さて、中々状況が理想通りに進んでくれないのは仕方ないことだとしても、この膠着状態が続いているのも中々よろしくない。
『天ちゅぐぼぁー!』
「油断も隙もないなあ……」
おれたち狙いのハイエナもさっきよりだいぶ増えてきた。
逆手に持ったビームサーベルで死角からの天誅を試みてきたダークダガーLのコックピットを突き刺しつつ、今度はユメカが撃ち放ってきたハイパーバズーカの弾をバルカンで迎撃する。
恐らくバズーカはあらかじめ市街地に隠してあったのだろう。そして、あの攻撃はフェイクだ。
乗ったことがあるからわかる。
G-3ガンダムのビームライフルはまだまだ弾を残している。
ここで捌きやすくなったからと浮き足立って前に出れば、それこそユメカの思う壺だ。
かといって、このまま中距離戦を続けるのもジリ貧だ。
おれのZガンダムが汎用性を突き詰めるあまり、決め手になる一撃に欠けているという欠点がモロに出た形だった。
火力で一気に押し切りたいならいっそハイパーメガランチャーを持ってくるべきだったか、と後悔する。でも後悔は先に立っちゃくれないんだよ。
「そうなると……やっぱり近接戦でワンチャン狙うしかないかな」
『……釣られてくれなかった。アサギ君のいじわる』
「可愛い顔でそんなこと言われてもその手には乗らないからね」
雑に背後から天誅を試みたハイゴッグにハイパーバズーカを叩きつけて爆殺したユメカのむくれた表情は可愛らしかったけど、やってることが可愛くない。
それに、泣き落としや命乞いからの隙を誘って天誅返しを狙うのは幕末で経験済みだ。
泣き言というのは相手を完膚なきまで叩きのめして、周囲になにもないことを念入りに確認した上で聞くものだと身をもって知らされたよ、全く。
『……か、かわいい……? わたしが。かわいい……?』
「隙を見せたなっ!」
『……むぅ。アサギ君のばか』
一瞬独り言を呟いた硬直したその隙を狙ってユメカを天誅しようと試みたけどそこは恐らくリアル剣術経験者、おれの雑な一撃はあえなく捌かれてしまう。
見え見えの隙に──一周回って警戒すべきものに焦って食いついてしまったのは確かに愚かかもしれないな。
これだけ長時間格上相手に立ち回っていたこと自体がそもそも初体験だから、仕方ないといえば仕方ないんだけど。
「グレネードで……!」
『……見えてる。甘い』
「くっ!」
崩された態勢を整えつつ、左手に装填されているグレネードランチャーでの反撃を試みたおれの目論見を、無慈悲な反応速度で振るわれたビームサーベルが左腕ごと斬り裂いていく。
ああ、強いな。
戦いにここまで没頭して、疲れ一つ見せずに戦い抜けるユメカの立ち回りが、その戦いを支えている鉄心が。
だからこそ、喧嘩の売り甲斐があるってものだ。
盾を失ったことで変形を封じられたのは痛手だったけど、その分ユメカを数瞬、左腕を犠牲にすることで封じ込めることはできた。
おれは残心を崩さずに、次の攻撃へと移行しようとしたユメカを照星に収めて、右腕に装填されている切り札──増加弾倉であらかじめ装填数を拡張していたグレネードランチャーを発射する。
上段からこっちを斬り下ろそうとしていたG-3ガンダムの頭部に狙いをつけたグレネードランチャーは、残念なことにバルカンで迎撃されてしまった。
だが、これでいい。
ほくそ笑むおれの見据えた視線の先にいたユメカは目の前の状況に驚いて目を見開く。
『……なに。これ……? 風船……?」
「ダミーバルーンだよ。本当はこういう使い方するもんじゃないけど、さ!」
膨張したダミーバルーンで視界を封じつつ、反射で振るわれたビームサーベルをバック宙の要領で回避。
こっちも逃げ場のない空中だから関係ないが、これでケリをつけるつもりだから後隙なんてものは二の次三の次だ。
構えたビームライフルの銃口に光が宿る。間違いなく確殺できるタイミングだった、そのはずだった。
でも、ユメカは。
『……っ……!』
「なにを……っ!?」
ビームライフルを避けるのは無理だとわかった時点で回避という選択肢を切り捨てて、手にしたビームサーベルをおれに向けて放り投げる。
その投擲は刃を前にした殺意溢れるものじゃなく、ただ単に持っていたものを放棄する、ただそれだけの行動だった。
だけど、その射線軸には──おれの撃ち放ったビームが置かれているのだ。
ビーム・コンフューズ。
劇場版機動戦士Zガンダム三部作の中で、カミーユ・ビダンが見せた技の一つだ。
それは、投擲したビームサーベルの刃に向けてビームライフルを撃つことで、「ビームの乱反射」とでもいうべき現象を引き起こす。
つまり、ユメカが選んだ迎撃は、「おれの撃ったビームを利用することで確殺を回避する」という極めてクレバーな手段だったのだ。
この距離でコンフューズを使えば、自分の機体だってタダでは済まないというのに。
案の定拡散し、乱反射したビームがセンサーや装甲を焼いて、コックピットにはレッドアラートが明滅する。
ビームライフルは暴発して使い物にならない。
グレネードの増槽に装填していたのがダミーだったから右腕自体はかろうじて無事。
モニター類にはノイズが混じっている。なるほど、笑えてくるぐらいの致命傷だ。
同じく零距離コンフューズの直撃を受けたことで右手首と左腕を喪失したG-3ガンダムも、まだ自分は死んでいないとばかりにゆらりと立ち上がる。
『……アサギ君。化け物だね』
「それはこっちのセリフだよ……」
残された武装は残弾数が僅かなバルカンだけだ。
ビームサーベルを一本残していたけど、それもさっきのビーム・コンフューズでサイドアーマーごと爆散してしまった。
そのせいで脚部の制御が微妙に効かない。
武器はあっても使えないG-3ガンダムと、武器がないZガンダムは、それでもまだ戦うとばかりに睨み合っていた、刹那。
レッドアラートが明滅するコックピットに、コーションが鳴り響く。
ははっ、嘘だろ。まさかこんなところで。
「ユメカ!」
『……っ。わかってる』
ヴァルガの大地を穿ち、焼き払う蒼い閃光が明滅する。聞こえるのは無数の爆発音にモヒカンたちの悲鳴や怒号、まさに世紀末とばかりの阿鼻叫喚が地獄のように広がっていく。
その閃光が瞬いたとき、ヴァルガの民は本能的に死を悟る。なぜなら、それは。
それは──この場所における絶対強者、頂点捕食者の君臨を意味するからだ。
『……本命には当たらず、か』
『……』
『……だが、それでこそだ。そう簡単に勝たせてもらったのでは、「黒騎士」の名折れだろうからね』
淡々とした冷静な声が通信回線越しに聞こえてくる。
それは、このハードコアディメンション・ヴァルガにおいでその存在を知らないダイバーは一人もいない……「FOEさん」のあだ名で恐れられ、親しまれているダイバー、個人ランキング39位の「キョウスケ」さんの呟きだった。
対する黒い甲冑姿のダイバー、個人ランキング24位の「ハーゼ」さんは一言も喋ることなく、その愛機たる「キハールリッター」をモビルスーツ形態に変形させて、FOEさんの「ディバインダブルオークアンタ」を睨みつけている。
まあ、なんだ。
よりにもよって今、この世紀末ディメンションにおける頂点捕食者と別のところの頂点捕食者が出会って縄張り争いを始めたわけだった。
例えるなら激昂したアイツと怒り喰らうアイツが鉢合わせた感じ
【Tips:】
【FOEさん】
ハードコアディメンション・ヴァルガの頂点捕食者にして、個人ランク39位の猛者。化け物じみた反応速度と空間把握能力によってこの世紀末における覇者としてその名を馳せている存在。本人曰くダイバーネームの「キョウスケ」で呼ばれることの方が珍しいとか。
【ハーゼ(出典:「樽薫る」様作「バニーガールはガンプラバトルの夢をみない-ガンダムビルドダイバーズIN:LE-」より)】
個人ランキング24位の怪物にして、普段はそのあだ名である「黒騎士」の名の通り、ごつい黒鎧に身を包んでいる寡黙で性別不詳なダイバー。愛機はTR-6ウーンドウォートのバリエーションであるキハールIIを改造した、「キハールリッター」。