かつて、倭の国と呼ばれる列島の何処かに“太陽の畑”という名称が付けられた場所があった。
そこは見渡す限りの向日葵が咲き誇る場所であり、とてつなく強い妖怪の棲家でもあった。そのため、太陽の畑に近付こうとする者は誰も居らず、そこに群生している向日葵はその妖怪がたった一人で世話をしている。
そんな危険極まりない場所に数日ほど前から一人の住人が増えていた。
「ほらほら、速度が落ちてるわよ!!」
「は、はい!!」
空中を飛び交う木の葉とそれを必死に避ける一人の少女。
普通なら、当たっても何ともない筈の木の葉は大地に根を下ろした一人の妖怪の手で鋭い刃物と化している。
現に、空中を逃げ回る少女の身体にはいくつもの切り傷が出来上がっていた。
左から来る。だけど、あのドS妖怪のことだから、時間差でじわじわと追い詰めてくるに違いない。
なら、ここでの回避は愚行。だから、手を妖力で薄く覆って・・・弾く!!
迫り来る刃物を前に少女――豊聡耳神子は焦ることなく、冷静に最善の方法を模索する。
左手を妖力で薄くコーティングし、目と鼻の先に迫ってきた刃物という名の木の葉を払う。
「甘い。」
刹那、四方八方から先程と同じような木の葉の形をした刃物が投擲されたナイフのように向かってくる。
一見、簡単に回避できそうな攻撃だが、単純に回避するだけでは足や腕にヒットするように配置されているのだ。
「冥月流秘技、螺旋円舞!!」
神子は咄嗟に七星剣を抜き、迫り来る木の葉を切り落とす。
「はぁ・・・はぁ・・・」
「一旦休憩よ。下りてきなさい。」
「はい。」
下でずっと木の葉を操っていた女性から命令され、ゆっくりと下に降りていく神子。
そして、着陸すると同時に腰を下ろす。
「ようやく無駄がなくなってきたわね。まあ、次第点かしらね。」
「あ、ありがとう、ございます。」
神子は呼吸を整えながら言う。
「始めた頃は無駄が多くてどうなるかと思ったけど、結構何とかなるものね。」
『幽香さん、ちょっと厳しくないですか?』
「あら、これでも手加減してるわよ。」
女性――風見幽香は少し笑みを浮かべながら一本の向日葵を撫でる。
なぜ、神子が少し前に襲い掛かってきた風見幽香の所で修業しているのか。それは数日前まで遡る。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
~数日前~
神子は目が覚めると見知らぬ場所に寝かされていた。
今の時代にはそぐわない建築様式に、テーブルやベッドなどなど現在の倭の国(日本)では絶対にお目にかかれない物品が揃っていた。
時代が錯誤し過ぎているが、前世の記憶を持つ神子は逆に親しみを覚えた。
「あら、お目覚め?」
「っ!?」
部屋のドアを開けて入ってきたのは、つい先ほど神子に襲い掛かってきた緑色の髪を持つ女性の姿をした妖怪だった。
神子は飛び上がり、丙子椒林剣と七星剣に手を掛けようとするが、いつも身に付けた二振りの宝剣が手元になかった。
「そんなに警戒しなくていいわ。今は襲い掛かるつもりはないもの。」
「・・・・・・・・・」
しかし、神子は警戒を緩めない。
その様子を見て、女性は肩を竦めた。
「いきなり襲い掛かったのは謝るわ。ちょっと貴女の実力を試したかっただけなの。」
「貴女は、誰?」
「私は風見幽香。太陽の畑を根城にする植物の妖怪であり、桔梗の親友よ。」
「桔梗の・・・」
「植物たちから聞いているわ。桔梗が殺されたこともその桔梗の身体を貴女が食らったことも。」
そう言いながら、幽香は手に持っていたトレイを木製のテーブルの上に置いた。
トレイの上には花柄の陶器で作られたポットが1つとティーカップが2つ乗せられていた。
「私を襲ったのは復讐のため?」
「ハズレ。貴女を襲ったのは、実力を確かめるためよ。」
「その割には本気で殺そうとしていたように思いますが?」
「私が最初から殺すつもりなら、貴女は数秒で肉塊に変わってたわ。」
幽香はポットに入っていた液体を2つのティーカップに注ぎ、その1つを神子に渡す。
最初は警戒して飲まなかったが、幽香が何の戸惑いもなしに液体を口に運ぶのを見て、神子もティーカップを口に運んだ。
「これは・・・・・・」
「貴女には馴染みがないかもしれないけど、これはミントティーっていう遠い国の飲み物なの。
寝起きに飲むと気分がすっきりするわ。」
幽香は優しそう笑みを神子に向ける。
それは少し前に自分に襲い掛かってきた者とは思えないような笑みだった。
「確かにすっきりしますね。」
「気に入って貰えたようで何よりだわ。さて、そろそろ本題に入りましょうか。」
幽香はカタンという音を立ててティーカップを置き、神子と視線を合わせた。
「貴女、桔梗の力の半分も満足に扱えてないみたいね。」
「・・・・・・・・・」
「贔屓に聞こえるかも知れないけど、桔梗はかなり強い部類に入る妖怪だった。そして、その身に宿してる妖力も多かった。
貴女はその桔梗の力全てを受け継いでいる。潜在的な能力では私よりも貴女の方が上かもしれないわ。」
そこまで言って、幽香は再びティーカップを口に運んだ。
「まあ、仕方ないわね。貴女の立場上、おいそれと使えるような物じゃないし。」
「結局、何が言いたいんですか?」
神子はミントティーを飲み干したティーカップをテーブルに置いて、幽香を見据える。
「豊聡耳神子、貴女を鍛えてあげるわ。この私が直々に、ね。」
「・・・・・・はい?」
神子は思わず自分の耳を疑った。
「私が貴女を鍛えてあげるって言ったの。ちなみに、拒否権なんて物は存在しないから。」
「何で・・・私を鍛えても貴女に利益はないのに。」
「個人の感情、かしらね。あんまり同胞が死ぬのは嬉しくないのよ。」
そう言って幽香は少し寂しそうな笑みを浮かべた。
「それよりもその格好、何とかした方が良いわよ?」
「へ?」
幽香に言われて、神子は自分の身体を見下ろした。
神子が普段身に纏っている衣装は神子自身の妖力で編み上げた妖術の一種であり、妖力が供給される限り維持することができる。
しかし、神子が意識を失うと衣装も霧散してしまう。つまり、神子は柔らかい肢体を惜し気もなく晒している状態なのだ。
「きゃああぁぁぁぁぁ!!!!」
神子の叫び声が幽香の屋敷にこだました。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
・・・・・・・・・・・・
そして、現在に至る。
その日から毎日のように実戦形式で鍛練を行い、鍛練を行わない時は幽香が育てている草花のお世話をしている。
最初はかなり雑だった妖力の操作も数日もすればまともなものになった。
「この調子だと、妖術の修業に取り掛かれそうね。」
「はい。」
休憩したおかげで体力が戻ってきた神子は地面に手を着いてゆっくり立ち上がる。
「だけど、私は妖術なんて使えないのよね。桔梗に比べると月とスッポンぐらいに。」
幽香が言うには桔梗は妖術に優れおり、その独力で会得した妖術をフル活用して幽香と互角に闘えるようになったらしい。
「だから、此処から本気の実戦形式でやるわ。
自分に何が出来て、何ができないのか把握しなさい。それが糸口になるわ。
死に物狂いで見つけ出さないと、鍛練が終わる前に御陀仏よ?」
同時に幽香から放たれる殺気。
それに身震いしながらも神子は丙子椒林剣と七星剣を抜き放った。
この作品って、需要ないのかな~と思い始めるようになった今日この頃。
最近、この作品を一回凍結して別の作品を執筆するのもアリかなと思っています。
そして、合間を縫って違和感があるところを修正とか。
ぶっちゃけ転生要素要らなくない?と思い始めています。