帰りもリムジンに乗せられて下校する、恥ずかしいんだか緊張してるんだかよくわからない感覚が背筋をむずむずとくすぐり続けていた。
おれの友達たちは乗せてもらえないのかとリオさんに聞いてみたら、無理だという答えが即座に帰ってきてちょっと気まずい空気になったのを思い出す。
なんか知り合って早々距離感バグってないですか、ユメカさんや……なんて言っても、多分伝わらないんだろうな。
少しずつでいいから、おれの友達たちとも仲良くなってほしいと思うのは、エゴだろうか。エゴなんだろうなあ。
そしてこのリムジン送迎も、多分ユメカなりの感情の発露なんだろう。
そう考えると、どこまでも不器用なのがサイジョウ・ユメカという女の子らしい。
「……ガンダム。アサギ君」
「おれはガンダムじゃないよ……って冗談はともかく、今日の夜塗装してトップコートかけるから明日にはちゃんと渡せるよ」
「……ありがとう。一つ聞いても。いい?」
安心したとばかりにユメカはそこそこ膨らんだ胸を撫で下ろすと、おれの目をまっすぐに見据えてそう問いかけてくる。
なにかG-3ガンダムの調整について疑問でもあるんだろうか。
そりゃ、おれの腕じゃあのレンタルガンプラ……かつてその名を馳せた有名ビルダー、「ケイワン」さんが作ったのには及ばないかもしれないけどさ。
「……アサギ君が戦う理由って。なに?」
組んだ細い脚を上下させながら、ユメカは言った。
戦う理由かぁ。なんともまあ難しくて哲学的なことを聞いてくるな。
幕末やってた頃もヴァルガで戦っている今も、一位を目指してるとかチャンピオンを目指してるとかってわけじゃないのは確かなんだけど、それでも強いやつと戦いたいと思っていることだけは確かだ。
たとえ勝てないとしてもチャンプに喧嘩を売るか売らないかで言ったら売るだろうし、なんだろうな。
昔読んだ格闘漫画に書いてあったセリフが一番近いのかもしれない。
あの、自分の父親が地上最強だったから自分は地上最強を目指してるだけで、親父が地上で一番に弱かったら自分はそれより強ければよかった的な……なんだろう、なんか違う気もしてきた。
強くなりたい、という気持ちがないわけじゃない。
でもそれ以上に、どうせ戦うなら自分より強いやつと戦って勝ちたい、という気持ちが強いから、っていった方が多分正確なのだろう。
別に相手がGBNで一番強かろうと、おれよりちょっと強いだけだろうと関係ない。
「強いやつと戦いたいんだ」
「……強い人と?」
「ユメカみたいに強いやつと。それで勝ちたい」
「……勝ち続けたら。その先に、なにかあるの?」
「わかんない。もしかしたらチャンピオンになってるかもしれないし、もしかしたらどっかで挫折して燃え尽きてるかもしれない。でも、その日が来るまでは戦いたいんだ」
答えになっているかどうかはわからないけど、言葉にするならそれがおれの全てだった。
戦いたい。そして勝ちたい。
どこまでもプリミティブでシンプルな理由。
「……よかった」
ドン引きされたかな、と思ったけど、ユメカはむしろどこか安心したように小さく、本当に微かな笑みを浮かべると、続く言葉を唇から紡ぎ出す。
「……わたしと。アサギ君が、おんなじで」
いつもは気怠くアンニュイな輝きを宿しているユメカの瞳が、今はギラギラと輝く、刃紋のような殺意をむき出しにしている。
いい目だ。多かれ少なかれ、幕末を通ってきたやつは、そこに適合できたプレイヤーは、こういう目をするものなんだよな。
おれも、ユメカが「ご同類」だったことに奇妙な嬉しさを覚えていた。
◇◆◇
だから、手を抜くわけにはいかないんだよな。
そんな奇妙な嬉しさをモチベーションにして二徹目に突入したことで、G-3ガンダムは大体朝四時ぐらいには完成していた。
各部の表面処理とディテールアップ、アンテナやエッジのシャープ化……意識してやらなきゃいけないことは色々あったけど、その分出来映えは悪くないものに仕上がってると思う。
問題はこいつがあのレンタルガンプラと同じくらいの……とはいかなくても、最低限おれが使ってるガンプラと同等以上の性能を出せるかどうかだけど、そこはテストしてみるしかない。
時間が余ってたから作った、ペイルライダー・キャバルリーから流用してきたビームジャベリンと、ビームライフルとハイパーバズーカ装備のG-3ガンダムをダイバーギアにセットして、あくび混じりにゴーグルを被る。
万全の状態とは言い難いけど、それでも舐めプをするつもりはない。
「……んじゃ行くか!」
『GPEX SYSTEM START UP──』
『WELCOME TO GBN』
『CAN YOU SURVIVE?』
ダイブを承認すると同時に、意識が解けて、再構築されていく。
瞬きをする間に、アサギ・カイトという一人の人間から、ダイバー「アサギ」としてログインしたおれは、GBNの窓口──セントラル・ロビーに降り立っていた。
「さすがに朝四時だけあって結構人少ないな……」
それでもそこそこの人数がごった返している辺り、アクティブ二千万人の神ゲーは伊達じゃないってことか。
機体を動かすだけなら、ランダムマッチでタイマンをするって手もあるにはある。
ただ、慣らし運転をするなら、やっぱりヴァルガ行きがちょうどいいのかもしれない。
そう考えておれは、開いたコンソールから行き先にハードコアディメンション・ヴァルガを指定して、セントラル・ロビーを後にした。
◇◆◇
『クソッ! なんだあのG-3ガンダム!? ここらがこの俺様、モヒー・カーンの縄張りと知って突っ込んできやがったのか!?』
『た、助けてくだせぇ! ボス! うわああああっ!』
「こんな時間にもログインしてるんだ……」
『テメェが言えた義理じゃねえだろうがよォ!』
それもそうか。
朝四時ってこともあって、無敵時間明けの「出待ち」もいつもより手ぬるくて拍子抜けしてたけど、こいつら──ヴァルガではちょっとだけ有名なダイバー「モヒー・カーン」の一味がいたのは幸運だった。
こいつら相手だったら慣らし運転にも不足はない。
おれは通称モヒカンカスタムと呼ばれるガンプラ群のコックピットをビームライフルで撃ち抜き、相手の攻撃をいなしながらほくそ笑む。
初代ガンダムの系譜に連なるガンプラは、ビームライフルの威力が他と比べて高いという特徴がある。
多分だけど、劇中で出てきた「戦艦の主砲並み」って描写を落とし込んだんじゃないだろうか。
そのおかげもあって、モヒー・カーンを取り巻く重装甲のモヒカンカスタムを処理するのにはそこまで手間取らなかった。
奇襲をかけたおかげで相手が混乱しているのも大きいだろう。
弾幕砲火を掻い潜り、ビームライフルを投棄しつつ抜刀、迷わずシュツルム・ディアスのコックピットにビームサーベルを突き立てる。
『ば、バカな……十二機のガンプラがたった三分で!?』
「あ、やっぱり寝てる人もいるんだ」
『当たり前だろうが! 今何時だと思ってんだよォ!』
道理でいつもより数が少ないと思った。
圧倒されているモヒー・カーンにトドメを刺すべくビームサーベルを二刀流に持ち替えて、おれはそのザクⅢへと斬りかかる。
だが、その正面装甲の分厚さは伊達じゃなかった。
バイタルパートを確実に狙った一撃だったが、トドメを刺し損ねて、相手に一手を与えてしまう。
『ヒャハハハハハ! このハイパーエクストリームザクⅢカスタムF4000バルバロイの装甲を侮ったなァー!』
「ごめん、なんて?」
『ウルトラスーパーザクⅢカスタムF6000バルバトスの餌食になって死ねってンだよォ!』
本人も名前を覚えてないのか、それとも単純に怒りで前が見えなくなっているのか。
どっちにしても安い挑発に乗ってくれたのはありがたい。
大上段に振りかぶったジャイアント・ヒートホークは当然の如く軌道を読みやすく、空振りに終わったその隙を狙って、おれはビーム・ジャベリンを展開する。
『そんな猪口才な武装でよォ!』
「必殺技スロットは……これか!」
躊躇うことなく必殺技を選択、投擲モーションに入ったG-3ガンダムを仕留めようと、モヒー・カーンは再びジャイアントヒートホークを振りかぶった。
──だが。
「おれの方が一手早かったみたいだ」
『ヌヴォォォォォ!?』
ダインスレイヴのような勢いですっ飛んでいったビームジャベリンは見事に跳躍したモヒー・カーンのザクⅢを穿って、遥か遠くまで吹き飛ばす。
すごいな、レーダーの探知範囲外まで吹き飛んでいった。
それはさておき、テスト運転の結果としては上々、もいいところだったけど。
「おれ、これと戦わなくちゃいけないのか……」
自分で作ったガンプラなのに、敵に回すと厄介極まりない必殺技を獲得してしまったことに頭を抱えつつ、おれはロビーへの帰還ポイントまで機体を走らせた。その後のことはなにも考えないように努めて。
戦う理由はいつだってそこにある
【Tips:】
【モヒー・カーン】
ハードコアディメンション・ヴァルガの一部を根城にしているモヒカン集団のボスであるDランクダイバー。Dランクにしては結構な実力者であり、その勢力は実に六十機にも及ぶといわれているが、割と皆ログインする時間がバラバラで全員揃うのは結構珍しかったりする。リアルは事務職。