ちっちゃい魔女の相談所 ~地球生まれの魔女、両親に冷たくされたのでお姉ちゃんと家出します。異世界からちっちゃい魔女をたくさん呼んでのんびり遊びたい~ 作:龍翠
「なに……ここ……?」
気付けば、見知らぬ世界に私は立っていた。
目の前には大きめの屋敷があって、今いる場所はその屋敷の庭らしい。時刻は真夜中。軽く周囲を見回したところ、他の家々の明かりも少ないから深夜だと思う。
そうして私が不思議に思っていると、屋敷の扉が開かれた。
「…………」
中から出てきたのは、銀髪の少女。見た目は私と同い年ぐらいだけど……。多分、私と同じだ。見た目通りじゃない。
「驚いた」
その少女が言った。
「私と同程度の魔力の人は初めて。びっくりした」
「私も、びっくりした、です。戦いたくないと思ったのは……初めて、です」
「ん……」
多分、本気の死闘になると思う。
でも、幸いなのは。
「まあ、戦わなければいい話」
「同感、ですね」
別に戦う必要はないということ。
私がここに呼ばれた魔法。予め調べたところ、害意はない魔法だった。術者と似通った背格好の人を召喚する魔法で、その魔法にこめられた気持ちは、友達が欲しい、というもの。
かわいらしい理由に思わず頬が緩んだものだ。友達になれるかは分からないけど、一度会ってみたいと思えるほどに。
「でも時間は考えてほしかった。今は術者の子はぐっすりだから」
「それは、ごめんなさい、です。思わず来ちゃったもので……」
「気持ちは分かる」
「ですよね」
多分、銀髪の子がいるのも同じような理由からだったんだと思う。
魔法に習熟していれば、その魔法の術式から術者の感情を読み取れることができる。きっとこの子も同じような理由で来たんだと思う。
「寝る必要は?」
「ない、ですね」
「そう。じゃあ、どうぞ。クロが起きるまで、ゆっくりしていくといい」
クロ、というのが術者の子らしい。猫みたいな名前だな、なんて思いながら、私は屋敷の中に入った。
「ちなみに、名前を聞いてもいい、です?」
「ん……。リオ。あなたは?」
「リンネ、と」
「わかった。よろしく、リンネ」
「よろしく、です。リオ」
大きな部屋でゆっくりと過ごしながら、リオからいろいろと教わった。
この魔法を作ったクロという女の子。両親に冷遇され、姉と一緒に家を出て、この魔法で友達を増やしているらしい。その両親とはある程度の和解はしたらしいけど、どちらかと言えばお互いに不干渉という程度のものみたいだ。
だから今も大絶賛友達募集中、とのこと。
「かわいらしい、です」
「ん」
思わず頬が緩んでしまう。それはリオも同じのようで、私と同じように表情が薄い子のようだけど、どことなく微笑ましく思っているのが分かる。
私の世界に、友達が欲しいという理由で魔法を使う人なんていなかった。なんだか新鮮で、とても応援したくなる。
「ちなみに、今までも召喚された魔女はいた、です?」
「それなりに。だいたい一ヶ月に一人ぐらい増えてる」
「へえ……。私たちに匹敵する子は?」
「さすがにあなたが初めて」
「ですか」
それもそうか、とも思う。おいそれと私たちレベルの人が出てきても困るというものだ。
それにしても。それだけたくさんの魔女が集まる場所となっているらしい。あの術式で召喚をしているなら、それぞれ事情や種族の違いはあれど、見た目は小さな女の子、なんだと思う。
ますます会うのが楽しみだ。
そう思っていたら、唐突に白い何かが現れた。これは……おばけ? 初めて見た。実在するんだ。
「ぱけ?」
「こばけ。この子は新しいお客様。でも急いではないみたいだから、クロは起こさなくていい。飲み物だけ頼みたい」
「ぱけ!」
こばけと呼ばれたそれは敬礼みたいなことをして、すっと奥の扉に消えていった。
ふむ。
「なにあれ」
「こばけ。あとおばけもいる。大きいおばけと小さいこばけ。この屋敷に棲み着いていて、今ではクロの使い魔みたいなものになってる」
「それはまた……。実はクロという子は、とてもすごい魔女、です?」
「んー……」
リオは少し考えるように視線を上に向けて、でもすぐに薄く笑った。
「んーん。とてもかわいらしい、魔女見習いだよ」
「ですか」
うん。会うのがとても楽しみだ。
・・・・・
朝。魔女ちゃんが増えていました。
「え」
「おはよう、小夜。新しい友達候補。リンネ、だって」
「よろしくお願いします、です」
「おお……」
ちっちゃい魔女ちゃんが増えた! リオちゃんみたいな銀髪に真っ黒ローブな魔女ちゃんだ。とてもかわいいと思う。
おっとその前に。いつもはもう少しゆっくり寝かしてあげてるけど、今日はすぐに起こそう。きっとその方がクロも喜ぶだろうから。
「クロを呼んでくる!」
下りてきたところの階段を駆け上って、クロの部屋へ。ベッドの中で丸まって眠るクロを引っ張り出した。
「クロ! 新しいお友達だよ!」
「おともだち!」
このワードだけで目を覚ますクロはさすがだと思う。あっという間に着替えて部屋を飛び出していった。早すぎて私が遅れたぐらいだよ。
クロに遅れて階段を下りると、クロは早速自己紹介をしていた。
「ようこそ。わたし、クロ。かんげい。かんげい」
「ふふ……。私はリンネ、です。よろしく、です」
「ん!」
こくこくと頷くクロ。そして。
「おちゃ。おちゃ。ごようい!」
ぱたぱたとキッチンの方に走っていった。
「ジュース、もうもらってるよね?」
「こばけ、という子にもらった、です。でも、まだ欲しい、です」
「あははー」
うん。きっとこの子もいい子だね!
クロの感情は魔法を通してみんなに伝わる。そんな効果が実はあったりするんじゃないかと思うぐらい、新しい魔女ちゃんが来た時のみんなの行動はとても早い。
朝から魔女ちゃん大集合だ。
「おお……。いや、驚いたのじゃ。わしはドラコじゃ! 終極の魔女とはわしのことよ!」
「すごい人だ……! ミリアはミリアだよ! この子たちはミリアのお友達!」
そんな感じでいつもの自己紹介が始まってる。
この自己紹介は毎回の恒例だ。当たり前と言えば当たり前だけどね。みんな初対面なわけだし。でもこのみんなで自己紹介をしているのを見るのが、私は実は好きだったりする。
クロは椅子にちょこんと座って、そんなみんなの様子をじっと見てる。みんな仲良くしてくれるかが不安なのかも。ここも大人数になってるからね。
椅子は当然のように足りなくなってるし、この部屋も少し狭く感じてきたところだ。お引っ越しも考え始めたところだけど、部屋の広さはいずれリオちゃんがどうにかするらしいから、そっちは任せることにしてる。
何よりもクロがこの家を気に入ってるからね。
あの両親との一件以来、クロは少しだけ変わってきている、ように思う。小学校にもたまにだけど行くようになったし、学校での友達もできたみたいだ。これは、同じ学校だったらしいエナちゃんの功績が大きいだろうけど。
それでも、クロが魔女であることには変わらないわけで。この家の外にも少しずつ目を向けるようになったクロだけど、きっとクロの居場所はこれからもずっとここなんだと思う。
でもきっと、それでいいと思う。一時はこの世界を完全に見限る寸前までいったんだ。それを思えば、少しでもこの世界に居場所を見つけてくれただけでも上出来だ。
「おねえちゃん」
そんなことを考えていたら、クロが私の側までやってきていた。服の袖をくいくいっと引っ張ってきてるのがとてもかわいいです。やっぱり私の妹が一番かわいいね!
「おねえちゃん?」
「よし。大丈夫。落ち着いた。どうしたの、クロ」
「ごはん。おいしい。がんばる」
「うん? 手伝ってくれるの?」
こくこくと頷くクロ。きっと、新しいお友達を歓迎したいんだろうね。
「気持ちは嬉しいけど、別にいいよ」
「おねえちゃん?」
「クロのお友達候補なんだからさ。歓迎の気持ちは大事だけど、たくさんお話ししておいで。みんなも待ってるから」
そう言ってクロと一緒に魔女ちゃんたちの集まりを見る。みんなわいわいと話してるけど、同時に誰もがクロを気に掛けてる。
みんな、分かってるから。クロが一番、お話ししたいということに。誰もがクロの魔法で来てくれるようになった子たちだから。クロがお話ししやすいに、いつも気に掛けてくれている。
「ほら、行っておいで、クロ」
「ん!」
クロがリンネちゃんの方へと駆けていく。きっとすぐに、お友達になるんだろうな。
さてと。それじゃ、私は歓迎のために晩ご飯の献立を考えよう。毎月恒例の、歓迎パーティだ。
そうして、夜。
「貴様! リンネ! それはわしの好物じゃぞ!」
「知らない、です。…………。美味しい」
「そうじゃろう!」
なかなかに馴染むのが早い子だ。もうみんなと仲良くなってる。
もちろんクロもその輪の中にいる。相変わらず表情は薄いけど、とても楽しそうだ。
本当に。本当に、そんなクロを見守るだけで、何とも言えない感傷に浸ってしまう。
相変わらず表情は薄いし、まだちょっと感情に言葉が追いついていないのかたどたどしい言葉遣いだけど……。でも、以前と違い、その感情は悲しみよりも楽しさになってる。
クロを見ていれば、それはすぐに分かる。それが、姉としては、とても嬉しい。
今だから言えることだけど、家出をした時は不安しかなかった。住む場所もそうだし、お金もそれほどなかったし……。いずれはどこかの施設に入ることになるかも、なんて半ば本気で思っていたぐらいだ。
でも、杞憂だった。クロの魔法でリオちゃんが呼ばれ、ミリアちゃんと出会い、ドラコちゃんが仲間になって、エリーゼちゃんが遊びに来るようになって、リコリスちゃんを助けて……。
その後も、クロの魔法によって、絆は繋がっていっている。きっとまだまだ、クロのお友達は増えていくんだと思う。もっともっと、この家は笑顔で溢れていくんだろう。
それが、私はとても楽しみで。きっとクロも期待してるんだと思う。
「おねえちゃん?」
「おっと。なんでもないよ。ところで、言わないの?」
「あ」
いつからか、クロが歓迎パーティで言うようになったこと。お友達もみんな一緒に言うようになったこと。
クロの様子に気付いたみんなが静かになる。戸惑うリンネちゃんに、クロを始め、ちっちゃい魔女ちゃんたちが一斉に言った。
「ようこそ、魔女の寄り合い所へ!」
そう言うクロは、とびっきりの、とても魅力的な笑顔だった。
了
壁|w・)本編はこれにて完結となります。
今後もクロはたくさん友達を増やしていくでしょう。
たくさんの子と友達になって、日々を楽しく過ごしていくのだと思います。
それらの日常は、皆様のご想像にお任せして……。
もうちょっとだけ、続くんじゃよ!
書きたかったお話があるので後日談として投稿して、それで終わる、ですよ。
もうしばらくお付き合いください……!