ベルくんが吸血鬼な話。   作:UNACCOUNT

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…あの人、誰だったんだろう……

 

ヘスティアは初の眷属にぴょんぴょん跳ねて喜んだ。ベルも嬉しくなってはしゃぐ。その様子を見てミアハは足早にその場を去った。

「それにしても、神様はなんでこんな所に?」

「ギ、ギクゥ…!!」

分かりやすく動揺して体を揺らす。

「あー、あのねベルくん。ボクのファミリアの初眷属がキミだ。ボ、ボクお金も無いからあんまり良いとこに住めなくてさ」

申し訳ない、と言うように告げる。だが吸血鬼ベル。こういう日陰のような所が好きだった。それにベルの棺桶寝所が置いてあってもなんら不思議のない教会。

「あとベルくん。嫌じゃなかったらフードを脱いでくれるかい?」

ビクッと今度はベルが体を揺らす。

フードは今浅く被っているので顔が少しは見えるが、ヘスティアはしっかりとベルの顔を見たいのだろう。

「あ、でも…まあいいか」

呼吸を整え、覚悟を決める。

今は、夜。太陽は姿を隠し、月光が優しく教会の中を照らしている。

フードをゆっくりと脱いだ。

ベルの顔は、幼さが残る少年の顔に白い肌。そして白い髪。髪は月光に照らされ輝いている。目は血を連想させる緋色。

神様の、息を呑む声が聞こえた。

「かっこいいぜ。ベルくん」

そう言い親指を立てる神に、ベルははいっ!と嬉しそうに笑った。

 

「…やっぱ吸血鬼なんだね」

ベルの顔を見てつぶやく。それはおそらく異様に発達した犬歯を見たからなのだろう。対してベルははい?とコテンと不思議そうに首を傾げた。

「ああ、いやなんでもないよベルくん。さあさっそく刻もうじゃないか!ステイタスを!」

ベルの手を取り、教会の隠し部屋に走った。

 

以下、ステイタス

ベル・クラネル

 

Lv.1

力:I0

耐久:I0

器用:I0

敏捷:I0

魔力:I0

 

《魔法》

 

《スキル》

 

【】

 

これが、ベルのステイタス。吸血鬼って前提があるから何か特殊な魔法やスキルに期待していたが、どうやらそんな期待は淡く消え去ったようだ。

まあ、こんなものかと肩を落としてしまうけど、冒険はこれからなんだ。

…神様はまだ僕の背中を見ている。

「どうかしましたか神様?」

ステイタスをもらってから様子がおかしい。

「…ん、ああ。大丈夫だよ」

ベルくんには荷物を整理するように促して少し考え事をする。

ベルくんのステイタス、他の冒険者と格段に違う所がある。

スキルが既に発現している。

《スキル》

【夜歩き】(ナイト・ウォーカー)

・吸血鬼として成長するときスキル、魔法が発現しやすくなる

・夜間におけるステイタス上昇

・ステイタスの再分配

 ・このスキルは成長する

 

スキルが成長するってなんだよぉぉ!!と叫びたい気持ちをしまい、神の視点から考察?する。

スキルの成長は副次効果が増える?

“吸血鬼として成長するとき”

つまり、ベルが血をすすり眷属を手にするとき。吸血鬼になると共に冒険者としても強くなる?

スタイタスの再分配も妙だ。吸血鬼は己が体を変化させて戦うからその影響? どうであれこれだけは早めに伝えておかないとかな。

なんだこれって思う所がある。初の眷属、ヘスティアはなぜか嬉しいはずなのに頭を抱えたくなった。

 

とりあえず思考を簡単な方へ流すことにする。

「あ、そういえばベルくん。生活はどうする?」

「生活って?」

「吸血鬼のキミと人間ベースのボク達じゃ生活リズムが真逆だろ?」

なるほど、とベルは考えるポーズを取り、閃いたように手を叩く。

「ボクが合わせますよ。一週間に一度くらい棺桶で寝れば問題ないでしょう」

「それ大丈夫なのかい?ボクとしては初の眷属に無理させたくないんだけど」

眷属が一人のファミリアの時点で無理はさせる事になるが、そこら辺の話は置いておこう。

「それに、キミの食事。吸血鬼だし…血、とか飲むのかい」

「…大丈夫ですよ。人って血が流れるのは痛い時なんでしょう?」

そう言い、ベルは神の方に向き直す。

「まあ、ボクはステイタス更新のたびに指から血を流してるがね!」

血を出した指先を自慢げにベルに見せる。

その時、ベルの口が少し開いたと思ったらぼーっとしてしまった。

「べ、ベルくん?」

「…あっ!いいや、神様の血なんて恐れ多いです。飲めやしませんよ」

そう言って顔を背けているが、ヘスティアの指に目が釘付けなベル。

「誰もあげるなんて言ってないけどね!!」

ウグッと痛いとこをつかれたようにベルが揺れた。

今は、深夜。神様と会った時はまだ夜だったけど今は深い夜。

「神様は寝ていいですよ。僕は読書でもします」

「…悪いね。明日はダンジョンに行くのかい?」

「それはもう。それに憧れてファミリアを探してましたから」

そっか、と優しく神はつぶやく。 

「無事でいるんだぜ?ボクは明日バイトだから、もう寝ちゃうよ」

「はい。おやすみなさい神様」

ベルはそう言い最初は本を手に取っていたが、神様の肩が一定間隔で上下するようになった瞬間、装備を整える。

まあ。うん。そういうことです。

ごめんなさい神様…ダンジョンに行けると思うとワクワクしちゃって。

ドアノブを細心の注意を払い開ける。開ける時に金具の軋む音がしたが起こさずに外に出ることができた。

ダンジョンに入るには必ず恩恵を刻むこと。そしてベルは恩恵をすでに刻んだ。いこう。ダンジョンに。

時間帯を考えろと思うが、寝起きの吸血鬼にとってそんなことはどうでもよかったりして、ベルの足は早速ダンジョンに向かって動いていた。

 

真夜中のダンジョン前は朝の活気はどこえやら、ものすごく静かだった。不気味さが漂っているかも知れないがそんなこと気にせずダンジョン内に駆けていく。

 

そして一層。二層と進む。

一から四層は脆弱なモンスターしか存在せず、ある程度慣れたLv.1なら怪我もしない階層。だがどんなに浅くとも弱くともそこは狡猾で残忍なダンジョンだった。

 

「こんなに…ッ! モンスターっているのか!」

 

ゴブリン一匹を倒し喜びのまま帰りそうなベルを多数のモンスターが囲う。どうしてそんなにモンスターがベルに集まるのか。考えれば単純な答えだったりした。

今は夜。

そんな時間にダンジョンに入るバカはベル(アホ)以外に存在せず、モンスターのヘイトはそのアホ一人に集中する。

つまり今は駆け出し冒険者ベルにとって。

 

「うわぁあああああ!!!」

 

絶体絶命だ。

 

まずいまずいまずい! 一体一体なら弱いのに、こんな数いたら!

ナイフを振り翳し魔物の身体に差し込む。煙が出るのを目端で見たら次の魔物へ振りかざす。

今はなんとか凌げているがその時はやってきた。

パキリ

音を立ててナイフの刀身は短くなる。唯一の武器が、折れてしまった。

武器が折れてしまった時に大切なことはその後の行動だ。折れても冷静であることが生き残る術だったりする。

そんなことできたらダンジョンで死者は出ないわけだが。

 

「…あっ」

 

折れた武器が手元に残る。頭はどうすれば、という疑問が支配する。考えが鈍れば動きも鈍る。そしてそんなことをモンスターが見逃すこともなくて。

魔物の打撃が頭に入る。頭から真っ白になって、やっと恐怖心に支配された。叫んで、逃げようにも逃げ道はない。

いつの間にか壁際にいた。もう逃げ場はなかった。

こんな時なのに、こんな時だからこそかも知れないが、昔の記憶が想起される。いわゆる走馬灯というものなのかも知れない。

おじいちゃん…。神様…、ごめんなさい。

英雄譚の話や祖父との生活や神様に出会うまでのオラリオでの出来事、ここまでを思い出していく。

いろんな場面が細々と。

「あ…れ?」

今のは、誰?

色々な記憶が蘇る中で、知らない人がそこに居た。

草原のような場所で、モノクロな世界で、長い髪が月明かりに照らされて輝いていた。多分その人は吸血鬼なんだって直感が告げた。

「――」

名前を呼ばれた気がする。

いつままにかその人が目の前にいた。

何かを…話してる。

「―――――……」

記憶は一瞬巡っただけ。現実じゃ刹那とない時間が今のベルには無限に引き伸ばされて記憶が巡る。

そうだ。僕は吸血鬼なんだ。

「――いってらっしゃい――」

背中を押される。

引き伸ばされていた時間が等速に戻る。

走馬灯はもう走り終えたらしい。なぜだか恐怖心は消えて、なぜだかどう動けば良いかが分かった。

 

影が揺れる。影と身体が合わせるように、ベルの身体も変化する。今はモンスターを切り裂く刃が欲しい。

爪が鋭利に伸びて、獣のように構えた。

「――ッ!」

飛びかかって一瞬。銀糸が何本か通ったと思えば煙が立つ。囲んでいた魔物を全滅させて、魔石を回収した。。

終わったのなら、帰ることにした。

何より死にかけたし、異様に疲れたし、一息つきたかった。

 

ダンジョンを出て、帰り道に考える。

「…あの人、誰だったんだろう……」

 

帰ったら神様に怒られました。

 

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