第6話
出会いがあるから別れがある。
出会いが生まれると別れも生まれるのは必然。
しかし、別れはあまりにも唐突で。
そして、残酷なものだった。
秋。それは農民たちにとってもっとも大切な季節だ。
食欲の秋という言葉があるように秋には数々の食べ物が収穫される。
この季節の収穫量が農民たちの運命を左右すると言っても過言ではない。
収穫量(主に米)が少なければ、税にほとんど収穫を持っていかれて苦しい生活を強いられることになる。逆に収穫量が多ければ、税に持っていかれも余裕ができる。
「今年は豊作みたいね」
「はい。今年は日照りが少なかった上に天気も安定していましたから。」
神子はいつもの花畑ではなく、都近くの集落の視察に来ていた。
目的は今年の税を決めるためである。
「じゃあ・・・・・・正確な収穫高が決まった頃にまた来るよ」
「はい。」
この時代の税はすべて役人が自分の判断で決定する。
基本的に採れた米を全て俵にして、その内の数個を税として持って帰る。
当然、私たち役人も持ち帰った税の一部を天皇に謙譲しないといけない。
「はぁ~・・・この時期は気が滅入るよ。」
神子は帰り道にそんなため息を吐いた。
この時期の役人はとにかく欲が丸分かり。農民を道具として見てる奴も居る。
家を裕福にすることは政治において強い発言権を得ることにつながる。
だから、こぞって税を不当に徴収する役人も居る。
「・・・・・・いつか、きちんとした法律を作らないと駄目ね。」
そんなことを考えているとちょうど花畑に通じる森の前に差し掛かった。
木の葉は色とりどりに色づいて、数枚の落葉が布団のように地面を覆っている。
今日は鳶梅も海燕も居ない。視察に向かう集落が都から近いこともあって今日は連れてきていないのだ。
「どうせ帰っても暇だし、寄って行こうかな?」
そう独り言を呟いて神子は色鮮やかに色づいた森の中に入って行った。
春や夏は深緑の木の葉を付いていた木々も秋になると赤色や黄色に色づいている。
落葉を踏むたびに乾燥した葉っぱがパリッ、パリッという音を鳴らす。
もうすぐでいつも花畑が見える位置で神子は耳当てを外した。
「誰か、いる?」
おかしいな。あの花畑はちゃんとしたルートを通らないとたどり着けないようになってるハズ。
私が見つけれたのも本当に偶然の産物だし・・・・・・たまたま誰かが迷い込んだのかな?
少し不審に思いながらも神子は桔梗のいる花畑に向かって歩き出した。
しかし、花畑に広がる光景を目撃した神子は驚愕した。
「え・・・・・・?」
「お待ちしてたぜ、神子さま」
いかつい図体の男性が桔梗に馬乗りになっていた。
その男性は神子にも見覚えがあった。無意味に動物を殺したり、色々狂っている役人だ。
しかも、動物を殺すだけでは飽き足らず妖怪を惨殺したり、貧しい集落の子供を攫って殺したり悪行三昧の日々を送っている。
何度がその悪行の証拠を手に入れようとしたが、彼の部下に邪魔されて失敗されている。
「こんな所で何をしてる。」
「ん?それはですね・・・・・・」
ガサッ
「!?」
耳が鋭い神子は誰かが接近しているのに気がついた。
しかし、気がついたときには遅く、神子は二人の男性に拘束されてしまう。
ずっと神子の背後で待ち構えていたのだろう。
「駄目ですよ、神子さま。妖怪なんかに誑かされたら。」
「私は誑かされてなんかいない!!」
「ああ、嘆かわしいことです。そこまでこの妖怪に操られているなんて」
口上とは裏腹にその男性はニヤニヤと笑みを浮かべている。
おそらく背後から神子を押さえつけている二人組の男性もニヤニヤとした笑みを浮かべているだろう。
そして、神子を拘束している男性の片割れが神子の宝剣を放り投げる。
放り投げられた宝剣は桔梗に馬乗りになっている男性の手に渡った。
「じゃあな、妖怪。神子さまの手に掛かって死ねるんだから光栄だろ?」
「止めっ・・・・・・!!」
「止めろ」と言い切ることができなかった。神子の視線の先には桔梗の顔。
桔梗は笑みを浮かべていた。そして、神子にしか聞き取れないような音量でこう言った。
―――あの二人を助けてくれて、植物たちを愛してくれて、ありがとう。―――
―――あとのことは貴女に託したわ。―――
刹那、神子の宝剣が抜き放たれ、桔梗の首を・・・・・・落とした。
ブシャッという音を立てて飛び散った鮮血が花畑に咲き誇る花々を紅く染め上げる。
「あ、ああ・・・・・・」
「妖怪は頑丈らしいからな。心臓も抉っておくか」
男性は笑みを浮かべながら桔梗の心臓で神子の宝剣で抉り取る。
神子の宝剣は桔梗の血で汚れて紅く染まっていた。
何で・・・何で・・・桔梗が死なないといけないの・・・・・・?
桔梗はただ、植物と生きていたいって願ってただけなのに。
どうして・・・何で!!
ポロポロと神子の目じりから涙が零れ落ちる。
短い間だったが、桔梗と神子の間には確かな絆が存在していた。
生まれて間もない絆を目の前に居る彼らは一瞬で壊した。
「すげぇな。まだ元気良く脈を打ってるぜ」
許さない・・・・・・。絶対に許さない!!
よくも!! 桔梗を、私の大切な友人を!!
神子の心の中に今まで感じたことのない黒い感情が生まれる。
憎しみ、憎悪と呼ばれるその感情は彼女の思考を麻痺させ、感情のままに行動させる。
――オマエタチハ、ワタシガ、コロス!!――
刹那、肉を切り裂く音と真っ赤な血飛沫が花畑に舞った。
そして、宙を舞う2本の腕。
「「ぎゃあああああああ!!!!」」
認識した途端に激しい痛みが襲い掛かり、神子を拘束していた男性はのた打ち回る。
神子の手には血に塗られた短い剣。刃渡りは25cmほどだ。
彼女は拘束して男性の急所を蹴り上げて、袖口に忍ばせておいた短刀で切り裂いたのだ。
万が一、宝剣や逆刃刀が使えない事態に備えて携帯していたのが功を奏したようだ。
「な、ななっ」
ザシュッ!!
神子は短剣を逆手に持ち替えて、桔梗を殺した張本人を袈裟切りに斬った。
同時に短剣は折れてしまうが、かなり深く切られたためにそのまま命を落とした。
「・・・・・・・・・」
桔梗を殺した役人はドサッと倒れ、傷口から溢れ出た真っ赤な血が花畑を赤く染め上げる。
このときの私は何を思ってたのか分からない。
ただ・・・・・桔梗が居なくなるのが嫌だった。だけど、妖怪は死体を残さずに消える。
せめて桔梗が居たことを忘れないようにしようとして・・・・・・
神子は殺した男性の手から桔梗の心臓を取り返した。
肉体と離れ離れになったというのに、その心臓はどくん、どくんと脈打っていた。
そして、桔梗の心臓を口元に運び、喰らった。
「っ!?」
神子は口元を桔梗の血で汚しながら、心臓を喰らった。
涙で顔はぐしゃぐしゃになり、口元には真っ赤な血。
そして、桔梗の心臓を喰らった後、神子はいきなり意識を失った。
「うっ・・・あれ、私は・・・・・・」
神子が意識を取り戻したときにはすっかり夜になっていた。
記憶がおぼろげだが、意識がはっきりしてくるのと同時に記憶もはっきりしてくる。
そして、意識を失う前に起こった出来事を思い出した神子は再び涙を流した。
「き、きょう・・・・・・」
意識を失う前にあった筈の桔梗の死体はすでにない。
残っているのはすっかり乾いているが、桔梗の血を浴びた花と神子が殺した男性の死体。
そして、桔梗の首をはねて心臓を抉り出した神子の宝剣。
『涙をふきなされ』
「っ!?誰!?」
『お前さんがよく凭れ掛かっておる樹じゃよ。』
「え?」
突然頭の中に響き渡る声に神子は戸惑いを隠せない。
『まあ、信じられぬのも無理はないじゃろう。じゃが、お前さんの身体について話しておかないといけないからのう。』
「私の・・・・・・身体?」
『そうじゃ。お前さん、桔梗の心臓を喰らったじゃろ?』
「・・・・・・・ええ。」
『そのせいで桔梗が持っていた能力がお前さんに引き継がれたのじゃ。
その証拠にわしと会話できてるじゃろ?』
「私の中に・・・・・・桔梗の力が・・・・・・」
不意に神子は自分の姿がどうなってるのか気になったので、宝剣の刀身を鏡代わりにして確認した。
髪の色や肌の色にまったくの変化はないが、両目が禍々しい紅に変わっていた。
さらに、神子の宝剣の刀身にも真ん中から先端に掛けて真っ赤な文様が刻まれている。
この宝剣も・・・・・・何か不思議な力を感じる。
禍々しい感覚がするけど、同じくらいに優しい感じがする。
『お前さん、今日は此処に居た方が良い。
先ほどからこの花畑の周辺を妖怪たちがうろうろしておるらしいからのう。』
「分かりました。」
あ、帰った時の言い訳を考えておかないと・・・・・・。
それに、この目。どうやって誤魔化そうかな?
でも、今は少し眠りたい・・・・・・
神子はいつもの樹に凭れ掛かって静かに目を閉じた。
植物たちは神子を気遣っているのか、まったく喋らない。
ただ「お休み」という優しい声が神子の耳に聞こえてきた。
桔梗、退場。
2013年4月22日、追記。
大まかな展開は変わっていませんが、セリフ等を若干変更。