「すまないね、うちの馬鹿が迷惑をかけて。」
諏訪子との戦闘の後、葉は諏訪のとある湖の近くにある神社に招かれた。
かつては洩矢の王国の中心であった神社であり、今でも多くも参拝客が訪れる神聖な場所だ。
本来は結界が張られているため、妖怪の特性も持つ葉が入ることはできないのだが、今回は特別に入ることを許されている。
「いえ、こちらも不用意でした。妖怪が街に近づけば、迎撃に来るのは当然のことでしょう。」
「まあ、そうなんだけどな。諏訪子は過保護でな。」
「ああ・・・・・・」
葉と一緒に杯を交わす注連縄を背負った女性の言葉で葉は何となく悟った。
諏訪子の大事な孫娘、美衣と一緒に居たので美衣を襲っていると自分の中で自己解釈したのだろう。
「しかし、上手い酒だな。ここまで美味な酒は滅多に飲めないぞ。」
「かつての仲間に無類の酒好きが居たもので。」
そう言いながら朱色の杯に注がれた酒に口をつける。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。
私は八坂 神奈子。この守矢神社の祭神よ。」
「瀬笈 葉と言います。各地を放浪してる植物の妖怪です。」
「植物の妖怪? あんまり見かけない妖怪だね。」
「人目に出てくるような妖怪ではありませんから。」
植物の妖怪はわざわざヒトを襲うことがないのでヒトが集まる場所に降りてくることは少ない。
そのため、天狗のような妖怪に比べるとその知名度はかなり低いのだ。
元々植物の妖怪は個体数が少ないというのもあるが。
「確かに植物の妖怪はあまり見かけないな。」
そう言って、神奈子も杯に注がれた酒を一気に飲み干す。
そして、一度朱色の杯を置くと威圧するように葉を睨みつけた。
「それで? 一体、何のためにこの国に立ち寄ったのだ?」
「ただの気まぐれです。私たちは各地を流浪するだけの集まりなので。」
葉は神奈子の威圧を浴びても平然としたまま杯に残った酒を飲み干す。
自分よりも何倍も強い大妖怪の下で修業を積んでいる間に耐性が出来たのだ。
なお、その大妖怪の修行は威圧で身を竦ませた瞬間、強力な妖力砲が飛んでくるという理不尽なモノだった。
「・・・・・・嘘偽りはなさそうだな。疑ってすまない。」
神奈子は威圧感を霧散させて、再び杯に葉が持って来たお酒を注ぐ。
「恩人とは身元の分からない者を警戒するのは当然のことです。
それに、この国を訪れたのは気まぐれですが、旅をしているのはある目的のためですから。」
「ある目的?」
「神奈子様、周辺一帯を氷結させる能力を持つ妖怪、もしくは神霊についてご存じはありませんか?」
「いや。心当たりがないな。妖怪の方は分からないが、神霊の方に思い当たる奴はいないな。」
「そうですか・・・・・・」
やっぱりそう簡単には見つからないか・・・・・・。
強力な氷結能力を持つ者。そいつが桔梗の生まれ故郷を滅ぼしたのは間違いない。
まあ、ゆっくりと探していくしかないわね。
「すまないな。」
「いえ、そう簡単に見つかるとは思っていなかったので」
~守矢神社 居住区~
神奈子と葉が話している間にミラと華琳は守矢神社の居住区にある客室に案内された。
この神社には祭神である諏訪子と神奈子に仕える神官たちが住んでいる。
その神官たちのトップに立つのが美衣の母親――つまり、今代の風祝――らしい。
「やっぱり変な目で見られたね。」
「まあ、妖怪が入るような場所じゃないからね。」
「見た目はヒトとは変わりありませんが、神官の中には妖力に敏感な者も居ますから。」
客室にはミラと華琳だけでなく、頭に大きなたんこぶを作った美衣の姿もそこにあった。
勝手に1人で妖怪退治に出向いたことで小一時間ほど母親から説教を受けたらしい。
ちなみに、思い込みで暴走した諏訪子も説教されたのは言うまでもない。
「そう言えば、ミラ。記憶の方に変化は?」
「あったら苦労しないよ。葉に出会う以前のことはさっぱり。」
ミラは首を左右に振りながら答える。
葉を含めた三人で数か月ほど旅を続けているが、ミラの記憶が戻る気配はまったくない。
「ミラさんって、妖怪なんですか?」
「う~ん・・・自分でも分からないんだよね。葉は妖怪でも神霊でも人間でもない、って言ってたけど。」
妖怪なら妖力を、人間なら霊力を、神霊なら神力を持っているのが普通だ。
しかし、ミラはその三種のどれにも該当しない力を保有している。
物知りな葉もミラの種族についてはまったく心当たりがないそうだ。
「葉さんもよく分からない存在ですけどね。」
「ああ、ボクも最初の頃はビックリした。本人も何でか分かってないみたいだけど。」
「というか、美衣は妖怪と敵対関係にあるのに、わたしたちと一緒に居ていいの?」
「あんまり良い顔はされませんが、母からの命令なので・・・・・・」
美衣は苦笑いを浮かべた。
彼女の母は迷惑を掛けたお礼ということでミラと華琳の応対を美衣にやらせているのだ。
もちろん、守矢神社で働く神官たちからは反対の声が上がったが、それを母は一蹴した。
「珍しいね。普通、妖怪に良い感情を持たない人間の方が多いのに。」
「母は・・・・・・少し変わった人間なので。」
「まあ、全員が全員同じ価値観や考えを持ってるとは限らないし。葉がその良い例だからね。」
「あはは♪ 同感。あんな御人好しはそうそう御目に掛れるものじゃないよ。」
ミラと華琳は葉と一緒に居るようになった出来事を思い出して笑った。
三人で旅を初めてから数カ月が経っているが、その数カ月の間にも葉は人妖問わず困ってる者に手を差し伸べた。
時には危機的な状況に陥ることもあったが、葉はその生き方を止めない。
「御二人はいろんな場所を旅して来たんですよね?」
「うん。この国の端から端まで探検した訳じゃないけど、それなりに遠い所まで行ったよ。」
「よろしければ、旅の御話を聞かせてもらえませんか?
わたし、この国から出たことがないので・・・・・・」
「いいよ。」
美衣の御願を華琳は快く引き受けた。
彼女の返答を聞いた美衣は顔を輝かせて、2人の旅話に耳を傾けた。
今回はかなり短めですが、次回からいつも通りに戻すつもりです。