ウォーヘッド・アンド・バスターキャノン-TS金髪オレ娘エースは美少女クラスメイト達と宇宙を駆け無双する- 作:ザンザザン!
明るい照明で隈なく照らされた屋内プール。そこは白で統一された無機質な空間だった。
たった独り、パトリシア・シェリンガムは泳いでいた。
クロールで水をかき分け、蹴り進む音だけが広いプールに響き渡る。
それは人目には優美と思わせる泳ぎだったが、パトリシアは肉体を過酷に追い込み、全力で水中を進んでいた。
このプールは遊泳用ではない。訓練用の施設だ。飾り気が一切なく、機能性が重視されている。
パトリシアの水着もこのプールと同じく、機能性だけを追求していた。
鮮やかなスカイブルーにライトイエローのラインが入った競泳水着だ。
水の青さとも異なる鮮烈な色合いで、パトリシアの均整の取れた身体に吸い付いている。レッグ角度は腰よりも遥かに高い位置にあり、深くて鋭い鋭角が食い込んでいた。
パトリシアがプールの端に達してターンする回数は二十九回にも上る。水中のマラソンとも呼ばれる過酷な1500mに挑戦しているのだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」
スイムキャップを乱暴に外し、金髪が広がる。全力を出し尽くしたパトリシアの呼吸は荒く、体が酸素は求めていた。
四肢には強い疲労と痛みがあり、水を蹴り続けた太股は張り詰めていた。
プールサイドにしがみつくような姿勢で息を整えたパトリシアが顔を上げると、空間に投影された映像スクリーンがタイムを表示した。
14分30秒68。
二十一世紀初頭の男子の世界記録に極めて近しい驚異的なタイムを叩き出したというのに、パトリシアはスクリーンを睨み、険しい表情を浮かべていた。
シェリンガム家の末裔として、傲慢にも感じられる高いプライドを持つパトリシア。
だが、その誇りに相応しい実力を追求し続けるストイックな姿勢の持ち主でもあり、才能と努力の双方を兼ね備えた少女であった。
素晴らしいタイムに驕ることなく、むしろ、「こんな程度では足りない!」という表情だ。
容姿端麗な金髪の美少女は自分の不甲斐なさを噛み締めていた。
「――――時間ね」
泳ぎ直したいところだが、"本番"に向けた調整に立ち会わねばならない。
ミエリ・ライオネルとの対決を切望するパトリシアだが、それは己のエゴであるという自覚も強い。
パトリシアは意識して素早い動きでプールサイドに上がった。
激しく体力を消耗する1500mを泳ぎ切った後だというのに、身体に感じる疲労や休息を求める本能を強靭な意志で律している。
気品ある美しい姿勢でプールサイドに立つ。
それだけではない。パトリシアは激しい脚の動きで食い込んだ競泳水着の布地を引っ張り、股座とお尻の布地を正した。
そうして、身嗜みを整えてから、モデルのように颯爽と歩き出した。
パトリシア・シェリンガムはたとえ人目がなくとも、一分の隙も見せない主義であった。
◆ ◆ ◆
金髪碧眼のオレ娘、ミエリはエレベーターで基地の地上区画に向かっていた。
エレベーターには灰音、ベルカ、チェルシーの三人が一緒に乗っている。ミエリを見送るためだ。
「暑っ」
基地の外に出ると強い陽射しが降り注いだので、ミエリは思わず呟き、太陽に手をかざした。
ナノシェルスーツで覆われている首から下は陽射しから守られている。唯一露出している顔にだけ、暑さを感じていた。
紛れもない夏の気候である。《袰月》の気候は秋なので、S7にいると季節が一つ前に戻ったように思えた。
今日から二日間の休暇に入る。
その間も《袰月》の関係者は、その間もナノシェルスーツを着用するよう命じられていた。
ナノシェルスーツは汎環境スーツとはいえ、軍事用の物々しい外見。
何より着用者の肉体を著しく強調して
《袰月》の艦内ならともかく、余所をこんな格好で歩けば異様な姿で人目を集めるのは確実である。
保安上の合理性の欠片もない、ハラスメントであることは明白であったが、ミエリをはじめ、《袰月》防衛艦隊群の兵士の誰も臆していない。
惑星S7の連合人の反応も意外と好評だったのもそれを後押ししていた。
好き好んでやっているのではなく、中央から押し付けられた格好ということもあり、むしろ同情的に見られている。
代表である袰月カイネを筆頭とした《袰月》側の立ち振る舞いの良さもあり、過激だとか、性的で下品という批判の声は押し流されていた。
要するに、イーストン大佐の陰湿でせせこましい企みの一つは失敗に終わっていた。
(この暑さでワンピース一枚羽織るってのは隠し過ぎだよな?)
そう思いながら、金髪のオレ娘、ミエリ・ライオネルは自分の身体を見下ろした。
光沢が艶めかしい青いナノ被膜が少女のカラダの大部分を覆っている。その厚さ、なんと0.01mmというサランラップ級。例外は頬から顎、首元、手足などであり、スマートな黒い装甲で防護されている。
被膜に先端まで浮き出た小振りな胸、引き締まった腹筋。締め付けるように密着するので、ハダカよりもくっきりとボディラインが出てしまう。
本来、黒色の局部装甲が"I字"に吸い付いて目立つ下腹部。
特に注目を集めてしまうその部位は、今の規則でできる限りのTPOへの配慮とミエリ本人の羞恥心からホットパンツで隠してあった。
ぴったりフィットした黒いホットパンツなので、ミエリのお尻の優美な曲線が見て取れる。
鍛えたカラダを堂々と曝しつつ、オフの雰囲気も出せるファッションだ。
布切れを腰に纏っただけの格好をそう呼んでいいのかは疑問ではあったが。とにかく、きゅっとくびれた腰に両手を当て、ミエリは今日の装備を適切なチョイスと結論づけた。
ホットパンツを選んだのは、動きやすくミエリ好みなのが第一の理由だが、斧槍兵部隊《ハルバーディア》の制服を意識している側面もあった。
他の戦隊メンバーも、ナノシェルスーツの上から私物の服を身に着けている。前を閉じて隠すことはしていない。
そんな中、灰音たち三人は普段通りの格好であり、黒紫色のナノ被膜の専用ナノシェルスーツだけを装着している。
それは包み隠さず、出していくスタイルだった。
淑女的な性格のベルカは、今の姿に全裸でいるような錯覚を急に覚えてしまい、そわそわしていた。一方、双子であるチェルシーや姉の灰音は、まるで気にしていない。
迎えの車は、既に基地の正面ゲート前で待っていた。軍用の四輪駆動車だ。ミエリはこれから単身、あの車に乗り込む。
「約束の時間より十分早いですね」
車を見つめるベルカは意外という表情だった。
連合の人々は概して時間にルーズなところがあり、短期間の交流でもミエリ達はそれを思い知らされた。
僅かな時間のズレが致命的になることさえある軍事作戦や、面目に関わる公式の場は流石に正確無比だが、それ以外は数十分間の遅れが当たり前だった。
ミエリは車内の顔ぶれを観察した。
「パトリシアは居ないか。残念だな」
ハンドルを握っているのは、黒銀色の髪に褐色肌の大人の女性。他の面子はダークブルネットの勇ましい女子、金髪にメガネの美少女、ストロベリーブロンドの派手で華やかな少女。
パトリシア・シェリンガムを除く、
「バックアップは万全だ。安心して行ってくると良い」
休暇で基地を引き籠もるのも、外交上よろしくない。
そうなれば、ヒューストン大佐の思う壺なので、戦隊の面々は各々S7の各所に繰り出す。同時にミエリをフォローできるよう、常に誰かが近辺で見守ることになっていた。
ゼラ先生承認の元、計画が策定されていた。
タイムスケジュールを入念に練り、試作小隊の淫魔風JKを中心に予備計画まで考え抜き、交代でミエリをガードすることになっている。
大袈裟過ぎるほどのバックアップ体制。ミエリはそう思ったが、皆やる気満々だったので断ることはできなかった。
「付き添いしてくれたわけだし、礼の一つもしないとな」
金髪のオレ娘は振り返り、銀髪の少女たちを見た。少しばかり大胆な冒険心、あるいは悪戯心がミエリの中に生じていた。
「礼なんて――んっ」
ミエリは素早く、さり気なく、当たり前のように灰音の頬にキスをした。それも、軍用車で待つ四人に見せ付けるように。
灰音は金髪オレ娘の大胆な行為に、思わず目を見開いた。どうにか普段のクールさを辛うじて保つ。
「今日のミエリは大胆だな。びっくりした」
灰音の本音はめっちゃ嬉しい。飛び跳ねそうだったが、人前なので我慢した。しかし、クールを極めた無表情に微かに朱色が差している。
ベルカとチェルシーは、姉と慕う二人が頬とはいえ、親密な睦み合いをしたものだから陶然としている。
「二人にも」
そんな無防備なウェーブヘアとショートヘアの双子にミエリは近寄り、頬にキスする。
「ミエ姉様がキスしてくれた……」
「幸せ過ぎる。ミエ姉大好き……!」
嬉しさに腰が抜けそうなベルカとチェルシー。
そのまま地面にへたり込んでしまわないよう、灰音はそっと妹達の腰に腕を回して支える。
さて、反応はと。ミエリは再び車内をうかがい、ついでに手を振ってみせる。
狙い通りの効果に得意気になりながら、金髪オレ娘は車に向かって進んだ。
ミエリは車のドアを開け、後部座席の空けてあるスペースに滑り込んだ。
ナノ被膜が張り付き、ホットパンツに覆われた可愛らしくも凛々しいお尻をシートに下ろす。
ミエリの席は運転席の後ろだ。ちょうど四人に取り込まれる位置である。
運転を担当してるのは年長者であるシュトリ。灰銀髪の褐色美人。
助手席には金髪ショートヘアでメガネのレインリィ。レインリィは冷静な眼差しで、こちらを見つめている。
ミエリの隣にいるのは、ダークブルネットの髪の少女アストリドだ。
格闘技やスポーツに明け暮れているのがひと目で分かるカラダをしている。
ストロベリーブロンドのメルニア。三列目から寄りかかるようにして、満面に笑みを湛えている。
「ミエリ・ライオネルだ。今日はお誘いどうも」
休暇が明ければ対決することになるであろうライバル達に、ミエリは陽気に挨拶するのだった。