ヴァルガにおける戦いは、基本的には長引かないことの方が多い。
自分たちの視点から見れば特定の相手と戦っているつもりでいても、全体から見ればそれはごくごく小さな小競り合いに過ぎず、大勢力にすり潰されるか、もしくは。
鍔迫り合いを強引に解いて、おれはZガンダムの側頭部に配置されているバルカン砲を連射する。
だけど、ユメカは一度体勢を崩されたとは思えないほどに軽快な動きでそれを回避して、ビームサーベルを納刀、即座に抜き放ったビームライフルでクイックドローを試みた。
鋭い。反応速度も、反撃に対する精度も。
なにもかもが"冴えて"いる。
戦艦の主砲並み、とはいかずともそこらのビームライフルとは比べ物にならない威力の粒子ビームが、さっきまでおれのいた場所を穿つ。
危なかったと、そう一息ついている暇もない。
あれが本命なはずはない、一息つく暇があれば体勢を立て直せるのがヴァルガ勢だ、おれの後隙を狙って、ユメカは確実に仕掛けてくる。
『ハァドスコイドスコイドスコイドスコイ!!!!!』
「く、っ! あんたたちかよ!」
仕掛けてくるのではない、既に仕掛けられていたのだ。
バックジャンプで後退した先にいたのは、マシンライダーに乗ったランドマンロディ……みたいな色で塗られているスモーの大群だった。
大体十機ぐらいだろうか。彼ら──「スモーライダーズ」は、ヴァルガの中ではそこそこな名物として名を馳せている存在だ。
と、いうのも。
『ハァドスコイドスコイ! ハッケヨイ!』
先頭に立っていたスモーがマシンライダーを乗り捨てて、摺り足で高速接近してくる。
そう、この「スモーライダーズ」は、獲物と見た相手になぜかIFバンカーもハンドビームガンも使うことなく、相撲技で挑みかかってくることに定評があるのだ。
しかし、その技量はバカにしたものじゃない。相手の弾幕砲火を正面装甲で真っ向から受け止めて上手投げで重装甲の機体を粉砕したという噂もあるぐらいなのだから。
「こっちはなにもよくないんだけどなぁ……!」
『ハッケヨイ……ノコッタノコッタノコッタ!!!』
ハンドスプリングの要領で機体を倒立させつつ、とりあえずは着地しても安全そうな場所にZガンダムの体勢を立て直し、ビームライフルでスモーライダーズの一機に牽制射撃を撃ち放つ。
だが、ガンダムヴァーチェのGNバズーカ・フルバーストモードすら耐え切ったと噂される正面装甲はそんなことで揺らいではくれない。
おまけに、ユメカはこの状況を更に利用する形で、ビームライフルの銃口をこっちに向けている。
ならば。
おれはあえてユメカの方へとブーストを噴かして突撃していく。
『……隙だらけ。アサギ君らしくない』
「そりゃあ……ね! 急速変形!」
『……っ!?』
ビームライフルの一撃を低空で急速変形を行うという暴挙で回避した結果、おれを狙って相撲技を仕掛けようとしてきたスモーのコックピットに、ユメカが放ったビームが着弾する。
漁夫の利天誅、これもヴァルガじゃ日常茶飯事だ。どうか悪く思わないでほしい。
そして、スモーライダーズの先鋒がやられたことで、おれよりもユメカを脅威と判断した彼らは、ターゲットを変えてG-3ガンダムへと殺到していく。
『ハァドスコイドスコイドスコイドスコイ!!!!!』
「じゃあ、そういうわけで」
状況という名のフィールドギミックは常に一方へだけ有利をもたらしてくれるわけじゃない。
さっきまで味方だったやつが一秒後には背中をぶっ刺してくるなんて、ここじゃ日常茶飯事……いや、そんな表現すら生ぬるい「常識」なのだから。
誰かを信頼してもいいが、決して信用するな。
それがヴァルガを生き抜くコツ──なんだけど、よくもこんな性格捻じ曲がりそうなディメンションを作ったものだ。
幕末よりは民度がマシだとはいえ、エリートぼっち養成所なのには変わりがない。
スモーライダーズが二、三人と立て続けに撃墜されたことで、いよいよ彼らもユメカを本格的に敵と認定して、包囲からの相撲技による殲滅にかかる。
だけど、ユメカはそれに動じた様子も見せず、スモーライダーズの一機に躊躇うことなく突っ込んで、足払いをかける。
『ノコッタァ!』
ふざけているようにしか見えなくとも、彼らもヴァルガでそれなりに名を馳せた連中だ。
相撲取りに足払いをかけるという選択肢は、体幹が鍛えられている彼らにとっては絶好のカモであり、およそ最悪の部類に入る。
だというのに、ユメカがスモーライダーズへと足払いをかけて体勢を崩した、その理由は。
「……はは、そうか……そうかよっ!」
閃いた答えは単純なものだった。
ユメカは「このままスモーライダーズに自分が仕留められるという形で勝ちを収めたいのか?」とこっちを挑発してきているのだ。
なるほど、冗談じゃない。そんな勝ち方は、モヒカンとしてのプライドが絶対に許さない。
おれはビームサーベルを抜刀して、今まさにユメカのG-3ガンダムへと寝技を仕掛けようとしていたスモーの背中にそれを突き立てた。
『ノ、ノコッタァァァ!!!』
『……ありがと。助けてくれて』
「よく言うよ!」
心臓が早鐘を打っているのは、いたずらっぽく舌を出して笑ったユメカの小悪魔的な魅力にときめいているのではないはずだ。
爆散したスモーの破片から盾で身を守りつつ、お互いにバルカンで牽制し合いながら距離を取る。
残るスモーライダーズは三機か、ギミックとして使うには申し訳ないけど力不足だった。
とりあえず戦況は凪いでいる。
ビームサーベルで鍔迫り合いを繰り返しながら、おれたちは互いに利用できる「状況」を探す。
本来ヴァルガでの戦いが長引かないというのは、長く戦っているダイバーはそれだけポイントを稼げる実力者だと看做されて、ハイエナ狙いのモヒカンが群をなして襲いかかってくるからだ。
さすがに数の暴力で攻め立てられて生き残れるダイバーは少数も少数、このヴァルガの頂点捕食者として君臨する「FOEさん」や、ごく稀に出現する「レアエネミーさん」こと「黒騎士」といったごく一部ぐらいだろう。
それでも状況が凪いでいるのはおれたちの戦いがその領域に達していないから……というわけではないはずだ。
実力があるとかそういう話じゃなく、現におれとユメカは大量のダイバーポイントを背負って戦い続けているのだから。
「まともな打ち合いだとこっちが不利か……」
『……っ、すぅー……はぁー……楽しいね、アサギ君』
「ああ!」
呼吸を整えてから苛烈に攻め立ててくるユメカの攻撃をなんとか捌いて立て直し、コックピットに一撃を見舞う。
それが今のところ描いているおれの勝利の方程式だ。
だけど、現実はそうもいかない。
ユメカの攻撃は一発一発が重すぎる。明らかにこっちの体幹を崩すことを狙った、「経験者」の太刀筋だった。
一方でおれは幕末で刀こそ振るってきても、剣術に関しては素人もいいところだ。
幕末やってれば多少刀を使った戦いに詳しくなるんじゃないかと聞かれることはあるけど、実際そんなことはない。
あのゲームは殺るか殺られるかであって、そこに剣術の巧拙はあまり関係してこないのが実情だ。
なにしろリアルで剣術の達人やってるような人が集団リスキル天誅に遭ってボコボコにされる世界だからさ。
一方でGBNはというと、これが結構関係してくるんだよな。
入力と思考補助で動くガンプラは、「限りなく人間に近い」動きをなぞる。
つまるところ、ガンプラに乗っていながらおれたちは生身の延長線上……正しくモビルスーツのコンセプトを体現した戦いをやっている。
そうなってくれば、リアルでのスキルがガンプラの動きに生きてくるのも頷けることだろう。
モニター越しに見るユメカはまだ余裕を残していたけど、おれの方は正直なところもう精一杯だ。
さて、ここからどう逆転の手を打ったものか。
ユメカが構えたシールドを斜めに斬り裂きながら、おれは思考回路を高速で回転させる。
どんなに追い込まれていても、強敵に相対しても勝つことだけは諦めない。手段こそ選ばなくとも、それがヴァルガ民なのだから。
「勝つ」ためだけにここにいる
【Tips:】
【スモーライダーズ】
二輪バイク、マシンライダーに乗ったスモーの軍団。主にヴァルガでその存在を見かけることが多く、Iフィールドバンカーやハンドビームガンを投げ捨て、己の機体一つで突っ張りや押し出し、引き倒しなどの相撲技を使って通りすがりのダイバーを轢き逃げしていく謎の集団。彼ら曰く突っ張ることこそが男の勲章らしい。多分その突っ張りではない。