ただ主人公達を救いたかっただけの男の話 作:思い立ったが吉日
一瞬の閃き。
少女の胸に赤い花が咲く。
宙を舞い、窓から差し込む月明かりに照らされる血の雫はまるで闇夜で煌めく星のようだった。
「……ぇ」
少女は己の胸から生えた凶刃を見下ろした。
槍の先へと伝う血は、まるで槍が歓喜し吞みほさんとしているかのようにさえ映る。
彼女は理解もできぬまま吐血し、唐突にやってきた苦痛に顔を歪める。
そうして力を失ったようにその場に膝を付いた。
「———サリアッ!」
そこへ悲痛な声と共に彼女の体を支える腕が伸びる。
赤い髪を更に紅い血で濡らした彼女を抱えるのはその場にいたもう一人の金髪の少女だった。
彼女はサリアと呼んだ赤髪の少女の患部へと目をやり、ドクドクと溢れる血に目を見開く。
その場に居た彼女の仲間であろう者達も突然のことに放心している様であった。
そうして、怒りを露わに槍が放たれた方を睨みつける。
———しかしその瞬間、彼女は瞠目する。
サリアが居座っていた豪奢な空間。
その入り口である両開きの大扉から姿を現したのは、少女にとって酷く見慣れた顔であった。
出会った頃とは大きく違う、いつの間にか白や灰の混ざった濡羽色の髪を揺らし、その隙間から夜空よりも遥かに暗い黒曜の瞳を覗かせる少年。
この顔にはいつも見せてくれた柔らかく、温かみのある微笑みなど見る影も無く、代わりに弧に切り裂いた様な不気味な笑みが貼り付けられている。
少なくとも、いつも彼を見ていた少女にはそう見えた。
「…レ、アン…?」
零れ落ちたようなそれは少年の名であった。
呼び慣れた間違える事のない、しかし今だけは場違いであって欲しい名前。
理解の追いつかない混沌とした感情を胸に、少女は恐る恐る呼びかける。
「———アイラ」
だが返ってきたのは己の名を呼ぶ彼の声。
返事をしなかったことに安堵する思いと、音を並べただけのように無機質で冷たいその声に一層強まる不安とが混ざり合う。
コツ…コツ…と彼の歩みが床を鳴らす。
少女———アイラは気付けばサリアを守るように抱えていた。
「其処を…どいてくれないかな?」
「…嫌だ」
ともすればそのまま消えてしまいそうな程に弱々しい声を震わせる。
「彼女とは…サリアとは和解出来たんだ…ッ、もう戦う必要なんてないんだッ!だから———」
かつては敵であった少女。
だが彼女らはたった今其処に秘めたる澱みを内開け、きっと理解し合える存在であると認識したのだった。
だからこそ誰よりも己を理解してくれるであろう彼に、アイラは強く訴えかける。
「———ダメだよアイラ」
「…何、で———」
だがその応えは———
「———ソレじゃ…ハッピーエンドにはならないからね」
———残酷なまでに優しい微笑みと、殺意によって返された。
ずっと心残りだった。
俺が日本で暮らしていた頃、とあるゲームにどっぷりとハマっていた。
それが『
当時学生だった俺が勉強時間も割いてのめり込んでしまったもので、よく親に注意されたものである。
まあ勉強自体は決して苦手ではなかった為そこまで影響はしなかったはずなのだが、それでも今ではその本分にまともに望まない姿勢が気に食わなかったのだと思っている。
だが、俺はそんな親の冷たい眼を払い除けてでもこのゲームにのめり込んだ。
理由はその難易度と作り込まれたりシナリオにある。
『輝望の風』は所謂マルチシナリオのRPGだったのだが、その殆どが完全なバッドエンドで、ほんの些細な見逃しや余計な行動が不幸な最期を招いてしまっていた。
だが技が増える度に理解できるその戦術の広さ、容易なものから未だ見つかっていないであろう隠し要素、キャラクターやストーリーの作り込み、そして何よりその行き過ぎた難易度が一部の根強いファンを獲得したのだ。
中にはこれは鬼畜ゲーじゃなくてプレイヤーのことを蔑ろにした自己満足のクソゲーだと罵る者もいたが、その作者のエゴが強く感じられる部分こそが魅力的に映った。
俺は暇さえあれば———というか、時間を作ってはプレイを繰り返し、比較的簡単なエンディングから着々とストーリーを回収していった。
だが流石は歴代屈指の問題作と言われるだけはあるのか、何度繰り返しても大団円と言えるエンディングを迎えることが出来なかった。
自分の手で探し出したいというある種のプライドを持っていた俺は、攻略サイトを見ることもなく、とにかく時間をかけて色々なキャラとの交流や探索を試行する。
そうして俺は———とうとう一つの
その時の俺は今思い出すのが恥ずかしいくらいには喜んだもので、コントローラーを投げ出してお茶の入ったコップを倒して酷く叱られたことをよく覚えている。
だがそんなこともどうでも良いくらいに俺は達成感と———主人公達を救えたのだという感動でいっぱいだった。
———しかし、そんなふうに浮かれていたからだろうか。
———その日、俺の人生は交通事故に巻き込まれて死ぬ、だなんていうありふれた
(特に続く予定は)ないです