冷蔵庫に女の子とロールケーキが入っていたので食べました。   作:匿名天使

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冷やし天使始めました

 

皆さんはロールケーキをご存知だろうか?

 

 ロールケーキとは薄い長方形に焼いたスポンジケーキに、ジャムやクリーム類(ホイップクリーム、バタークリーム、カスタードクリームなど)、細かく切ったり甘露煮(グラッセ)にした果物などを載せ、渦巻き状に巻いたものである。

 スポンジ生地は、ココア・コーヒー・抹茶などを混ぜて作られる場合もある。また、生地や具に野菜を使用することもある。スポンジを巻いて作るので基本的に完成時には円柱状になり、食べる時には原則として適当な厚さに輪切りにして供する。

 外観は、巻いた後に何も飾り付けをしない、または粉砂糖を振るだけの単純なものから、さらにクリームなどを塗ったり、果物やチョコレートで飾った華やかなものまで様々である。

 

 

 そんなロールケーキと真っ白な翼の生えた女の子が冷蔵庫の中に入っていた。何を言っているのか分からないと思うが俺も何が起こっているのか分からない。

 

 

 

 大学に入ってから一人暮らしを始めた俺には中古ショップで買った冷蔵庫に用事があったはずなのだが驚きのあまり、冷蔵庫にどのような用事があったのか忘れてしまった。それほどにロールケーキと女の子が自宅の冷蔵庫に入っていたというのは驚愕的な出来事だったのだ。

 

 とりあえず分かることは彫刻のように美しい女の子が眠っているということだけ。そっと手に触れてみたが低体温症で寝ていることが分かる。体は震えていて呼吸も弱々しい。まるで卵の中で孵化を待つ鳥のようだ。

 

───やばくね?

 

 アパートで一人暮らしだから頼れる人はいないし、病院に連れて行こうにも翼の生えた女の子を連れ込んだら異常者扱いだ。

 何をすればいいのだろう?冷蔵庫に入っているものを温めるためにはオーブンを使う?そんな冗談を言ってる場合じゃねぇ!

 

 とりあえず女の子を冷蔵庫の中からベッドに運んでヒーターとエアコンで暖房を起動する。あとは何が必要だろうか?………酒?いやだめだろ。温かいもの?カイロがあった気がする。

 

 そう思い母さんが大量に送りつけて余っていたカイロを脇の下や足の付け根に貼る。女の子の服を脱がせて脇を勝手に見たが今は緊急事態だし彼女も許してくれるだろう。………許してくれるよね?

 

 

 女の子を看護していて気づいたのだが白い翼はコスプレなどではなく本物だ。まるで天使のようだなと思っていると、それを否定するかのようにピンク色のハンドガンが腰からぶら下がっているのを見てしまった。

 ホルスターのせいで全体が見れないがPPK(警察用拳銃として開発されたワルサーPPを私服刑事向けに小型化したもの)によく似ている。こんな細い腕で撃てるのだろうか?

 

 そんなことを考えていると女の子が目を覚ます。ゆっくりとベッドから起き上がり、それと同時に頭の上辺りに赤い蓋、中の色は白の輪っかが現れる。本物の天使様でしたか……最近の天使って銃を携帯するなんて初めて聞いたなー

 

「………ここは……」

「ここは日本の〇〇地方〇〇県〇〇市の〇〇区、〇〇という場所だ。君が俺の部屋の冷蔵で眠っていた理由はわかるか?」

「…私が…冷蔵庫の中で?それに『にほん』とは…?」

 

 きょとんとした顔で首を傾げる。この反応を見るに冷蔵庫に入っていた記憶もなさそうだ。日本も知らなそうだし異世界とか天国からこっちの世界に来ちゃった?最近読んだラノベでそういう展開は見たけど、まさか俺が経験するなんて。

 人生は諸行無常というが無常すぎると思う。

 

「日本というのは国名だ」

「でしたら……ここはトリニティでは無いのですか?」

「トリニティがなんなのかは知らないが違うと思う。翼の生えた少女なんて初めて見たからびっくりしたぞ」

「初めてですか?翼の生えた生徒は多いと思うのですが?」

「え?……少なくとも翼の生えた人間は知らないな。それに君みたいに天使の輪っかのようなものも見たことがない」

「ヘイローを見たことがないのですか?!」

「その頭に付いてるのヘイローっていうの?見たことも聞いたこともない」

「では…『学園都市キヴォトス』という言葉に聞き覚えは?」

「ないよ。学園都市なら幾つか知っているけどキヴォトスという名前の学園都市は知らない。ほら、ネットで検索しても一切情報は出てこないだろ?」

 

 スマホで『学園都市キヴォトス』と調べた検索結果を表示した画面を見せる。そこには0件の文字が浮かんでいた。

 

 その事実を伝えると女の子は現実を直視するのが怖いのか目を瞑ってしまう。天使のような見た目とはいえ見た目通りの年齢で言えば高校生ぐらいだろう。そんな子がいきなり知らない世界に来てしまった可能性があるともなれば辛いのは当然だ。

 

「少し残酷だが俺の予想を話させてもらうよ。

まず君はまったく別の世界から偶然にもこちらの世界に来てしまった。君のいた世界とは違ってこちらの世界では翼や輪っかの付いた人間は存在しないし銃の携帯も認められていない。

君がこちらに来てしまった理由は明らかではないが冷蔵庫が関わっていると思う」

「そう……ですか」

 

 声が震えている。とても弱々しいがなんとか平静を保とうと堪えているのだろう。ここで励ましの言葉を送れるほど強い人間じゃない自分に少し腹が立つ。

 

「とりあえず冷蔵庫の中に入ってみてそっちの世界に帰れるか試してみる?」

「…お願いします」

 

 俺は冷蔵庫の中を全て取り出そうと冷蔵庫の扉を開けた時に思い出した。冷蔵庫を掃除するために仕切りを全て洗っていたんだった。だから彼女が冷蔵庫に入ることができていたのか。

 何故か入っていたロールケーキを取り出し、コンセントを抜いて冷蔵庫の冷たさがマシになるまで待つことにした。

 

「そういえば体調は大丈夫か?低体温症でかなり危ないことになっていたはずだけど……」

「大丈夫です。ホットミルクも頂いておりますし」

「そっか…よかった。……あっ、そういえばカイロを貼るために少しだけ服を脱がせたことを謝っておく。緊急事態とはいえ年頃の女の子が異性に脇やお腹を見られることは嫌だろうからな。申し訳ない」

「気にしないでください。その行為のおかげで私は助けられたのですし、少し恥ずかしいですが医療行為にとやかく言ったところで意味はありませんから」

 

 超いい子だな。ネット掲示板でAEDを使用した際に服を脱がせたことで男性が訴えられる話を見たから少し警戒してしまっていた。

 

「そろそろ冷蔵庫の温度も上がった頃だろうし入ってみるか」

「わかりました。それでは失礼して……っ!」

 

 少女が立ち上がった瞬間によろめいて倒れそうになったので倒れる前に肩を支える。

 

「ありがとうございます」

「気にしないでくれ、低体温症のせいだろうから仕方がない。もし向こうに帰れたとして冷蔵庫の中だと本末転倒だから防犯ブザーを渡しておく。これを引っ張れば騒音が鳴るから誰かしら気づいてくれるはずだ」

 

 俺は1000円くらいした防犯ブザーを少女に持たせて冷蔵庫の中に入れる。ここだけ聞くと俺がサイコパスみたいに聞こえるがやっていることは言葉通りの事実である以上否定しきれない。

 

「じゃあ閉めるよ」

 

 驚かないようにゆっくりと冷蔵庫の扉を閉める。それから約1分の間、冷蔵庫の前に立っていると中から防犯ブザーの音が聞こえてきたので扉を開けた。涙目の彼女が防犯ブザーを握っていたのでもう一回ベッドに連れて行って座らせる。

 

「やっぱり帰れなかった?」

「はい……申し訳ありません」

「謝らなくていいよ。一緒に帰る方法を模索していこうか」

「なぜ貴方は1円の利益にもなることがない見ず知らずの私を助けようとするのですか?」

「…そっちの世界でも単価は円なんだね。助ける理由に関しては死んだ爺ちゃんとの約束で女の子は命に変えても助けろって言われたからかな。あとは君が辛そうな顔をしていたからだ。そんな顔をしている人を無視できるほど非情な人間では無いからな」

 

 そう言うとどこか驚いたような表情を浮かべる。

 

「おそらく長い付き合いになる可能性もあるし自己紹介をしようか。

俺は旅風 (ハジメ)。〇〇大学の三年生。好きに呼んでくれ」

「私はトリニティ総合学園、ティーパーティーのホストを務めております桐藤ナギサと申します。これからよろしくお願いします、ハジメさん」

 

 ナギサは笑顔をつくる。精一杯自然に。でも、精一杯やることで、既にもう自然ではない。しかし慣れきっている。

 おそらく作り笑顔が慣れるほど社会に適応してしまっているのだろう。高校生の少女がだ。

 おそらく今も俺やこの世界に対する恐怖で押しつぶされそうなのに必死で堪えているのだろう。

 

 こうして、一般大学生である俺と異世界から冷蔵配達で届いた少女ナギサとの何気ない日常生活が始まった気がした。

 

 

 

 

 ナギサが元いた世界、キヴォトスという学園都市は魔境だった。銃や爆弾は蔓延り、コンビニや自販機でも買えてしまうほど。キヴォトス人たちは銃弾を受けても少し痛いぐらいのダメージしかなく、その辺で銃を使った争いが起きていた模様。

 

「…………この銃は金庫に入れておくね」

「はい、わかりました」

「意外と素直に従うんだね、文化の違いから動揺すると思ってた」

「私が銃を持ったところで1人では誰にも勝てませんし、それがこの世界の法律というのなら従うべきでは?」

「うーん、そうなんだけどね」

 

 正直に言うなら「え?銃を手放して危険ではないでしょうか?」みたいなのが見たかった。

 

「というかナギサは重役をしていたんだよね?襲われることはなかったの?」

「何度もありましたがミカさん……幼馴染の方が助けてくれましたので」

「そのミカさんは強いんだ」

「とても強いですよ。隕石を降らすこともできましたから」

「………失礼なことを承知で言うが本当にナギサと同じ人種?」

「…………」

 

 無言はやめてくれ。それと目が泳いでいるぞ。マジで化け物だったのか?確かに強い幼馴染がいてくれたら自分が戦闘する必要もなかったのだろう。

 

 突然俺は気になったので

 

「なあ、本気で俺の手を握ってみてくれないか?」

「…はい?わかりました」

 

 ナギサが小さい手で俺の手を握り、力を入れる。弱いわけではないが強いわけでもない。一般成人男性ならば彼女を押さえつけることもできるだろう。

 

「やっぱりこの銃は返しておくね」

「よいのですか?」

「うん、そもそも翼やヘイローのせいで外に出られないのなら法律なんてほとんど関係ないしな。それに銃を持っている方がナギサも安心できるだろ」

「この世界の人間は銃弾1発で死んでしまうと言っていましたのに…」

「だからだよ、その銃があれば俺を一撃で殺せる。つまり俺がナギサに対して危害を加えないための抑止力になるからな。理由が分からない平和より理由の分かる平和の方が人間は安心するものだぜ」

 

 別にナギサを襲うつもりは無いけど襲わない理由を作っておいた方が彼女も安心できるだろうと考えて金庫に入れようとしていたピンク色の銃をナギサに渡す。

 

 少し警戒を下げてくれたのか少しだけ表情が明るくなる。

 

 このまま警戒を無くしてくれたらいいのだが自分よりも歳上の男性相手にそれは難しい話だろうから徐々に信頼してもらえるように頑張ろう。

 

 

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