東方聖人録 《妖を従える聖人》   作:玄武の使者

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第2話

第2話

 

 

成り切ることを目指すため、邪を殺そうとする心

 

 

対照的に殺したくないという心

 

 

二つの心を持ってしまった聖人の葛藤

 

 

そんな葛藤に悩む聖人の横には必ず彼女が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

春。それは新しい命が芽吹く季節。

斑鳩宮から少し離れた場所にある少し広い森の中にひっそりと存在する花畑。

桔梗と名乗る妖怪との取引から早2週間。豊聡耳神子は相変わらずその妖怪の元に通い続けている。

 

 

「今日も来たんですか?」

 

 

「悪い?ここじゃないと休憩できないのよ」

 

 

そう言って神子は宝剣を外して花畑を囲んでいる木々の一本に凭れ掛かる。

桔梗はクスッとほくそ笑むと再び花たちと会話する。

近くに居るが、とても遠くに居る。それが二人の関係だった。

 

 

「・・・・・・昨日もまた子供が妖怪に攫われた。」

 

 

「・・・・・・」

 

 

「桔梗も・・・人に害を為そうと思ったことはなかったの?」

 

 

「全ての妖怪を一緒にしないで」

 

 

桔梗は少し不機嫌な様子で返答を返した。

 

 

「人間はいつもそう。妖怪だからというだけで私を殺そうとした。

 私は少し前までこの花畑から少し離れた集落で薬草を売っていた。

 結構大雑把に人たちでね。妖怪である私も快く受け入れてくれた。」

 

 

神子と出会う前の過去を語る桔梗。

神子は黙って桔梗の過去の話を聞いていた。

 

 

「でも、その集落は問答無用で焼き払われた。妖怪である私を匿ったという理由だけで。

 その集落に居た人は皆殺された。これが同じ人間に対してやることなの?」

 

 

「・・・・・・・」

 

 

神子は何も言えなかった。

しかし、桔梗の話に少しばかり引っかかりを覚えていた。

 

 そんな大規模な焼き討ちがあったなら、都の方にもなにかしらの報せがある筈。

 でも、そんな報せはなくずっと平和が続いてた筈。何か・・・引っかかる。

 そうだ。確か、税を納めない集落を焼き払うのを何処かの貴族が提案してたね。

 だけど、あの意見は馬鹿げてるって却下されたはず・・・・・・。

 

 

「どうかしたの?急に黙り込んじゃって」

 

 

「いえ・・・・・・。ただ面倒な案件が残っていたのを思い出しただけです」

 

 

そう言うと神子は立ち上がり、鞘に入った宝剣を腰に差した。

 

 

「今日のところはもう帰るよ。処理しなくちゃいけない案件を見つけたことだし。」

 

 

「?」

 

 

神子は踵を返して花畑から立ち去っていった。

 

 

・・・

 

 

・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

その夜。

神子は自室で会合の内容を記録しておいた資料に目を通していた。

会合にそういう書記は居ないのだが、忘れたときのためにと神子は独自に資料を作り上げていた。

神子が会合に参加するようになった時のと同時に資料の製作は始まったので、一枚一枚確認していくのは中々骨である。

 

しかし、それは一人だけの時。

今の神子には二人の手伝いがついていた。

 

物部布都と蘇我屠自古。

実は互いに敵同士なのだが、双方神子のことを尊敬しているので神子の前ではそんな素振りを見せない。

二人が敵対しているのは親の対立関係が関係しているのだが・・・・・・。

 

 

「でも、突然どうしたのじゃ?」

 

 

「・・・・・・今日、森を散歩していたら焼け落ちた集落を見つけたのよ。

 その集落はどう考えても人為的に焼き払われた形跡があった。

 それで思い出したのよ。どっかの貴族のとんでもない妄言を。」

 

 

嘘を交えながら神子は自分が纏めた資料に目を通していく。

そして、目的のモノを見つけた。

 

 

 正直言うとあの貴族は邪魔だったのよね。とっとと政治の舞台から降りてもらいましょう。

 でも、これだけだと引きずり落とす十分な証拠にはならない。

 

 

「布都、屠自古。明日でいいから集落焼き払いに参加した兵を捕まえてきなさい。」

 

 

「わかったのじゃ。」「最善を尽くします」

 

 

 さて、私も少し動く必要があるわね。

 冷血非道な人間はさっさとご退場願いましょうか。

 

 

神子の暗躍は秘密裏に進められていた。

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

翌日。

その日は会合がなかったので、神子は朝方から焼き払われた集落に向かっていた。

斑鳩宮から田園地帯を抜けて、森に入り、森を抜けた先にその目的の集落はあった。

かつて住居であったであろうモノは完全に焼け落ちて死体が野ざらしになっていた。

 

 

「予想以上にひどい有様ね」

 

 

思わず顔をしかめる神子。

野ざらしにされたままの死体は腐りきってしまい、嫌な臭いを発している。

このままでは伝染病の原因にもなりかねない。

 

 

「何か地面を掘れるモノは・・・・・・あった。」

 

 

神子は燃えずに残っていた木製のスコップを見つけた。

先端の部分にだけ鉄が使われているので、硬い地面を掘るには強度は十分だろう。

 

 

「まさか私が穴掘りすることになるなんてね」

 

 

苦笑いを浮かべながら神子は硬い地面にスコップに先端を突き刺した。

最近日照りが続いてるため、地面は非常に硬い。しかし、神子はめげずに穴を掘る。

普段の神子を見ている者なら、その光景に驚きを隠せないだろう。

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「しんど!!」

 

 

体力の限界を迎えた神子はその場に座り込んでしまった。

 

 

 結構体を鍛えてるとはいっても所詮は10歳の体。

 五つの深い穴を掘って埋めたらさすがにキツイわ。

 でも・・・・・・私がやらないと、この死体たちは供養されることもない。

 供養されない死体を見るのはもう嫌なのよ。

 

 

神子の頭を横切るのは“彼女”が“彼”であった頃の記憶。

いわゆる前世の記憶。大部分が薄れている記憶の一部を思い出して苦い顔を浮かべた。

 

 

「こんなときに単なる人間であることが恨めしいわ。」

 

 

そう言いながら神子は立ち上がり、再び穴掘り作業を再開しようとする。

しかし、影から視線を感じて作業の手を止めた。

 

 

「誰か居るの?」

 

 

「「・・・・・・・」」

 

 

視線の方に向かって言葉をかけると焼け落ちた住居跡の影から二人の子供が出てきた。

一人は8歳ぐらいの少女でもう一人は5歳ぐらいの少年だ。

少女の方が姉なのだろう。少年を守るように前に立っている。

 

 

「君たちはこの集落の生き残り?」

 

 

「そうだ。都の連中がこの集落を焼き払った。」

 

 

「私はある人物からこの集落のことを聞いた。ここを焼き払った都の役人は何と言っていたか覚えてるか?」

 

 

「“ここの集落は忌むべき妖怪を匿った。ゆえに我らは裁きを下す”。そう言ってた。」

 

 

「そう・・・・・・その役人の顔を覚えてる?」

 

 

「当たり前だ!!あの顔を忘れるわけがない!!」

 

 

少女は明らかな憎悪の感情を現した。

目の前で親しい人たちが殺されたのを目撃していたのなら、その張本人を憎まないわけがないだろう。

 

 

「そう・・・・・・。その前にちょっと手伝ってくれないか?」

 

 

「穴掘り?」

 

 

「そう。死体のまま放置しておいたら可哀想だからね」

 

 

「・・・・・・わかった。」

 

 

・・・

 

 

 

・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

数時間後。

 

 

「ふう。ようやく終わったわ」

 

 

放置されていた死体はすべて三人が掘った穴に一体ずつ埋められた。

集落に残ったのは焼け落ちた住居に土器や農具、それに二人の子供だけになった。

日陰で火照った身体を休めながら二人の姉弟に尋ねた。

 

 

「さて・・・・・・ちょっと君たちに聞きたいんだけど、君たちはこの元凶である妖怪と役人のどっちを憎んでるの?」

 

 

「役人の方に決まってるじゃないか!!桔梗は確かに妖怪だったけど、あたしらに薬を恵んでくれた。

 この村は桔梗のおかげで何人も命を救われた。だから、みんな桔梗をかばったんだ!!」

 

 

「僕も・・・・・桔梗に助けられた。だから、桔梗は、悪くない」

 

 

「そう・・・・・・。」

 

 

 桔梗って、本当に変わった妖怪ね。都では妖怪に子供が攫われたり、殺されたりするのが日常なのに。

 薬を売って村の人を助けたり、村の人と仲良くなってたり、本当に不思議な妖怪。

 

 

神子は桔梗が変わり者の妖怪だと思った。

そして、桔梗を殺そうとした自分を思い出してチクリッと胸が痛んだ。

 

 

「ねえ、ちょっと私に協力してくれないかしら?

 君たちが憎んでる役人に、絶望を味あわせるために。」

 

 

神子の提案を二人の子供はすぐに了承した。

そこまで自分が生まれ育ってきた集落を焼き払われ、肉親を殺されたことが憎いのだろう。

 

 

「自己紹介がまだだったわね。私は豊聡耳神子。」

 

 

「鳶梅。」

 

 

「海燕。」

 

 

「鳶梅に海燕、ね。短い間だけどよろしく」

 

 

神子は笑顔を浮かべながら鳶梅に手を差し出した。

少し戸惑った鳶梅だったが、それが握手だとわかると小さな手で神子の手を握った。

 

そして神子は鳶梅と海燕という重要な手がかりを持って都に戻っていった。

 

 

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