を受けずに入ることが出来る。

 

抵抗もなく侵入を果たした、その直後、

 

 

 

 

 

 

 

____■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!

 

 

 

 

 

 

明らかに自然の物じゃない、常人が聞けば萎縮すること間違いない、“ナニカ”の雄叫びが響き渡った。

 

 

「おいおいおいおい……!!」

 

 

身体強化を再度施して、雄叫びの聞こえた方へ駆ける。

 

尋常じゃないナニカがいる。

 

そこには海央もいるかもしれない。

 

森となってる所を超えて駆けると、そこには、

 

 

 

 

 

 

___■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!

 

 

 

 

 

 

再び雄叫びを上げる、デカい二足歩行の蜥蜴のようなバケモノと、

 

 

「……ッ!?」

 

 

腕を負傷して、それでもバケモノと対峙する海央の姿があった____

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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____楽しい時間の後には、忙しいお仕事の時間。

 

 

楽しい時間を満喫して、兄の事も聞けて、それから諳子ししょーの家に泊まった次の日の朝、マッサージしてる内に寝ちゃった諳子ししょーがかわいいなぁって思ってた所に、任務の通達が来た。

 

それ自体はいい。いつも通り、外道な魔法使いは容赦なくブッ飛ばすだけだから。

 

問題は、その人をブッ飛ばした後に発見した研究記録。

 

満月の日、豊富なマナを取り込んで活性化する異形の制作記録でもあったそれは常軌を逸するもので、すぐさま対処が必要だった。

 

けど、異形は昼間は地下深く眠ってるらしく、オマケに今日がその満月。放って置けば活性化した異形が暴れ出して被害が出るのは間違いなかった。

 

対処するなら今日、怪物が目覚めた直後にやるしかない。

 

応援を呼ぶも、今対応できる【防人】はいないらしい。万年人手不足はこういうときに困る……!

 

応援は諦めて、【先視の魔法】で異形が目覚めて活性化する時間を確かめてその場に待機していると、背後から兄の友人であるらしい杉並さんが現れたりした。

 

なんで気配を消せれるんだろうこの人。あの、ホントにビックリしたんですけど?

 

ある程度何かを調べてから納得したように帰っていったけど、ホントに何だったんだろうか。

 

……何故か脳内で兄が「奴のことについては深く考えるな」と言ってた。実際の兄はそんなことを言った覚えはないのに、何故か説得力があった。

 

とにかく、問題の時間にいなければいいので素直に立ち去ってくれたから、何も言わなかった。

 

 

 

 

……そうして夜が深まり、月の輝きがより強くなった頃に、それは姿を現した。

 

 

 

 

 

___■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッ!!

 

 

 

 

砂浜から現れたトカゲのようなバケモノ。外道の研究記録では、複数の爬虫類の因子を組み合わせたキメラとの事だった。

 

元々は罪もない動物だったのだろう。あの外道、もう少し強めにブン殴っとくべきだったか。今言っても後の祭りか。

 

既に人払いと遮音の結界は貼った。あとは、この子を始末するだけ。気は進まないけど、放っておけば人的被害が出る。それは【防人】としても、【正義の魔法使い】としても許されない。

 

……息を深く吸って、吐いて、意識を切り替える。

 

 

「対象を確認。排除します___!」

 

 

身体強化を施して、突っ込む。

 

一撃で仕留めるべく強化した拳は、間違いなくそのトカゲの怪物にめり込み___ぐんにゃりとした感覚と共に、そこで拳が止まってしまった。

 

 

「っ!?」

 

 

 

 

 

___■■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!

 

 

 

 

 

咄嗟に拳を引くも、トカゲの怪物はその爪を振るって来ており、被弾してしまう。

 

お気に入りのパーカーごと切り裂いたそれは、あたしの腕にも小さくない傷を与えた。

 

皮膚も魔法で強化されてるのに、なんて切れ味なの?!

 

 

「……ッ!?」

 

 

痛みに顔を顰める。硬さと弾力を備えてるとか、どんな鱗なんですかホントに……!

 

と、脳内で言い捨てると同時に気配を感じた。

 

懐かしい気配。つい先日、再会したばかりの兄の気配。

 

 

「おい、無事か海央!?」

 

「お兄___トーカ先輩!?」

 

 

いつの間に結界の中に入ったのだろうか。兄と慕う人が、そこにいた。

 

そんな兄の声に反応したトカゲの怪物が兄の方へ視線を向ける。……だめ!?

 

 

「トーカ先輩、逃げて! そのトカゲ、人肉が大好物!」

 

「そりゃ端的で分かりやすいなァ!?って、うぉお!?」

 

 

飛びかかってきたトカゲの一撃を跳んで躱す兄。

 

なんなら身体強化の魔法も使って怪物の頭に蹴りもいれつつ、空中で体勢を整えてからあたしの直ぐ側に着地する。

 

立ち回りというか、体の使い方が上手いというか、昨日もこっそり思ったけど、この人……ホントに一般人として生活してたのかな?

 

いや、今はそんなことじゃなくて、

 

 

「どうして、ここに来ちゃったの!?」

 

 

危険地帯となった場所に来てしまった兄に詰め寄る。兄は兄で、トカゲから目を逸らさずに、答えてくれた。

 

 

「逢見先輩からおのれが出たって話聞いて、その後杉並からこんな辺鄙な所にいるってのも聞いたから、なんか嫌な予感がしてな。……確認しに来たら、このザマだわ」

 

 

なんて間が悪いんだろうか。もしかしてあたしより運がないの?

 

 

「今すぐ逃げて……あれは、あたしが始末するから」

 

「【防人】の任務だろうし、そうするべきなんだろうが、おのれ武器は? あれ、素手じゃ厳しそうだぞ。蹴りかましたが効いてる気がしねぇ。ゴムみてぇな鱗だ」

 

 

そう聞かれ、思わず返答に詰まる。

 

それを察した兄が、怪物への警戒を解かないまま、ちょっとジト目になる。

 

 

「おい、まさかおのれ……あんな魔法生物相手に素手でやるつもりだったのか……?」

 

「し、仕方ないよね! 本来は外道の拿捕が任務だったのに! あんなのが出て来るなんて想定外なんです!応援も人手不足で来ないし!」

 

「万年人手不足も変わらずかよ【防人】! ってか、このバカタレ……! それで怪我してたら世話ねぇよ!? こんなところでドジ発揮しなくて良いだろ!?」

 

「バカでもドジでもないもん!やむにやまれぬ事情だもん!そもそも対人に武器持ってきたらオーバーキルだもん!!」

 

「加減しろよミニマムゴリラ!! それで急に必要になったから今対処出来ねぇんだろうが!?」

 

「誰がゴリラですか誰が!? 剥いたバナナの皮をお兄ちゃんの部屋中に撒き散らしますよコノヤロー?!」

 

「やっぱりゴリラじゃねぇかゴリラー!」

 

 

 

 

 

____■■■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!

 

 

 

 

 

「「うわぁああああ!?」」

 

 

とかなんとかアホなやり取りをしてる所に飛び込んでくるトカゲを、二人して叫びながら避ける。

 

ああ、もう、なにやってんだあたし……!なんで敵を目の前にして小学生みたいな馬鹿なやり取りをしてるんだか……!

 

 

「とにかく!お兄ちゃんは下がってて!もう一般人なんだから、こういうのに関わっちゃ駄目だよ!」

 

 

そう、どれだけ実力があって、魔法使いとしての修練を重ねていても、今の兄は一般人として生活してる。

 

こんな泥臭い戦いになんか、巻き込んじゃダメなんだ。

 

あんな素敵なお友達だって、いっぱいいるのに。何かあったら申し訳が立たないよ……!

 

 

「だから丸腰でどうするってんだよ! ……ここはおれが引き受けてやる。怪我人こそ下がってろ」

 

 

だというのに、なんでこんなことを言っちゃうかなぁ!

 

わからず屋なのかなぁ!

 

 

「そういうお兄ちゃんだって丸腰じゃないですか! それで一体どうするって___」

 

 

「丸腰じゃねぇ、武器ならあるさ。……あんなトカゲくらいすぐに殺せる武器がな」

 

 

___ゾクッとするほどの冷たい声がして、敵を目前にしてるのに、思わず兄の方へ視線を向けてしまった。

 

 

明らかにあたしの知らない兄の声とその表情。

 

冷たく、鋭く、重く、再会してから見てきた兄の印象とは全く違うそれに、思わず固まってしまった。

 

そんな兄は怪物から目を逸らさずに手に持っていた何かを掲げる。

 

一見すると、ただのビー玉。

 

だけど、それには兄のマナが込められていた。

 

魔法具の一種だろうか。

 

 

「【取替の悪戯(チェンジリング)】」

 

 

一節の詠唱。

 

集った魔力は世界を改編する奇跡___魔法となって、カタチとなる。名前からして物を取り替える魔法かな?

 

一瞬の閃光。その光が止んだとき、兄の手に現れた“それ”に、思わず絶句する。

 

 

「なに、それ」

 

 

兄は“それ”を右手に持ち、油断なく怪物へ突きつける。

 

真円に満ちた月の光が、“それ”を照らしていく。

 

“それ”を一言で語るなら、大きなリボルバーの拳銃だ。

 

ただし、バレル部分……銃身に位置する部分がとても大きく、バレル自身も長く、端的に言うならとてもゴツい。

 

そのバレルそのものには狼の意匠を持つ彫刻が掘られている。……ぱっと見だけでは判らないが、魔法的な要素を含めているんだろうか。

 

そんな、どう見ても常人じゃ扱い切れなさそうな化け物銃の撃鉄を片手で下ろしてから、兄は言う。

 

 

 

 

「出番だ【シリウス】___ド派手に吠えろ」

 

 

 

 

言うと同時に引き鉄を引き、ドパァンッ!と、化け物銃が火を吹く。

 

それと同時に、蜥蜴の怪物の右目から血が噴き出した。

 

弾速が、速いっ!? 強化してる視力でも追えなかった!?

 

 

 

 

 

___■■■■■■■■■■■ッッ!?!?

 

 

 

 

 

怪物が叫ぶ。痛みを受けたのは初めてだったのだろうか。

 

潰れた片目を抑えて悲鳴を上げている。

 

そんな痛々しい姿を見せても兄は止まらない。

 

また、化け物リボルバーを構えて引き鉄を引く。

 

 

ドパァンッ!!!と言う一発分の銃声。

 

 

聞こえたのは一発だというのに、何故か蜥蜴の怪物の鱗を貫いたのは三発の弾丸。

 

 

うそ、どうなってるの? 何をしたの、お兄ちゃん……?

 

 

不敵に笑う兄は、それがさも当然の結果だと言わんばかり。

 

 

思いもよらない兄の姿に、あたしは敵を前にしてると言うのに啞然としてしまうのだった___

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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____特製大型改造リボルバー【シリウス】。

 

 

 

元々は師匠とじいちゃんと一緒にアメリカに渡った際に、取替の悪戯を最大限に使うために手に入れた武器の一つだったけど、おれが使うと破損してしまう為、破損しない様に改造を始めたのがコイツが生まれる切欠だった。

 

何年もかけて、魔法も込みで弄り倒した結果、生半可な衝撃では傷一つ付かない剛性を持ったことで、どれだけ早撃ちをしても故障しなくなるも、常人じゃまず扱えない化け物となっている。

 

なにせ、この狼の横顔が刻印された特製の大型バレルのせいで銃そのものが重い。片手で扱う武器なのに片手だと普通の人間なら構える事すら難しい。

 

普段から指を重点的に鍛えてるからこそ、おれはこの暴れん坊を扱うことが出来ている。

 

最も、おれ以外がこれを使う事はまずないだろう。普段は絶対に人目に付かない場所に保管していて、おれの【取替の悪戯(チェンジリング)】を使って、ようやく取り出せる代物だ。

 

そんな化け物リボルバーの銃口を、同じく化け物であるクソトカゲヤロウへと向ける。

 

シリウスの最大装填数は6発。眼球に1発、次に早撃ちで3発使って、今の残りは同じく2発。

 

眼球以外に着弾した3発の痕跡を見てみるが、思わず舌打ちする。

 

 

「チッ。357マグナム弾のフルメタルジャケットでも、眼球以外は表層しか傷ついてねぇな。硬すぎだろあのトカゲ」

 

 

言いながら、トカゲの顔面に銃口を向けてもう一発弾丸を撃つも、傷を負った原因を理解したのか、それを避けやがった。

 

血走った隻眼が油断なくおれを捉えている。どうやらただの獲物から、自身を脅かす敵として、おれを認識したらしい。

 

……ある程度の危機管理も出来る知能もあるのか、ホントに面倒臭ぇな、このクソトカゲ。どこのアホだ、こんなの作ったの。

 

まぁ関係ねぇか。と、銃口を化け物に向ける。

 

そこから自身を脅かすモノが出ると理解したトカゲヤロウは、器用にそこから避けようとするが、動きが単調過ぎる。

 

撃鉄を下ろし、その動きを予測して、着地地点にシリウスの銃口を向け、シングルアクションの引き鉄を引く。

 

牽制の為の一発は、クソトカゲの足元に当たり、クソトカゲは思わず後ろへと跳躍する。

 

それと同時に、シリンダーをスイングアウトさせて薬莢を排出。

 

左のポケットに入れていたビー玉を【取替の悪戯(チェンジリング)】により弾丸六発をセットしたスピードローダーと取り替えて、そのまま弾丸をシリンダーに素早く装填する。

 

使い終わったローダーは最初のビー玉と取り替えておく。こうすることで弾丸の装填をやりやすくする。または別の武器に持ち替えることもできる。……師匠に魔法を習うときに想定していた使い方が当にこれだった。

 

おれは本来の魔法を使えない中途半端な魔法使いだ。別の魔法を使うとしても、どうしても他の魔法使いと比べれば見劣りしてしまう。だから、攻撃能力を求めるなら魔法以外の他の手段を使うしかなかった。

 

その為に散々考えた結果、辿り着いたのがコレだ。

 

取替の悪戯(チェンジリング)】で、ひたすら火器や弾丸を持ってきて撃ちまくるスタイル。トリガーハッピー思考のデタラメ戦法。魔法使いとしての常識をかなぐり捨てた異常者の極み。そりゃ師匠も面白がるし、じいちゃんも頭を抱えるわ。

 

いや、ホントにゴメンじいちゃん。思い付いたのがこんなアホな戦法で……!

 

 

 

___■■■■■■■■■■■■■■■ッッッ!!!!

 

 

 

「ぎゃーぎゃーうるせぇよクソトカゲ。……次で、確実にブチ殺してやる」

 

 

リロードを終えると同時に、右目に魔力を集中させる。何時ぞや、白河が階段から落ちる光景を視たときとは違って、今度は自分の意志でこれを使う。

 

コイツの底はもう見えた。予測に必要な情報も十分だ。だから、最後の後押しとして未来を視る。

 

数秒先しか使えないうえに、下手をすれば余計な未来まで確定しかねない、欠陥品の先視の魔法。

 

でも、おれからすれば数秒先が視えれば、それで十分なのだ。

 

意識を目に集中すると同時、視界がブレて切り替わる___

 

 

 

突撃してくるクソトカゲ。

 

 

 

まずは右、次は左、揺さぶるように、

 

 

 

右の爪を構えて、向かって来て、

 

 

 

最後は、大振りの一撃を振りかぶり、

 

 

 

跳躍し、そして、

 

 

 

___バチッと、そこまでを映して、視界が戻る。

 

 

 

同時に、右手で構えたシリウスから、弾丸を一発放つ。

 

それを避けたクソトカゲが、チャンスと言わんばかりに突撃してくる。

 

右へ、左へ、揺さぶるように向かって来て、構えるは右の爪。

 

ある程度の接近した所で、跳躍、そのまま大振りの一撃を振りかぶる。

 

 

「テメェの結末は、もう視えた」

 

 

未来視で視た通りの光景。

 

その大振りの一撃を最小限の動きで躱してから、無防備となったその頭に、撃鉄を下ろしたシリウスの銃口を突き付ける。

 

どれだけ厚い鱗を持っていようが、どれだけ早く動こうが、零距離からの脳味噌への射撃は防ぎきれないし躱せもしない。

 

 

 

「___チェックメイトだ。人の妹を傷つけやがった報いを受けろ、クソトカゲ」

 

 

 

シングルアクションの軽い引き鉄を、戸惑い無く引く。

 

ドパァンッ!と、銃声を上げて、357マグナムの弾丸がトカゲヤロウの頭に着弾し、粉々に吹き飛ばす。

 

生々しく飛び散る血飛沫。

 

トカゲは力無く、断末魔も上げることなく倒れ、やがてその体は塵となって消え、跡には何も残らない。

 

……どういう仕組みか分からないが、これならこれで後片付けの手間が省けるものだ。

 

突発的に起きた戦闘は、こうして幕を閉じた。

 

海央は怪我こそしてるが命に別状はない。ないのだが。

 

……今から説明すんの、めんどくせぇなぁ……。

 

手元の愛銃に視線を落とす。

 

どう見てもの銃刀法違反の代物である。警察に見られたらワッパを掛けられること待った無しである。

 

でも、説明しないと駄目だよなぁ。

 

はぁ。と溜息を吐く。

 

前途多難な夜は、まだまだ続くようだ。

 

 




因みに主人公、BLACK CATを超リスペクトしてる模様。
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