「……できたんだ。ガンダム」
「まあね、慣らし運転もしてきた。自画自賛してるみたいであれだけど、出来は悪くないと思う」
今日も今日とてリムジンに揺られながら、おれはユメカとぽつぽつ言葉を交わしていた。
モヒー・カーン一味との死闘……かどうかはわからないけど、戦いを終えてログアウト、そのままエナドリを飲んで朝飯を食べて──百パーセント万全とはいえないけど、十分に頭も目も冴えている。
それに、授業中寝るって選択肢もあるし。本当はダメなことだけど。
「……見せてもらって。いい?」
「別に構わないよ」
ねだるようにユメカが差し伸べてきた手に、おれはガンプラ用のキャリーケースへしまっていたG-3ガンダムを取り出して渡す。
「……すごい。わたしが借りてたのと同じ」
「いや、そこまで凄くはないと思うけど」
「……アサギ君は。これを、わたしのために?」
どこかきょとんとした表情で、ユメカはおれの瞳を覗き込んでくる。
その指先ではG-3ガンダムの関節を動かしたりして弄んでいるのがどこか可愛らしい。
そういえば、あまり意識したことはなかったけど、ユメカの顔立ちってめちゃくちゃ整ってるんだよな。
アンニュイな雰囲気を纏いながらも、どこか不思議で異彩な輝きを放つエメラルド色の瞳。
鼻梁は高く通りながらも決して主張しすぎない鼻に、リップグロスで潤んだ薄い唇。
客観的に見ても「美少女」の三文字が似つかわしい、それがサイジョウ・ユメカという女の子だった。
「……アサギ君?」
「あ、ああ……うん。ユメカと戦いたいからさ。全力で作ったよ」
「……そっか。嬉しい……とっても。嬉しい」
ユメカは手に持っていたG-3ガンダムをそっと抱き寄せて、程よく膨らんだ胸に押し付ける。まるで、自分の心音を聞かせるように。
「そこまで喜んでもらえると、おれも嬉しいな」
「……うん。わたし、友達にこんな風にプレゼントをもらうのって。初めてだから」
「そうなんだ」
「……そもそも。こんなにお話ししたりするのも、アサギ君が初めて。わたし、体が弱いから。いっつも、遠巻きにされてた」
ぽつりぽつりと語るユメカの言葉は、朝から聞くにはあまりにも重すぎた。
でも、それは知らなきゃいけないことなんだろうな、と思う。同時に、目を逸らしちゃいけないことなんだとも。
ユメカがなにかしらの病気を抱えてることはガンダムベース近くの遊歩道で出会ったときにわかっていたけど、改めて本人の口から聞かされると重みが違う。
「話してみたら案外仲良くなれるんじゃないかな」
「……それは。アサギ君のお友達と?」
「うん。中学時代のユメカになにがあったのか知らないから、呑気に聞こえるかもしれないけど……おれの友達は全員、悪いやつらじゃないよ。多分」
「……考えて。みる」
そうはいっても最初の一歩を踏み出すのが難しいのはわかる。めちゃくちゃよくわかる。
おれも中学時代はなんていうか、友達いなかったし。
思えば幕末とかいうクソゲーで青春を浪費してたのは多大な損失なんじゃなかろうか。考えると悲しくなってくるからこれ以上はやめるけどさ。
真剣に考え込むような仕草を見せるユメカを横目に見ながら、おれも学校の皆もすっかり慣れてしまったリムジン登校に、人間の順応の早さを感じる。
まるで自分がVIPにでもなったような気も……そんなにしないか。
ごく当たり前の日常として、ユメカはリムジンで登校するし、その近くには喋らないだけで常に臨戦体勢なリオさんがいる。そしておれはそんな車に輸送されている。ただそれだけだ。
「……アサギ君」
「なに、ユメカ」
「……それ。なに」
さっきまでG-3ガンダムが梱包されていた箱を指して、ユメカが問いかけてくる。
小さなアタッシュケースみたいに飾り気のない箱の中に緩衝材が詰められているその箱は、その辺でよく売られているガンプラ用のキャリーケースでしかないんだけど、どうにもユメカはこの箱に興味津々らしい。
OEMとして、ガンプラ用とはあえて明記せずに財団B以外にも出してる企業は色々あるぐらいにありふれたものなんだけどな。
「えっと……ガンプラをしまう専用の箱?」
「……そうなんだ。知らなかった……」
「割とその辺でよく売ってるやつだけど」
「……わたし。家からあまり出ないから」
「そっか」
「……うん」
これは失言だったかもしれないな。
気まずさに視線を逸らして、窓の外に広がる青空を見上げる。
だけど、ユメカはおれの視線をなぞりながら、大して気にした様子も見せずに揃って空を見上げている格好となった。
「……気に。してる?」
「……うん、結構。なんていうか、ごめん」
「……ううん。気にしなくていいよ。わたしにとってはいつものことだから」
そう言ったユメカの声には少なからず自虐的なニュアンスが含まれていて、そこに少なからずおれは隔たりを感じてしまう。
不和。不理解。
ユメカと過ごすうちに、そういうものが、少しでもなくなっていけばいいなと、そう思うことしか、今のおれにはできなかった。
◇◆◇
放課後、例によってリムジンでガンダムベースまで向かったおれたちは、今度こそとばかりにプレイエリアの中にあるGBNの筐体へと足を運んでいた。
ガンダムベースからログインすることは正直あまりない。自宅からでも十分な回線があればGBNは遊べるものだし。
それでもここにきたのは、あの日の再現ってことで、一種の暗黙の了解がおれとユメカの間に存在しているからだ。
「それじゃ、ダイブしたらヴァルガで」
「……ん。わかった」
それだけ短く言葉を交わすと、おれはもう一つ持ってきていたキャリーケースから、愛機を取り出してダイバーギアに乗せる。
HGUC……その中でも新しい方のZガンダムのバリエーションキットとして出た、ウェイブシューター版をおれの癖に合わせて最適化した、いわばおれ専用Zガンダムといったところだ。
取り立てて派手なミキシングをしているわけじゃないけど、ヴァルガでも戦えるように考え抜いて構築したビルドだから、そう悪いものじゃないはずだ。多分。
そうしてセントラル・ロビーに降り立つなり、躊躇うことなく行き先をハードコアディメンション・ヴァルガに指定するおれを、変なものでも見たかのような目で一瞥して去っていくダイバーに、見世物じゃないんだぞとばかりに溜息を投げつけて、格納庫エリアへと転移する。
「とっても嬉しい、か」
自分の作ったガンプラにそこまで喜んでもらえたのはおれだって嬉しかった。
今だって、まるで恋でもしたかのように胸が高鳴っている。
だけどそれは、ただ単にガンプラを褒めてもらったから、それだけじゃない。
お互いに死力を尽くしてぶつかれる好敵手と戦える。それがなによりも嬉しい。
きっとユメカも同じ気持ちでいてくれることを信じて、操縦桿をきつく握りしめる。
「アサギ、ZガンダムspecⅡ、行きます!」
そして、おれは戦場の空へと愛機を──おれだけのガンプラ、ΖガンダムspecⅡを飛翔させた。
戦火の空へと翔び立て、ガンダム!
【Tips:】
【ΖガンダムspecⅡ】
アサギ・カイトが「ヴァルガで長時間生き残るために」HGUCΖガンダム(ウェイブシューター)をブラッシュアップして改造した機体。原型機と比較して、カラーリングとビームライフルがリゼルのものになっている以外にこれといって目立った違いはないが、各部の作り込みによって高いポテンシャルを発揮する。