冷蔵庫に女の子とロールケーキが入っていたので食べました。   作:匿名天使

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お嬢様は聖夜に揶揄われる【後編】

 

 

「ナギサってさ…良いところのお嬢様なのに家庭的だよね」

 

 ポニーテールにエプロン姿で夕食を作っているナギサの隣で別の料理を作りながら話しかける。ナギサはビーフシチューの味見をした後に砂糖を少し加えながら答える。その姿があまりにも家庭的だった。

 

「そうですね……これでも花嫁修行のようなことはしていたので。それに幼い頃からミカさんにお菓子を作っていたので。それよりも少し味見してください。どうですか?」

 

 そう言いながら小皿に入れたビーフシチューを手渡してくる。味見をしてみると程よい塩加減でコクがありとても美味い。

 

「うん、美味しいよ。こっちもバジルソース完成したところだし夕食にしようか」

 

 切って皿に並べておいたトマトとモッツァレラチーズのカプレーゼにバジルソースを乗せて机に並べる。ビーフシチューやオーブントースターで焼いたフランスパンも並べる。

 ナギサが来てから買った2人用の机と椅子に座り、対面にナギサが座ったことを確認すると俺たちは両手を合わせる。

 

「「いただきます」」

 

 ビーフシチューに入っているお肉を一口。赤ワインで煮たおかげで口の中でホロホロと崩れるほど柔らかい。肉の旨みと野菜本来の甘味が調和して皿の中で完成しきっている。

 

「赤ワインの力って…すごいな」

「そういえば…ハジメさんはお酒をお飲みになられないのですか?」

「うん?酒か……ナギサが来る前は結構飲んでたけどナギサが来てから一切飲んでないな」

「ではクリスマスの今日ぐらいは飲んではいかがですか?上質な赤ワインもあるようですし」

 

 ナギサが言っている上質な赤ワインは爺さんの形見の一つで飲む機会を窺っていた物だ。爺さんが昔に20万円という大金で知り合いに譲ってもらったと言う高級ワイン。爺さんの形見は1人息子である父さんにではなく唯一の孫である俺にほとんど相続する予定だったのだが当時の俺が未成年であったため金銭的な物や土地は父さんに、物的な物は俺が継ぐことになった。しかし赤ワインなど飲む機会があまりないので味の違いが理解できない可能性もあるが飲まないと意味がない。

 

 

「せっかくの機会だし今開けるよ。ビーフシチューにも合いそうだしな。ナギサは飲むなよ……いや待て、そういえばキヴォトスでも未成年が酒を飲むことって犯罪なのか?」

「自治区によって変わりますが私のいたトリニティではこの世界と同じく犯罪でした」

「じゃあ飲まない方がいいか。ナギサならロングアイランド・アイスティーとか好きになりそうと思ったけど」

「なんですか?そのお茶のような名前のお酒は?」

「紅茶の味がするカクテル。俺も飲んだことがないけど紅茶を一切使わずに紅茶の味を酒で再現しているらしい」

「それは…飲んでみたいですね」

「他にも紅茶のリキュールとかもあるから大人になったら試してみるといい」

 

 将来ナギサと一緒にお酒を飲める日が来るのかなー。なんて思いながらキッチンへ行き、棚の奥に置いてある赤ワインが入ったビンと昔使っていたワイングラスを取り出しテーブルに持っていく。

 

「あの、コルク抜きは?」

「この家にそんな物は無いよ。だからこうやって」

 

 小さいフォークをボトルのコルクに勢いよく突き刺し、コルクが壊れないように優しく回していく。するとポンッと音を立てながら葡萄の芳醇な香りが部屋全体に広がる。

 

「とても良い匂いですね」

 

 ワイングラスにゆっくりとワインを注ぐ。透明なグラスに注がれた赤黒いワインが光を取り込み宝石のような美しさを見せる。ワイングラスを回して空気を含ませ、グラスの蓋に口をつけて喉に流し込むと葡萄の渋みが口いっぱいに広がる。しかし味自体はしつこくはなく、飲みやすい。俺は人生でここまで美味い酒を飲んだことがない。

 ビーフシチューを付けたフランスパンにも良く合い、どんどん酒が進んでいく。

 

「赤ワインとはそれほど美味しい物なのですか?」

 

 ナギサはゴクリの喉を鳴らす。その目は大人達が飲んでいるビールが気になる子供のようだった。

 

「……めっちゃくちゃ美味い。それにナギサが作ったビーフシチューにも良く合うよ。ありがとうな」

「ふふ、どういたしまして」

「あ、そういえば」

 

 俺は酒に酔って忘れないうちに机の横に置いていた紙袋を膝上に置いて、中から目当てのものを探す。

 

「先日から気になっていたのですがその袋は何ですか?」

「ちょっと待って………あった」

 

 袋の中から手の平からはみ出るぐらいで長方形型の箱を取り出し、ナギサに手渡す。

 

「あの…これは一体…?」

「クリスマスプレゼント」

「よろしいのですか!?」

「よろしいですよ」

「今ここで開けても?」

「どうぞ。お嬢様であるナギサから見れば安物だけどね」

「…トパーズのペンダントですか?」

「ナギサの瞳の色と同じ色のトパーズのペンダントだ」

「……ありがとうございますハジメさん!」

「喜んでもらえたなら何よりだ。とりあえず今はご飯が冷める前に食べようか」

 

 このトパーズのペンダントは1ヶ月前に見つけてクリスマスプレゼントにあげようと思い購入した物だ。ちなみに値段に関して聞かないでくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夕食後、俺はベッドの上で少女を抱き枕のようにしながら頭を撫で回す。情熱的に、愛撫する。

 

「ナギサは可愛いなぁ〜」

「あ、あの!」

 

 ナギサは困惑する顔も可愛いな!食べちゃいたいぐらい可愛いって言うのはこういうことなんだろう。

 

「ハジメが酔っ払ってしまいました…止めるべきなのでしょうが………ハジメさん、私のお好きなところはどこですか?」

「え?……ナギサの好きなところ?

心の優しくいつも誰かを気遣い相手のことを慮ろうとするところが大好き。俺が疲れている時に気遣ってくれることも好き。世界で1番美しいと思えるほどの顔の良さを自覚していないのが可愛い。取り込まれそうになる瞳や形の整った耳、プルプルの唇、花のような芳しい匂いがするプラチナブロンドに輝くの髪は現実の物とは思えないそれぞれのパーツ。撫でたくなるような喉、少しでも力を入れると折れそうなまでに細い腰、白くてふわふわで何よりも美しい翼の壊したくなるような儚さ。そして一つずつが宝石のような羽。きめ細やかな指先は飴細工のように繊細。肩から肘までの柔らかい肉付き。可動域の広い関節部位は精巧に作られたマシンのような機能美を持っている。一切の傷がない真珠のような肌は引き寄せられる。毛穴すら見当たらない足とシミ一つ見当たらない美しい背中は芸術品と見紛うほどだ」

「も、もうその辺で……っ!」

 

 ナギサが俺の口を塞ごうとするので逆に手首を押さえつけてベッドに押し倒す。ナギサの息は荒れており、乱れた髪は扇状的だ。

 

「いや、まだだ。足の先から頭のてっぺんまで好き。紅茶を淹れる仕草も好きだし、ナギサの寝顔も好き。程よい暖かさを持っているのも良い。猫の動画を見ながらニャンニャンと言っていたことも好き。論文を書いている俺の膝に頭を乗せてくる姿も好き。寝ている俺の腕を枕にしている時にすりすりしてくるところも大好き。難しいゲームに怒りながらも翼で俺を離さないようにしてくるところも好き。落ち着いた雰囲気に合わせた俺好みの服装にしてくれているところも好き。照れ隠しに翼で顔を隠そうとするところも好き。料理が上手で俺のために料理をしてくれるところ大好き。寝ぼけながら指を甘噛みしてくれるところも好き。背中を撫でられるたびに甘い声を出してくれるのが好き。翼の付け根の弱いところに触れた時の声が可愛いのが好き。俺の趣味に合わせて部屋着をダサTにしてくれているところが好き。カービィの曲を無意識に口ずさんでいるところが好き。瓶の蓋が固くても諦めずに開けようと頑張っていたところも好き。風呂上がりの少し熱った顔が好き。褒めている時に頭を撫でて欲しいと無意識に主張しているところも好き。ゲームをしている時は女の子座りになっているところが好き。俺はナギサの一挙手一投足が、全てが好きなんだ。声が、目が、髪が、翼が、心が、ナギサに関すること全てが好きなんだ。泣いている顔も、怒っている顔も、幸せな顔も。何もかもが愛おしく思う」

 

 左手でナギサの髪の毛を持ち上げて優しく撫でる。花のような良い香りがする。

 

「……それらの言葉に一切の偽りはございませんか?」

「無い。それだけは断言する」

 

 あ、やばい。眠くなってきたや。ちょうど抱き枕もあることだしこのまま寝てしまおう。

 

「……ハジメさん。きっと聞こえていないでしょうが言わせてください……私を貴方だけのお姫様にしていただけますか?」

 

 ナギサが何かを言ってるのだがよく聞き取れない。まあ、なんでもいいか。おやすみ。

 

 

 

 

 

 

 

 脳が記憶の整理を終えて活動を再開する。瞼が開かれ、俺の眼球は光を捉える。

 

「頭いてぇ、酒飲みすぎた」

 

 頭が痛い。内側から金槌で殴られているようだ。

 左手で頭を押さえようとすると腕に重みがあることや気づく。暖かみもあり、言葉では言い表せない柔らかさも感じる。……ふむ、マシュマロ?いや、もう少し弾力が……っ!!!!!!!!!!

 

 首を動かして左手のある場所を見てみると俺の左腕に……いや、俺の左半身にナギサが抱きついていた。そしてよく見えないが俺の左手はナギサの胸元にある。

 心臓が破裂しそうなほどに鼓動する。全身から冷や汗が滲み出る。どう足掻いても上手く酸素を肺に送れない。まるでナギサに銃を向けられた時と似たような感覚だ。

 視線だけを動かし全体見渡す。俺の脱ぎ捨てられた服に皺くちゃなベッドのシーツ、乱れたナギサの髪。そして記憶は無いが今の状況は酔っ払った俺とナギサが同じベッドで寝ていた……。

 

 ゆっくりとナギサから腕を解き、キッチンへ包丁を取った後部屋の中央で正座をする。包丁の刃を横にして自分の腹目掛けて勢いよく突き刺す。しかしいつまで経っても痛みが走ることはなかった。薄っすらと目を開けてみると俺の手はナギサに止められていた。

 

「ハジメさん!!何をしてらっしゃるのですか?!!」

「ケジメをつけるためにはコレしかないんだ。大人として酔った勢いで未成年に手を出したなんて俺が許せないだ。だから切腹する。お金は全て持っていってくれ」

「ハジメさんは私に手を出してくれていませんのですぐにやめてください!!」

「……マジで?」

「マジです!」

「あぁぁぁぁ!!よかったぁぁ!!」

 

 

 大きく深呼吸をして新鮮な空気を肺に送り込む。先ほどまでうるさかった心臓が緩やかに落ち着いていく。全身の力が抜けて持っていた包丁が落ちると同時に上半身が崩れ落ちる。

 俺の頭は勢いよく地面に激突すると思われたが何か柔らかい物に受け止められる。それは正座したナギサの膝だった。俗に言う膝枕というやつだろう。凄く恥ずかしくて起き上がろうとしても力が抜けて起き上がれないのでそのまま会話することに。

 

「ハジメさんは昨日のことをどこまで覚えていますか?」

「昨日?……確かワインを飲んで……プレゼント渡したっけ?」

「貰っていますよ」

 

そう言いながら首にかけたトパーズのペンダントを見せてくれる。どうやら昨日の俺は忘れずに送っていたようだ。

 

「ということは…アレは覚えていないのですか!?」

「アレとは?」

「あれだけ私を辱めたというのに…酷いです!」

 

マジで何をしたんだ過去の俺!?!?

 

「責任……取ってくれますよね?」

「…っ……俺が何をしたかは覚えていないけど何かやらかしたことは事実だし俺に出来る事ならなんでもする」

「今なんでもと仰いましたよね?それでは……いえ、このお願い事はハジメさんが受け入れてくれる日まで待つことにします」

「受け入れるって……俺なんか拒絶したかな?」

「そうやって無意識にブレーキを掛けているのは気に入りませんね。しかし同時に可愛いと思いました」

「男的には可愛いよりもカッコいいと言われる方が嬉しいのだがな」

「ふふ、ハジメさんは可愛いですね」

「やめてくれ恥ずかしい」

「……私の方が恥ずかしい思いをしましたから」

「その節は本当に申し訳ございませんでした」

「その事は許しましたが自殺しようとしたのは許していませんよ。もし次に自殺しようとしていたら私がハジメさんを殺した後に私も後を追うので自殺なんて考えないでください」

 

 例え話なんだろうけどもヤンデレチックだな。湿度計なんて家にあったかな?

 

「つまり一蓮托生?」

「はい。死なばもろともというやつです」

「だったら死んじゃ駄目だな」

 

 力を入れれるようになってきたので手を使わずに足と腹筋だけで起き上がり、包丁をキッチンに戻す。

 

「とりあえずナギサがいる間は禁酒する。ナギサにも迷惑を掛けたし」

「……たまにでしたらお飲みになられても……」

「次酔っ払った時に何やらかすかわからないから一滴も飲まないよ」

「……仕方ありませんね。そういえば今思い出したのですが、昨日の用事を今日に回してもらったと言っていませんでしたか?」

「あ……」

 

 やべ、完全に忘れてた。そう思いながら壁にかけられた時計を見ると10時ちょうどを示していた。用事は11時からなので今から行けば十分間に合いそうだ。

 すぐさま服を着替えて鞄を持ち、靴を履く。

 

「行ってらっしゃい。お帰りはいつ頃に?」

「うーん、5時ぐらいかな。行ってきます」

 

 笑顔のナギサに見送ってもらい、大学へ向かった。

 

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