ヴァルガに通じるゲートを出たおれとZガンダムを早速出迎えてくれたのは、無敵時間が切れた頃を見計らってキルスコアを稼ごうとする出待ちの連中だった。
熱い抱擁の代わりにビームの銃火を投げつけてくる手荒い歓迎だ。
だけど、こっちだってこの歓迎会を掻い潜れないほど伊達にヴァルガで活動していない。
機体を無敵時間が切れる寸前でウェイブシューター形態に変形させ、即座に回避行動。
出待ちの連中は数こそ多く、初見じゃ弾幕砲火の量に圧倒されるかもしれないが、やつらの生態には共通しているところがある。
それは即ち、深追いしないことだ。
彼らには彼らなりのポリシーやモットーがあるわけじゃなく、その理由は自分たちの奇襲を見破って避けてくるような相手を延々と追いかけるよりは、次の哀れな子羊がやってくるのを待つ方が遥かに効率的だという一点に尽きる。
そして、出待ちの連中がこのヴァルガにおける絶対強者なのかといわれると、そんなことは全くない。
おれにロングレンジ・ビームライフルを向けていたジム・スナイパーⅡが不意に物陰から飛び出してきた都市迷彩のズゴックに横っ腹を貫かれて爆散する。
そして、次の瞬間にはジム・スナイパーⅡを屠ったズゴックを囲むような形でビームサーベルを構えた出待ち連中の何人かが己の敵を袋叩きにする。
一見出待ち連中同士でチームワークみたいなものが形成されているように見えるが、そんなことはない。
あいつらも隙あれば他の連中を後ろからズドン、と撃ち抜かんと画策しているのだ。
うーん、実に無法。実に世紀末。
この殺伐とした空気を吸うと、実家に帰ってきたような感じがするからたまらない。
いや、おれは実家暮らしだけどさ。
『ヒャッハハハハァ!!! ぼんやりしてるお前を天誅ゥゥゥゥゥ!!!!!』
「うわ、危な」
二重の意味で危ない感じのマルチランチャーパック装備のウィンダムをビームガンで撃ち抜いて、機体を急加速させる。
なぜそうするかって、そうしないと危ない……というかほぼ確実に死ぬからだ。
『ヒャッハハハハ!!! 青き清浄なる世界のためにィィィィ!!!!!』
大分危ない顔をしていた地球連合軍兵のパイロットスーツを着たダイバーは、相変わらず狂ったように哄笑を上げながら爆散する。
そう、ウィンダムのマルチランチャーパックに装填されていた核ミサイルと共に。
ここは核ミサイルだろうがサテライトキャノンだろうがダインスレイヴだろうが、文字通り「なんでもあり」な無法地帯だ。
これも朝の挨拶ぐらいの感覚なのだろう。
嫌な挨拶だ。
そんな風に息つく間もなく次の脅威が迫っていることを、コックピットに鳴り響くアラートが告げる。
『気づきやがったか、だが遅い! 対艦刀で死ねぇぇぇ!!!』
「おっと危ない」
『なっ……!?』
機体に急制動をかけて急速変形、モビルスーツ形態になったZガンダムの手首あたりに仕込まれているグレネードランチャーで、おれは突っ込んできたソードスカイグラスパーのエンジン部分を叩き落とした。
制御を失ったソードスカイグラスパーはそのまま核爆発の中に突っ込んでいく。
悪いけど、天誅のての字を言い終える前にそれは終わってなくちゃいけないんだよ。
相手に後隙を取られることもなく、周りに警戒対象もない状態で天誅ができて初めてスタートラインだからな。それは幕末の話だけど。
まあでも、ヴァルガも似たようなものだろう。
ここのどこかにスポーンしているであろうユメカもきっと同じことを考えているだろうが、ここではごく僅かな例外を除いて「一対一になる」ことはないと言い切っていい。
つまりこの状況を、混沌とした闇鍋と化した戦場の全てを使って相手を殺しきる。
それが、おれが挑んだリベンジマッチであり、このハードコアディメンション・ヴァルガにおけるルールなのだ。
ルール無用の戦場で唯一通じる黄金則。使えるものは全て使え、というフル・フロンタルの金言こそがこの空間における全てだから、今日もこの場はヒリついている。
「……最高だよ。あとはユメカを見つけるだけだ……!」
ついつい唇の端が吊り上がるのを我慢できずにおれはほくそ笑む。
とりあえず考えなければならないのは、ユメカがどういう手段で初手を打ってくるかだ。
レーダーにそれらしき反応はない。つまり、遠い場所にスポーンしたのだろう。
どう見つけるか、と考えるとなかなか骨が折れるけど、どう見つけてもらうか、を考えるとそれは簡単だ。
──つまるところ。
『おい、あっちにダイバーポイント背負ったカモが単騎でいるってよ!』
『ヒャア! 殺しに行くしかねえな!』
『呑気に会話してるお前らを天誅ゥゥゥゥゥ!!!!! ヒャアッハハハハハ!!!!!』
『天誅返しだこの野郎!』
『ヒィアハハハハハァ!!!!!』
いい情報を拾わせてもらった。
見事な天誅返しを見せた野良モヒカン二人組に感謝しつつ、おれはその「ダイバーポイントを大量に背負ったダイバー」がいると思しき地点まで機体を変形させてかっ飛んでいく。
そう、ヴァルガで誰かに見つけてもらうだけならダイバーポイントを──つまるところ、キルスコアをまとまった数背負っていればいい。
早い話が、相手をキルした分だけダイバーポイントが蓄積されるということは、逆に考えればキルスコアを貯めているダイバーは「歩くポイントボックス」と見なしてもいいということだ。
大量のポイントを背負って歩いていれば必然的に噂になるし、狙う相手も増えてくる。
なるほど、ユメカはまずそれを選んだのか。
おれを見つける側じゃなくて見つけられる側に回る。それはよっぽどの腕前か覚悟がなければやっていけないことだ。
それだけの自信がユメカにはあると見て、四方八方から飛んでくるミサイルを振り切りつつ、目を凝らしてG-3ガンダムの姿を探す。
そこら中にガンプラがいる以上、レーダーは当てにならないし、あのロービジカラーは廃墟都市に溶け込んで見分けづらい。
と、そのときだった。
レーダーにノイズが走り、モニターに一瞬砂嵐が吹き荒れて、画質が途端に荒くなる。
「ジャミングか!」
ジャミング持ちが広範囲にジャマーをばら撒いたのか、センサーやモニター類はほとんど機能不全に陥っていた。
一応メインモニターは使えるのが運営の温情という名のバランス調整の賜物なのだろう、そこには素直に感謝したい。
だけど。
なんとなく感じた身の危険に従って回避行動を取ると、さっきまでおれがいた地点を一条の閃光が穿つ。
なるほど、初手はこうやって殺しにきたか。
中々に殺意の高いユメカの初撃をなんとか回避した勢いで急速変形、モビルスーツ形態になって、ビルの瓦礫に着地する。
『……意外。倒されてくれるかと思った』
「いやいや、三徹明けとかならともかく……さ!」
射線から割り出した位置に案の定陣取っていたユメカのG-3ガンダムを狙って、おれは牽制射撃を撃ち放つ。
これでユメカが向かってくるか、それとも避けに回るかで選択肢は変わる。
そして、彼女が選んだのは「突っ込んでくる」という真っ直ぐな選択肢だった。
回避軌道を予測して置き撃ちしたビームは、真っ直ぐ突っ込んでくれば当たらない。
至極「当たり前」の法則に従って、ユメカは恐れることなく機体を加速させる。
さすがだ。見立て通り、戦い慣れしている。
だが、こっちもタダで得意なレンジに入れてはやらない。
ビームサーベルを抜刀して、恐らくはおれのビームライフルを叩き落とそうとしてきたのであろう振り下ろされたその一撃を、おれは銃口から発生させたビームの刃で受け止める。
ロング・ビームサーベル。いや、ギロチン・バーストかな? どっちでもいいけど、この機能があることが、Zガンダムを愛機に選んでいる理由の一つだった。
『……仕切り直し。中々やるね、アサギ君』
「……あのときはダイバーポイント抱えて帰れることに浮かれてたからさ。だけど今度は……そう簡単にはやられるものか!」
相対したおれたちは、モニター越しに睨み合う。
ここからが、第二ラウンドだった。
アサギvsユメカ、ファイッ