ちっちゃい魔女の相談所 ~地球生まれの魔女、両親に冷たくされたのでお姉ちゃんと家出します。異世界からちっちゃい魔女をたくさん呼んでのんびり遊びたい~ 作:龍翠
いつもの柔らかいベッドの上で、わたくしは目覚めました。
わたくしの部屋は国の中央、守護塔と呼ばれる塔の頂上です。城下町を一望できるこの部屋を、わたくしはとても気に入っております。
部屋の家具はあまり多くありません。大きなテーブルにふかふかのクッションがついた椅子、それに柔らかなソファに、天蓋付きのベッド。あとは本棚がいくつか、ですね。
服はいつもメイドが持ってきてくれるため、この部屋には置いてありません。簡素なものをお願いしているので、その辺に置いておいてもいいと思うのですが。
「セーラ」
わたくしが呼ぶと、すぐに部屋のドアがノックされ、開かれました。
「おはようございます、アイカシア様」
入ってきたのは、わたくしのたった一人のメイド、セーラです。その手には、今日の服が入ったカゴ。わたくしが立ち上がると、すぐに着替えを手伝ってくれます。手伝う必要のない服ですが。
簡素なシャツとスカート。それがわたくしの服装です。伯爵家の令嬢とは思えない服装ですね。誰かに見られることもないので構わないのですが。
手早く服を着替え、セーラと共に部屋を出ます。
部屋の外は短い廊下があります。わたくしの私室の隣にもう一つ部屋があり、後は階段があるだけです。そのもう一つの部屋に、セーラと共に入りました。
その部屋はわたくしの部屋と同程度の広さがあります。その部屋に家具などは一切ありません。床に大きな魔法陣が描かれているだけです。
「では、セーラ。儀式を始めるので、また夜に迎えに来てください」
「はい……。無理はしないでください、アイカシア様」
セーラは丁寧に頭を下げて、部屋を出て行きました。
さて。ここからがわたくしの仕事です。魔法陣の中央に立ち、ゆっくりと魔力を流していきます。そうして魔法陣に魔力が行き渡ると、魔法陣が淡く光り始めました。
このまま、後は魔力を流し続けるだけ。これを夜まで続ければ、わたくしの魔力に直接繋がり、明日まで魔力が流れ続けるようになります。
起床して、夜まで魔力を流し、朝まで魔力を吸われ続け、そしてまた魔力を流す。その繰り返しが、わたくしの仕事です。自動的に流れるようになった後も、遠くまで効果が及ぶわけではないので、わたくしはこの塔の最上階から出ることはできません。
この魔法陣は、我が国の外周部に結界を張る魔法陣です。結界を張り続けていなければ、この国は瞬く間に魔獣の群れに呑み込まれることでしょう。
この世界にたった一つ残された国、人類の最後の砦。わたくしはそこを守るための要石です。いずれ次の聖女が現れるまで、わたくしはこの場所に閉じ込められ続けることでしょう。
ですが、自分で望んだことです。いえ、そうしなければならない、というだけでもあります。わたくしがしなければ、結局は皆が死ぬことになるだけですから。
幼いわたくしを心配してくれる声がある、それだけで十分なのです。
わたくしは今日も魔力を流し続けます。いずれ、終わりが来るまで。
夜。日が沈んだ頃に、セーラが戻ってきました。魔力がしっかりと満たされていること、そして私の体から少しずつ魔力が吸われていることを確認して、わたくしは部屋を出ました。
魔力が吸われ続けるというのはあまり気分がいいものではありませんが、一年も続けると慣れてしまいました。わたくしは自室で、セーラが持ってきてくれた夕食を食べます。
食事そのものはとても豪華なものです。大きなステーキに、濃厚な味わいのスープ。それにシャキシャキと軽い食感のサラダに、柔らかい白パン。
ですが、全てが少し冷めてしまっています。それも当然で、これらの料理が作られているのは、ここから徒歩で十分ほどの場所にある王城です。そこからこの塔の最上階へと運ばれてくるため、熱い料理を食べることはできません。
それでもセーラが魔法で少し温めてくれるだけ、まだ良い方でしょう。
「アイカシア様。本日のお食事はいかがでしょうか」
「はい。とても美味しいです、セーラ」
「たくさん食べてください。私はこんなことしかできませんけど……」
「いえ、そんな。あなたには感謝しています。あなたがいなければ、わたくしは一人でこんなことを続けられませんから」
もしもたった一人でやれと言われれば、きっとわたくしはどこかで壊れていたと思います。今はセーラがいるのでぎりぎり保っている、と言えるでしょう。
辛くない、と言えばやはり嘘になりますから。
セーラは悲しげに眉尻を下げていました。
「それでも……。あなたのような幼い子に頼らないといけないなんて……。この世界は一度滅びてしまった方がいいです」
「セーラ」
「だって、そうでしょう!? あなたはこんな場所に閉じ込められて、冷たい料理を食べているのに! あの貴族どもは贅沢な暮らしをしているんです! 許せるはずがありません!」
「いいのです。これは、わたくしの望んだことですから」
「アイカシア様……!」
そうとも。これで構わないのです。わたくしは、ずっとここで祈り続けます。何年でも、何十年でも、一生でも。
ああ、でも……。やはり、少し、辛い……いえ、大丈夫です。
食事を終えた後は、セーラに体を拭いてもらいます。セーラが魔法で温めてくれたお湯でゆっくりと。
「せめてお風呂を作ってほしいとは伝えているのですが……。申し訳ありません、アイカシア様。私の力不足で……」
「構いません。こうしてセーラとゆっくりお話しできるだけで十分ですから」
お風呂に入りたくない、というわけではありません。むしろ、最後に入ったあのお風呂の気持ちよさは今でも思い出します。もう一度、入りたいと。
けれど贅沢を言うつもりはありません。セーラがいてくれるだけで、十分です。
「次の聖女が見つかったら、一緒にお風呂に入りましょう、アイカシア様」
「そうですね……。ですが、それは、次の犠牲者が選ばれるということです。それならわたくしが引き受けておいた方がいいと、そう思いませんか?」
「アイカシア様……」
「ごめんなさい。答えにくいことでしたね」
きっとセーラは、そんなことはないと言ってくれます。ですが、わたくしは、やはり他の子が犠牲になるのなら自分が引き受けておきたいと、そう思うのです。
いつか、終わりが来る、その時まで。
でも、もしもわたくしの望みが一つだけ叶うのなら。
ともだち、というものを、得てみたい。……あり得ないこと、ですね。
・・・・・
壁|w・)聖女さん。