「な、なんだこいつらは……なんなんだ……?」
たった二機だけのフォースとの昇格戦。
されど二機だけだとは侮らずに持てる全ての戦力を投入して、あらかじめ予測していた侵攻ルートにトラップだって敷設していたのに。
スープパスタ曹長なるダイバーネームをした男は、乗機のドムトルーパーのコックピットで、敵の異様さに慄いていた。
「こ、こちらカツカレー伍長! これ以上はもちません! うわぁぁぁ!!!」
「か、カツカレー伍長! どうした!? 応答しろ、チキンライス軍曹! ロコモコ一等兵! 皆、なにが起きているんだ!」
スープパスタ曹長は通信ウィンドウに向けて悲痛な叫びを繰り返しているが、仲間たちからの応答は一つ一つ、灯火が消えるかのように途絶えていった。
彼の率いるフォース──「食い物機甲師団」は、有名フォースである「第七機甲師団」のパロディフォースでこそあったものの、智将として名高いあの「ロンメル」へと師事を乞うことも試している実力派だ。
そして、戦力比が五対一という有利を取ってなお、スープパスタ曹長は慢心することなく、そのたった二機を始末するためのフォーメーションを構築、天然の要塞となる森林地帯に陣取って迎撃体制を構築していた、そのはずだった。
仕掛けたトラップは全て正常に作動しているのは確認している。
電流に死角からの砲撃、落とし穴や光学迷彩シートを利用することで沼を隠すというものまで、全てが問題なく作動していたはずなのだ。
だというのに、密林を盾にして有利を取っているはずなのに、仲間たちの声は一つ一つ、今もなお途絶え続けている。
自分たちは、一体なにと戦っているんだ。
スープパスタ曹長の中に生じた疑念は次第に恐怖へと変わっていった。
操縦桿を握る手が震える。仲間たちとの通信はとうとう全て途絶した。いよいよ、自分を助けてくれる存在は全ていなくなったということだ。
「う、嘘だ……どういうことなんだ……ホワイトシチュー軍曹……」
『そのホワイトシチュー軍曹っていうのはこれのこと?』
「だ、誰だ!?」
戦友の名を呼んだそのとき、一人の少年が通信ウィンドウに割り込んでくる。
ダイバールックを自在に変えられるGBNで年齢の詮索など馬鹿馬鹿しいことではあったが、それでも彼の声からは歳若さのようなものが感じられた。
だが、今あの少年はなんと言った?
スープパスタ曹長がそんな風に慄いているところへ追撃をかけるように、相対していたZガンダムを操る少年は、千切れたハイゴッグの腕を雑に放り投げる。
「こ、この腕の色は……ホワイトシチュー軍曹!?」
『光学迷彩で沼地を隠して奇襲する……その発想は悪くなかったと思いますよ』
「き、貴様! ホワイトシチュー軍曹になにをした?」
『嫌だなあ、おれはなにもやってませんよ。天がやれって言ったんです』
ホワイトシチュー軍曹が駆るハイゴッグが奇襲をかけたその瞬間にビームサーベルを突き立てられ、動きを止めた残骸がウォーハンマーの代わりに二段構えの奇襲を想定していた彼の同僚へと叩きつけられたことをスープパスタ曹長が知ることはない。
つまり天誅ですよ天誅、と、ナチュラルに気が狂っているとしか思えない答えを返してきた少年にドン引きしながら、スープパスタ曹長は牽制射撃を加えつつ後退する。
だが。
ゆらり、と密林の中から現れたもう一つの影が動いたと思ったその瞬間、スープパスタ曹長のドムトルーパーは上半身と下半身が泣き別れしていた。
なにがあったのかを知る術もなく、爆散していく愛機のコックピットでスープパスタ曹長はただただ得体のしれない恐怖に慄く。
セントラル・ロビーへと一足先に強制送還されていた仲間たちがそうであったように、彼もまた、ロビーの真ん中で全ての精気が抜け落ちた、幽鬼のような表情で打ち震えることしかできなかった。
「……あ、あれが……あれが、『ビルドリヴァル』……!」
最近売り出し中のフォースだから調子に乗っているのだろうと読んで戦いに臨んだスープパスタ曹長は、驕り高ぶっていたのは自分たちだと痛感したまま、がくりと肩を落とす。
ビルドリヴァル。突如としてフォースランキングを駆け上がってきた二人組の名前を頭の中に思い浮かべながら。
◇◆◇
「……勝った。やっぱり対多数の方が楽しいね、アサギ君」
「そうだね、今日の相手はかなり対策ガチガチに固めてきたから歯応えあった」
確か、「食い物機甲師団」とかいう名前のフォースだったか。
今日の分の昇格戦を無事に勝利で終えたおれたちは、対戦相手のログを確認しながら小さな反省会みたいなものを開いていた。
相手の戦力は十機のガンプラに対してこっちは二機だけだったのもあって、結構手こずらされたし、なにより厄介だったのはトラップを二重にも三重にも仕込んでいたところだ。
幕末やヴァルガでも多重トラップや数の暴力は経験してきたからなんとかなったけど、フォース戦となると少し趣きが違うような気がした。
もちろん、トラップに人を嵌めようとしてくれた落とし前はきっちりつけさせてもらったけどさ。
それはともかく、相手が状況を利用してこっちを殺しにかかってくるタイプだと、やっぱり歯応えがあって楽しいのは確かだった。
「おめでとう、アナタたち。また腕を上げたのね」
そんな具合に反省会をお開きにしようとしたところで、おれたちにフォース結成を勧めてくれた恩人ともいえるマギーさんがひょっこりと姿を現す。
「そう見えるならよかったです。ヴァルガだと意外と腕の差ってわかりづらいんで」
「あそこはジャイアントキリングも日常的にあるところだから、さもありなんといったところね。どう? ユメカちゃんはフォース、楽しんでるかしら?」
「……はい。とっても」
ヴァルガにこもって戦うのとは、また違った感覚がするので。
ユメカの答えにマギーさんは苦笑しつつ、なぜかおれの肩をぽん、と叩く。
そんなにおかしいこと言ってたかな。
「血気盛んなのはいいことだけど、あんまり闘いばっかりでも疲れちゃうでしょう?」
「そうかな、ユメカ?」
「……ううん。GBNなら息切れしないで動ける」
マギーさんからの問いかけに、おれたちは揃って首を傾げていた。
ここはGBN、ガンプラバトル・ネクサス・オンラインなのだから、ガンプラバトルに疲れてたんじゃなにも始まらない。
一応家具とかアクセサリーとか、フォース戦の報酬はもらっているけどそれもほとんどインベントリの肥やしになっているだけだ。
「あらあら……アサギ君とユメカちゃんにはせっかくなんだから戦い以外のことも楽しんでもらいたかったけど、余計なお世話だったかしら?」
「……戦う以外って。なんですか」
「そうねぇ……それこそフェスに参加してみるとかどうかしら? 今、ベアッガイフェスの開催期間中だもの」
マギーさんは丁寧にウィンドウを提示しながらそう言ってくれた。
でも、申し訳ないけどそんなことを急に言われてもな、といった具合でおれとユメカは再び顔を見合わせる。
ベアッガイフェスか……ベアッガイフェスなあ。
正直話聞いた限りでは全然楽しそうに見えないというか、参加する意義も意味もないイベントにしか思えないんだけど。
「特にユメカちゃんにはオススメかしらね。ふふっ、アサギ君と二人きりよ?」
「そりゃあ、おれたちは二人で『ビルドリヴァル』ですから……って、ユメカ?」
マギーさんの言葉を聞いたその瞬間、なにか天啓を得たかのようにユメカは目を見開く。
「……行こう。アサギ君」
「えっ、でも」
「……行きたく。ない?」
そんな目で見られても、おれは屈しないぞ。
そんな潤んだ泣きそうな目で見られても……いや、女の子を泣かせるのはよくないな。
それに、ユメカはリアルだと体が弱いから遊園地のアトラクションとか乗れない可能性もあるし。
「わかった、行こう。ユメカ」
「……ありがと。アサギ君」
行こう。行こう。そういうことになった。
そんな具合でおれたちは明日のフェス開催時刻とお互いの予定を確認しつつ、GBNからログアウトした。
蛮族とエンカウントしたのが運の尽きだったんですね(1敗)