東方聖人録 《妖を従える聖人》   作:玄武の使者

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第20話 

 

 

 

 

 

 

 

5年ぶりに仙界に戻って来た創造主を出迎えたのは四季相応の花たち。

植物の声が聞こえる葉の耳に創造主兼管理者の帰還を歓迎する声が届く。

最後に見た光景をまったく変わっていないことに胸を撫で下ろした葉は戸惑っているミラの手を引っ張って仙界唯一の住居に向かう。

 

 

「ここはどこなんですか?」

 

 

「仙界よ。仙術によって作られた私だけの世界がこの仙界。」

 

 

「へぇ~」

 

 

ミラは興味深そうに周囲を見渡す。

そんな彼女の手を引いて両端を天然の花壇に挟まれた細道を道筋に沿って2分程歩くと、一軒の邸宅が見えてきた。

貴族の邸宅を彷彿させる一階建ての木造住居で敷地も上流貴族の邸宅並みに広い。

しかし、その玄関口で葉は足を止めた。

 

 

おかしい・・・・・・。静か過ぎる。

それに、屋敷の中から紅鬼たちの気配も感じられない。

全員で出かけてる、とは考えられないし、私が居ない間に何かあったの?」

 

 

「入らないの?」

 

 

「入るよ。ただ5年も経ってるから、家の中がどうなってるのか心配になってね。」

 

 

そう誤魔化しながら葉は木製の扉を開ける。

屋敷の中は奇妙なくらいに静まり返っており、やはり住人の気配がない。

 

 

「この家って葉以外に住んでるの?」

 

 

「ええ。私以外にも4人ほど住んでたわ。」

 

 

誰も居ないことに一抹の不安を覚えながら屋敷の中に入っていく葉とその後を追うミラ。

そして、いつも皆が集まってわいわい騒いでいた居間には一通の手紙。

当然ながら他の住人の姿は何処にもない。

 

 

「これは・・・・・紅鬼からの手紙?」

 

 

差出人の名前を確認すると、そこにはかつて葉が刃を交えた鬼の名。

嫌な予感を覚えつつ、その手紙を開いてみると此処に他の住人が居ない理由が明らかになった。

 

 

 

 

『神子がこの手紙を読んでいるという事は仙界には誰も居ないだろう。 

 

 

 

 

 故郷の同胞が何やら困っているらしくてな。急きょ、故郷に帰ることになった。

 

 

 

 

 龍華の奴も付いてくると言って聞かなくてな。

 

 

 

 

 宮と黎鈴の2人も旧友に会いに行くそうだ。

 

 

 

 

 何も言わずに出て行ってしまって悪い。だが、お前の居場所がまったく掴めなくてな。

 

 

 

 

 機会があったら、また何処かで会おう。

 

 

 

 

 そうそう、儂が屋敷に残していった物は好きに使ってくれても構わんぞ。』

 

 

 

「それで誰も居ない訳か・・・・・・」

 

 

手紙を読み終えた葉は静かにそれを折りたたむ。

 

 

「どうかしたの?」

 

 

「何でもないわ。ただ、随分と静かになったと思ってね。」

 

 

葉は居間を見渡して5年前まで普通に見ることができた光景を思い出す。

酒呑みの紅鬼が皆に酒を勧めて、下戸だった宮と黎鈴が暴走して葉(神子)がそれを止める。

それが仙界でよく見られた微笑ましい光景だ。

 

 

「取り合えず、ミラの服を何とかしないといけないわね。」

 

 

「うん。さすがにこの格好は恥ずかしい。」

 

 

ミラが身に纏うのは到底衣服とは思えない黒いボロ衣。

暦の上では春だが、そのままの格好ではいずれ風邪をひいてしまうのは間違いない

葉は再びミラの手を引いて別の部屋に案内する。

 

 

「この部屋も変わってないわね。まあ、誰も入らないように厳命してたから当然か。」

 

 

葉が次にミラを連れてきたのは花畑に近い位置にある葉の個室。

部屋には衣装箪笥や執務机といった一通りの家具が揃えられている。

しかしながら、5年間も放置していたせいで少々埃っぽくなってしまっている。

 

 

「ちょっと屋敷を掃除しないといけないわね。」

 

 

そんなことを呟きながら葉は衣装箪笥を開けて一着の衣服を取り出す。

袖口が大きく余った白と黒の巫女装束のような衣服だが、ミラの身の丈よりも少し大きい。

元々黎鈴が葉(神子)の身の丈に合わせて作った物なので合わないのは当然だ。

 

 

「少し大きいかもしれないけど、しばらくこれで我慢してね?」

 

 

「大丈夫。これくらいなら、何の問題もない。」

 

 

そう言って、ミラは葉から渡された衣服に着替えていく。

 

 

「うわぁ・・・5年間も放置してたから変色しちゃってるわね」

 

 

ミラが着替えている間に葉は5年前に作り置きしていた薬品を確認する。

さすがにずっと放置していたせいで中身が変化してしまっているので使えそうにない。

 

 

「薬の作りなおしに屋敷の清掃。やることが一杯ね。」

 

 

「着替え終わったよぉ~」

 

 

「ん。取り合えず、食糧は一切残ってないから調達しに行かないといけないわね。」

 

 

「手伝う。」

 

 

「ありがとう。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミラに危険の少ない仙界での食糧を調達を任せて、葉は再び元の世界に戻ってきた。

果実などは仙界でも調達できるが、肉類や穀物は森や市場で手に入れてくるしかない。

穀物は都の方に行かないと入手が難しいので、葉が狙っているのは猪の肉だ。

 

 

「中々見つからないわね。」

 

 

『まあ、自分から死ぬような奴はいないからねぇ』

 

 

「それもそうね。まあ、一頭は仕留めたから何とかなるけど。」

 

 

葉の足元には息絶えて食糧となった大型の猪が一頭。

すでに血抜きは済ませて後は仙界に戻ってから解体するだけだ。

 

 

『というか、その一頭で十分なんじゃないの? 2人しか居ないんだし。』

 

 

「ミラがどれくらい食べるか分からないからね。念のために、だよ」

 

 

そう言って葉は食糧探しを再開した。

しかし、その行動を邪魔するかのように上空から何かが落ちてきた。

 

 

 

それは1人の少女。いや、1人の妖怪だった。

白を基調にした衣服から考えると、その少女は鴉天狗であることは間違いない。

しかし、衣服はあちこち裂けて露出した素肌からは血が滲んでいる。

さらに黒い筈の鴉天狗の翼は雪のような純白。普通の鴉天狗でないのは明白だ。

 

 

「う・・・・・・うぅ・・・・・・・」

 

 

地面に叩きつけられた鴉天狗の少女はうめき声を上げながら身体を起こそうとする。

しかし、負った傷はそれを許してくれず、再び地面に這いつくばることになる。

 

 

「・・・・・・今日は厄日ね。」

 

 

葉はため息を吐きながら変わり者の鴉天狗に近づく。

 

 

 

 

―――葉乱「リーフストーム」―――

 

 

 

 

葉が使ったのは癒しの妖術――〈リーフストーム〉。

痛みを和らげ、自己治癒能力を高めて傷の治癒を促進させる効果がある。

しかし、負った傷が大きすぎるとあまり効果がないという欠点もある。

 

 

「これで少しは動けるでしょ?」

 

 

「・・・・・・・ありがと」

 

 

少女は小さな声で葉にお礼を言う。

葉の妖術のおかげでかすり傷は完全に塞がっており、血も止まっている。

 

 

「でも、この傷を治すのはちょっと無理ね。」

 

 

少女の背中と左の二の腕には鋭利な刃物で傷つけられたような深い傷があった。

〈リーフストーム〉のおかげで自己治癒能力は高められているが、すぐには塞がりそうにない。

 

 

「大丈夫、これくらいの怪我は慣れてる。

 傷を癒してくれたのは感謝してるけど、もう華琳に関わらない方が良いよ。

 華琳と一緒にいたら貴女もあいつらに目を付けられる。」

 

 

「あいつら?」

 

 

「華琳を追ってる奴ら。」

 

 

それだけ言うと、少女は樹を支えに立ち上がってその場を去ろうとする。

しかし、その手を葉が掴んだ。

 

 

「残念だけど、そんな怪我を負ってる貴女をほっておけないわ。」

 

 

「何言ってるの!? このままだと、貴女も殺されるよ!?」

 

 

「大丈夫よ。絶対に追いつけない場所を私は知ってるから。」

 

 

葉は七星剣を抜いて、仙界への入り口を展開する。

 

 

「入って。」

 

 

「えっ!?」

 

 

「いいから!!」

 

 

無理矢理、少女を押し込むと葉も食糧を持って入り口を潜る。

その刹那、仙界の入り口はその口を閉じた。




今更ですが、紅炎録の方はしばらく凍結しようと思います。
弾幕ごっこの部分がうまく書けないのでもう少し精進してから執筆します。
取り合えず、プロット段階で弾幕ごっこを行わないことを決めている聖人録の方を完結させます。



余談ですが、東方転生伝(にじファンVer)が見つかりました。
SDカードの方に保存していたのをすっかり忘れてて、記憶媒体を整理していた時に発見しました。
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