東方聖人録 《妖を従える聖人》   作:玄武の使者

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第8話

第7話

 

夜に舞う一つの影。

 

 

それは自分の信じる事を見つけた者の影。

 

 

彼の者は夜の闇の中を進み、心優しき闇の眷属の下に向かう。

 

 

今宵の眷属は・・・・・・二尾の尻尾を持つ妖(あやかし)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~神子の屋敷~

 

 

斑鳩宮にある豊聡耳神子の屋敷。

他の貴族官僚に比べると屋敷の規模は小さく、また使用人の数を少ない。

その屋敷に住むのは神子に何かしらの恩義がある使用人と従者しか住んでいない。

そんな屋敷の内、庭に面した一室で神子は心身を休ませていた。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

神子は自室で自分が居なかった間の会合――といっても、開かれたのは一回だけだが――の内容を確認していた。

 

部屋に居るのは神子だけ。

しかし、神子の耳にはわいわいと喋る声が絶え間なく聞こえている。

中には歌を歌う声もあり、騒がしいというより賑やかという表現が似合う状態だ。

 

 

 

「う~ん・・・・・・大した問題点もなし。平和でいいわね」

 

 

『平和なのいいことじゃん♪』

 

 

『そうそう♪』

 

 

神子の耳にだけ聞こえる声。

それは植物の妖怪、桔梗の心臓を喰らったことで聞こえるようになった植物たちの声である。

 

 

「ふふ♪それもそうだね。」

 

 

『神子様!!神子様!!』

 

 

先ほどとは別の声が神子の耳に届いた。

 

 

「どうかしたの?」

 

 

『例の件です!!』

 

 

植物が述べたのはたった一言。

神子はその一言で植物が言わんとしていることを把握し、立ち上がった。

そして、着ていた衣服を脱ぎ捨てると妖力で衣服を構築した。

 

大きな帽子を被り、ヨーロッパの学生服のような衣服を身に纏う。

色は植物を思わせるような緑を基調にし、頭には二枚の葉っぱの髪飾り。

腰に宝剣と逆刃刀を提げると、情報を持ってきた植物たちに場所を訊ねる。

 

 

「場所は?」

 

 

『此処からひたすら北へ向かった山岳です。』

 

 

「分かった。私が居ない間に誰か来たら・・・・・・」

 

 

『分かってるよ~♪きつーい幻覚を見せる花粉をお見舞いしてやるから♪』

 

 

陽気な声が神子に届いた。

かつて桔梗が育てていた幻覚を見せる植物の言葉に安心感を覚えながら神子は夜空に飛び上がった。

 

 

▼  ▼  ▼  ▼  ▼  ▼

 

 

 

 北の方に聳える山の中・・・・・・此処から北にある山って言えば、県境にある山かな?

 いや、それとも京都と滋賀の境目にある比叡山?

 ・・・・・・・まあ、間違ってたら植物たちに聞けばいいや。

 

 

神子は朧月が大地を照らす中、一人で空中を飛行していた。

斑鳩宮の門には篝火が焚かれて、辺りを炎で照らしている。闇の中で光る炎は上空から見下ろす神子にはよく見える。

 

 

「今日も妖怪たちは攻めてくるでしょうね。

 まあ、私には関係のないことね。今はやるべきことをやらないと。」

 

 

 私は豊聡耳神子。だけど、もう彼女を演じるのは止め。

 この世界に転生したのも何かの因果。なら、私は私で居よう。

 きっと桔梗もそれを望んでくれているだろうから・・・・・・・・。

 

 

そんな決意を固めながら神子は北の方角に向かって飛び続けた。

ちなみに、なぜ神子が空を自由に飛べるようになっているのかというと、屋敷の住人が寝静まる頃を見計らって妖術の修行を毎日行っていたからである。

 

 

 

そして空を飛び続けること1時間。

神子は初めに視界に入った山に降り立った。

 

 

「場所はここで合っているの?」

 

 

虚空の中に響く神子の声。

普通、夜の山には妖怪が出没することが多いので誰も立ち入ることはない。

誰も居ない山の中に神子にだけ聞こえる植物の声が返答してくれた。

 

 

『ええ。合ってるわ。』

 

 

「見つけた妖怪の特徴を教えてくれる?」

 

 

『ん。見つけたのは二尾の妖猫。詳しい種族までは分からないけど、かなり人懐っこい性格ね。

 山に迷い込んで麓の村に帰れなくなった子供を案内してあげたっていう話もあるわ。

 まあ、今回はそれが原因で追いかけまわされてるわけだけど。』

 

 

「そう。わかったわ。」

 

 

本当にひどい人たちね。子供を助けてくれた恩を仇で返すなんて。

まあ、中には恩を恩で返すヒトも居るでしょうけど。

とにかく今はその妖猫を見つけ出して保護するのが先決ね。

 

 

「情報ありがとう。」

 

 

そうお礼を言うと神子はその場から再び上空に飛び上がった。

そして、耳に入ってくる声を制限するための耳当てを外して、耳を澄ませた。

すると、かすかにパチッパチッと枝が燃える音を聞き取った。

 

 

「あっちみたいね。」

 

 

 こういう時はこの鋭い聴覚が役に立つわね。

 普段は嫌な声まで聞こえてきてしまうけど。

 

 

神子は再び耳当てを装着すると、山の裏側に回った。

まったく整備されずに伸び続けている木々の間からかがり火の光が漏れていた。

同時に騒がしい声が神子の耳に届く。

 

 

「まだ探してるところを見ると、件(くだん)の妖怪はまだ捕まっていないみたいね。

 よほどすばしっこい妖怪なのか、化けるのが上手な妖怪なのか・・・・・・」

 

 

そんなことを呟きながら神子はゆっくり山に降りていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~とある山の中~

 

???視点

 

 

「ここまで来れば・・・・・・」

 

 

 まったく・・・酷い奴ら!!子供を助けてあげた恩を仇で返すなんて!!

 はあ・・・・・・子供はあんなに無邪気なのに成長するとどうしてあんなのになるのよ。

 

 

心の中で人間の大人に対して嫌味を呟く一人の女性。

着ているの衣服は貴族が着用するような上質な物を動きやすいように改造したもの。

髪の色は茶色で短く切り揃えられている。そして、着物の隙間から覗かせる三色の尻尾と頭に生えた茶色の猫耳が彼女が妖怪であることを証明していた。

 

 

「ちょっとこの山から離れた方がいいかねぇ。

 この山は他に強い妖怪も居ないから住みやすかったんだけどねぇ」

 

 

「居たぞ!!こっちだ!!」

 

 

「げげっ!!」

 

 

「矢を放て!!」

 

 

その場を離れようとした瞬間、麓にある村から妖怪を討伐しに来た人間たちに見つかってしまった。

ターゲットを見つけた人間たちはすぐに手持ちの武器を二尾の妖怪に向かって投擲する。

二尾の妖怪はすぐに離れようとするが、それより早く槍が二尾の妖怪のアキレス腱に当たる。

 

 

「あっ!!」

 

 

アキレス腱に槍が掠ったことでその場に倒れこむ二尾の妖怪。

そして、動けなくなった二尾の妖怪を人間たちが取り囲んだ。

 

 

「覚悟しろよ、妖怪」

 

 

「くっ・・・・・・」

 

 

二尾の妖怪は悔しさに唇をかみ締めた。

取り囲む人間は全員が狩猟用の槍を持ち、その矛先を二尾の妖怪に向けている。

 

 

「くたばれぇ!!」

 

 

槍が妖怪の体に突き立てられようとした時、突然かがり火が消えてあたりが真っ暗になった。

突然視界が闇に閉ざされたことによって人間たちは恐怖にまくし立てられて慌てふためく。

 

そして、摩訶不思議なことが起こった。

一度消えたはずのかがり火が再び灯り、辺りを明るく照らし出した。

しかし、追い詰めた二尾の妖怪の姿はなかった。

 

 

◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆  ◆

 

 

 

~上空~

 

 

「間一髪だったわね。」

 

 

「だ、だれっ!?」

 

 

子供特有の高い声によって二尾の妖怪は瞑っていた目を開けた。

そして、自分が宙に浮いていることに気がついた。

 

 

「私は豊聡耳神子。植物たちの声が聞こえるちょっと変わった妖怪よ。」

 

 

 妖怪!?確かに妖力は感じるけど、同時に人間の“気”を感じる。

 半人半妖・・・・・・でもないか。半人半妖でも二つ同時に感じるなんてことはない。

 

 

「アンタ、何者?」

 

 

「さっき名乗ったよ。ちょっと変わった妖怪だって。」

 

 

「じゃあ、聞くけど何でアンタから人間特有の“気”が感じられるのよ?」

 

 

二尾の妖怪の質問に神子は少し首をかしげてこう返答した。

 

 

「さぁ?」

 

 

「は?」

 

 

「私は自分がどんな存在なのか今一理解してないのよ。

 妖術を使えるようになったのも本当に最近のこと。それまで普通の人間だったわよ。

 でも・・・・・・とある妖怪の心臓を食らってこうなったの。」

 

 

神子は少し悲しそうな表情を浮かべた。

しかし、二尾の妖怪からは彼女の表情は見えない。

 

 

「じゃあ、何であたいを助けた?」

 

 

「それはあとで話すわ。まあ、ただ単に助けたいと思ったから助けたのは事実よ。」

 

 

「変な奴。」

 

 

「命の恩人に対してそれは失礼だと思うわよ?えっと・・・・・・」

 

 

「残念だけど、あたいには名前はないよ。」

 

 

あたいは単なる野良猫。あたいは150年以上生きることで妖怪化した妖猫。

長いときを一人ぼっちで生きてきたから、あたいには名前なんてない。

 

 

「じゃあ、私は君のことを“黎鈴”って呼ぶことにするよ。」

 

 

「勝手にすれば。というより、一体どこに向かってるのさ」

 

 

「着いてから説明するわよ」

 

 

そんなことを話している間に月を覆っていた雲が晴れて、月光が神子の顔を照らした。

その時初めて二尾の妖猫――黎鈴は神子の顔を確認することができた。

 

 

 あ・・・・・・綺麗な瞳。

 

 

禍禍しさを感じさせる紅い瞳に黎鈴は魅了された。

その間に神子は黎鈴を連れて桔梗の花畑に降り立った。

 

 

「さて、私が何で君を助けたか。だったよね?

 理由は単純。理不尽に傷つけられる妖怪を保護するのが私の目的だから。」

 

 

「アンタ、正気?そんなことを考える奴なんてすぐに排斥されるよ?」

 

 

「そんなこと覚悟の上よ。それに、そうそう気づくことはできないわよ。」

 

 

神子は月光の下で自信満々な笑みを浮かべた。

 

 

「この花畑は私が結界で保護してるから、人が近づくことはないよ。」

 

 

「結界で外部から見えなくするなんて、凄い事を考えるわね。」

 

 

 それにしても、面白い人間だね。

 人の身でありながら妖力を宿し、妖怪に味方する人間。

 まあ、興味があるから協力してあげようかな?

 

 

 

 




旅のお供、第一号の登場。
こんな感じで旅のお供が増えていきます。


2013年4月22日追記
神子の戦闘用衣服は「東方自然癒」に登場する瀬笈 葉の衣装になっています。
この先、葉ちゃんの技がたびたび登場します。そして、葉と関係が深いあの人物も。
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