万魔殿総統、羽沼マコト   作:R1zA

2 / 4
ルーキー日間一位だったので投稿。
今作は文字数を多くするべきか、少し減らして頻度を上げるべきかで悩んでいます。


議長閣下は温泉開発部にお怒りのようです

 

 

 

 温泉開発部の追撃に出て、早数分。

 温泉開発部は現在、ゲヘナ自治区内の廃屋にアジトを構えており、ソレを知るのは当人の温泉開発部と、情報部とは別に独自の情報網を所有する羽沼マコト唯一人。

 

 単身でカチコミを仕掛けに来たは良いが、入り口付近は随分と閑散としているらしい。 

 カツカツと坑内に足音を響かせて、進んでいく。

 

 

「ん……おやおや?」

 

 

 開けた場所に、鬼怒川カスミは鎮座していた。

 周囲を取り巻くのは大量に置かれた爆薬と、十数人を有に超える数の温泉開発部の部員達。

 彼女達は独りでここまで乗り込んできた己を見て、どうしてここに万魔殿の議長が? 等と、ざわめきの声を漏らしていた。

 

 そんなざわめき声を沈ませて、カスミはどこか可笑しそうに高笑いする。

 

 

「ハーハッハッハ! これは驚いたな! 誰かと思えば、我等が万魔殿の議長様じゃあないか!」

「キキッ……風紀委員がヘマをしたらしいからな。 こうして一対一で対話するのは初めてだったか?」

「あぁ、そうだとも。だがまさか直々に出向いてくるとは思わなかったがなぁ……」

 

 

 そう言って笑みを浮かべるカスミは廃材の上に座り込み、こちらを悠然と見下ろしている。

 随分と自信ありげな目つきだった。

 

 

「本来この場には空崎ヒナを派遣する予定だったからな。 命拾いしたとでも思っておけ」

「……ソレは、本当、なのか?」

「当たり前だ。こんな所で嘘は吐かない」

「───そうか。そう、か……

 

 

 容易く、その自信にはヒビが入ったが。

 前に調べた情報通り、他の不良達と比べても、随分と風紀委員長を恐れているらしい。

 一体全体どこでそんなトラウマを植え付けて来たんだか、と敵地のど真ん中で呑気なことを考えながらも、視線は決して逸らさない。 

 

 

「それで、議長様は我々に何の用事があるんだ? 温泉開発の依頼とあらば、直ぐにでも出発して構わないが?」

「キキッ……もし仮に、そうだと言ったら?」

「ハハッ! まさか、冗談はよして貰おう!」

 

 

 ───そりゃそうだ。と内心で付け加えて、流し目で鬼怒川カスミを観察する。

 成る程、確かに切れ者だ。 同じ二年生とはいえ、直情型の銀鏡イオリでは手玉に取られても仕方ない。

 故に、彼女を特別牢送りにするための最適解は、風紀委員長の如く、彼女の作る雰囲気に呑まれる前に『暴』の力でゴリ押しする事だろう。

 

 それでは興醒めなので、自分はやらないが。

 

 

「一度言ったが、風紀委員は今忙しくてな。 大人しく御縄について貰えると助かるんだが……」

「──いやはや、まさかとは思うが、今の状況が見えていないのか? 万魔殿の、羽沼マコト議長?」

「ほう……?」

 

 

 周りを眺めると、先程まで黙りこくっていた温泉開発部の部員達が、各々の武器を持って己の四方を取り囲んでいるではないか。

 奥のカスミが意味有りげにチラつかせているあのボタンは、大方何処かの爆弾の起爆装置だろう。 

 順当に爆弾の設置場所を考えるならば、己の足元か、将又この周囲一帯か。

 

 

「……そちら側の戦力は議長ただ一人。対する私達の戦力はここにいる全員、加えて大量に仕込んだ爆弾まである」

「……」

「何、我々はまだ事を荒立てるつもりは無いさ。ただ、万魔殿と少し話がしたくてね」

「……話か。随分と殊勝なものだな?」

 

 

 まあ、大方碌な物では無いのだろうが。

 向こうの様相から察するに、この勝ちを確信した状況下で何かしらの取引を持ちかけるつもりなのだろう。 この状況が、鴨が葱を背負って来たような物なのだから。

 

 

「議長は今、我々を拘束すると口にしていた。だが何の理由があって我々を拘束出来る? まだやらかした覚えはないぞ?」

「……万魔殿の印刷所が半壊していると、報告を受けているが」

「温泉開発は他すべての物事以上に優先される。必要な犠牲という奴だ。 議長なら分かるだろう? 『自由と混沌』を掲げた、ゲヘナの生徒会長なのだから!」

 

 

 そう言って何処か大袈裟に、手を広げる。

 彼女のよく通る声が廃屋に響き、その一挙手一投足はこの場にいる温泉開発部の士気を高めていく。

 鬼怒川カスミが持つある種のカリスマ性。 実際見るとこれは確かに、かなりのものだ。

 

 

「───そう、マコト議長が『自由と混沌』を良しとする限り! 何人たりとも我々の行く道を妨げる事は出来ぬ!」

 

 

 わあっと、歓声が響いた。

 皆の熱気が、こちらにまで伝わってくる。

 

 

「カスミ部長ばんざーい!」 

「いつも風紀委員と一緒になって邪魔されてきた恨み、この機会に晴らしてやる!」

「万魔殿はもっと部費を寄越せー!」

「そうだそうだー! 部員数に比べて全然釣り合ってないぞー!」  

 

 

 五月蠅い、喧しい。

 というかちょっと赤冬(レッドウインター)の思想に毒されかけてる娘も居る気がするが大丈夫だろうか。 

 学校単位で交流があるのは確かだが、ゲヘナにあの思想が入ってくると本気でヤバイと思うのだが。

 

 

 溜息を吐く。

 ああやって随分と好き放題カスミは言っているが、一つ、思い違いというか、訂正したいことがある。

 一応言っておくと、そもそもその理念は自分が万魔殿に入るよりも前から存在する物であり、ゲヘナを治外法権(ゲヘナ)足らしめる要因の一つだとは自分も思う。

 

 が、それは決して犯罪の免罪符にはならない。

 ソレを許してしまうと、冗談抜きでここら一帯が自治区としての機能を失った、治外法権と化してしまう。

 

 

 

 ───というわけで、蛮族には蛮族。

 ここは穏便に暴力で解決しよう。

 

 

 無論、文句なんて言わせない。

 いくら御託を並べても話が平行線になるのなら、最終的に待っているのは、力こそが正義(ルール)という理論。

 ソレこそがゲヘナの在り方であるとお互いが、身を以て知っている。

 

 

「───ハッ」

 

 

 無意識に、思わず口角が上がっていた。

 

 

 

 ◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

 人数比は圧倒的だった。

 戦力比も圧倒的だった。

 

 

 当然、会話の主導権だって此方の物だった。

 確かに今、この瞬間までは。

 

 

「───お前達は一つ、思い違いをしている」

 

 

 一言。

 たった一言発しただけで、その場のムードが、場を取り仕切る主導権が持っていかれた。

 今この場を支配しているのは鬼怒川カスミではなく、万魔殿の議長であった。

 

 

「───なっ」

 

 

 ──呑まれる。

 不味い。()()は敵に回さない方が良い。

 別に形勢が逆転したわけでもないのに、どうしてそんな事を無意識に考えてしまうのか。

 視線がぶつかり、思わず目を逸らしてしまった。

 

 

「『自由と混沌』がゲヘナの在り方だと、そう言ったな。確かにそうだ」

 

 

 そう言って足音を立て、歩き始める。

 最奥に鎮座するカスミに向けて、一歩づつ。

 

 

「だが、その自由によって他の者の自由を侵しては駄目だ。傷つけては駄目だ。 人として最低限のモラルぐらい、初等部の子供でも分かるだろうに……」

「お、おいおい……正気なのか、議長?」

 

 

 これ見よがしに爆弾の起爆スイッチをちらつかせるが、マコトは一切目もくれない。 その程度、何の脅しにもならないと言わんばかりに。

 射抜くような鋭さを持つ三白眼が、カスミの瞳孔へと向けられた。

 

 

「それが分からんというのなら、やむを得ん」

「……こうなってしまえば仕方ない! 少し大人しくして貰うとしようか、議長!」

「……あ!」

 

 

 カチリと響く、起爆スイッチの音。

 その時、マコトの足元や周囲の壁から微かな閃光の光が漏れたかと思えば、瞬く間に爆発によって生じた熱気や轟音、激しい爆風がこの廃墟一体を多い尽くした。

 

 

「む、どうしたんだメグ?」

「いやー、ここ最近は全然出てくることもなかったからすっかり忘れてたんだけどねー……」

 

 

 黒煙が一帯に舞う。 

 十数秒の後に熱気と爆風が止み、爆心地の跡に───人影はなかった。 最も近くで爆風を浴びた筈の、羽沼マコトの姿もだ。

 

 

『げほっ、こほっ……』

『や、やったか?』

『おいバカ、そんなこと言ったら……』

 

 

 人は、ソレをフラグと呼ぶ。

 

 

 ダアン、と衝撃音が鳴ったのはその時だった。

 不意の一撃、額に弾丸を受けた温泉開発部の一人は、声を上げる間もなく昏倒する。

 ──まさか、と他の温泉開発部の面々が音の鳴った方へと向き直ると、彼女らの視線の先には、右手で狙撃銃(Walther WA2000)を構えたマコトの姿。

 

 それも無傷のだ。

 多少砂埃を被ってはいるが、それだけである。

 

 

「マコト議長、風紀委員長の次に強いんだよ?」

「───ぇ」

 

 

 なんだそれは。

 どうしてもう少し早く言ってくれなかったのか。

 そんなカスミの心の叫びは虚しく掻き消え、待ち受けているのは避けられようのない詰み。

 先程まで笑みを絶やさなかったマコトが、今は戦闘態勢に入って此方へ銃を向けている。

 

 いったいどうして、知りえる範囲で一度も前線に出てこなかった指揮官が、ゲヘナ最高峰の暴の力を隠し持っているなどと予測できようか。

 

 

「……私は、私の『特権(じゆう)』を行使させて貰う。精々抵抗するがいい」

「ど、どうしよう、カスミ部長!」

「───て、撤退! 退散だ!」

 

 

 知ってさえいれば、戦おうとはしなかったのに。

 カスミ含む本陣の生徒十人程度が一目散に退散し、残った部員たちは殿としての役割を果たすつもりなのか一斉にマコトへと銃口を向け、発砲した。

 

 

「何としてでもカスミ部長を逃がすぞ! そうすれば後はどうにでもなる!」

「いくら強いって言ったって、一人なら足止めくらいは……」

 

 

 SG、AR、SMG、RG。

 様々な銃火器による一斉射撃が行われるが、それらの攻撃が一発でも命中することは終ぞなかった。

 マコトが瞬きする間よりも早く、その場から移動したからである。

 

 まるで、初めからその場に居なかったかのように。

 

 

「速い───!」

 

 

 百鬼夜行では、その体技を縮地と呼んだ。

 

 

 一射一殺。

 一人、また一人と意識を奪われ倒れていく。

 前に後ろに、韋駄天の如く縦横無尽に一帯を駆けるマコトを誰一人として捉えられない。

 

 

 後に某風紀委員長は語る。

 ──私がゲヘナ最強なら、マコトはゲヘナ最速。……多分、純粋なスピード競争ならキヴォトスでも並ぶ人は居ないと思う、と。

 

 

 数分後。

 その場にはぐったりとして倒れこむ数十人の温泉開発部の姿が残るだけであった。

 

 

 

 

 

 

「───ここまでくれば安全か?」

 

 

 一方、鬼怒川カスミ。

 なりふり構わずに逃げた故か、元居た廃墟からはもうかなりの距離が離れている。

 見たところ、追ってきている気配は感じないので、何とか逃げ切れたと安堵の息を漏らしていた。

 

 

「ハ、ハハハッ、今回ばかりは本当に駄目かと思ったぞ、メグ。……目下の脅威は去ったのだから一先ず、新しいアジトを探さねばな!」

「まあそうなんだけどさぁ~、アジトに爆薬とかも殆ど置いてきちゃったから何にもないんだよねー」

 

 

 温泉開発に必要な物資。

 主に爆薬は、半数近くをアジトに保管していたので、マコトに制圧された以上は諦めるほかないだろう。 残っているのは、手持ちの残り僅かな分のみだ。

 攻撃を当てても一切ダメージの入らない風紀委員長に、そもそも攻撃の当たる気配のない万魔殿の議長。 別ベクトルの恐怖に揉まれて、正直もう限界である。

 

 

「だが我々温泉開発部は不滅! いつしか必ず、キヴォトス中に温泉を開発するその日まで!」

「いえ~いっ!」

「キキッ、その心意気は中々の評価に値するぞ!」

「あぁ、その調子だ、お前達! ……正直今は、ヒナ委員長と同じくらいマコト議長の顔は見たくないがな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ん? お前達? 

 そこまで言って、漸くカスミは違和感に気付く。

 

 

「ん、どうした? 最期まで続けてくれて構わんぞ?」

 

 

 本来いるはずの無い人物が、目の前に居ることに。

 よく見てみれば、他にも残ってたはずの部員たちも全員昏倒させられているではないか。

 いつの間に、どうやってと内心では思考をフル回転させて考えるものの、実際にカスミが絞り出せたのは余りにもか細く、抽象的な問いだけだった。

 

 

「な、なんで……」

「それは私がこの場に居ることへの問いか? それともこの様相をどうやって生んだかという問いか? 後者ならばすまない。特にタネや仕掛けがあるわけでは無い」

 

 

 じゃあ何なんだ一体!? 

 どういう原理であんな芸当が出来る!? 

 

 そんな心の叫びを押しとどめて、何とか立ち続ける。

 まさに蛇に睨まれた蛙の如く、震えが止まらないでいた。

 

 

「──さて」

「ま、待て。まだお互いに交渉の余地がある。そうは思わないか?」

「思わんな」

 

 

 一蹴。

 SRの銃口を己の額へと向けてくるマコト。

 最後の頼みの綱であったメグも、この間に目にもとまらぬ速さで制圧されてしまっていた。

 逃亡劇は、終わりだ。

 

 

「……連邦生徒会長が失踪してから、こちらも忙しくてな。悪く思わないでくれ」

 

 

 手札はもう、残っていない。

 一枚ずつ、確実に潰されたから。

 

 

「ひ、ひえ───」

 

 

 その事実を認識した直後。

 放たれた銃弾により、カスミの意識は刈り取られた。

 

 

 

 

 ◆◇◆◇◆

 

 

 

 

「───はぁ」

 

 

 ちょっとやりすぎた気がする。

 相手は二年の後輩だぞ。 最後の方に至ってはガチビビりされてた気がするし。

 

 悲しいなあ。

 

 

 久々に思う存分暴れられる─って思って好き勝手するのは置いておくにしても、このままだとマコト様の印象が『血も涙もない大悪党』になってしまう。

 だから基本はいつも後方指揮してるんだけど、身体はどちらかというと闘争の方を求めてるんだよね。

 ゲヘナだから? ゲヘナだからか(納得)。

 

 

 そんな事を考えていると、目の前で一台の車が停車する。

 救急医学部の車だった。

 

 

「ゲヘナ救急医学部、只今到着しました。マコト議長、死体は何処ですか?」

「セナだったか。 鬼怒川カスミと下倉メグが其処で、他のメンバーは向こうの建物でお昼寝中だ。 人数が多いから、ここの面子を先に頼む」

「……また随分と、派手にやりましたね」

 

 

 指さした先の廃屋は、ほぼ跡かたなく崩れていた。

 違うんだセナ。別に私がやったわけじゃないんだ。

 

 温泉開発部の方がありったけの爆薬をふんだんに使ってくるからこうなっただけで、別に私が建物一つ全損させた訳じゃない。

 というかそれが出来るのはヒナくらいだろう。

 

 

「……まあ、後は頼んだ。私は今頃溜まっているだろう、エデン条約関連の書類を捌かねばならん」

「連邦生徒会長が失踪して、一時はどうなるかと思いましたが、無事に条約締結も行えそうですね」

「幸い、ティーパーティーのホストも協力的だからな。 少なくとも、桐藤ナギサと百合園セイアに関しては心配いらん」

 

 

 一応、何度か対面する機会はあった。

 凄いよな。こっちはゲヘナ最強決定戦上位の蛮族代表みたいなのが集まって回してるのに対して真逆だよ、真逆。 

 めっちゃお清楚な雰囲気のお嬢様とか、今まで仲良くできなかった理由もまあ分かるわ。住む世界が違い過ぎるもん。

 

 本当、向こうが悪役令嬢みたいな娘じゃなくて助かったよ。

 

 

「まあ、その辺りは議長と風紀委員長の管轄ですから、特に私から言う事はありません。 お疲れ様です、マコト議長」

「キキッ、さらばだ」

 

 

 廃屋の方へと走り去る車を見届け、物思いに耽る。

 連邦生徒会長の失踪。 恐らく近いうちに設立されるであろうシャーレ。

 

 そして、今も進められているエデン条約。

 

 

 良くない何かが、始まろうとしている。

 そんな嫌な確信が、脳裏にはあった。

 

 

 

 

 

 





……今回の話、アンチ要素になったりしない?大丈夫?


スピードタイプのゴリラなマコト様とかいう幻想。
某所でこのマコト様を見たのが今作を書いた理由の九割を担っている。


ヒナのステータスをオール100とするならば、この偽マコトの能力値の内訳は、

耐久:70
攻撃:80
敏捷:150
神秘:85
指揮∶300(準先生クラス)
幸運:EX(良くも悪くも)
総合:95


くらいの塩梅ですかね。最強格と普通にやりあうと勝ち越すのは厳しいですが、搦め手や不意打ちなどの戦法次第では割と勝ち筋を生み出せるタイプ。


次回があれば早めにエデン条約へ突入します。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。