よりにもよって出会っちゃいけない二人が無法地帯で出会ってしまったかあ、というのが率直な感想だった。
いや、ハーゼさんとキョウスケさんの仲が悪いとかそういうことじゃなく、ヴァルガで最上位ランカー同士が激突するということは、一つの災害が発生するのと等しいのだ。
別ゲーで例えるならあれだ。年中ブチギレてるゴリラの化け物と、とにかく腹が減って仕方ないゴーヤの化け物が遭遇した感じ。
つまるところ──そこら一体が即死地帯と化すって考えれば一番早い。
「ぐっ……!?」
『……なにあれ。怖……』
ユメカが呆然としながらぽつりと呟いた通り、互いを睨み合っていたディバインダブルオークアンタとキハールリッターはなにかを合図にしたかのように動き出し、機体が通り過ぎた後には死の嵐が吹き荒れていた。
断末魔の声を上げる暇もなく、逃走の構えをとっていたガンダムキュリオスが八つ裂きになる。
せめて一矢報いて死ぬぞとばかりにビームサーベルを引き抜こうとした段階で、フリーダムガンダムの上半身と下半身が泣き別れしている。
これを嵐と言わずしてなんというのか。
死屍累々、モヒカンたちが次々と残骸に変貌していくこの空間はさながら嵐の棺とでも呼ぶべきだろうか。
こうなってくると、逆に迂闊に動く方が危ない。
『クソッ、どうすりゃいいんだ!』
『馬鹿野郎、下手に動くな! そこが進路になったら諦めろ!』
『オ、オレらこのまま……死、死んで……!』
阿鼻叫喚の地獄の中に救いの声が響くことはない。
ディバインダブルオークアンタが展開している──いくつだ、とても目で追えるもんじゃない──無数のソードビットが自由自在に障害物を斬り裂いて、キハールリッターを捉えんと追い詰めていく。
だけど、キハールリッターもまた冗談みたいな早さで直撃コースのビットだけをパリィして、コンポジット・シールド・ブースターの先端に接続されている片刃のGNソードⅡロングから、ディバインダブルオークアンタのコックピットを正確に狙った一撃を放つ。
『……僕にバリアを使わせるとは』
『……』
『……相も変わらず君はだんまりか。だが、面白くなってきた……!』
戦況だけを見るなら、ディバインダブルオークアンタがキハールリッターを一方的に追い詰めているように見えるけど、実際はその逆だ。
キハールリッターが暴嵐みたいな攻撃の中で安置を瞬時に見つけ、虎視眈々とディバインダブルオークアンタの撃墜を狙っている。
確かに人間の行動には多かれ少なかれ、「呼吸」が挟まれる。それが例えどんな化け物じみたトップランカーであったとしても、息をつかせぬ波状攻撃に見えたとしても、ごく僅かな──息継ぎをするだけの隙が、理論上は存在しているのだ。
キョウスケさんもハーゼさんも、僅か数瞬、刹那のうちにしか見えないお互いのその後隙を取るために、武装や手法は違えど死力を尽くしている。
正直、見てるだけで頭がおかしくなりそうな領域だ。ギリギリ目で追えてはいるけど、なんでここまでの高速戦闘をほとんど息継ぎなしにできるんだ、この人たちは。
二桁の魔物。個人ランキング100位以内に入った文字通りの怪物、三桁の英傑を喰らい尽くした化け物を指して人はそう呼ぶ。
その所以がはっきりとわかった気がした。
あれは確かに魔物だ。化け物ですらない。
化けることなく、最初から魔の物でなければあの景色を拝むことはできないのだろう。
ソードビットの暴嵐圏をついに抜けて、キハールリッターがGNソードⅡロングでディバインダブルオークアンタへと切り掛かっていく。
ただ、ここで易々と切り裂かれてやるのならば、あの人は「FOE」さんなんて呼ばれていない。
手にしていた蒼いその槍を分割して二本の剣として、斬撃の勢いを殺して受け流す。
とてもじゃないけど、人間業じゃなかった。
ハーゼさんも、キョウスケさんも。
ただ、あの槍「GNロンゴミニアド」は槍のような形状をした砲撃武器だ。「剣」として研ぎ澄まされた一撃を受け止めるには力不足だったのか、ハーゼさんの剣を受け止めた槍の先端部分がぴしりとひび割れる。
『……なるほど』
『……』
『……これは余裕などなくなってきたかもしれないな』
そして、すかさず追撃として腕部ラージシールドから放たれた拡散ビームを、ビームマントを翻すことでいなしつつ、キョウスケさんは再び連結させたGNロンゴミニアドをブーメランのように放り投げる。
実際は手元に戻ってくることはないにしても、面積を持つ大質量の武装が投擲されるのは昔から迎撃の手段として厄介なものだ。
キハールリッターが宙返りで即席大型ブーメランを回避したかと思いきや、その隙をついて、腰にマウントしていた黄金色の刃を持つ大型剣を振り翳したディバインダブルオークアンタが斬撃を浴びせる。
『……っ!』
『……少しはお返しができたかな』
『……!』
咄嗟に腕部ラージシールドを防御として翳したのはハーゼさんの反射神経が凄まじいからできたことだ。
普通ならあの一撃で死んでいる。
しかし、防御の代償として「GNバエル・ソード」で切り裂かれた腕部ラージシールドは、真っ二つになっていた。
『……これはお互いに本気を出すしかないようだね』
『……』
『……もっとも、君がどう思っているかは知りようがないが──トランザムブーストモード、ツヴァイアクセル』
『……!』
通常のトランザムと違い、その解号に従ったディバインダブルオークアンタは全身を蒼色に染めて、さらに加速する。
それを見て、流石にヤバいと判断したのかそれともただ単に殺してやるとでも思ったのか、ハーゼさんもまたトランザムを発動して、いよいよ戦いは目で追えない領域に突入していく。
なにかが掠めるだけで機体が穿たれ、オブジェクトが破壊され、廃墟都市をモデルにしたヴァルガの景色はどんどん更地になる。おれたちはその嵐に呑み込まれてしまわないように、しがみつくことで精一杯だった。
──だけどな。
「……ねえ、ユメカ」
『……なに。アサギ君』
「この戦い、見てるだけで満足できる?」
わかっている。
今おれたちがあの戦いに割って入ろうものなら、一秒ももたずに塵に変えられるのは。
例え万全の状態であったとしてもその結果は変わらない。魔物同士の戦いに蟷螂の斧を振り翳すだけだ。
だとしても、道行く御所車に斧を振り上げた蟷螂は、人間だったら英雄の器なんだぜ。
『……まさか。わかるでしょ』
「おんなじだ」
『……うん。お揃い』
おれは迷うことなくユメカが預けてきた機体からビームサーベルを引き抜いて、アジャストと同時にビームジャベリンモードに切り替える。
さて、覚悟してもらおうか。
もしかしたらこの一撃がどっちかに直撃してあわよくばワンチャン……なんてこともあったりなかったりするかもしれないんだ。
そして、必殺技スロットを選択。
G-3ガンダムから武装を拝借してきたことで変化した必殺技、ロンギヌスやゲイボルグとでも呼ぶべき超高速での投げ槍投擲をおれは敢行した。
「……届けっ!」
だけど、それでやられてくれるなら「二桁の魔物」なんてやってないんだよな。
剣戟の中に突如として割って入ってきた超高速の投げ槍を、羽虫が目の前を通ってきたかのように最低限のモーションで避けたディバインダブルオークアンとキハールリッターは、それぞれおれとユメカをターゲット……いや、障害物としてロックオンし、すれ違いざまに両断する。
白騎士と黒騎士。その二人の対決を最後まで見届けることは叶わなかったし、結局やられちゃったけど。
セントラル・ロビーに強制送還されたおれたちは、一騎打ちの行方も、無謀な挑戦の結果も忘れて、きょとんと顔を合わせていた。
──そして。
「あっはははは!」
「ははははは!」
なにかのタガが外れたように、おれとユメカは腹を抱えて一頻り笑った。
なにがおかしいのかもわからないまま、ケラケラと笑い続けていた。
得られたダイバーポイントは全損、決着もつかないまま、消化不良で終わったっていうのに。
「……でも。楽しかった」
「うん、最高に楽しかった」
それ以上の言葉は、きっといらなかった。
おれたちは同時に差し伸べた手を握り締めて、互いの労をマナーとして、そして心からの敬意として労う。
「グッドゲーム、ユメカ」
「……グッドゲーム。アサギ君」
「これでもまだ、GBNやめたい?」
「……ううん、やめたくない。アサギ君と一緒に、また遊びたいな」
ユメカはそう、控えめに微笑みかけてくる。
その美貌と妖艶さにくらっときそうになったのは、多分疲れてるからだろうと言い訳しておく。
でも、さ。
やっぱり嬉しいし楽しいものなんだよ、新しい友達が、同じ趣味を共有する仲間ができるっていうのは。
例え、得られたものなどなくとも