東方聖人録 《妖を従える聖人》   作:玄武の使者

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第13話

 

 

道教。

 

 

 

それは中国に住む民族の土着的・伝統的な宗教である。

 

 

 

道教の基本理念は自然宇宙そのものを理解し、我が物にするというものだ。

 

 

 

そして、道教の最終目標は仙人となり、不老不死を得ることである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鬼の紅鬼と忌み子の一件から幾分かの月日が流れた。

神子は12歳となり、相変わらず政治に助言を行うことでその地位を確固たるものにしていた。

その裏では薬草から煎じた薬を破格の値段で売り渡すことで財産を溜め込んでいる。

しかし、時を同じくして波乱の嵐が再び起ころうとしていた。

 

 

「あの二人の動向はどうですか?」

 

 

「思わしくありません。いつ争いが起こってもおかしくない状態です。」

 

 

「そう・・・・・・」

 

 

神子の部屋で海燕がある二つの家の動向を報告していた。

その二つの家とは、神子と少しばかり関係がある物部氏と蘇我氏の家系だ。

 

 

「不味いわね。一時は形を潜めていた物部と蘇我の対立が表面化してきた。

 近いうちに大きな争いになる可能性が高い。」

 

 

「おそらく豊聡耳様の決断次第によってはすぐにでも。」

 

 

「そう・・・・・・・」

 

 

物部家と蘇我家はとある理由で対立している。

それは隋より伝わってきた仏教という宗教の扱いに関してだ。

物部氏は仏教の導入に反対で、蘇我氏は仏教の導入に賛成している。この両家は彼らの親の代から争いを続けており、その決着は未だについていない。

少し前まで両家の争いはその形を潜めていたが、最近になって活発化してきたのだ。

そして、神子もどちらに味方するのかの決断を迫られている。

 

 

「国の今後を決める大事な案件だから、そう簡単に決めるわけにはいかないわね。

 報告ありがと、海燕。もう下がっていいわよ。」

 

 

「はい。」

 

 

海燕は短く返答すると神子の部屋から出て行った。

 

 

「布都と屠自古が顔を見せないのもそれが原因ね。

 あの二人は別に仲が悪かったわけじゃないけど・・・・・・親の意向でしょうね。」

 

 

そう言いながら神子は板張りの床の上に寝転がった。

そして、今後のことを考える。

 

 

 遅かれ早かれ物部と蘇我の因縁の争いが再び勃発する。

 そうなると私も中立で居続けることはできない。いずれは決心しないといけない。

 争いが始まったら、私は多くの人を殺すことになる。この手を真っ赤に染めて。

 

 

「覚悟はできてた。この体に転生した時から・・・・・・

 だけど、間近に迫ってくると・・・・・・精神的に辛いわね。」

 

 

神子は静かに呟いた。

 

 

「・・・・・・誰?」

 

 

神子は不意に外から何者かの視線を感じた。

「今の独り言を聞かれていたのでは?」と警戒するが、神子が感じた視線はすぐに消えてしまった。

 

 

「気のせい・・・・・・?」

 

 

 いや、気のせいとは思えない。誰が私を見ていた。

 監視してる訳でもない。あの視線は一体誰のだったのかしら?

 

 

神子の疑問も晴れないまま、時は無情に過ぎ去っていく。

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

夜。神子はいつものように植物たちと話をしていた。

植物たちとの会話は神子にとって、政治のことを忘れさせてくれる憩いのひと時だった。

しかも、植物たちは遠くの地方のことを神子に話してくれるので神子の興味は尽きない。

 

 

「宮が最近花畑に出入りしてる?」

 

 

『うん。“身を隠すのにちょうど良いから”って最近居付いてるよ?』

 

 

「まあ、無害ならそれでいいけど・・・・・・」

 

 

『それよりも、どっかの家が戦の準備を始めてるみたいだよ?』

 

 

「どっかの家?物部と蘇我の家のこと?」

 

 

『詳しくはわかんない。ただ、人を集めてる。』

 

 

「そう・・・・・・。これは本当に近いうちに大きな争いが起きるわね。」

 

 

神子の表情が険しくなる。

そして、その時。鋭すぎる神子の聴覚が小さな足音を聞きつけた。

神子は瞳の色を元に戻し、宝剣に手を掛ける。

 

 

「誰だ!?」

 

 

屋敷の者でないと言うのは何となく分かった。

暗闇の声を掛けると「クスッ」という笑い声が聞こえた。

 

 

「お初にお目にかかります、豊聡耳様。」

 

 

部屋に備え付けられた行燈がその侵入者の姿をおぼろげに照らし出す。

暗闇の中から出てきたのは一人の青い髪の女性だった。

 

青っぽい半透明の薄い羽衣を身に纏い、白いベストと青系統色の衣服を着ている。

その姿はどことなく天女を彷彿させる。

 

 

「妖怪・・・・・・じゃなさそうね。普通の人間でもない。

 貴女、何者?どうやって私に気づかれずに入り込めたの?」

 

 

「私は霍青娥(かくせいが)。しがない仙人よ。」

 

 

「その仙人様がこんな夜更けに私に何のよう?」

 

 

神子は警戒を緩めることなく宝剣に手を掛けたまま青蛾に問う。

 

 

「そう警戒なさらないでください。私は貴女と話をしに来ただけなんですから」

 

 

行燈に照らされた薄暗い部屋の中で青蛾という名の仙人は微笑む。

 

 

「豊聡耳様、不老不死に興味はありませんか?」

 

 

不老不死。

それは昔から多くの者が研究し、追い求め続けたモノ。

老衰する事もなければ寿命や病気などといった要因で死ぬ事も無く、若々しさを保ったまま永遠の時を生きる存在。まさしく永遠の命をもつ存在。

 

古代より語り継がれている人類の夢を神子は・・・・・・

 

 

「ないわ。」

 

 

すぐに切り捨てた。

 

 

「そこまであっさりと切り捨てる奴は珍しいわね。

 普通の奴なら、喜んで飛びついてくるのに・・・・・・」

 

 

「私には不老不死なんて物は必要ありませんからね。

 私に道教を薦めに来たようですが、無駄足になったようですね」

 

 

神子はクスッと笑みを浮かべながらそう言ったが、対照的に青蛾は驚いた。

自分が考えていたことがいとも簡単に見透かされたことに吃驚してるのだろう。

 

 

「貴女の欲ははっきりしてたから、読み取るのはたやすかったわ。」

 

 

「噂では聞いていたけど、こんな短期間で私の欲を読み取るとは・・・・・・恐れ入りました」

 

 

「それほどでもないわよ。道教には興味がないから他を当たった方がいいわよ?」

 

 

「道教には貴女が求めるものがきっとありますよ?

 仙術の中にはいろんな奇奇怪怪を起こす術があります。

 それこそ、保護した妖怪を守るための空間を作るような仙術も」

 

 

「っ!!」

 

 

俊敏な動きで神子は宝剣の切っ先を青蛾の喉元に当てる。

感情が高ぶったせいか、神子の瞳が禍々しい紅色に変色していた。

 

 

「・・・・・・やはり妖怪の力を取り込んでいるのですね。」

 

 

「・・・・・・まるで初めから知ってたような口ぶりね」

 

 

神子は切っ先を下ろすことはせず、青蛾と言葉を交わす。

 

 

「ええ。貴女が妖怪を助けるのを目撃しましたから」

 

 

「まさか見られてるとは思わなかったわね。私もまだ未熟者ね。

 それで?私の正体を言い触らす?」

 

 

「そんなことはしません。私は豊聡耳様と戦いに来たわけではございません。」

 

 

「あくまで私に取り入りたい訳ね。」

 

 

そう言いながら神子は宝剣を下ろした。

 

 

「ここで本題です。私の弟子になりませんか?」

 

 

「それは無理な話です。道教は国を統治するには向かない。

 もし私が道教を信仰すれば、数多の人間が大きな力を保持することになる。

 そうなれば、この国は争いの絶えない国に逆戻りになってしまう。」

 

 

「ふむ・・・・・・。それなら、こういうのはどうでしょうか?

 隋の国には道教の他に仏教があります。仏教の教えなら、国を統治するには最適でしょう。 

 そして、豊聡耳様は裏で道教を信仰し、仙人を目指す。

 これなら問題ないでしょう。」

 

 

「・・・・・・いいでしょう。貴女の提案に乗りましょう」

 

 

神子は少しだけ考え込んだ後、青蛾の案を受け入れた。

青蛾の言う空間を作り出す能力は神子にとっては不老不死よりも重要度が高かった。

 

 

「しかし、道教の研究は争いが終わってからになりますね。」

 

 

「では、争いが終わった頃にもう一度会いましょう。」

 

 

青蛾はそれだけ言い残すと、まるで魔法のように壁を通り抜けていった。

神子は宝剣を鞘に戻し、再び縁側に座った。

 

 

「しばらく慌しくなりそうね。」

 

 

『貴女ならすぐに争いを終わらせることができるわ。

 いざとなれば私たちが貴女に力を貸すわ。』

 

 

「ありがとう。なるべく植物たちの力を借りずに終結させたいわね。」

 

 

そう言いながら神子は雲に隠れてしまっている月を見上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日、神子が仏教派につくことを切っ掛けに物部氏と蘇我氏の戦争が始まった。

 

 

最初の頃は仏教側が優勢だったので、神道側が敗北すると思われた。

 

 

その最中に神子は戦勝祈願に白膠木の樹で四天王像を作り、見事に物部氏を討ち滅ぼした。

 

 

その後、神子の権力は鰻上り。政治に口出しできるようにまでなった。

 

 

現在の大阪に四天王寺を建立し、斑鳩宮に再び平穏が訪れた・・・・・・・。




物部氏と蘇我氏の争いはダイジェストになりました。
そんな細かい部分まで書いてたら本編がまったく進まないからね。
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