ウォーヘッド・アンド・バスターキャノン-TS金髪オレ娘エースは美少女クラスメイト達と宇宙を駆け無双する- 作:ザンザザン!
硬化処理を施した砂浜がスタート地点だ。スポンサー企業所属のアロウヘッドが、華やかなコスチュームを魅力的な肢体に張り付けたレースクイーン達にリードされている。
先頭を司るのは大会主催企業ハキタ・ワークスのレースクイーン達だ。
伝統の白と青のカラー、ハイネックなハイレグスーツにハイヒールブーツ。
長い金髪の陽気なギャル、寡黙な黒髪褐色、そして銀髪赤髪で儚げなの印象の、三人の女子高生がその集団に交じっている。
袰月防衛艦隊群、教導学園高等部は名高き、長距離打撃戦隊突撃小隊の面々である。
ライブ中継では行進するアロウヘッドだけでなく、レースクイーンも様々な角度から撮影される。
一瞬の油断も許されない。カメラを意識した華麗な歩みを披露していた。
第一陣が飛び立ち、スタート地点に待機する。続けて第二陣、第三陣と離陸する。
総勢五十機余りのアロウヘッド全機が位置につく。
耳を劈く轟音が幾つも重なる。レースの幕が上がった。全てのマシンが、最大加速で視界に表示された仮想のコースを直進する。
最序盤は純粋にマシンの加速性能が物を言う。クリスティ・サンダーランドの駆るSA-22"クロムカイル"はステイツ最新鋭の軍用アロウヘッドとしての性能を誇示していた。
手足や股間部分などのプロテクターを除けば極薄。この時代では一般的なスキンタイトなパイロットスーツに包まれた裸身に加速のGを心地よく感じながら、クリスティはフットペダルを踏み込む。
(強化薬を服用したのに不快感がない。本当に《袰月》の技術は凄いわ)
機体も体も心も羽のように軽い。グリムナイア博士の協力でかつてない最高のコンディションでレースに臨むことができた。クロムカイルもまるで別物のようなパフォーマンスを発揮している。
《袰月》製の高性能パーツを移植したわけではない。部外者による調整だけでさらなる高みに昇った機体を見たら開発チームは何を思うか、クリスティは思案した。
今の彼女には余計なことを考えるだけの余裕があった。
最初のカーブにさしかかる前に、首位争いをするグループに加わり、先を奪い合っている。
右急旋回。レースコースは段階的に明らかにされる。次のカーブで有利なポジションを掴む運や勘もこのヘッドフラッグ・レースで勝つためには必要なのだ。
(ここで差をつける! ステイツのライダーの実力を魅せてあげるわ!)
好戦的な笑みを浮かべ、クロムカイルを駆り立て、クリスティは次々に機体を抜く。
表向きには本場
蒼く塗装された
しかし、そのクリスティの下方をオレンジ色のアロウヘッドが通り過ぎた。カーブを曲がり切り、急降下していく。
「っ! やるわね!」
クリスティは手強いライバルの背中に闘志を燃やす。機体性能では勝っているはずなのに、オレンジ色のアロウヘッドとの差が開いていく。
「お先に!」
烈鷹のコクピットで、後続に勝気な笑みを叩きつけるミエリ・ライオネル。巧みな重心移動で滑らかに機体が傾く。
急降下から一転、上方向に機体を傾け、スラスターの推進力を集中させ急上昇。
ぐんぐんと後ろを引き離しているが、ミエリは慢心せず気を引き締める。
勘が冴え渡り、良いポジションを掴み続けたおかげで一位につけた。しかし、後続はこれから巻き返してくるだろう。
相手はプロのレーサー揃いで、イリシアやアクィラもいるのだ。
距離を稼げるうちに稼いでおかなければならない。
扱いやすい機体ではあるが、烈鷹の機体特性はトップを取るには不向きな点も多い。だからこそ、挑戦する価値がある、この機体で勝つ意味がある。
「やるからには一位だ!」
改めて決意を声に出すミエリ。ハイレグなレーシングスーツで剥き出しの引き締まった美脚で、限界以上にペダルを踏みこむ金髪碧眼のオレ娘。それに応えるかのように、青い噴射炎が迸った。
タイムアウトだ。カメラドローンからの映像が切断される。銀髪の優等生、アンゼリカはバイザーを外した。
「臨場感抜群だったわね! こんなに興奮したの久しぶりかも!」
「一気に前の機体を抜いていくミエリ、凄かったです! まさにごぼう抜きですよ!」
同じくバイザーを上げた赤髪のアスリート風女子ネーナと、黒髪メガネの低身長女子ヴァーシャは熱狂している。
「まだドキドキしているわ」
アンゼリカ自身も胸の高鳴りを抑えられない。興奮を冷ますようにテーブルに用意されたアイスティーを口にした。
展望ラウンジに設けられた大型ディスプレイにレースの中継が映っている。
多数の航宙船がコースの周囲に留まり、遠くにも多くの光が見える。士官候補生三人娘はクルーザーから観戦している。
「皆様の応援、ミエリ達にもきっと届いていますわ」
船の持ち主である幼い淑女が言う。アナスタシアは所有するクルーザーにアンゼリカ達を招いたのだ。
傍らにはメイド服を身に着けたノエッタが立っている。
レースの参加機が《袰月》のハッチから宇宙空間に飛び出せば、生でその活躍を楽しむことができる。
「本当はゴールまで没入できるようにしたかったのですが」
申し訳なさそうにアナスタシアが述べる。ドローンに意識を没入させての観戦は用意された回線が一杯になっており利用者は時間で交代する措置が取られていた。
「いえいえそんな。レース開始なんて最高の場面を体感できただけで感謝しても仕切れませんよ」
そう言ったのはヴァーシャだ。
「それにこんな素敵なクルーザーを使わせてもらって、美味しい紅茶やケーキまでご馳走になって」
アンゼリカの言葉にノエッタが無表情な美貌をほんの少し綻ばせた。いつもの如く、紅茶はメイド少女が淹れ、客人と最愛の主のためケーキも選り選った。
「喜んでいただけているようで、何よりですわ」
アロウヘッドによるレースがさらに白熱してくると、自然と少女たちは画面を食い入るように見つめ、会話が減った。皆が繰り広げられる勝負に熱中している。
宇宙空間から観戦する艦船のうち、ただ一隻だけはレースを楽しんでいなかった。
民間船に偽装したその艦の目的は復讐にあった。皇族及び政府中枢の消滅によって、潰えたゾンネンキント帝国の残党なのだ。
ブリッジを見渡せる特別誂えのシートに尊大に腰掛ける、傲岸不遜を極めたオーラを発散する少女がこの場の最高指揮官である。
「兄上の無念、このレオポルディネが必ず晴らして見せます――――」
敬愛してやまない亡き長兄、皇太子ゴルドリヒを想い、第四皇女レオポルディネ・ディ・ラ・ゾンネンキントは口走る。
皇族の中にあって、レオポルディネはゴルドリヒが抱いた野望の唯一の協力者であり、今となっては皇族の数少ない生き残りであった。
しかし、その最初の一歩たるオルランド星系制圧作戦において、ゴルドリヒは
レオポルディネは報せを受けてからゾンネンキント星系を脱出するまで戦艦の自室で泣き腫らした。
やがて敬愛してやまない皇太子の死の責は、オルランド星系王国と《袰月》なる無名の地球帰還艦隊にあると失意のレオポルディネは結論づけ、壮大にして華麗なる復讐を決意した。逆恨みである。
レオポルディネは十二歳にして既に立派な暴君であり、ブリッジに張り上げる声には他者を委縮させる圧力があった。
「"狗ども"の準備はどうか!」
完了しております、と傍らに控えた若い女の副官が静かに応えた。他のブリッジ要員と同じく、ゾンネンキント帝国の軍服を着ているが、外部の人間だ。
亡国の皇女に付き従う身となった兵士らに比べれば、一目瞭然だった。
副官は背筋を伸ばし、自信に満ちた態度を取り、冷静沈着な表情を整った顔に張り付けている。
「うむ」と皇族らしく鷹揚に言ってから、副官に顔を向ける。
「感謝するぞゾエ。貴様の助力がなければ妾はこの場にいなかった。兄上の仇を討つなど夢のまた夢」
「はっ! もったいなきお言葉です、皇女殿下!」
素早く頭を垂れ、見事な礼を取るゾエ。しかし、レオポルディネから見えなくなった女副官の顔は苦々しい表情を浮かべている。
ゾエからすれば、この我儘放題に育てられた少女は一時的に利用する駒でしかない。嫌悪感を悟られないよう、自己をコントロールし、作戦に集中する。
主力艦艇や戦略級兵器を含めた兵器の購入、稀少資源の輸出、市民を等級分けし徹底的に管理する社会システムの導入――――グズマ主義連邦にとって、ゾンネンキント帝国は多大な利益をもたらしてくれる取引相手であった。
《殲滅大戦》後の苛酷な環境を生き残るべく提唱されたグズマ主義は徹底した能力主義による社会を構築するものであり、王侯貴族などという血筋に寄る権威は本来唾棄されるべきものだった。
しかし、連邦は腐敗してしまった。
上級政務官が巧みなレトリックで実質的な世襲制を物にしたのが切っ掛けだった。
躍進の原動力となった能力主義は急速に腐敗。進歩の実現者として万民から尊敬された政務官は、強欲と怠惰を貪る貴族に堕した。
亡命したレオポルディネは三級政務官の地位を得ている。多額の献金と皇女の個人的なコネによるものだ。
(本来ならば有能な者が座るべき椅子だ。喚き散らし、尻で椅子を擦るしか能のない小娘のためものではない!)
ゾエは憤りを抑え、不愉快な第四皇女の所作を意識しないように努める。
レオポルディネが皇女殿下という呼び方を気に入ってるのは幸いだった。政務官の肩書きは小娘には相応しくない。
乗艦しているゾンネンキントの兵士たちには気の毒だが、主君諸共切り捨てられることが決まっている。第四皇女の妄想する壮大な復讐劇は序章で終わるのだ。
権力闘争がゾエをこの場に立たせた。レオポルディネの後ろ盾となっているのは、帝国健在の頃から親交のあった二級政務官だ。
その男はゾエが属する軍派閥と対立する中央政府派閥の人間であった。
復讐を夢見る元皇女殿下は計画に協力しない庇護者に大層ご不満だ。軍派閥は邪魔者を排除するべくそこに付け入ることに決め、中央政府派にスパイとして潜伏し続けていたゾエを動かした。
表向きは協力し第四皇女に入れ知恵して兵器を調達させたのだ。
手配した母艦とアロウヘッドを用いてオルランド星系にテロ攻撃を行う作戦であり、おあつらえ向きにヘッドフラッグ・レースが催されていた。
戦略的な効力は一切ない、ただレオポルディネ個人の復讐心を満足させるためだけの作戦だ。
その成否を問わず、軍派閥がレオポルディネ一派を逮捕、オルランド王国に引き渡し正義の遂行者を演じる筋書だ。ゾエはその過程で死を偽装して、別人として本来の派閥に復帰する。
連邦の資産を横領し、あろうことか他国へのテロに用いた危険思想の持ち主を庇護していた件の二級政務官は弾劾され、レオポルディネが消えて空いたポストに、軍派閥側の者を就かせるわけだ。そして、それはゾエであった。
(これが終わればお前の席には私が座ることになる。それまでせいぜい良い空気を吸っておけ)
三級政務官の地位も足掛かりに過ぎない。いずれ一級政務官となり、グズマ主義連邦から腐敗を一掃し、人民に再び確たる進歩と繁栄をもたらす。それが彼女の夢だ。
被害を被ることになるオルランド星系王国や、白頭鷲主義連合を筆頭した敵対勢力からの非難は問題視していない。その巨大さゆえに不変たるグズマ連邦の権力者にとって、内側の問題は何より優先されるのだ。
「狗どもを放て! 復讐の刻じゃ!」
第四皇女の号令で、艦の両舷ハッチから完全武装のアロウヘッドが発進した。
モスグリーンカラーの六機が整然たる編隊を組み、宇宙空間で競い合うアロウヘッドの一団に向かって突き進む。遥か遠方の標的を強襲するべく、背部に大型ブースターを背負っていた。
機種名をヴェスペ。《殲滅大戦》時に用いられたアロウヘッドだ。様々な勢力で使われる一方、独自開発した機体を配備しているグズマ連邦では運用されていない。
艦も連邦が採用しているものではなく、連邦製と呼べるのは唯一、最下層民から調達した生体CPUの少年少女達だ。
「良いぞ、まるで兄上の魂が導いてくれているようじゃ」
戦術スクリーン上の輝点は滞りなくターゲットに向かっており、レオポルディオは満足気だ。極めて幸運なことに、オルランドの警戒網の僅かな穴を抜けていた。
険しい表情でゾエはスクリーンを睨んでいた。事態が想定より大事になると確信している。人的な被害が出ることだろう。しかし罪悪感というものは殆ど感じていない。
(余計な時にだけは働いてくれる。これだから下民どもは……)
付け加えれば生体CPUとしてアロウヘッドに乗せられている"狗ども"。空気と空間の浪費者と蔑んでいる再下層階級の少年少女達の事などは心底腹立たしく思っていた。
ゾエにとって人間とは権力を持つ者のことだ。彼女が際立って冷酷なのではない。グズマ主義連邦の上級民の間では、常識的な思考であった。