ウォーヘッド・アンド・バスターキャノン-TS金髪オレ娘エースは美少女クラスメイト達と宇宙を駆け無双する-   作:ザンザザン!

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エネミー・インカミング

 

 傲岸不遜を形にしたようなゴルドリヒ・ド・ラ・ゾンネンキントは続けた。完全な自己陶酔を示す笑みはミエリ・ライオネルを始めとした誰にも不快感を抱かせる。端正な甘いマスクでも補いきれないほどなのだ。

 

「我が艦隊は二十四時間後に惑星サフィロスに進駐する。もし愚かにも抗戦を試みるようであれば、"純潔の薔薇艦隊"と旗艦ナグルファルの威力を思い知ることになると忠告させていただく。

 また、艦隊到着時に同時にオルランド星系王国が匿っているアンゼリカ・ノースフェルトの引き渡しを求める。アダム・フェルト提督が養女として囲い、恥知らずにも今日まで逃げ延びてきた少女のことだ」

 

 破廉恥極まりない宣告だった。士官候補生、ロングレンジクラスと問わず、ひっくり返りそうになっている者もいる。

 スクリーンの一部に二つの主張の根拠となる資料が表示される。誰がどう見ても出鱈目な内容だと、ミエリは思った。

 急ごしらせのシートに座って、腕を組み、ミエリは金髪の皇太子を怪訝そうに睨み続けた。

 

「諸君らの賢明なる決断を期待する」

 

 ゾンネンキント帝国の皇太子はそう告げてから、通信を切った。ゴルドリヒの言葉は星系全域に向けての宣告であった。

 自分の言葉で星系全土が混乱に陥っている。そう思い描いていると見て間違いない面だ。無性に腹が立った。

 

 気を取り直し、ミエリは「なあ、アンゼリカ」と声を掛けようとするが、先に「事実無根です!」という叫びがコクピットに木霊した。

 アンゼリカの叫びの迫力にミエリは思わず口を噤んだ。

 

 銀髪の士官候補生はナノシェルスーツの前を閉じるのを忘れ、白い肌を晒したまま言葉を続けた。

 

「私はゾンネンキント星系ともノースフェルト王国とも一切の関係がありません! 確かにポッドでコールドスリープされ彷徨っている身でした。義父の指揮する艦に救助されて今の私があります。ですが、ポッドはゾンネンキント星系から流れ着いたものではなく、オルランドを挟んで反対側から流れ着いたものです!」

 

 突然、星系に向けた放送で濡れ衣を着せられ、身柄を要求されたのだ。

 パニックに陥っても仕方がない状況だ。改めて、ミエリは主席士官候補生の少女を落ち着かせようとする。

 

『そうですよ! あの金髪野郎の主張は嘘塗れですよ!』

 

 その前に通信ウィンドウにて、真っ先に口を開いたのは、メガネの低身長女子ヴァーシャだった。

 

『十年前にゾンネンキント帝国が星系を統一した際にノースフェルト王国の王族は全員処刑されています。それに末は第五王女ですから第七王女などというものは端から存在しません。ゾンネンキント自らが誇らしげに報じていましたからね。待っていて下さい、今確たる証拠をお見せしますよ!』

 

 ヴァーシャは大急ぎでネットワークから情報を集めて表示した。この黒髪メガネの士官候補少女は情報通で、ネットに強いのである。

 

『なら、どうしてアンゼリカちゃんの身柄を欲しがるんだ。確かに物凄い美人だし、王女様って雰囲気だけどさ――――わかってるよネーナちゃん、あいつらの言ってくることが嘘だってのは!』

 

 士官候補のチャラ男ルークが疑問を口にする。王女という言葉が赤毛のアスリート風士官候補、ネーナの怒りを買って睨まれていた。

 

 答えは意外のとこから飛んできた。大河が暑苦しく叫んでいた。

 

『それは勿論、アンゼリカの父ちゃんに恨みがあるからだぜ! 提督昇進前に海賊ってことになってるゾンネンキントの軍隊をボコボコにして追い払っただろ!? きっとその時の指揮官があの皇太子で、嫌がらせのためにあんなことを言ったんだ!』

『まさか、そんな理由で?』

 

 驚愕し困惑するアンゼリカ。確かに義父は公宙域で海賊行為を繰り返す艦隊を寡兵で破る大戦果を上げたことで勲章を授与され、大々的に報じられた。

 

 件の海賊艦隊がゾンネンキント帝国による示威行為というのは、オルランドにおける周知の事実だ。軍と政府の危機感が高まる切欠にもなっていた。

 

『残念だがゾンネンキントはそういうことをする国だ。オルランドの植民以前、サフィロスにはゾンネンキント帝国に連なる先住民がいたから自国の領土だって? 全く馬鹿馬鹿しいじゃないか! 大河君でももう少し頭を使うよ。彼らは暴力を行使するついでに理不尽をぶつけて、征服した相手にそれを認めさせるのを好むんだ』

 

 外交官一族出の気障なイケメン士官候補男子、エクトルが口を挟んだ。星系を統一するために用いた大義名分も同様の『事実』に基づいていたと付け加える。

 

『とりあえず各機はフェンリルに帰還してくれたまえ。それとだな、私達が派遣されたのは、彼らの侵略に備えてのことだ。あの皇太子殿下の言う通り、オルランドは賢明に対応するさ。悪党をぶん殴って追い返す手筈は既に整えてあるのだからね。

 栄えある長距離打撃戦隊とオルランドが誇る航空宇宙軍が力を合わせればあの程度の敵など物の数ではない! 大船に乗った気でいてくれたまえよ!』

 

 金髪のお子様先生の言葉は声も言葉も暢気なものだが、大言壮語ではない。そう信じさせる力強さがある。

 漆黒のファイアイーターを駆る灰音はゼラの言葉に静かに頷いていた。

 既に殺る気は満々である。

 

 操艦、管制、指揮を一手に引き受ける妖艶JK艦長、ゼフィリスの指示に従い、アロウヘッド各機は着艦していく。

 

 アンゼリカ機に隣のデルタセイバーから通信が入る。

 

『アンゼリカ、貴様が気に病むことは何一つない』

「教官」

 

 常に厳格な眼帯の女教官が、優しい表情と声でアンゼリカに告げた。

 

『皆お前の味方だ、安心しなさい』

 

 皆の視線には最初から疑念はなかった。銀髪の士官候補生は己の心から生じたものに怯えて、声を荒げたことを恥じた。

 不意にファイアイーターの制御がコ・パイロットに移る。非常事態に備え、後ろに座るミエリの操縦が最優先されるように設定されていた。

 

「疲れたろ? 着艦はオレがやるから休んでろ」

「これくらい平気です」

「いいから。それと前、閉じておけよ」

 

 ミエリは頬を掻きながら、申し訳なさそうに指摘した。落ち着きつつあったアンゼリカは、己の大胆な有り様に今やっと気が付いた。

 豊満な胸の谷間からおヘソまで、上気した白い素肌が剥き出しであった。

 

 皆に見られた!真っ赤になるアンゼリカだった。ゴルドリヒの宣告を否定した時、通信画面のバストアップをオンにしたのだ。

 スーツを下からなぞると、ナノマシンが反応して、ぴったりと閉じて切れ目が消え去った。

 それから銀髪の士官候補はしばらく俯き、ミエリの言葉に甘えた。

 

 暴挙と呼ぶしかないゾンネンキント艦隊の進軍だが、実際のところ、オルランド政府中枢には殆ど混乱はなかった。

 一か月前。ゾンネンキントの主力たる"純潔の薔薇艦隊"は演習と称し、ゾンネンキント星系を離れて公宙域の一角に居座っていたが、その時点から警戒し、《袰月》との間で今回の親善交流のガワを着せた非常計画を策定していた。

 

 数十万隻の艦隊によるワープ・ドライブが完了した直後に開始されたゴルドリヒの布告と同時に、御前会議が開かれていたのだ。市民の避難と迎撃艦隊の出撃は滞りなく行われている。

 

 会議には《袰月》の代表者もオンラインで出席していた。普段着の脇腹まで丸見えのスリットメイド服から、フォーマルなスーツに着替えた袰月コノハだ。この上なく美しく造形された、《袰月》管制AIの分体たる美女。

 

「我が《袰月》は全霊をもって貴国を防衛いたします」

 

 静かに、淡々と告げるが、コノハの言葉には果てしなく強い決意が込められている。

 

 しかし、事態は誰も想定していなかった方向に流れた。

 

 通常航行で威を示すかのように星系に接近していた純潔の薔薇艦隊の側面に別の艦隊がワープしてきた。

 数は二千ぴったり。漆黒の船体の、のっぺりとした艦艇を囲う、異様に四肢が長い人型機動兵器の群れ。機動兵器、艦艇を問わず、各部には妖しく輝く赤色のセンサーが備わっている。

 

 《殲滅大戦》における死者の半分を単独で占め、人類が地球を放棄する直接の原因ともなった無人兵器群であった。ヒトを殲滅する命令を忠実に実行する自動殺戮兵団(プラネット・マーダー)。マーダー艦隊と俗に呼ばれるそれらは多数の次元兵装を搭載し、超絶の戦闘能力を有していた。

 

 ゾンネンキント側はナグルファルからの数万に渡るホーミングレーザー、副砲であるが戦艦主砲に匹敵するそれを始めとした攻撃でマーダー艦隊を迎え撃つ。

 しかし、驚くべき速力の艦隊運動のために大半が回避された。

 

 一方、マーダー艦隊は、空間衝撃砲によって、一隻につき秒間数十隻の艦船を屠っていた。次元兵装の一種であるこの砲は、視覚的には漆黒のエネルギー流のように見える。

 

 実際には空間自体に衝撃を与え、射線上の物体を押し潰す。フォースフィールド以外のあらゆる装甲を貫通し、艦艇を圧縮、破砕していた。

 それほど強力な兵器がマーダー艦の殆どに搭載されているのだ。

 

 純潔の薔薇艦隊の精鋭が駆る艦載機が殺到して、艦隊の懐に潜り込もうとするが、マーダーの人型機動兵器シャイターンの無人故の機動性に翻弄され逆に撃墜されていく。

 対空砲火を潜り抜けたシャイターンによりゾンネンキント艦隊の損耗はさらに増している。

 

 純潔の薔薇艦隊の動きを注視していたオルランド側は数百年の大戦から変わらぬ、機械による殺戮を目の当たりにすることとなった。

 

 それはまさに虐殺であった。

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