ちっちゃい魔女の相談所 ~地球生まれの魔女、両親に冷たくされたのでお姉ちゃんと家出します。異世界からちっちゃい魔女をたくさん呼んでのんびり遊びたい~   作:龍翠

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クロの先生

 帰ってきた先はいつもの我が家の大広間。テーブルにどさりと置かれたチョコをクロがじっと見てる。食べたいんだね。とても分かりやすい。

 

「クロ。食べていいよ」

「ん……!」

 

 リオちゃんが言うと、早速クロがぱくりと一口。ふんにゃり笑顔。美味しいんだね。かわいい。

 

「これが私のお金の出所。小夜、納得した?」

「納得したよ。でも、よくこんな取り引きを思いついたね」

「んー……。私が知ってる世界に、よく似た世界がある。そこも地球や日本があって、同じような取り引きをしたことがあった」

「へえ……」

「もう千年ほど前の話だけど」

「お、おう……」

 

 思った以上に昔の話だね……! この子だけスケールが他と違いすぎて困る!

 でも、少しだけ、察したことがあった。

 

「その千年前に、忘れられない友達がいた?」

 

 そう聞いていると、リオちゃんは一瞬だけ目を見開いて、そして、

 

「ん……」

 

 あの寂しげな顔になった。

 

「親友がいた。たくさんの知り合いがいた。大切な人もいた。でも」

 

 みんな、私を置いて、いなくなった。

 それは、とても悲しげな声で。クロですらまじまじと見つめるほどで。

 

「クロと小夜を少し重ねて見てしまうことがあると思う。でも、気にしないでほしい。少し思い出すだけだから」

「師匠」

「むぐ」

 

 クロがリオちゃんを抱きしめる。ぎゅっと。ぎゅーっと。

 

「おもいで。たくさん。がんばる」

「ん……」

「だから、いっしょ」

「そうだね」

「いなくなる。だめ」

「大丈夫」

 

 クロをあやすリオちゃんの手はとても優しい手つきで。

 ああ、きっと。この子は何度も寂しい別れをしながら、誰かと関わるのをやめられなかったんだなって。なんとなく、察することができた。

 クロが言うには、リオちゃんは深い森の中でひっそりと暮らしているらしい。ひっそりと隠れ住んで、時折こうして誰かと関わる。関わるために出てくるのか、今回のようにたまたま関わることになるのかは分からないけど。

 だから、隠遁の魔女、なんだろうね。

 

「来たのじゃ! って、なんじゃ? どうかしたのか?」

「お邪魔しまーす……って、どうしたの!?」

 

 唐突にドラコちゃんたちが入ってきた。タイミングを見計らったわけじゃなくて、多分偶然、だね。こういうことはたまにあるから。

 

「お? これはチョコレートじゃな! いつもと違って高そうじゃ」

「美味しそう!」

「ん……。みんな。たべる。師匠、いい?」

「もちろん。必要なら買い足せばいい」

 

 さっきまで静かだったのに、賑やかになる時はあっという間だ。次々に魔女ちゃんが集まってくる。授業が終わったのか、ランドセルを背負ったエナちゃんも来てくれた。

 エナちゃんはさすが地球人というか、チョコのメーカーを知っていたらしい。すごく高いチョコと聞いて、みんな大盛り上がりだ。

 

「ほほう……。なるほど。このなめらかな舌触り……。確かに高級品じゃな!」

「えー。そうかな? 板チョコの方が美味しいよ?」

「ミリアは子供じゃなあ。この良さがわからんとは」

「ん。ごめん。私も実はよく分からない」

「リオ!?」

 

 さっきまでのしんみりとした空気は、いつの間にか霧散していた。

 リオちゃんの問題は解決できるものじゃない。きっと彼女はこれからもずっと生きていくだろうから。せめて、今この時だけでも楽しんでほしいと思う。

 だから、何かみんなでまたお出かけしよう。そう思ったところで、私のスマホが震え始めた。メールやメッセージなら後で確認すればいいかと放置したけど、震え続けてる。電話だ。

 私の友達ではない。この時間に電話してほしくない、というのは知ってるはずだから。

 スマホで番号を確認すると、知らない番号……いや、見覚えのある番号だ。わりと大事な番号だったような……。

 

「もしもし」

 

 とりあえず電話に出てみると、やっぱり聞き覚えのある女性の声だった。

 

「小森小夜さんの携帯電話でお間違いありませんか?」

「はあ、そうですが……」

「わたし、黒乃ちゃんの担任の佐野といいます。緊急連絡先がこちらになっていたので、お電話させていただいたのですが……。黒乃ちゃん、最近お休みしていますが、大丈夫でしょうか?」

「…………」

 

 ぴたりと。私は動きを止めてしまった。まさか電話がかかってくるなんて思わなかったから。

 いや、だって、認識操作とかどうとか、言ってなかったっけ? クロのことはみんな気にしなくなるとか、そんな感じの。

 クロを見る。目が合った。

 

「小学校の先生」

「……!?」

 

 あ、珍しくクロが本気で驚いてる。クロにとっても予想外だったらしい。

 

「小森さん?」

「あー……。すみません。妹はまだちょっと体調不良でして……」

「なるほど……。では、心配なのでお見舞いに伺いますね。もうすぐつきますので」

「え、ちょ、ま……」

 

 ぷっと、電話が切れてしまった。

 気付けば、完全に静まり返ってる。みんなが私の様子を見守ってるのが分かる。正直、あまり言いたくないけど、言わないといけない。

 

「クロ」

「ん……」

「佐野先生は、分かる?」

「がっこう。たんにん」

「ずっと休んでるクロを心配して、家庭訪問に行っちゃいました……」

「…………」

 

 これもまた珍しい、頬を引きつらせた顔だ。いやそんなこと言ってる場合でもないんだけど。

 

「ちょっとまずいね」

 

 そう言ったのは、リオちゃんだ。悩ましげに腕を組んでる。

 

「この家と一緒にかけたクロに対する認識阻害は、かなり弱いものなんだけど」

「はあ」

「思い出した人がさらに別の人にクロのことを聞くと、相手も思い出すと思う。もちろん、両親も」

「うわあ……」

 

 現状、両親は私のことも気にならなくなってる状態のはず。それがクロの担任から、そういえばクロと、そして小夜はどこに? となっていくわけだね。

 これは困った。佐野先生は虐待とかそういうことを視野に入れて動いているんだと思うけど……。今回ばかりは、ちょっと迷惑だった。

 どうせ動くなら、クロの家出の前に動いてほしかったよ。

 




壁|w・)リオについてはこれで終わり、だったりします。
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