ベルくんが吸血鬼な話。   作:UNACCOUNT

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英雄になりたい。

 

小さな頃、ベル・クラネルは不思議と太陽が怖かった。村にいた頃は影から出ず、夜になってもあまり出かけることはなかった。

あるとき窓から村の子供たちを見ていたとき、遊びに誘われ外に出た時がある。太陽は怖いが、太陽は皆を優しく照らす。ベルも、きっとと太陽の優しさに期待した。

陽の光。子供たちの手を取るためにも、太陽の下にベルは出る。

瞬間。

煙が出た。いつか叔父に聞かされたモンスターの消失現象のような、光にあたった部位から溶け消える。日に当たるはずのベルの腕が、消えた。

消失部位から激痛が走る。家の影で消えた腕を握りしめのたうち回るベルをよそに、子供は怖がり悲鳴をあげて大人を呼んだ。

そこからは、あまり覚えていない。

叔父が大急ぎで戻り、大人たちの囁き声が聞こえる。ベルの腕はもう生えていた。

『なぜ外に出るのだベル、家の中ならお前は安全なのだぞ』

叔父は言う。

『これからはもっと気をつけろ。お前に日光は…』

幼心、ベルは叫んだ

『どおしてぼくは外に出ると溶けちゃうの!!?』

あまり覚えてない記憶なのに。そこだけは鮮明に想起する。叔父が告げた、一言。

『…お前が、吸血鬼だからだ』

 

伝承に語られるその生物は、

曰く、その存在は不死である。

曰く、相対して生きて帰った生物は存在せず。

曰く、人の血肉を糧として。

曰く、滅するには心臓に杭を立てる必要がある。

曰く――。

 

人に害なす存在が人の英雄になれるのか。人に害をなさなければ生きられない身で人を守れるのか。そんな疑問が頭を埋めつくす。そんなとき祖父の一言がすこし辛さを和らげた。

 

『どうでもいいんだよ。ベル。想いを貫いてこその英雄だ。人の身でなくとも己を賭して仲間を守り、女を救え。今はくじけてもいい。折れてもいい。思いを叫べ。貫け。さすれば、それが一番格好の良い男だ』

 

雑に頭を撫でられて、泣きつかれたのか眠気がやってきて。

失いかけた夢を。再びベルは夢を持つことができた。

英雄になりたい。

大英雄に。すべてを救って喜劇に変えてしまう英雄に。

 

 

 

そんな格好の良いことを言っていた祖父は、結構あっけなく死んでしまった。森に行ったきりになって帰ってこなかったらしい。でもあんまり悲しかったわけじゃなかった。祖父の書いた英雄譚を読み返しながら決意を固める。

行こう。オラリオに。

 

吸血鬼として動くからには服装には気をつけなければならない。陽の光の当たらない装備と身のこなしを身につけよう。まずは…

「散歩してみよう…」

 

フードを被って、手袋をして、暑いけど裾や袖の長い衣服を着て。

「…仮面とかはつけなくていいかな。怪しいし」

その代わりにフードを深めにかぶる。

その後は太陽の下で走ってみたり跳んでみたり様々な動きを試してみる。

顔がただれたり、死んじゃうかと思うこともあったけれどお陰で外で陽の光を気にせずに動けるようになったころ。

「それじゃあ、いってきます。おじいちゃん」

そうしてベルは一歩目を歩みだす。

 

 

そして何事もなく到着。

――迷宮都市、オラリオ。

世界唯一ダンジョンを保有する都市。ここには様々な夢や大志を抱く者が足を踏み入れる。

 

その夢や大志もさまざまで、金や女や出会いやましてや英雄。全てはここから始まる者もいて、ここで終わる者もいる。この街にはそれら全てが揃っていた。

 

ギルドによって、ファミリアを探すことになって、そこからはたらい回し。

「お前みたいなのが冒険者?サポーターなら雇ってやるよ」

「鏡を見て出直せ」

「ひっ、ふ、不審者ですか?」

太陽対策の肌の露出を抑えまくった黒の服装。客観的に考えて怪しさ満点だった。実は暗殺者(アサシン)ですと言っても違和感のない服装は変えるべきかもしれない。この格好を変えてしまうのは死活問題になりかねないので変えることはないだろうが。

うまく行かないファミリア探しにうなだれそうになる。というかうなだれる。日差しの差さない路地裏に座り込む。

おなかすいたなぁ。

 

そして時間は過ぎていく。

もう色々なファミリアに体当たりをして7日。体力も精神もつらくなってくる。当たり前だ。吸血鬼とて体力は無尽蔵でなく休みたくもなる。

眠るならと決めていたところがある。

スラム街一角にあるぼろぼろな教会。吸血鬼が教会で眠るなんていかがなことかと思うが、棺桶があり日差しがあまりなさそうなところはそこしかない。

急ごう。教会に。

思い立ったら足早に向かうことにした。

 

「失礼しま〜す…」

ギギギ…と石の擦れる音を出しながら蓋をずらす。

棺桶は使用済みではないようだ。仏様が中にいたのなら絶叫しながら気絶するところだ。だがもう限界だ。寝れるところは見つけた。もう寝よう。荷物を外において、おやすみなさいと呟いて、少し隙間を作って蓋を閉める。石がひんやりとしていて気持ちいい。

ベルはここに眠った。睡眠だが。

 

何日寝たのかは分からないが、体力を取り戻した。

そして気持ちいい目覚め。体を伸ばそうとして石蓋に頭をぶつける。いたい。頭を当てた音に反応したか、棺桶の外から声が聞こえる。

「ほらあ! やっぱり誰かいるじゃないか! 荷物あさらなくてよかったぁ!」

「ヘスティア…君は…」

男の人と女の人の声?

棺桶について、話してる?

もしかして、勝手に使っちゃまずかった?

その瞬間、ベルの脳裏に最悪な答えが浮かぶ。

ぁぁああぁ!まずい!とてもまずい!これから使用する棺桶に勝手に不審者が入ってたらやばいよどうしよう!?というか勝手に使うのはまずいでしょ!!そうだとにかく棺桶出ておじいちゃんのよくやってた土下座をしようそうしよう!!

棺桶の蓋を内側から押し上げる。

音に怖がり、外で話していた2人が後ずさるのが聞こえた。そして、蓋を外した瞬間、外に飛び出し体を折り曲げ頭を地につける。おじいちゃんの教え、土下座の所作は一秒足らずに完了した。

「勝手に使ってすみませんでしたぁぁあ!!」

数秒の沈黙、そして絶叫。

「やっぱ誰か入ってたぁああ!!」

女の子のほうが男の人の肩をつかんでブンブンと揺さぶる。

対して男の人のほうは言葉を失ってるらしい。そりゃ、そうですよね。わざわざ棺桶で寝る人なんていませんよね…。

「…お主はどうして棺桶に?」

「えっと、眠くて?」

反射的に答えたがもしかして答えになってない?

「こ、こんなところで寝るなよ!出れなくなっちゃったら危ないじゃないか!」

「すみません! でも棺桶が良くって!」

「意味がわからないよ少年!」

わーきゃーと質問に答えていると男の人が口を開く。

「…お主は吸血鬼か?」

「…っ!どうしてそれを…?」

びっくりした。今まで種族を知っている人はあまりいなかったからか驚きが体に出る。

「バックは安物なのに衣服だけはしっかり編み込まれたものを使ってる。目もそこまで緋いヒューマンは見たことがないしね。あと棺桶で眠るのはやっぱり変だ」

多分棺桶で寝ていたことが決定打になった気もする。誤魔化したいけど神様相手。嘘は通じない。

「…はい。僕は、生まれついての吸血鬼…です。」

また数秒の沈黙。そして絶叫。

すげぇぇぇぇえぇぇえええ!!!夜のオラリオに2人の声が響いた。

 

――ひとしきり話したら分かったことがある。この二人は神様らしい。

女の人がヘスティア。男の人がミアハ。

ヘスティアはこのボロボロの教会には住んでいて?棺桶の近くにおいてある荷物についてミアハに相談したらしい。そしたらベルが起きた。これは全体的にベルがここで寝たのが悪いが謝ったので無しとしよう。してくれたから良かった。

 

それに、体力が戻ったのならやるべきことがある。

「あの、差し出がましいのですがお願いします。お二人のファミリアに入れさせてもらえませんか?」

「…私のところはすでに一人いる。ヘスティアは今募集中だったな」

「そ、そうなんだよ。ありがとうミアハ!」

気遣いのできる男神、流石である。

少し口もごりヘスティアが尋ねた。

「えっとベルくん!ボクのファミリアに入ってくれるかい?」

「はい!」

ベルの冒険は崩壊しかけの教会から始まった。

 

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