魔法少女にあこがれてたよね!? 作:スカイ・■
「エヘヘ……いっぱい買っちゃった」
両手いっぱいに膨らんだ紙袋の束。中身を見て満面の笑みを浮かべる。
その日、柊うてなは少し遠出をしていた。
推しの魔法少女の展覧会が開かれるということで電車で二時間以上かけて隣の県まで足を運んでいたのだ。
「お姉ちゃんの分も買えたし、今回は大満足かな」
本当なら親に車で送ってもらい家族で行く予定だったのだが、仕事の都合で行けなくなってしまった。酸素ボンベの容量さえ気にしていれば電車にだって乗ることが出来る彼女の姉であるが、朝イチで出発となると混雑時と重なることになり、一度それで人の手にチューブが引っ掛かって大変な思いをしたことがあったので今回は留守番することしていた。
「それにこれ。前にフィギュア化したら絶対に買うって言ったし、きっとプレゼントしたら喜ぶよね」
彼女達姉妹は同じ趣味を共有しているだけあって仲が良い。
今回も行くことは出来ないがこれだけは買ってきてとお小遣いと買い物リストを持たされていたが、それに加え限定品だったキュアスカイの闇落ちフィギュアを購入していた。
姉はキュアスカイというプリキュアが取り分け好きであるのを知っていたので、リストにはなかったが死にもの狂いで手に入れたのだ。
そのせいで自分が買う予定だった物品を幾つか諦めなければならなくなったが、後悔はない。
帰ったら姉と鑑賞会をしようだとか、ジオラマを作って撮影しようとか、この後の楽しみを考えながら駅方面に向かっていると大きな爆発音が辺りに響いた。
「ギュガガガ!!!」
「え、あれは!!?」
音のした方に振り向けば五メートルほどの魔物がビルを壊して雄叫びを上げていた。
耳鳴りがするほどの大声にうてなは眩暈を覚えたが、意外にもその顔に恐怖の色はなかった。
振るった豪腕はバターのように鉄骨をねじ曲げ、何tとも何十tあるともしれない巨体が動く度に地面が少し揺れる。まるで現代の生物形態をふるシカトしたような規格外の化け物だが、こういった存在が突如として街中に現れるのは珍しいことではなかった。この世界には魔法少女と世界の平和を脅かす悪の組織がいる。ならばそれらが操る魔物がいなければおかしい。
そんな非常識がまかり通る世界だ。
もしあの魔物の標的に自分がなれば一溜りもないだろうがうてなは知っている。
悪の組織の幹部又は魔物現れる所に魔法少女あり。
この街の平和を守る魔法少女は『最速』
疾風迅雷の異名を持つクロムマジアがいる。
きっと瞬く間に現れた彼女があの怪獣を倒してくれる筈だとうてなは信じて疑わなかった。
そしてうてなはその魔法少女が数日前にエノルミータの女幹部に敗北して病院送りになったことを知らない。
街の住人はそれを知っていたのか一目散に逃げた為、彼女は出遅れてしまった。
「ギュガガガガガ!!!!」
「へ?」
それは柊うてなが悪の組織の女幹部になる一週間前のことだった。
何の力も運もないうてなには迫り来る怪獣に対してどうすることも出来ずに、そのまま踏み潰された。
「私のッ!」
端から見たらそう見えただろう。
「妹にッ!」
だが直前で青い影が滑り込んで怪獣の巨体を受け止めた。
「何やってんるんですか!!!!!」
その小さな体のどこにそんなパワーがあるのかと不思議でならない。青い空のようにマント、そしてごちゃ混ぜにしたようなカラフルな髪が特徴的な──魔法少女が来てくれた。うてなは声にならない歓声を上げた。
やはり魔法少女は彼女の理想通りの存在だったと羨望の眼差しを彼女へ向ける。
(え、妹?……私と家族と見間違えたのかな?)
魔法少女の発言に少し違和感を覚えたが、まさか姉が変身しているなどとは夢にも思わない。
魔法少女は認識阻害の魔法で守られているので、例え肉親でも分からない。それもあるがうてなの知る普段の姉とは口調やテンションが全然違った。
何より姉はうてなの前で怒ったことは一度もない。
魔法少女が怪獣を投げ飛ばして、フスンっと鼻を鳴らす。
「ギガガガ!?」
「怒ってるみたいですが、それはこっちのセリフです。よくも私の妹を傷つけようとしましたね!堪忍袋の緒が切れした!絶対、絶対、絶ー対許しません!」
そのまま消えたかと見紛うスピードで飛び出した魔法少女は「だだだだだだだ!!!」と拳の連打をお見舞いする。
抵抗しようとしたその腕を裏拳で弾き飛ばし、殴る。逃げようとするその足を掬って倒し、かかと落とし。
まるで容赦がない。ゴムを思いっきり叩いたような打撃音が何百と鳴り響く。それに対して魔法少女なのに全然魔法を使わないものだからプリキュアみたいだとうてなは思った。
「ッゥ!ギガ!」
「くっ!このっ!」
不意に口から光線を放った魔物の攻撃に一瞬たじろいだが、立ち直って拳を振りかぶる。
決して無傷などではなく軽い火傷を負ったように肌は赤くなっているが、それでも彼女の闘志が衰えることは少しもなかった。
殴る!殴る!殴る!
……強い。力もそうだが心が強い。
恐らくは新人の魔法少女だが、彼女ならばこの魔物を倒せる筈だと確信した。
「これでトドメです!」
魔法少女の突き上げた拳が青い光を纏って、それをすっぽりと覆う巨大な拳へと変化する。
「レインボー!ミラクル!!──インパクト!!!」
その振りかぶった一撃は先ほどまでの比ではない。
この感じからして彼女の戦闘スタイルは基本肉弾戦で、大技の時だけ魔法を技に乗せる超近接特化の魔法少女になるのだろうか。
「ギュガガァァァァ!!!!」
まさに必殺、殴り飛ばされた魔物は空の上でお星さまになった。
「ほわ………………」
なんて……なんて、格好いい魔法少女なんだろう。
絶対推そう。
柊うてなはこの魔法少女にあこがれた。
「あ、あの!助けてくれてありがとうございます!それでもしよろしければお名前を教えてくれませんか!あ、魔法少女名の方で!」
「え?……うーん。キュアマジア、取り敢えず……キュアマジアで!」
「キュアマジア!!!」
そして来る日、マジアベーゼは思った。
こんな素晴らしい魔法少女が恥辱に苦しむ様はさぞ愉快だろうと。
「まさかロードの魔物が破られるとは。これは不味いことになったね。早く計画を急がないと」