ちっちゃい魔女の相談所 ~地球生まれの魔女、両親に冷たくされたのでお姉ちゃんと家出します。異世界からちっちゃい魔女をたくさん呼んでのんびり遊びたい~ 作:龍翠
案内された謁見の間は、とてもきらびやかな部屋です。床や壁は美しいほどに磨かれた白亜の石材、さらに床には深紅のカーペット。そして目の前の豪奢な椅子に、王冠をかぶった初老の男性が座っていました。この国、というよりこの世界の国王です。
わたくしが側まで行くと、陛下はにこやかに笑いました。
「久しぶりじゃな、アイカシア。元気そうで嬉しいよ」
「ご無沙汰しております、陛下。陛下もお変わりないようで、何よりでございます」
「うむ。今日は少々うるさい者もいるが、我慢しておくれ」
そう言って陛下が軽く周囲を見回します。わたくしも周囲を確認すると、他の貴族の方々が見ておられました。わたくしのお父様もいます。お腹のあたりをおさえていて、少しだけ申し訳ない気持ちがあります。きっと、他の貴族から何か言われていたのでしょう。
「さて、アイカシア。我が国の聖女よ」
「はい」
「昨日、わしらは結界の塔を訪ねたのじゃが、お主もメイドも留守にしておった。どこに行っておったのか、聞いてもいいかの?」
「はい……。もちろんです」
隠し通す、というようなことは考えない方がいいでしょう。それをすると、わたくしの部屋を調べることになったりする可能性があります。そうなった場合、誰かがあちらの世界に転移してしまうと……。きっと、ろくなことになりません。
わたくしですら足下にも及ばない魔女が二人もいますから。
小さく深呼吸して、わたくしはあの世界での出来事を陛下に話しました。
話し終えた時の陛下の様子は、正気を疑うような目でした。周囲からも嘲笑じみた笑い声が聞こえてきます。
「ふむ……。セーラ」
陛下がわたくしの後ろに控えるセーラに声をかけました。
「今の言葉は真実か?」
「真実です。でなければ、アイカシア様がこの場にいる説明がつかないかと」
「違いない」
もしもわたくしの言葉が嘘だった場合、結界の維持の説明ができなくなります。もうすでに各地で魔獣が侵入した、という報告があってもおかしくないはずですから。
陛下は少し考えていましたが、やがてわたくしに言いました。
「アイカシア。わしがその世界を訪ねることはできるかの?」
「おそらく大丈夫だとは思いますが……。あちらが許してくれるかは、分かりかねます」
わたくしの関係者なら、きっとすぐに何かをされることはないと思います。ですが、それが分からないままに誰かと遭遇した場合は……。例えは、ドラコさんと遭遇した場合は、どうなるか分かりません。クロさんを守るためなら隠れてなんだってしそうですから。
「ならば、招いてもらうことはできるかの? わしがあの塔に向かおう」
「それならおそらくは大丈夫かと……」
「うむ。では明日の昼頃に訪ねよう。楽しみにしておる」
明日のお昼、というのはまた急ですが……。きっと、大丈夫でしょう。戻ったらすぐにお願いをしに行かないといけませんね。
「かしこまりました。お伝えしておきます」
わたくしがそう言うと、陛下は満足そうに頷かれました。
さて。とんでもないことになってしまいました。
「アイカシア様。よかったのでしょうか。あんな約束をして……」
「隠すわけにいかないでしょう……。もし勝手に部屋を調べられて、誰かがあちらに行ってしまったら……。どうなると思います?」
「きっと話せば分かってくれるかと……」
「話す時間があればいいですね」
「う……」
いえ、わたくしも大丈夫だとは思うのです。クロさんはとてもいい子です。優しい子です。いきなり何かをすることはないと思いますが……。
でもわたくしは聞いてしまいました。リコリスさんの世界であったことを。もしもわたくしの身に何かあったと思われた場合、何をするのか、想像もできません。
「クロさんと話してきます」
「はい。お気をつけて」
早速、光の穴に触れてクロさんの世界に向かいました。
クロさんの世界、あの屋敷の庭はいつも通りです。いつも通りですが……。シートを敷いてひなたぼっこをしているクロさんと目が合いました。
「あ……クロさん……」
「ん……? シア? ようじ? わすれもの?」
むくりとクロさんが起き上がります。そんなクロさんに、戻ってからのことを話しました。そして、明日来ていただけるかどうかを。
クロさんはすぐに頷いてくれました。
「だいじょぶ。ちょうどいい」
「ちょうどいい、とは?」
「あした。おたのしみ。わくわく」
いや、まって。何をするつもりですかクロさん……!?
何を聞いてもクロさんは答えてくれません。明日のお楽しみの一点張りです。これは、答えてもらうことは難しいでしょう。
「あの、クロさん」
「ん?」
「本当にごめんなさい……。こんなことになってしまって……」
本当なら、貴族がらみの面倒事に関わる必要なんて、クロさんにはありませんでした。わたくしの方で全て終わらせることができれば、それが一番だったのです。
それどころかわたくしは、クロさんの好意に甘えて、進んで巻き込もうとしています。それが、本当に申し訳なくて……。
「シア。まきこむ。さいしょ。わたし」
クロさんを見ます。いつもの薄い表情ですが、少しだけ、申し訳なさそうな顔色でした。
「あやまる。ない。シア。おともだち。がんばる!」
ふんす、と気合いをいれていて、とてもかわいらしいです。わたくしと同年代とは思えないほどに頼りになります。わたくしも負けていられませんね。
「ありがとうございます、クロさん。もしクロさんもわたくしの力が必要になれば、いつでも頼ってください。それぐらいしかできませんから」
「ん」
クロさんがしっかりと頷いてくれたのを確認して、わたくしは自分の世界に帰りました。
まだ少し不安ですが……。あとは、クロさんに任せましょう。あの子なら、あの子たちなら、きっと大丈夫ですから。
壁|w・)クロはクロで、最初に巻き込んだことをちょっとだけ申し訳なく思ってる……かもしれません。