東方聖人録 《妖を従える聖人》   作:玄武の使者

3 / 26
第1話

第1話 

 

 

影の道を歩き、人に害をなす者を当時の人は“妖怪”と呼んだ。

 

 

妖怪は絶対的な人間の敵。しかし、妖怪に勝てる者などそうそう居るはずがない。

 

 

出会いは偶然。

 

 

影を行く者と光の下を生きる者。

 

 

決して相容れない者同士の二人が出会い、物語は分岐する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・誰?」

 

 

「聞きたいのはこっちの方なんですが・・・・・ん?」

 

 

神子はその少女から放たれる邪の気配を鋭敏に感じ取った。

すぐに護身用に持ってきた宝剣を抜き放つ。

 

 

「・・・・・・恨みはないけど、妖怪である以上死んでもらいます」

 

 

「ひっ!!」

 

 

神子の殺気を感じて思わず泣きそうになる妖怪。

じりじりと神子が距離を縮めていく度に目じりに涙を溜めていく。

ズキリッと胸を締め付ける罪悪感が神子の動きを鈍らせるが、神子は必死に振り払う。

 

 

 相手は妖怪。たとえ少女のような姿をしててもいつ人を喰らうか分からない。

 ヒトを食らう前に此処で退治しておかないと・・・・・・!!

 

 

「やめ、て・・・・・・。傷つけないで・・・・・」

 

 

「・・・・・・・っ」

 

 

神子は唇をかみ締めながら手に持った宝剣を振り上げた。

 

 

「きゃああぁぁぁぁ!!」

 

 

「っ!!」

 

 

少女の姿をした妖怪の脳天に宝剣が突き刺さる寸前、神子は剣を止めた。

そして、そのまま剣を下ろす。

 

 

「怪我、してるの?」

 

 

「・・・・・・(コクッ」

 

 

よく見るとその妖怪の足に深い引っ掻き傷があった。

その傷口からは真っ赤な血がだらだらと流れていた。

 

 

「・・・・・・・」

 

 

すると、神子は無言で膝を下ろして何処からともなく包帯を取り出した。

 

 

「ひっ・・・・・」

 

 

神子が少女の身体に触れようとすると、怯えた表情で何とか身体を引きずって逃げようとする。

 

 

「動かないで」

 

 

神子がそう言うとびくっと身体を震わせて静止した。

若干緊張感が残っているが、神子は気にすることなく包帯で怪我の部分を覆っていく。

その包帯は傷口に細菌が入るのを防ぐだけでなく、何日も薬湯の中に浸していたので殺菌・治癒促進の効果がある。

 

 

「いくら私でも傷ついてる妖怪を殺すことはしないわ。

 まあ、ヒトを喰らう妖怪なら容赦なく滅するけど。」

 

 

少し物騒なことを呟きながら、特別製の包帯を巻いていく。

神子は何となくだが、目の前に居る妖怪がヒトを喰う妖怪ではないと察していた。

そして、包帯を巻き終わると宝剣を鞘に納めて少女に背を向けた。

 

 

「あ、あの!!」

 

 

花畑から立ち去ろうとする神子を少女が呼び止めた。

 

 

「あ、貴女の名前・・・・・・」

 

 

「・・・・・・豊聡耳神子。死にたくないなら、この花畑から立ち去りなさい。

 別に逃げる妖怪を地の果てまで追いかけるような趣味はないから。」

 

 

 まったく・・・・・・私も甘いわね。

 あの妖怪が絶対に人を食わないと決まったわけじゃないのに。

 どうも、妖怪に対して非情になれないわね。妖怪もヒトも食物連鎖の法則に従って生きていると考えると、ね。

 

 

そんなことを考えながら神子は都への帰路に着いた。

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

三日後。

大層ご立腹な様子の神子が三日前と別の道を歩いて花畑に向かっていた。

ここ三日間はずっと日照り続きなのに、道筋に生える草木は元気だった。それはそれは摩訶不思議なことだが、神子にはそんなことを気にしていられる余裕はなかった。

その証拠に神子に衣服が少しばかり着崩れている。

 

 

「あの脳筋ども、今になって工事に取り掛かりやがって・・・・・・

 ずっと前にこんなことになるかもしれないと示唆しておいただろう!!」

 

 

荒々しい口調で愚痴を呟きながら神子は花畑に向かう。

神子がご立腹しているのは、傲慢な官僚らについてだった。

 

彼女は政治に口を出すようになった頃から長期の日照りに備えて灌漑システムを作ることを提案していたが、官僚たちはそれを鼻で笑い、神子の意見を一蹴した。

結果、ずっと続く日照りによって灌漑システムが整っていない農村では作物が枯れるという問題が続出した。作物が枯れると結果的に貴族たちも食料が手に入らずに困ったことになる。

 

 

 はあー・・・・・・プライドの塊がこんなにも邪魔になると思わなかったわ。

 どうにかして官僚から引き摺り下ろせないかな?いや、それこそ不味いことになる。

 ・・・・・・結局地道に認めさせるしかないわけね。

 

 

「前途多難ね。」

 

 

深いため息を吐きながら神子はいつもの花畑に向かう。

そして、花畑につくと同時に見覚えのある人影が見えた。

その人影が三日前に居た妖怪であると理解した神子は険しい表情を浮かべた。

 

 

「何でまだ此処にいるの?傷はもう癒えたでしょうに。

 それとも、滅されたいの?」

 

 

「い、いえ!!というか、そもそもここが私の縄張りなんですよ!!」

 

 

「妖怪の縄張りなんてあるの?」

 

 

「ありますよ!!自分が生まれた場所を縄張りにする妖怪が多いそうです。」

 

 

「ふ~ん・・・まあ、どうでもいいことだけどね。

 じゃあ、無理やり追い出すだけだからね。」

 

 

そう言って神子は宝剣に手を掛けた。

すると、少女は慌てて神子に弁解した。

 

 

「わ、私は貴女と話し合いたいんです!!」

 

 

「・・・・・・」

 

 

 正気・・・なんだろうけど、正気とは思えないわね。

 こっちは少し前に本気で殺そうとした奴なのに。

 とんでもなく能天気なのか、それとも単にこの妖怪が馬鹿なだけなのか。

 

 

「えっと・・・・・・自己紹介がまだでしたね。

 私は桔梗と言います。こう見えても植物から生まれた妖怪です。」

 

 

「植物?つまり、お前は草木から生まれた存在だと言いたいの?」

 

 

「はい。」

 

 

桔梗はにこっと笑った。

 

 

「私はこの場所を離れたくありません。そこで取引です。

 薬草を適宜謙譲する代わりに、私がここに留まるのを黙認する。これが取引です。」

 

 

にこっと笑みを浮かべたと思ったら、一転して真剣な表情を浮かべる。

とても三日前に神子の殺気に怯えていた妖怪とは同一には見えない。

 

 

「・・・・・・それで私に何の利益があるの?」

 

 

「貴方たちは植物の中には薬になるモノがあるのを知ってる。

 だけど、植物に関する知識を持ってないから上手く活用できない。

 その点、私は植物そのものの化身。植物のことなら、誰よりも詳しい」

 

 

 確かに都の方はともかく、農村の方には薬が出回りにくい。

 私が調合して農村に持っていけば、少なくとも病気で死亡する人は少なくなる。

 それに、もしかしたら流行り病を防げるかも知れない。

 

 

「その前に一つ聞きたいことがある。君は人を食べたいと思わないの?」

 

 

一応、桔梗に確認を取る神子。

すると、桔梗は笑いながらこう言った。

 

 

「あはは♪ 食べたいと思うわけないじゃん。私は植物の妖怪だよ? 

 私は植物たちと一緒に居て、のんきに暮らせればそれだけ十分なんだよ」

 

 

「そう・・・・・・。なら、さっきの取引受けさせてもらうわ。」

 

 

「交渉成立だね~。植物に関することが聞きたいなら、いつでもおいで。

 私は絶対に滅多なことでこの場所を動くことは無いから。

 まあ、息抜きに来てもいいよ? 私も話し相手が植物だけだとつまらないから。」

 

 

「植物と話ができるの?」

 

 

「そりゃあ、植物の妖怪だからね。植物たちの話を聞くことなんて朝飯前だよ♪」

 

 

子供っぽくケラケラと笑う桔梗。

いつの間にか神子は“豊聡耳神子”を演じるのを忘れていた。

妖怪と人間。普通なら、交じり合うことなど絶対にありえない二つの種族が手を結んだ瞬間だった。

 

 

しかし、神子は知らなかった。

この結果が悲しい悲しい別れをもたらすことになるなど・・・・・・。

 

 




神子の口調に自信がない。
だって、神霊廟やったことないんだもん。(というか、緋想天以外やったことない)
あと、植物の妖怪こと桔梗にはモチーフがあります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。