第11話
鬼。
それは日本においてとてもポピュラーな妖怪である。
大酒飲みでとんでもない怪力を持っており、
普通の人間では絶対に太刀打ちできる訳が無い。
しかし、鬼は人間と盟約を交わしている。
鬼は子供を攫い、人間たちが子供を取り返しくる。
それが鬼と人間の関係。その盟約を破った場合・・・・・・
季節は実りの秋。
たわわに実った茶色の稲穂が風にゆらゆらと揺られるような季節。
現在の暦で言うとちょうど9月の中旬。その最も重要な季節にある報せが舞い込んできた。
「子供が鬼に攫われた?」
「そうらしいよ。昨日の夜、堂々と鬼が子供を連れ去っていったらしい。
攫われた子供は浅井氏の子供らしい。」
まあ、攫ったのが鬼ならそれほど心配することもないか。
鬼は人間と盟約を交わし、その盟約を破らない限りは攫った子供を食うことはない。
鬼が人間を攫い、人間が子供を取り返しに来る。それが鬼と人間の関係。
「どうせ浅井氏がすぐに自分のところの兵を纏め上げて出発するでしょ」
神子は興味がないようだった。
権力(財力)が強い貴族たちはそれぞれ固有の戦力を持っている。
貴族たちはその戦力を使って妖怪を退治したり、妖怪から守ったりしている。
当然、神子もお抱えの戦力を持っている。鳶梅も海燕も一応は神子のお抱えの戦力だ。
もっとも現状で一番強いのは桔梗から力を受け継いだ神子本人であるが。
「まあ、教えてくれてありがとう。」
「・・・・・・いつも思うが、神子はよく攫われないな。」
鳶梅は思わず口に出した。
「何故そう思うのかな?」
「いや、他の屋敷と比べたら絶対に警備が薄いだろ?
浅井氏の屋敷なんか凄い警備だったのに」
相変わらず目の上の人に対する言葉使いとは思えない鳶梅。
まわりに他人が居るときはちゃんとした言葉使いで話しているのだが、神子と二人っきりになるとどうしても地の口調が出てしまう。
なお、神子の屋敷の警備は他の貴族の邸宅と比べると非常に薄い。
倍数にして言えば、おおよそ2分の1の警備しか神子の屋敷にはない。
「ふふ♪何故でしょうね?」
神子はニコッと笑みを浮かべながら鳶梅の質問を受け流した。
鳶梅は「いつものことだ」と思って、そのまま神子の部屋から去っていった。
「・・・・・・でも、少し気になるわね」
鳶梅が部屋から出て行った直後、神子の顔から笑みが消えた。
刹那、神子の瞳が禍々しい紅い瞳に変色した。
「子供を攫った鬼の居場所を探して」
『りょ~か~い。すぐに連絡を回すよ。代わりに水頂戴。』
「そういえば最近雨が降ってないわね。」
神子は立ち上がると縁側に置いてあった木製の桶を持ち出した。
神子の部屋の近くにはちょうど井戸があり、その井戸からお風呂の水などを汲み上げているのだ。
頑丈なロープを桶の取っ手にしっかり括りつけて、投下する。
すると、ジャボーンという音が井戸の下から聞こえてきた。
そして、反対側のロープを引っ張って桶を引き上げる。
「ほら、水よ」
『ああ~♪生き返る~♪』
ひしゃくで汲んだ水をばら撒くと植物たちは喜んだ。
『およ?早かったね。』
「鬼の居場所が分かったの?」
『うん。此処からそう離れてない山に居るらしいよ』
「そう。まあ、私には関係ないわね」
しかし、神子の考えは外れることとなる。
三日後。神子の予想に反して、浅井氏はまったく動かなかった。
むしろ、子供が連れ去られて喜んでいるとの報告もあった。
それに神子は激怒した。しかし、小娘の言葉に浅井氏が耳を傾けるわけがない。
ゆえに、神子は自分が動くことにした。
「さて、桃太郎みたいに御供は居ないけど、鬼退治と行こうか。」
神子は誰一人としてお供を連れずに鬼が住む山に向かった。
お供を連れて行かないのは当然足かせになるからだ。お供が居ると神子は妖怪の力を表に出して戦うことができない。妖怪の力を使えない神子はただの小娘でしかない。
そういう理由で神子はお供を連れずに出発したのだ。従者や門番には何かしらの理由を付けて出てきたので、バレることはないと神子は考えている。
「ここら辺なら、ヒトは居ないし・・・・・・大丈夫かな?」
斑鳩宮からしばらく歩き、ヒトの気配が感じられない林にたどり着いた。
神子は着ていた衣服を脱ぐと瞳を紅く染めた。
刹那、妖力が神子の幼い体を包み込み、頑丈な衣服と構築する。
「・・・・・・脱いだ服はどうしよう?」
「にゃ~ん」
「ん?」
脱いだ服と捨てる訳にも持って行く訳にもいかない神子は困った。
その時、一匹の猫が神子に擦り寄ってきた。そして、その猫には普通の猫とは異なる点があった。
それは首元に首輪代わりに付けられた花だ。
「もしかして、黎鈴の使い?」
「にゃ~ん」
肯定なのか猫はうれしそうに鳴いた。
実は、黎鈴の手下の猫には何かしらの目印が付けられている。
現在花畑に居ることが多い黎鈴は手下に花畑で採れた花を使って首輪を作っている。
「じゃあ、私の服を花畑まで持っていってくれる?
帰りに必ず寄るから。」
「にゃ~ん」
猫は尻尾を器用に使って背中を指した。
神子は脱いだ衣服を猫の背中に落ちないように、しかし猫に負担を与えないように括り付けた。
すると、猫は花畑の方角に向かってとことことかわいらしく歩いていった。
「さて、私も行かないとね」
神子は地面を蹴り、飛翔した。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
数十分後。神子は植物たちの道案内を受けながら鬼の住処にたどり着いた。
鬼が住処にしている山は少し前に天狗を退治した山よりも少し高く、一部が削り取られたように岩肌を露出させている。
その岩肌を覗かせた山の一角に大きな洞窟が存在していた。
「あそこが鬼の住処だね?」
『そうだけど・・・・・・本当に行くの?あの鬼、かなり強いよ?』
「ええ。腰抜けの貴族の代わりに私が助けないといけないからね。」
神子は宝剣『丙子椒林剣(へいししょうりんけん)』を抜いて、洞窟に近づいて行った。
しかし、洞窟に近づいた途端鋭い岩が神子に降り注いできた。
神子は妖力を流し込んだ宝剣で飛来した岩を切り裂いた。
「へえ~・・・単なる女子(おなご)だと思ったが、儂の検討違いか」
ドスンっ!!という音を立てて洞窟の前に誰かが着地した。
燃えるような赤い髪を黒い簪でお団子状に纏め、紅蓮の瞳は喜びに震えている。
着ている服もまた燃えるような着物を動きやすく改造したもの。一見は普通の人間に見えるが、その額からは鬼の象徴とも言える2本の角が生えている。
「儂は時雨!!戦と酒盛りが大好きな鬼だ!!」
透き通るような女性特有の高い声が響き渡った。
「貴女が攫った子供、返してもらえないかしら?」
「返してほしいなら、力ずくで取り返してみな。
それが鬼と人が交わした盟約だ。」
「なら、容赦しないわ。」
神子は妖力を完全解放し、時雨を睨みつける。
神子から放出される妖力に時雨は驚いたような表情を浮かべた。
「妖怪・・・でもないな。だが、人でもない。
何とも不思議な奴だ」
「嘗めてかかるとすぐに終わるわよ?」
「ははは!!その意気や良し!!正々堂々勝負と行こうではないか!!」
先に動いたのは時雨だった。神子よりも大きな体に似合わぬ俊敏さで接近してくる。
真っ向から勝負を挑んでも勝ち目がないのは神子もよくわかっている。
だからこそ、無謀な勝負には出ない。神子は大きく後退して時雨の初撃を避けた。
「冥月流剣術、逆巻く雨!!」
宝剣を逆手に持ち変え、そのまま一閃。
攻撃後の僅かな隙を狙った斬撃は当たったものの大したダメージを負わせることはできなかった。
今更ながら、宝剣の力を使えば良かったと後悔する神子。
「でりゃあぁぁ!!」
時雨が豪腕を振るう。当たれば、神子の体も無事では済まない。
故に、神子は防ごうとはせずに避けることを心がける。
今度は大きく避けずにギリギリの所を見極めて攻撃を避ける。
「はあぁぁぁ!!」
回避した体勢から体を捻り、逆手持ちした宝剣を薙ぎ払う。
宝剣は時雨の肉を切り裂いた。しかし、決して深い傷ではない。むしろ浅い。
タフな鬼にとっては大したダメージではない。
「肉を切らせて・・・・・・骨を潰す!!」
「っ!!」
気がついた時には時雨の豪腕が目と鼻の先まで迫っていた。
回避ができないと判断した神子は本能的に宝剣から手を離して、ダメージを少しでも減らそうと両腕で紅鬼の豪腕をガードした。
鬼の最大の武器である怪力を受けて、ミシミシと神子の腕の骨が砕ける。
「・・・・・・咄嗟に両腕で直撃を避けたか。
だが、その腕ではもう戦闘は無理だろ?」
「・・・・・・・」
鬼の攻撃の直撃を避けた神子だが、その両腕はダラーンと釣り下がっているだけの状態だった。
いくら妖怪化してると言っても元が植物の妖怪であるので、再生能力は高いが、耐久力は普通の人間よりも少し丈夫なだけ。鬼の豪腕の直撃を退けれただけ十分だ。
また、神子の衣服は斬撃には強いが、打撃による衝撃は通るので鬼には相性が悪い。
「何も手が使えないと戦えないというわけではないわよ」
「?」
「見せてあげるわ、私の妖術を。」
刹那、一陣の強風が舞った。その強風によって木の葉が舞う。
木の葉はそのまま地面に落ちると思われたが、いきなり強力な刃物となって時雨に襲い掛かった。
「ぐっ!!」
まるで無数の弓兵に一斉に矢を射られるような状態だ。
神子の“植物を操る程度の能力”によって木の葉は地面に一度も落ちることなく紅鬼を追い詰めていく。しかし、普通の日本刀程度の切れ味ではあまり効果がない。
そこで神子は現状で最大の攻撃力を誇る妖術に切り替える。
「自然符『植物たちの叛乱』」
神子は空中に舞う木の葉を媒介に妖術を発動させる。
桔梗から託された攻撃系妖術、“自然符『植物たちの叛乱』”。
無数の木の葉が神子の妖力を受けて、妖力の槍を作りあげる。その数は50本。
いくら鬼である時雨でもノーダメージで済むことはないだろう。
「待った!!」
槍が一斉に放たれようとした時、時雨がそう言った。
「今回は儂の負けだ。攫った子供は大人しく返そう。」
「どういう心変わり?」
「このまま続けても奇妙を術を使うお主に勝ち目はない。
それに、十分戦いを楽しめた。短い時間だったが、心が躍った。」
そう言いながら紅鬼はわき腹に刺さったままだった宝剣を神子に返した。
本当に敵意がないことを確認した神子は妖術を解除し、媒介になっていた木の葉が地面に落ちる。
「さあ、連れて帰るといい。連れて帰れるものなら、な」
時雨はどことなく悲しそうな表情を浮かべる。
それは誰に対するモノなのだろうか、神子には知る由もなかった。
最近、新しい東方系小説のネタが浮かんできました。
今度はこいしをメインにしたこいしの過去を描く話で、神様転生物。
まあ、まだ構成の段階でプロットとかはぜんぜん出来上がってないですが。
そもそも、どっちかを完結させないとな~。