ウォーヘッド・アンド・バスターキャノン-TS金髪オレ娘エースは美少女クラスメイト達と宇宙を駆け無双する- 作:ザンザザン!
二機のアロウヘッドは空域を離脱して、飛行場に帰還する。リーゼ曰くステイツの諜報員、クリスティのクロムカイルとの距離が十分に開くと、ミエリはリーゼに声をかけた。
『あの姉ちゃんがスパイだってよく気付いたな』
『あーそれね。実は保安局から要警戒人物として通達が来てたんだよね、脅威度はD+、一応警戒ってレベルなんだけど』
頬を掻きながらリーゼは言った。この黒髪シニヨンの淫魔風JKは《袰月》の情報機関である保安局の局員でもあり、戦隊の防諜を任されている。
オルランド星系での長距離打撃戦隊の大立ち回り以後、自国の技術力を頂点を信じる二大艦隊国家でさえ《袰月》の技術を奪取する、あるいは艦隊を自陣営に取り込むべく工作活動を始めていた。異例の事態である。
「あえて泳がせていたのか?」
リーゼに向き直ることなく、キャバルリーを操縦しながらイリシアは訊いた。
「うっかり口を滑らせてくれないかなって。だけど、あんなに踏み込んでくるのは想定してなかったよ」
バツが悪そうにリーゼは肯定すると、グローブに覆われた手を合わせ、平謝りする。
「その――――ごめん! わたしが二人を利用したのは間違いないよ!」
「リーゼが謝る必要はない。応答しないのも不自然だったろう」
『そうそう』
金髪ツインテに同調するオレ娘であった。髪色に身長差が相まって姉妹のようでもある。
「ミエリ、イリシア――――二人のそういう所本当に大好き! 今夜は一杯サービスしてあげるから楽しみにしてて!」
いや、それは遠慮しとく。ミエリは丁重に断った。
たっぷりシャワーを浴び、ミエリ達は汗に濡れた身体を綺麗にした。ぴっちりしたハイレグスーツだけを素肌に張り付けた恰好から、ブラもショーツも着けた上で衣服を纏い、三人は飛行場を発つ。
金髪ツインテと黒髪シニヨンの長身美少女の間に挟まれながら、ミエリは繁華街を歩いた。待ち合わせ場所でクラスメイト二名を発見する。
「いたいた。おーいアナスタシア、ノエッタ!」
手を振り、二人に合図するミエリ。アナスタシアとノエッタは私服姿で、ダークゴシック調のドレスを身に着けている。メイド服やその意匠の入った衣装を常に着込む従者気質なノエッタだが、今日は主人より強制休養命令を出され、私服に袖を通していた。
「ご機嫌よう」
溺れそうなほどのフリルで華美に飾り立てたゴシック調のドレスを身に着けたアナスタシアが
しかし、今夜は年齢相応な子供っぽさを発揮している。
「さあ皆様。早速参りましょう、ハンバーガーが待っていますわ」
アナスタシアの要望でダイナーレストランでの夕食会となっていた。お屋敷暮らしでメイドに奉仕されるお嬢様であるアナスタシアは、庶民的な料理を食する機会を虎視眈々と狙っているのだ。
店のウェイトレスの誰しもが、見事なバランス感覚で塔のように積み重なったハンバーガーの皿を運ぶ。揃いも揃って、魅力的なボディラインをタンクトップにホットパンツという、空調の効いた店内では涼し過ぎるユニフォームで引き立たせ、客を魅了している。
店の客層は生身で訪れた観光客が多数派で、小食な《袰月》の住人は少数派だ。
「お待たせしました」
ミエリ達のテーブルに料理を運んできたウェイトレスは長身で茶髪の王子様系な美少女、アクィラである。大雷級戦艦
統治者を失ったゾンネンキント星系に蔓延ったプラネット・マーダーに加え宇宙海賊、テロリストその他の悪党を快刀乱麻に叩き切り、その武威を示した全長10km超の巨大戦艦も今は《袰月》で羽を休めている。
「うお、でっか」
皿の上の複合装甲めいて分厚いハンバーガーにミエリは目を輝かせる。その隣で金髪ツインテールのイケメン女子イリシアはアクィラと視線を交わし、火花を散らした。
「レースではベストを尽くそう、イリシア、リーゼ」
「ああ」「ええ」
アクィラは二人に試作小隊の二人に呼び掛けていた。この茶髪の王子様系イケ雌もまた、レースの参加者であり、優勝候補になる実力者なのだ。
「おいおい、オレも忘れないでくれよ」
ミエリはアクィラを好戦的な眼差しで見つめた。
「済まない。君と競い合うのも楽しみにしているよ、ミエリ・ライオネル」
「おっおう……」
片目を瞑って繰り出される美少女JKのイケメンな笑顔。ミエリはそれを真正面から受けて、感電したようなショックを受けている。
颯爽とターンして、去っていくアクィラ。ホットパンツが覆うイケメン女子のお尻が挑発にするように、軽やかに揺れていた。
店の厨房へとアクィラの美しい長身が消えると、少女達はハンバーガーに取り掛かった。アナスタシアとノエッタの主従は巨大なバーガーをナイフとフォークで上品に味わっている。口元や服を一切汚していない、見惚れるほど優雅な食事の所作であった。
夕食の席での話題は、練習後にミエリ達に接触してきたクリスティ・サンダーランドの事になった。
「まあ、そのようなことがありましたの」
興味津々な目つきでアナスタシアは話を聞いていた。
「観光客に紛れて不埒な輩が紛れ込むのも想定していましたが、軍用機を持ち込むとは」
一方、愛するお嬢様に万が一が起こることを備え、警戒を強めるノエッタである。いざとなれば、殺人も辞さない忠誠心に溢れるメイド少女である。
「レース仕様ではあるから艦隊法規に則してるよ。いつものステイツらしくない、お行儀の良さがあるから厄介なんだけど」
最大級の艦隊国家であるステイツやグズマ連邦は、最強と信じて疑わない自国の軍事力を背景に、他勢力に対して横柄に振舞うのが常だった。
「それで、結局クリスティのことはどうするんだ?」
口元をナプキンで拭うと、ミエリはリーゼに聞いてみた。
「尻尾出してくれないとなんとも。現状、拘束できる理由がないし。せいぜい、クリスティさんが優勝商品を祖国に持ち帰るのを防ぐ、くらいかな」
今回のレースには主催企業ハキタ・ワークスより優勝賞品が用意されている。それがクリスティの狙いなのだろう。
賞品はアロウヘッド、しかもピカピカの最新鋭機だ。ハキタ十二式改"飛燕"、防衛群の次期主力機コンペに落ちた機体をレース仕様に仕立て直したアロウヘッドである。
「なら問題ないな」
ミエリは小ぶりな胸を尊大な態度で張った。皆の注目が集まると、宣言した。
「このオレ、ミエリ・ライオネルが優勝するんだからな」
飛行場に降りると、クリスティはSA-22クロムカイルを格納庫まで歩かせた。機体をメンテナンスベッドに固定すると、ぴっちりしたパイロットスーツに豊満なボディラインを引き締めたクリスティは大きく伸びをした。
アロウヘッドを駆る時間は工作任務に携わる立場にある今の彼女にとっては癒しでさえある。しかし、肉体的には操縦による消耗と機体性能を最大限引き出すための薬物投与で二重に消耗していた。
クリスティは不意に震え出した右手を見つめた。身体能力を強化する薬物の副作用が出始めたのだ。薬物への高い耐性を持っているから、クリスティはこの程度で済む。
(使い潰される前に私の人生を買い戻さないとね)
クリスティ・サンダーランドはアロウヘッドを駆っての特殊任務を専門とするイーグル・ステイツの特務工作員であり、同時に華々しい経歴を持つヘッドフラッグ・レーサーだった。望んだことではない。十二歳になった日、両親と共にテロに遭い、クリスティは一度死んだ。
しかし、遺伝子レベルで優秀な兵士と工作員の才能を兼ね備えていたクリスティに密かに目を付けた政府は彼女だけを蘇生した。クリスティはステイツに"購入"されたのだ。
厳しい訓練を課され、過酷な任務を与えられながら、仮初の華やかな生活を今日まで送ってきた。
任務を達成する度に得られる報酬で自らを買い戻す。それが今のクリスティの目標だ。
副作用が落ち着くと、軽やかな動作でクリスティはコクピットから出た。蜂蜜色の髪の美女はキャットウォークを優雅に歩み、階段を下る。彼女に伴って入艦したクロムカイルの整備スタッフが機体に取り付き、仕事に取り掛かるのが見えた。
クリスティが支給された最新鋭アロウヘッドは宇宙最強の荒鷲であり、グズマ連邦を含めた人類勢力のアロウヘッドを圧倒する機体であると軍上層部は誇っている。
だが、クリスティが属する
UCIAは《袰月》の先進的な兵器技術、特に高次元制御技術を手中に収めるべく、合法非合法を問わず動いている。上層部が《袰月》の軍事力・技術力がフィクションではないと、ついに実感し始めたことで、その動きは加速していた。
クリスティのチームが命じられたのは、レースの優勝賞品となっている新型アロウヘッドを獲得することだった。ヘッドフラッグ・レースは軍事転用可能なアロウヘッドを合法的に得る、絶好の機会なのだ。
付け加えると非合法工作チームも成果を全く挙げられておらず、強いて言えば牧歌的に思える《袰月》の防諜能力が飛び抜けていることだけが判明していた。
レースに優勝し、賞品を得ることができれば大手柄な状況である。
更衣室に入る前から、クリスティはパイロットスーツを脱ぎ始めていた。極薄の特殊被膜で構成されたパイロットスーツを引き剥がせば、汗と被膜が反応したことで生じた独特なゴム臭が溢れ出た。その匂いに思わず美貌を顰めてしまう。
併設されているシャワールームに入り、熱いお湯で汗を流す。
(あと一歩だったのにな、残念)
ディナーで親密になった長距離打撃戦隊の女子高生から《袰月》最強のアロウヘッド、VAF-41ファイアイーター(この型番は誤った諜報情報による物であった)の情報を可能な限り引き出すつもりでいた。
UCIAでは本来の任務の達成以外に別に国家への貢献によって特別報酬が支給される。愛国心や貢献に金銭で報いるのが
そして、クリスティは自由のため、少しでもお金が必要だった。
艦内の気候に合わせたラフな私服姿で、整備の様子を眺めるために格納庫に戻る。《袰月》の当局に拘束される危険を承知で伴ってくれた彼らに感謝していた。
「やあ、クリスティ・サンダーランド」
クロムカイルまで向かう途中、突然隣から声がした。訓練された瞬発力でクリスティは振り向き、声の主を睨んだ。人形のような、無機的な美しさの少女が白衣姿でそこに立っている。
咄嗟の判断で後ろに跳び、軍隊式格闘術の構えを取って警戒しながら、クリスティは叫んだ。
「侵入者よ!」
蜂蜜色の髪の女諜報員の声が格納庫に木霊するが、クルーはクロムカイルの整備に没頭している。込み上げてくる恐怖心を堪えながら、もう一度叫ぶが、やはり反応はない。クリスティは目の前の少女以外の誰からも認識されなくなっていた。
「心配しなくていい、邪魔をする気はない。それに僕は君らが是非接触したい人間の一人のはずだろ?」
クリスティに近寄り、見上げる碧髪の少女。平静さを取り繕いつつ、ステイツの女諜報員は応じた。
「お会いできて光栄ですDr.グリムナイア。まさか、そちらから訪ねて下さるとは思いませんでした」
ステイツにとって未知の技術で認識を操作し、クリスティを世界から隔離したこの少女こそが《袰月》の兵器開発に携わる科学者であり、状況次第では拉致することまで推奨されていた。
外交上の問題はいつも通り圧倒的な戦力をチラつければ解決する、というのが連合政府中枢の考えであった。
「うむ。君が持ち込んできたSA-22は中々興味深いからね。調べさせてくれるなら、君が優勝するのを手伝うよ。
少なくとも、体に優しい強化薬は提供できる。ステイツはともかく、君にとっては悪い話ではなかろう?」
淡々と告げるグリムナイア博士。その申し出の誘惑にクリスティは喉を鳴らした。