ウォーヘッド・アンド・バスターキャノン-TS金髪オレ娘エースは美少女クラスメイト達と宇宙を駆け無双する-   作:ザンザザン!

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ブラック・グラビティ

 ミエリは白亜の艦体の底部に装備された長砲身のレールキャノンを仰ぎ見る。

 ゼフィリスを介して高次元エネルギーを投入された砲撃はまさに必殺必滅。敵にすれば恐ろしいが、味方としては最高だった。

 

 《袰月》側の圧勝が続いたため、演習の行程は予定よりも早く消化された。

 

 現在は昼食の時間。

 長距離打撃戦隊の各小隊はフェンリルを球形に囲んで待機している。

 機体のセンサーは警戒モードでスタンバイ。いざとなれば即応できる状態を維持してある。

 《袰月》防衛群のアロウヘッドには、三週間分の糧食が積み込まれている。ミエリが豊富なメニューから昼飯を選んでいると、不良の姉御が一言。

 

『出来れば昼飯を作ってやりたいが、命令じゃ仕方ないな』

 

 不良小隊長の筋肉質なJKは戦隊の料理上手の一人であり、その腕を振るうチャンスは見逃さない。

 しかし、今回は非常事態に備えて糧食で昼を済ませるように指示されていた。

 

『このレーションだって上等だぜ』

 

 とミエリ。少々悩んでから糧食パックを選び取った。

 

『美味いのは認めてるんだが、気を張っちまうんだよコクピットにいると』

 

 意外と繊細な凶狼系JKである。ラヴィはローストビーフのパックを取り出していた。

 

『それに狭くて落ち着きませんわ』

『特にアナスタシアの機体はコクピットが狭いもんね』

 

 ラヴィとの会話に加わったアナスタシアの小さな身体はアサルトフォートレス"ロングヴェール"の管制用に増設されたコンソールとシートの間に納まっている。

 ハレは以前見たアナスタシア機のコクピットの狭さを思い出していた。

 

 ミエリは糧食パックを開封した。

 《袰月》の乗員は必要なエネルギーが抑えられた効率的な肉体に調律されている。

 だが、糧食パックはその基準に合わせていない。外部に提供したり、漂流中の物々交換に用いることを想定していた。

 

 金髪のオレ娘が選んだランチは鯛のポワレをメインディッシュにしたもの。サイドメニューやデザートに間食など、個別に梱包され、パック一つだけでも相当な量が詰め込んである。

 

 食事は全て出来立ての状態で保存されており、保存期限は宇宙の熱的死までと大真面目に書かれている。

 どんな高度な技術が用いられているのか、ミエリには想像もできなかった。

 

(上級将校向けの食堂で出される料理だぜ、こいつは)

 

 理想的な焼き具合の鯛にたっぷりとレモンバターのソースを纏わせる。皮は香ばしくパリパリ、身はしっかりと火が通っていながらもふわふわ。

 とても軍用レーションとは思えないほど美味い。

 

 不意に灰音が心配になり、通信ウィンドウで顔色を窺った。たっぷりとケチャップとマスタードをかけたホットドッグにかじりついていて、食欲旺盛。

 

 栄養を摂れればそれでいい、というのが灰音の食事に関する口癖だった。

 無機質な戦闘美少女らしい考え方だが、実態は単なるファーストフード好きである。和洋問わず、《袰月》のあちこちのファーストフード店に出向いており、ミエリも立ち食いそば屋に一緒に出掛けたことがある。

 

『んっ? どうかしたのか?』

 

 ミエリの視線に気づき、食事の手を止める灰音。

 

『いや、良い食いっぷりだなって』

『うむ、エネルギー補給は常に万全にしておきたい』

 

 口元にケチャップを付けたまま、クールに言い放つ灰音が面白くて、ミエリは思わず笑ってしまった。

 

『ケチャップがついてるぞ』

『むっこれは恥ずかしい』

 

 そう言って、指でケチャップをぬぐい取る銀髪赤眼の美少女であった。

 

 

 ノイミ・ローレンは昼食会の席でロダン提督直々に要請されたデモンストレーションを渋々承諾した。

 

 逃げるように食堂から退出して艦内トランスポーターのプラットホームに向かっている。

 

 ハイペリオン・グループが最新技術を投入して建造したアンフィニ級空母の中枢区画は大型艦としても極めて豪華な造りだ。

 

 それは単にこの区画に勤務する上級乗員を愉しませるためでなく、自動殺戮兵団(プラネット・マーダー)に酷似した艦の中にいる事実から目を逸らすためだ。少なくともノイミはそう考えている。

 

「連合の威光が失墜することは銀河の安定を損なうことに直結するのです。状況は緩やかですが、同時に切迫している。

 ローレン博士だけがこの事態を打破し、《袰月》に適切な力関係を教えることができるのです」

 

 トランスポーターを待ちながら、ノイミはロダン提督の発言を反芻した。

 

(実戦投入などもっての他の段階だと何度も報告したのに!)

 

 研究主任として理詰めで反論することはできる。しかし、ノイミはノーと言うことを許されない立場だ。

 人類連合拡散派のプラネット・マーダー研究の成果と自らの才能を対価に、ハイペリオン・グループに庇護されている身なのだから。

 

 トランスポーターに乗り込み、ラボに足早に向かう。

 ハイペリオン・グループはプラネット・マーダーのリバースエンジニアリングに注力しており、アンフィニはその成果の一つ。

 しかし、それは最終目標の過程で生じたものに過ぎない。

 プラネット・マーダーそのものを制御し、絶対的な軍事力を手にしようと目論んでいた。それは銀河の支配者になる、という大それた野望だった。

 

 数百年間、宇宙を彷徨い続け、奇跡的に救助されたノイミはグループの野心を実現させつつあった。

 当時と比べ物にならないほど充実した研究環境とノイミ自身の才能が結び付き、今になってプラネット・マーダーの研究は急速に進んでいた。

 

 格納庫の一つに併設されたラボに入る。研究スタッフは慌ただしく動いている。

 研究主任であるノイミが呼び出された時点で察していたようで、起動準備を進めてくれていた。

 

 副主任がノイミに報告する。

 

「コアマテリアルは"ベルカ"、"チェルシー"ともに安定しています」

 

 格納庫には二体のプラネット・マーダーが収容されている。タイプ・タナトス、最強最悪の戦闘力を持つ個体だ。十数年前に連合が多大な犠牲を払って捕獲した機体であり、特にベルカはハイペリオンの目的を達成する最も重要なパーツであった。

 

 コア・マテリアルとはタナトスに超常的能力を与えている胸部ユニットを指す。ベルカとチェルシーはそれぞれのコードネームだ。

 機体そのものはT2、T3と呼ばれている。二番目と三番目に観測されたタナトス型だ。

 

「ありがとう。念のため、私が最終調整を行います」

 

 端末を手にノイミはタナトスが拘束された格納庫に向かった。

 ラボから直通のドアを通り、休眠状態にあっても言いようもないほど恐ろしく感じる漆黒の巨人に接近する。

 マーダーは人間の精神をかき乱し、恐怖を与えるよう設計されている。

 形状だけでなく、全ての個体が放つ気配、実際には高次元的エネルギーの微かな放射が精神に影響を与えるのだ。

 

 それを理屈で理解していても足が竦んでしまう。恐怖を振り払いながらノイミはキャットウォークの階段を昇り、胸部装甲が開いたままで、露出しているコア・マテリアルを点検する。

 

 液体に満たされたカプセルで微睡む銀髪の少女。

 

 それがコア・マテリアルだった。幾度となく前に立っても湧き上がる罪悪感が薄れることはない。

 タナトスのコアは人間そのものだった。極めて高レベルの異能者がそのまま生体ユニットに使われている。

 二機のコアは銀髪の少女で、姉妹のようであった。ベルカは嫋やかな印象、チェルシーは活発な印象。

 

 顔立ちや体付きは見る者に人格を想像させるほどで、単純に培養された有機部品であるとは思えなかった。

 いかに当時人類最高峰の高次元技術を有していた殲滅派といえど、人工的に高レベルの異能者を生み出せるとは流石に考えられない。

 

 コア・マテリアルは頭部の独立した制御ユニットに操られており、高次元作用の発生源になっている。

 

 ノイミは端末で状態を確認し、ベルカとチェルシーに投薬を行う。ノイミが確立したマーダー制御技術は、頭部ユニットを改造し、指令信号を上書きする形で行われる。

 投薬は元々タナトスに備わった機能だった。

 少女達に刺されたケーブルから薬物が投与された途端、微睡んでいた銀髪の少女達が悶え苦しみ出す。

 薬物の中身は劇薬であり、凄まじい苦痛が与えられている。

 

 二人の少女の見開かれた真紅の瞳がノイミを見つめるが、ただ白衣の女の姿を反射しているだけ。身体的な反応は示すものの、自我を有している様子はなかった。

 投薬が終わるとベルカ、チェルシーは力なくカプセルに浮かんだ。

 コアとして安定したパフォーマンスを発揮できる、最適なコンディションに調整されたのだ。

 

「ごめんなさい」

 

 ノイミはカプセルの中の少女達に謝罪すると、ラボに戻る。装甲が閉じ、少女達を閉じ込めた。

 

 連合が原則としている人道主義に則れば、少女たちをマーダーから解放し、保護するべきだ。

 しかし、ハイペリオンはコアの正体を知りながら、マーダーの部品として扱っている。

 

 コアの負担を軽減するための改修をノイミは提案した。しかし、貴重なサンプルが機能しなくなる可能性を考慮して却下されていた。

 

 解析が難航している以上、悪戯にマーダーに手を加えるべきではないと提言したのはノイミ自身だと反論されれば黙るしかなかった。

 ノイミにはグループの非道に抗う勇気はなかった。

 他勢力とって極めて有用な知識を持つ彼女が従わなくなれば、グループに処理されると確信していたからだ。

 

 

「T2、T3を起動します。暴走の可能性があると判断したら各自の判断でシャットダウンを」

 

 ラボに戻り、起動プロセスを監督する。

 

 今回のデモンストレーションに際して、最大限のフェイルセーフをかけてあるが、それでも暴走の可能性はあり得る。

 プラネット・マーダーからすれば、本来と異なる命令が下されている状態にあり、それが異常であると判断されれば、制御系統が復旧してしまう。

 

 確かにここ数ヵ月は暴走の兆候すらなく、マーダーは従順になっている。しかし、相手は人類の殺戮を至上命令とする機械のバケモノなのだ。

 

 いつ牙を剥くか分からない。

 

 不気味な駆動音を響かせ、タナトスは単眼を深紅に発光させた。ラボにいる研究者たちは揃って息を呑む。

 

 ノイミは毅然と漆黒の機体を睨む。

 そうしているうちに、アンフィニに撃沈判定を喰らわせた、少女の猛々しい名乗りを思い出したのは、彼女がタナトスに対抗できる存在だからだろうか。

 

 ミエリ・ライオネル。男性から少女に生まれ変わった拡散派の英雄。異能者として忌み嫌われながらも、その境遇に挫けず戦い続けた人。

 厚遇されながらも研究成果が乏しく、上級将校から叱責とは名ばかりの暴行を受けそうになった自分を助けてくれたこともある。良い人だった。

 

 アンフィニに撃沈判定を食らわせたあの名乗りは、自分に存在を伝えるためだったのだろうか。

 

 ミエリ・ライオネルが存命であり、《袰月》のアロウライダーになったことは既に知っていた。

 オルランド星系を表敬訪問した教導学園の生徒に、コア・マテリアルに酷似した銀髪赤眼の少女の姿が確認された。

 

 ハイペリオンは《袰月》がタナトスを回収し、マーダー技術の解析を行ったと結論付けた。

 少女を調査する過程で、ミエリ・ライオネルの存在も把握し、ノイミにその情報がもたらされたのだ。

 

 ファイアイーターなる超高性能アロウヘッドを操る長距離打撃戦隊というのは女子高のクラスでもあるようで、ミエリは星間ネット上のSNSに投稿されているショート動画に時折映っていた。

 

 輝くような美しい少女達の一員になって、恥ずかしそうにダンスを踊るミエリの姿。

 制服の際どい丈のスカートを翻し、銀河全体に流行っている、白頭鷲主義連合のアーティストの曲に合わせて手足を躍らせる金髪の美少女。

 高身長な集団にあって背が低いのでよく目立つ。

 

 ダンスが中盤に差し掛かると、楽しくなってきたのかスカートの下の純白が露わになるのも気にせず、伸びやかにミエリは踊っていた。

 

 脳裏に浮かぶ華やかな笑顔と笑い声が溢れる青春いっぱいの眩い映像。目の前にある漆黒の殺戮機械。二つは逃れられない重力のようにノイミを苛んだ。

 

 こみ上げてくる感覚に彼女は心の中で呟いた。

 

――――気持ち悪い、と。

 

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