ベルくんが吸血鬼な話。 作:UNACCOUNT
明け方になり、神様がバイトに出る前に帰ってきた。
「まったくさぁ。何をしてるのさベルくん」
傷を手当てした後。神様の言葉は呆れているようだけど背中を優しく撫でてくれる。ごめんなさいと返事をして促されるまま寝転がる。
「まあ、死にかけたのには怒ってるけどなんにせよお疲れ様。ステイタス更新しようか」
Lv.1
力:H 178
耐久:G 219
器用:H 198
敏捷:H 189
魔力:I0
《魔法》
《スキル》
【記憶憧憬】
・早熟する
・記憶が続く限り効果継続
・意思の強さによる効果上昇
「はぁああああ!?!?」
ステイタスを更新したと思えばヘスティアは絶叫する。
急に叫ばれてベルは寝転びながらも耳を塞いだ。
また新しいスキル!? てかステイタスの伸び方おかしいだろ! もう一つのスキルの方は変化…してない。ちょっと安心かな…。
「ベルくん、もしかして結構ピンチだった?」
「は、はい。死にかけちゃいまして」
あははと誤魔化すように笑う眷属をジト目になりながら見つめる。
「何かあったのかい? ベルくん」
「その時になにか走馬灯なものまでみちゃって…」
「君そんな死にかけてたのかよ!」
原因はそれかな? スキルについて色々伝えるべきかも…。
ベルくんと声をかけようとすると先にベルが口を開く。
「神様。僕、会ってみたい人ができました」
誰か知るためにも次の言葉を待つ。
「走馬灯に、知らない人がいたんです。だから会ってみたいんです」
うつ伏せになりながらも告げる。顔が見えないけど覚悟が見える。
きっと、その想いがスキルとなった。
本当に下界の子供達は変化しやすい。それも愛おしくあるんだけどね。
「そういえばベルくん。大切なことを聞いていなかったんだ」
背中からどいて立ち上がる。ベルも体を起こした。
「君はどうして冒険者になったんだい?」
一瞬の沈黙。そしてベルは口を開く。
「物語のような——」
歌を組んでうんうん。と頷く。
物語の登場人物に憧れるなんて年相応で可愛いじゃないか。
「物語のような出会いをしてみたいんです!」
「うんう——え?」
「それに凄くないですか神様! 僕の記憶に知らない人がいたんです! 僕はその人に会ってみたいし、凄く物語みたいです!」
「お、おう」
興奮した様子で語り出したベルくんを宥める。
「そ、そういえばベルくん。君にスキルがあるんだ」
え。と声をあげてそしてベルは喜びと興奮から叫ぶ。
「やったぁあああああ!!!」
これは、スキルの話とかは長くなりそうだ。
まあ、今日くらいは遅刻しても良いかとヘスティアはバイト先に怒られる覚悟をした。
「…ステイタスの再分配?」
そう。と肯定を示す。実際ヘスティア自身もしっかりと理解しているわけじゃない。だから推測であることを念頭に置いて説明する。
「再分配と言うくらいだから、自分で数値をいじれるんだと思う。例えば攻撃力が欲しいなら力に振ったり、俊敏に振って瞬間的に凄く早く動いたり…。考える限り強そうだね」
すごいっ! と未だ喜びは尽きない様子。
「でもねベルくん。使う上で気をつけて欲しいのは極振りだけはやめなよ? 俊敏に降りまくって転んだだけで死んじゃったなんてボクは許さないからな」
「は、はい」
あー。あとはあれも伝えて良いかな。
「あとベルくんって吸血鬼だろ? どうやらスキルの影響で夜間の間だけステイタスがアップするらしいんだ」
んー、とベルは唸る。そちらにはあまり興味がないようだった。
…ベルくんが何で喜ぶのか、琴線が分からないな…。
ある程度話をして、落ち着いてきた頃。
「…そろそろバイト行かなきゃかな…」
はあ、とため息をついてしまう。
「あれ。でも昨日言ってた時間より遅くないですか?」
「君と話してたら遅刻しちゃってさぁ…遅れると行く気なくしちゃうよね…」
「す、すみません神様…」
まあ行かなければならない。怒られるのは辛いけどそこまで裕福なわけじゃない。その日暮らしをうまいこと続けないといけないから。
「…ボクはバイト行くけど。ベルくんは?」
ちょっとぶっきらぼうになりながら問う。
「ギルドで換金して武器を買えたら、もう一度行ってみます」
「今度は死にかけるなよぉ」
いってきますと声をかけてヘスティアはバイト先へ急いだ。
ヘスティアを見送ったあと。ベルは早速ギルドへ行くことにした。
…フードをかぶる。手袋をして、姿見で日が当たる部位がないか確認する。…大丈夫かな。ボロボロだけど
そういえばギルドで冒険者として登録もしてなかった…?
あれ、もしかして昨日ダンジョンに潜ったのは不味かったのかな?
もちろん不味い。ギルドのルール違反かも知れない。
…この魔石は…今回出すのはやめておこう。後で出すことにする。
いってきますと呟いて、ギルドへ向かうことにした。
メインストリート、冒険者通りを歩く。朝になれば人も動き出すわけで、通りは人混みで賑わっていた。
そんな中でベルの気分は最悪だった。
チリチリする…。
ダンジョンでボロボロにされた服装のどこかに穴が空いてるのか、先ほど見た時は大丈夫だったのにと後悔をこぼしながら一度路地裏に入ることにした。
日差しが差し込まない路地裏で段差に座る。
フードを取れば当たる風が心地よかった。
「……わぁっ」
声がした。路地の入り口、メインストリートの方から。
びっくりして頭を上げる。そこには、銀髪の町娘というに相応しいような、そんな娘が立っていた。
「あ! ごめんなさい。驚かそうと思ってたわけじゃないんです」
「は、はぁ」
路地裏の方に入ってきて、その人はベルの隣に座った。
「えっと、お店の制服ですよね? 大丈夫なんですか?」
「ええ。朝は基本的に下準備の時間ですし。冒険者さんはどうしてここに?」
「ちょっと歩き疲れちゃって…」
「なんだか変な格好ですよね。暑くないんですか?」
「あ、あはは…」
凄くグイグイくる…。
反応に困っているとベルのお腹が鳴った。
グゥウ〜ゥ
顔が赤く染まる。恥ずかしい…。
「冒険者さん。お腹空いてるんですか?」
「…そうみたいですね…」
恥ずかしさから逃げ出したいベルにどこからかバケットを取り出す。
「これ、もらってください」
「でもこれあなたのご飯じゃ…?」
バケットを押し付けるように渡して、はにかみながら告げる。
「じゃあ、今日の夜は私のお店で食べていってください」
「は、はい…〜」
その顔に少し照れて返事をする。上擦った声が出た気もするけど気にしない。
とりあえず、自己紹介を挟むこととした。今晩の予定の場所も聞きたいから。
「僕、ベル・クラネルと言います。まだ冒険者未満…ですかね」
冒険者さんじゃなかったんですか。と驚かれたけど、隠してたわけじゃないから許して欲しい。
「私はシル・ハローヴァと言います。『豊穣の女主人』というお店で働いているので、今夜。必ず来て下さいね!」
はいと返事をして、路地裏を出ることにした。
フードを深く被り直す。
「なんでフードを被るんですか?」
「…色々です」
答えに困る質問に、適当な返事を返す。
「今夜教えてくださいね!」
気が向いたら、と言葉を返してついでに財布を覗いた。今晩の戦力確認だ。そして振り返りシルの両肩を掴む。
「わ! あの、…ベルさん?」
「…明後日…いや、明日の夜になりませんか!?」
「え!?」
ベルの財布は薄かった。それはそうだろう。昨日やっと稼ぎ口を見つけて、やっと働くためにギルドへ行くのだから。
「…わかりました。まったく可愛い顔してずるいですね」
ちょこんと口元を押される。
また顔を赤くして照れてしまう。ベルはとにかくギルドへ急ぐことにした。
その後何事もなくギルドで冒険者となり、ダンジョンへ行こうと考えたとき。
財布の薄さから武器が買えるか不安だったが、支給品の武器があることを知りベルはギルドに涙を流して感謝していた。
順序が逆になっちゃった気もするけど良いや。やー。