東方聖人録 《妖を従える聖人》   作:玄武の使者

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第17話

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

豊聡耳 神子の偽装工作から数年の月日が経過した。

万が一に備えて政治の動向を監視していた神子だったが、その心配の杞憂に終わった。

親神子派の政治家が主導権を握ったことで非常に安定していた。

それを確認した神子は今度こそ都から立ち去った。

 

 

「はぁ~・・・・・本当に暑いわね。」

 

 

都から立ち去った神子は特に理由もなく東の方角に向かっていた。

 

季節は夏真っ盛り。

じりじりと照りつける太陽が容赦なく神子の体力を奪い去っていく。

たとえ妖怪の体でも無限の体力があるわけではない。

適度に休憩を入れないと倒れてしまうのは間違いない。

 

 

『森を抜けた先に小川があるよ~。冷たくて気持ちいいらしいよ♪』

 

 

「ありがと。さっそく向かってみるわ。」

 

 

情報を提供してくれる植物に感謝しながら、森を抜けようとする。

歩く度に腰に付けた二振りの剣――がゆらゆらと揺れる。

視線の先に森の出口が見えるようになると、流水の音が聞こえてきた。

 

 

「本当に植物のネットワークは便利ね。」

 

 

森を抜けた先には情報どおり小さな小川が流れていた。

神子は小川の近くに腰を下ろし、そよそよと流れる川の水を手で掬う。

それを口に運ぶと、ほてった体を水の冷たさがゆっくりと冷やしてくれる。

 

 

「ふぅ。」

 

 

都を旅立ってから、約10年。あちこち歩き回ってるけど、結構楽しいわね。

前世はひたすら決められた道に従って進んできたけど、この世界では自分の道を自分で決めて進める。

まあ、最初の頃は“豊聡耳神子”を演じてた私が言うのも変な感じだけど。

 

 

神子は心の中で苦笑いを浮かべた。

すると、明るかった空が瞬く間に曇天に覆われていった。

 

 

「これは・・・一雨きそうね。」

 

 

神子はすぐに雨宿りのため、木陰の下に潜り込んだ。

雷鳴が轟き、強い雨が降り始めた。夏によく見られる夕立のようだ。

 

 

「かなり強いわね。」

 

 

『最近暑かったからちょうど良いよ。』

 

 

「まあ、植物たちにはとっては恵みの雨だよね」

 

 

神子の周囲に居る植物たちから嬉々とした声が聞こえてくる。

もちろん植物の声が聞こえるのは神子だけだが。

 

 

「そういえば、何か面白い話とかない?」

 

 

『う~ん・・・そう言えば、風見幽香が移動してるっていう話を聞いたね』

 

 

「風見幽香? 聞いたことない名前だけど」

 

 

『物凄く強い妖怪だよ。神子みたいに植物たちと会話できるんだ』

 

 

私のように植物と会話ができる?

私の力は桔梗によるものが大きいから、桔梗と同じ植物の妖怪かしら?

 

 

「その妖怪は頻繁に移動するの?」

 

 

『うん。お花がいっぱい咲いている所に移動してるの。』

 

 

そんなに頻繁に移動しているなら、遭遇することはなさそうね。

喧嘩吹っかけられたら、生きてる年数が圧倒的に少ない私が負けるのが目に見えてるし。

 

 

植物と会話している間に夕立は止み、綺麗な虹が掛かっていた。

雨が降ったおかげで少しばかり涼しくなった。

 

 

「さて、また進みましょうか。」

 

 

神子は立ち上がり、再び宛てもない旅を再開しようとした。

その時、神子の進行方向から妖力の塊が極太のレーザーとなって襲い掛かってきた。

神子は咄嗟に妖刀と化した宝剣――丙子椒林剣でレーザーを切り裂いた。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

 

宝剣を構えたまま攻撃が放たれた方角を睨みつける。

すると、対岸も森から一人の女性が姿を現した。

少しパーマが掛かった緑の髪を持ち、着ている衣服は時代離れしている。

白いブラウスの上に赤いチェック模様の上着と同じ柄のスカート。

手には一見何の変哲もない傘が握られている。

 

 

「不意打ちとは卑怯な手段を使ってきますね。」

 

 

距離が離れてたから間に合ったけど、もう少し近かったら危なかったわね。

しかもヒットしてたら、今頃跡形も残さず蒸発してたわね。

 

 

神子は平静を装っているが、内心では冷や汗を流していた。

 

 

「あら、ある程度は手加減してたわよ。

 だって、一瞬で倒してしまったら思う存分甚振れないでしょ?」

 

 

「嫌な妖怪に出会ってしまったものね。」

 

 

神子は自分の不運に対してため息を吐く。

残念なことに神子の味方となりえる仙界の住人は現在外出中。

なので、神子は自力で彼女を撃退するか、逃亡するしか生き延びる方法はない。

 

 

「言っておくけど、私から逃げられると思わない方がいいわよ?」

 

 

「私としては逃げたかったけど、仕方ないわね。」

 

 

逃げれないと悟った神子は精神を研ぎ澄まし、目の前の敵に集中する。

刹那、神子の姿が消えて一瞬の間に女性の近くに移動していた。

 

 

「はあぁぁぁっ!!」

 

 

刀身の文様が怪しく輝く宝剣を振り上げて、まっすぐ振り下ろす。

仙術による瞬間移動からの死角の攻撃。よほど気配に敏感な妖怪でない反応できないような攻撃。

しかし、神子の宝剣は女性が持っていた傘に受け止められていた。

 

 

「なっ!?」

 

 

「あらあら。面白い芸当ができるのね。」

 

 

女性は変わらない笑みを浮かべていた。

 

 

「でも、無駄よ。」

 

 

女性の拳が神子の腹部に突き刺さる。

非力な女性とは思えない怪力によって、神子は吹き飛ばされる。

 

 

「くっ!!」

 

 

とんでもない反射神経ね。普通なら一撃必殺の攻撃を受け止めるなんて。

それよりも妖力で強化した宝剣を受け止めるなんてどんな強度の傘なのよ。

 

 

「あら、考え事してる暇なんかあるのかしら?」

 

 

「っ!?」

 

 

女性の傘がバットのように神子の体を吹き飛ばす。

神子は受身も取れずに背後にあった一本の樹に叩きつけられる。

 

 

「がはっ!!」

 

 

「ほらほら、休んでる暇はないわよ」

 

 

女性は神子に容赦なく追撃を仕掛ける。

 

 

「秘技、薙風!!」

 

 

宝剣を一瞬で逆手に持ち替えて、下から上に切り上げる。

女性は咄嗟に急ブレーキを掛けることでそれを回避するが、今度は神子が追撃を仕掛けた。

逆の手で妖力を集束し、ナイフのような弾丸を女性に向けて放つ。

 

 

「小賢しい!!」

 

 

傘を力一杯なぎ払い、ナイフの弾丸を弾き飛ばす。

しかし、大振りな攻撃なので攻撃の前後に若干のタイムラグができる。

神子はそのわずかなタイムラグを見逃さなかった。

 

 

「秘技、影打ち!!」

 

 

女性の懐に身を屈めて潜り込んだ神子は宝剣を真横一文字に切り裂く。

ブシャッ!!という音を立てて、鮮やかな鮮血が飛び散る。

しかし、目の前の妖怪に致命傷を負わせることはできなかった。

 

 

「くっ・・・・・・」

 

 

女性は飛びのき、神子と距離を取る。

 

 

「油断したわね。あの子の何倍も劣ると思ってたけど、それがこの様なんて」

 

 

女性は自嘲するように笑った。

同時に、神子に刺々しいくらいの殺気が叩きつけられる。

どうやら相手も本気になったようだ。

 

 

「秘技、尖衝穿!!」

 

 

宝剣の刀身を伸ばすように妖力の刃を形成し、突進する神子。

対する女性は傷口を手で摩りながら、自然体で立ち尽くしていた。

 

 

「調子に乗らないほうがいいわよ。」

 

 

「えっ!?」

 

 

なんと女性は素手で宝剣の延長した刀身を握っていた。

 

 

「長い年月を生きてる妖怪は妖力の使い方まで多種多様なの。

 こんなことで驚いてるくらいじゃあ、この世界で生きていないわ。」

 

 

そう言いながら女性は刀身を握りつぶした。

さらに、神子のわき腹に回し蹴りを叩き込と、そのまま神子の体を蹴り飛ばす。

 

 

「まだまだ終わらないわよ。」

 

 

よろける神子に向かって傘を振りぬく。

女性の怪力で鈍器と化した傘はバッドのように神子の体を上空に向かって吹き飛ばした。

上空に打ち上げられた神子は空中で体勢を整えるが、その間に女性も空中に上がり、傘を振り上げていた。

 

 

「くっ!!」

 

 

宝剣を両手で支えて傘による打撃攻撃を受け止める神子。

刹那、神子は一時的に浮遊を解除し、重力に引かれて落下する。

 

 

「はあぁぁぁっ!!!」

 

 

拘束から解放された神子はすぐに加速して女性に向かっていく。

丙子椒林剣を構え、真っ直ぐ突進していくが・・・・・・

 

 

「甘い。」

 

 

「なっ!?」

 

 

女性の体を刺し貫く筈だった神子の宝剣を女性は素手で掴んでいた。

物凄い怪力で掴まれているせいか、押しても引いてもビクともしない。

しかも、強く握っているのに女性の方はまったく傷を負っていない。

 

 

「さて、終幕と行きましょうか」

 

 

女性は片手で宝剣を掴んだまま、もう片方の手で傘の先端を神子に向ける。

 

 

 

――魔砲「マスタースパーク」――

 

 

 

傘の先端に集束された妖力が解放され、眩い閃光が神子を飲み込んだ。

強烈な一撃をまとも受けた神子は硬い地面に叩きつけられた。

そして、神子が握っていた丙子椒林剣が地面に突き刺さる。

 

 

「あっけない幕引きね。たとえ桔梗の力を手に入れても、その力のほとんどを出し切れてない。」

 

 

女性は神子の実力にあからさまに落胆の表情を浮かべる。

そして、武器として使っていた傘を差すとそのまま立ち去ろうとした。

 

 

「・・・・・・まだヤル気なの?」

 

 

女性は振り向かずに問う。

妖力で編み上げられた衣服は先ほどの一撃でボロボロになり、右腕はあり得ない方向に曲がっている。

誰の目から見ても満身創痍な状態なのに、神子は立ち上がった。

そして、辛うじて無傷だった左腕を弱弱しく突き出す。

 

 

「何の真似かしら?」

 

 

「・・・・・・・・・・」

 

 

 

――葉符「リーフスパーク」――

 

 

 

刹那、先ほど女性が使った大技を酷似した技が神子から放たれた。

その技を見た女性の目は驚愕に見開かれた。

 

 

「それは桔梗の・・・・・・!!」

 

 

相殺することも避けることもできず、女性は閃光の中に姿をくらました。

そして、最後の最後で大技を繰り出した神子は力尽き、意識を完全に手放した。




久々の投稿なのに雑ですいません。
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