「まだ…目を覚まさないんですか?」
医務室のベッドの近くから離れないマリューに、キラは声をかけた。
「ええ…。手当の時に一度目を開けて、自分は地球連合軍第八十八独立機動軍所属ネオ・ロアノーク大佐だと名乗ったそうだけど…。
でも検査で出たフィジカルデータはこの艦のデータベースにあったものと100%一致したわ。この人は、ムウ・ラ・フラガよ。いわば…肉体的には…。」
とマリューは返す。
「…で、彼女は…。」キラが、隣のベッドに顔をやり、言葉を続ける。
そこには、
「彼女は…まだ目を覚ましてないわ。一時は命の危機もあったそうだけど…取り合えず外傷は治療済み。ただ、それでもかなり衰弱してるらしいわ…。」
と言った。
先の戦いの終了後、アークエンジェルが投げ出された『ネオ・ロアノーク』を回収した後、フリーダムは帰還した。
コクピットに一人の少女を抱えて。
デストロイの残骸は、ザフトに回収され転用されないように、コクピットと武装は潰して。
整備員たちは避難民の一人かと思ったが、連合のノーマルスーツを見ておかしいと思ったところで、キラは言った。
あのバケモノのパイロットだと。
おおよそ戦場に似つかわしくない少女。地球軍のブーステッドマンと幾度死闘を繰り広げたアークエンジェルのクルーらは、状況を悟った。
恐らく彼女は―
「キラ君の予想通り、彼女は…薬物で身体を強化されたりしてるようだわ。そこまで無茶苦茶な投与具合ではないそうだけど…」と言葉を濁らせる。
「…何か?」
「さっきも言ったけど…かなり弱ってて…もう…先は長くない…って」
それを聞いて、キラは目を伏せる。
望まない戦いを強要され、その結果がこれとはあまりにも不憫だ。
その時。
「…ぅ…ぅう…」
部屋から聞きなれないうめき声が聞こえた。少女の声だった。
キラたちは声の方向を見る。
そこでは、金髪の少女が薄く目を開けていた。
「…ぅ…ぁ…れ…ここ…」
と静かに声を発する。
ステラはステラで状況が呑み込めずにいた。
薄っすらとした意識のなか、何があったのか記憶を辿る。
廃墟の街並み。
迫りくる"死"を退ける為に戦う。
しかし、そのMSはこちらに近づき、剣を…
「うわわぁぁああああ!!!!!」
ステラは発狂の叫び声をあげる。
一番嫌う『死』が目前まで迫った記憶を回想してしまったばかりに。
手錠でベッドと繋がれていたため、その場から動けず誰かに飛び掛かることはなかったが、その状況が余計ステラを冷静にさせる機会を奪う。
「やあああああああああ!!!」繋がれたまま暴れ狂うステラ。
「いや…!!いや…!!…死ぬのは…嫌ッ!!!」
「キラ君…」その様子を眺めていたマリューがキラに目を向ける。
「先生を呼んできます!!」と言い、キラは慌てて部屋を出る。
「アウル!!スティング!!あぁ……ネオー!!!!」
記憶に残る、カオスがムラサメに両断され、ネオのウィンダムが撃ち落とされる後継がフラッシュバックする。
「落ち着け!!ステラ!!」
そうネオの声が響き渡った。
暴れ狂っていたステラはビタっと止まり、恐る恐るといった感じにネオの方に顔を向ける。
「ネ…ネオ…?…ネオ…?ネオ…!?」
取り乱していた顔が嘘のように元に戻り、
「ネオ…!ネオ…!生きて…た……!!」というと、またこと切れたように、バッタリ倒れた。
――――
先程とは違う部屋で、また深い眠りについたステラの前で、医務がキラらに告げる。
「先程も述べましたが…もう、永くありません。傷の具合もそうですが、特殊な強化が施されていて、一般人用の医療では…。それに、治療へのデータもまったくないのです…。」
と述べた。
「でも…何とかならないんですか!?無理やり訓練をさせられて、戦わさせられて、その結果がこんな…!」
キラは珍しく少し口を荒げる。
「…足りないのは、薬とデータです。どこかから、その二つが入手できて、尚且つオーブ本土ほどの医療があるところまで運べれば、あるいは…」と言う。
「分かった、じゃあ、あの自称『ネオ』から、情報を聞き出せば…!」とカガリは言うも
「いや、流石にそんな秘密の場所を教えてはくれないでしょうね…。」とマリューに返される。
「だったら、多少脅してでも!この子をこのまま見殺しになんて出来ない!!」と言い続けるが。
「彼は…本職の軍人よ。口は割らないでしょうね」と煮え切らない返事。
「…ああ…っクソッ!!」カガリは声を荒げて部屋を出て行ってしまった。
「…カガリの言う通りだ。この子をこのまま見殺しになんて…」とキラが言ったところで、ミリアリアから艦内に呼び出しがかかった。
「艦長!カガリさん!ブリッジに来てください!!ザフトのデュランダル議長が、全世界に緊急メッセージを!!!」
―――
『皆さん、私はプラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルです。我等プラントと地球の方々との戦争状態が解決しておらぬ中…』
その放送は、『世界の闇』"ロゴス"の実態を世界に示すものだった。
キラも、カガリも、その他のAAのクルーも―
シンやアスランに至るまで、世界の全ての人を驚かせる放送だった。
「ステラ…」
ロゴス暴露の発表に映った、市街地を壊滅させゆくデストロイの映像を見て、ネオは一人そう呟いた。
―――
「…で、どうなんだ?ステラは」
戻って来た一同に、ネオはそう問うた。
「…このままでは先は永くないと。連合の技術の治療があれば、万に一つ助かるかもしれないらしいですが。」そうキラは静かに返した。
「…そうか。」
「…何も感じないんですか?」キラはそう静かに続ける。
「彼女は…多分貴方の事を信頼しています。だから、さっきだって…」
「…俺は軍人だ。ステラは、連合の"兵士"で俺達の"道具"だ。」そう静かに返した。
「…やっぱり貴方は、ムゥさんとは違う…!」そう言い残すと、キラは部屋を後にした。
そしてこの時、ザフトでは、『エンジェルダウン作戦』が開始していた。
ただ、オーブの医療技術が連合より優れているかもしれないから或いは…?