ー3年目の夏合宿始まり(サクラチヨノオー 視点)ー
トレーニングやレースで走れば走るほど、あれって思うことが多くなっていた。
踏み込みが思ったよりも浅かったり、スパートをかけるタイミングが早かったのか
スタミナが持たない日があったり。
それはとても、とても小さな違和感で、でもほんの少しのくせに……
私の”サクラチヨノオー ”と言う体が、ボロボロと崩れ始めているような気がした。
ウマ娘A)おはよ〜。今回の夏合宿で私最強になるつもりだから!
ウマ娘B)ははっ、合宿で伸びるのはあんただけじゃないし〜。
「………。
……いいなぁ。」
目の前で繰り広げられている別のウマ娘の話を裏山しかう思ってしまう。
「私はこれ以上走ったら、もっと壊れていっちゃうのかなぁ〜。」
そうして、再び夏合宿の時期を迎えた。
校門前には、合宿所に向かうバスを待つウマ娘の行列ができている。
その中にサクラチヨノオー もいた。
「………。」
周りのウマ娘たちがこれから強くなるのを楽しみにしている中、
彼女の表情は硬く強張っており、何か緊張をしているようだった。
”……チヨ、夏合宿頑張ろうね!”
気づいたら、トレーナーさんが目の前にいて顔を覗き込んでいた。
「わっ、トレーナーさん!?はっ、はい!合宿はそれこそ成長の機会ですから!」
「そういえば、私調べてきたんです!効果的なトレーニングの方法を!
ええっと、その……今回はランじゃなくて筋トレをメインにしたいなって!
その走るのは……えっと…。タイムを取るのは合宿の後半にとっておいて、
成長したのかお楽しみにしたいなって!!」
「ええっと……だめ、でしょうか?」
”いや、いいと思うよ。”
「……本当ですかっ!」
トレーナーさんは何かを考えているようだった。
「…?トレーナーさん?」
”その方向性でメニューを組み替えておくよ。”
「……!ありがとうございますっ!合宿でもよろしくお願いします!」
ー夏合宿の始まり(トレーナー視点)ー
夏合宿ももうすぐ始まる。バスを待っている時チヨがいたので近づいてみる。
普段なら気付くような距離でも気付く気配がない。
彼女の顔を覗き込んでみる。
そこには強張った顔で何かに緊張しているような顔をしたチヨがいた。
”……夏合宿、頑張ろうね!”
励ましの言葉がこれ以外浮かんでこなかった俺は励ますのが下手なのかもしれない。
「わっ、トレーナーさん!?はっ、はい!合宿はそれこそ成長の機会ですから!」
「そういえば、私調べてきたんです!効果的なトレーニングの方法を!
ええっと、その……今回はランじゃなくて筋トレをメインにしたいなって!
その走るのは……えっと…。タイムを取るのは合宿の後半にとっておいて、
成長したのかお楽しみにしたいなって!!」
「ええっと……だめ、でしょうか?」
”いや、いいと思うよ。”
「……本当ですかっ!」
実は自分も今回の合宿に向けて様々な本を図書館で借りて読み漁り、
別途メニューに組み込もうとしていた。
その中にはピークを過ぎたウマ娘専用のメニューも用意したが……。
……彼女がまだそれを希望してないなら、こちらから提案するのは酷な話かもしれないと察した俺は黙っておくことにした。
”(彼女にその意思が芽生えてから、かな。)”
「…?トレーナーさん?」
”その方向性でメニューを組み替えておくよ。”
「……!ありがとうございますっ!合宿でもよろしくお願いします!」
ー夏合宿ー
夏合宿が本当にスタートした。
前半は筋トレなどの基本的なトレーニングが多かった。
そしてもう、夏合宿も折り返し地点。
この日は約束通り彼女のタイムを計測していた。
「はぁ……はぁ……。
タイムは……いかがでしょうかっ!!」
バインダー上に乗っている昔の記録といまの記録を比較してみる。
「…どうでしたか!?記録を更新することはできたでしょうか!」
”……昨年末のタイムと一緒かな。”
タイムはものすごく落ちていた。
「そう、ですか。そっかぁ〜………。
あはは、自分を伸ばすのって、以外と難しいことなんですね…。」
「(またあの感覚が広がった気がした。どんどん私がもろくなっていって、亀裂が入って、
もう今までの自分に戻れないような気がして。
…
…
…怖い。)」
ーその日の夜ー
「ーーーーーーー」
「もしも、いまの私とマルゼンさんが競い合ったら、」
きっとマルゼンさんが単独で逃げていく。
そして、第3コーナーに入ってから私が脚に力を入れる。
その後、マルゼンさんに迫っていくけど、脚を踏み外す。
そのあと、いろんなウマ娘に追い抜かれていく。
「………っ、こんな私じゃ……ライバルになれない……っ!
ー次の日ー
チヨとのトレーニング開始前、彼女のの表情がやけに暗く見えた。
”………大丈夫?”
「はっ、はい。トレーニングへの支障はきっとありませんから………。」
(わあああああ)
外から歓声が響いていた。
「どうしたんですかね?」
外ではバンブーメモリーとメジロアルダンの併走が行われていた。
’はぁ…ふぅ…’
『…やるっスね…まさか復帰早々……。』
「(アルダンさん勝ったんだ。復帰早々。あの伸び盛りのバンブーさんに…。)」
’チヨノオーさん……!’
「あ、えっと、おめでとうございます。アルダンさん…。」
’そういえば、チヨノオーさんは『天皇賞(秋)』に出走するんですか?’
「はい……そうですね。」
’では『天皇賞(秋)』に出走すればあのダービーの時のように
みなさんと競い合えるのですね……!’
「……あ。」
そうだった。ダービーの時、私も同じ気持ちを抱いていた。
このライバルたちと駆け抜けていきたいと。
「私、体に引っ張られて、その想いさえも欠けそうに…」
’…チヨノオーさん?’
それに比べアルダンさんは何も欠けていない。
「……………嫌だ。」
”チヨ?”
ヤエノさんたちも私と違って下り坂じゃないから。
「……嫌だ………嫌だ……っ。」
私はダービーの時には………。
「……嫌だ……!!」
そういってチヨは走って何処かに行った。
”チヨ!”
ー浜辺ー
「はぁ…ふっ、はぁっ……。」
〜チヨちゃん、やっと追いついた!ちよちゃん全然止まってくれないんだから!〜
「マルゼンさん…?どうしてここに…?」
〜いつも見てたから、かな?それにしてもみんな戸惑ってたわよ。
友達との会話中に急に飛び出すなんて。
ねぇ、チヨちゃん。あなた………、〜
〜……もしかしてピークを過ぎちゃったの?〜
「……っ!?どうして、それを…!?」
〜その答えは、あたしも知っているから、かしら。〜
「それは嘘です!私見てましたから。あなたがブランクを難なく超えて見せたところを…!
すごい……ですよね。マルゼンさんにはピークという言葉は一生関係ないんでしょうね…。
やっぱり、あなたは私とは違って、特別な才能があって………。」
〜そんなことないわよ。チヨちゃんも感じたのでしょう?
前の自分が脆くなっていくような。
もう、元に戻れなくなちゃったような感覚。〜
「……っ。」
〜ふふっ。私もね元に戻れるように頑張ったのよ。
でも元には戻れなかった。もうあの頃には戻れない。〜
〜でも例えそれが欠けようとも、あたしはあたしとして駆け抜ける。
あなたというライバルに負けないためにも!〜
「!」
〜ふふっ、ライバルってすごいのね!あたしがこんなに負けず嫌いになるなんて。
ガラスが割れた後も取らないのは知ってるの。知ってるけど、諦めたくないじゃない。〜
〜だから意地。意地を貫き通して取り戻してやったわ。
ねぇチヨちゃん。あなたの前にはあたしというライバルがいるわ。
あなたの心はもう燃えてないの?〜
「マルゼンさん……。」
〜あたし待ってるからね。東京芝2400mのあたしたちのダービー『ジャパンカップ』で。
あたしの大切なライバルを!〜
「………。」
ーその少し後ー
”チヨ!”
「……トレーナーさん。」
チヨを抱き寄せる。
「汗、すごいですよ。どれだけ走ってきたんですか?」
”あっ、すまん今離すから。”
「いや、いいです。もう少し、このままで…。」
そして、少しした後離れる。
「トレーナーさん、ご心配をおかけしてすみません。でも…。
……覚悟は決まりました。もう昔の私には戻れないです。」
”それって…。”
「いえ………だから、なんです。その事実をちゃんと見直したくて。」
「時が奪っていった私もありますが、時が与えてくれた私もあるんです。
だからこそ、今できる戦い方を模索する必要があるんです。
だって、ライバルに負けたくないですから!」
”そうだな!”
そういって見せた彼女の目は夏合宿の最初とは真逆の意味を持っていた。
ー夏合宿終了までー
”チヨ次は休憩とアイシングね。”
「はいっ!」
最近は、トレーニング内容を彼女がピークを過ぎた前提のものに変えた。
新進気鋭の子に体力は劣っても、アスリートとしての力は高められるのだ。
力任せに走ることができなくても、瞬発力や思考力を鍛えればいい。
『成長要素は無数に転がっている』なんて本に書いてあった。
まさにその通りだった。そして練習での怪我は今一番避けたい。
「ひゃ、バケツの氷多過ぎませんか?脚が…つ、つめだい……。」
”疲労を溜めないためにも大事だよ!”
とにかく今の彼女には、このトレノートに書きまとめた全ての有益そうな情報を活用すべきだと思った。
ーその少し後ー
’チヨノオーさんのトレーナーさん。突然お呼びたてして申し訳ございません。
貴方に…これを。’
”これって…。”
’以前、主治医にもらったものですが、筋肉をできるだけ傷めずに向上させるかに特化しています。
貴方たちがどんな状況に陥っているか、私はわかりません。しかし、どんなトレーニングをしているのかはわかります。
私は脚が脆かったので…。’
”ありがとう。大切に使わせてもらうよ。”
’いえ、とんでもございません。なので………どうか…、私のライバルをよろしくお願いします。’
メジロアルダンから渡されたものは頼もしいほどの重さがあった。
メジロアルダンに渡されたものを元に早速新しいものを探ってみる。チヨにも意見を仰ぎに行くと…。
『チヨノオーさん、先日は、模擬レースに誘ってしまい申し訳ございません。』
「どうしたんですか?ヤエノさん…。」
『今日は謝罪と一つお教えを。』
「教え、ですか?」
『はい、我が『金剛八重垣流』は護りに特化した武道です。
そして護る為には特に、壊れたものを戻すのではなく、壊し切ることも必要なのです。
どうか、その心を忘れずに。…御免!』
そのまま彼女は去っていった。
「ヤエノさん…。」
”君はいいライバルを持ったな。”
俺は彼女たちには何も伝えていなかった。しかし、何かを察して助けようとしていた。
「…はい。本当に。
やはり、立ち止まってられませんね。あの人たちのライバルとしても……!」
ー夏合宿最終日ー
「怖がるのは、もうおしまいです。たとえ脆くても、それを認め、
壊れたものを戻すのではなく…壊しきる…ッ!!」
チヨは今彼女ができる走りで砂浜をかけていく。
タイムは去年の冬より少し早くなっていた。
書いてたらなぜかハンター×ハンターを思い出しました。
なぜなんでしょうね。
共感できる方がいたら、もしかしたら私と同じ感性を持っているかもしれません。