ベルくんが吸血鬼な話。   作:UNACCOUNT

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…大丈夫じゃない…

 

ギルドの支給品武器に涙を流したそのあと。

早速ダンジョンへ行こうと思った矢先にある人に捕まった。

「本日から貴方のアドバイザーを務めることになりました、エイナ・チュールです。今日からよろしくお願いします」

「お願いします!」

冒険者一人一人にギルドからアドバイザーがいることは知っていた。アドバイザーの要望欄にはエルフと書いたが叶うと思ってなかったベルは舞い上がっていた。

「…それでその格好は…?」

気にしないでくださいと言葉を濁し、建物の中なのでフードを外した。

「わぁお…なおさらなんでフードしてるのか分からないね」

笑って誤魔化すことにした。

「ところでベルくん。ギルドに色々なファミリアから不審者届が来てたりするんだけど…違うよね?」

笑って誤魔化すことにした。

「でもきっとベルくんじゃないだろうし…この話はやめとこっか」

それでね。と前置きをされる。

「私の担当になったからには3日はダンジョンに行けないと思ってね」

「え?」

「当たり前じゃない。ダンジョンについて知らないことが多かったならきっと足元を救われちゃう。それに知恵はあって困ることはないんだから」

「いやでも! 僕すぐにでもお金が……」

先ほど、明日の夜にお店に行く約束もしてしまった。財布の中は素寒貧。外に食べに行くのに神様に奢ってもらう? 論外だ。

いや、最悪バレずにダンジョンに行けたら……。

「ベルくん。バレずに行こうだなんて考えたらダメだからね」

笑って誤魔化すことにした。

誤魔化せなかった。

 

ダンジョンに入らないってことは、すでに持っている魔石も換金は出来ないわけだ。ダンジョンに潜ってもないのに魔石を持っているなんて怪しいことこの上ない。

お金が入ってこないってことはお店には行けない。最低3日間は行けない。

3日……。

「…神様もバイトに遅れるときこんな気持ちだったのかなぁ……」

悪いことしたなぁ、と朝方に迷惑をかけてしまった神様を憂う。

いつのまにか受付カウンターから移動して目の前に黒板が置かれて。

授業を始めます。

そう意気込むエイナと対照的なベル。

ベルの冒険者としての始まりは、やっぱりため息から始まった。

 

だが、嫌だなぁとため息つきながらもなかなかスラスラと教えは頭に入っていく。エイナの教え方が上手いからか、昨日の実体験から嫌でも特徴を知っているからか。おそらく両方のおかげでベルは早めに授業から解放された。

「ベルくん結構覚えが早いね…これならダンジョンにすぐにいけるかも」

「本当ですか!?」

「あ。でも3日間は必ず付き合ってもらうからね。こんな上手くいくと思ってなかったから伸ばすつもりだったし」

伸ばされてしまうのもそれはそれで恐怖を覚えつつも今日は授業を切り上げて帰宅することにする。いつのまにか日は暮れていたらしい。

そんなに授業長かったの…?

「ありがとうございました! エイナさん!」

お礼を言ってギルドを後にする。

ダンジョンに行くことも叶わなかったし換金もできなかった。それに約束を破ることにもなってしまったが、なかなか晴れやかな気分でベルは帰路を辿った。

 

そしてその3日もすぐに過ぎていく。

やっとダンジョンに入ることが許可された。

許されて浮かれた気持ちでダンジョンに入る。

ギルド嬢のエイナの忠告を脳が忘れ始めた頃。事件は起きた。

ミノタウロス——。基本的に上層下部にいるモンスター。

その存在はベルの前に姿を現す。

雄叫びを発する。ダンジョン内を猛牛の声が反響し己が存在を獲物に理解させた。

己は闘牛。冒険者ベル・クラネルは今、闘牛の餌だ。そう知らせるように。

ベルの視覚情報が伝えるのは、赤黒い体毛に包まれた大男のようなモンスター。

脳内が危険信号に満たさせる瞬間、踵を返し逃げ出した。

「ステイタス…【再分配】ッ!」

ベルのステイタス平均はHだが、この瞬間だけ敏捷をFに届かせる。だがミノタウロスは獲物を逃さなかった。

叫び声を上げながらダンジョン内を駆けていく。

ベルの逃走劇を止めたのは壁だ。そしていつの間にか追い詰められていたようだ。一本道の出口からはミノタウロスが獲物に目を血走らせこちらを睨んでいる。

本能が震える。蛇に睨まれた蛙の気分がベルはわかった気がした。

 

ミノタウロスは道を塞ぎながら一歩一歩ベルに迫る。この時間があったからか。ベルの覚悟が少し決まった。

…僕は…吸血鬼だ。

こちらの出方を伺うミノタウロスにベルは突進する。

携帯していた武器は、持っていない。

その無謀にも見える突進にミノタウロスは自身の勝利を確信し嘲笑った。そして、力比べのようにベルに応えた。

剛腕による横のなぎ払い、これで奴は吹き飛び、動かない。そう考えた。

太い腕が横方向に振れる。

が、ミノタウロスの腕は向かってきた餌を捕らえない。

振り抜かれた腕は空振りしていた。

その瞬間、背中に激痛が走った。首を錆が入った歯車のように回し、己を刺した存在を見る。それは、数瞬間前まで餌であった冒険者。

「…影渡り…すごく疲れるけど吸血鬼ならではの技だッ!」

腕の当たる前にミノタウロスの影に身体を溶かし背後で姿を現す。吸血鬼だからこそできる一瞬の逆転方法。

 

だが、ステイタスの差が一瞬で裏返るはずないのだ。

ミノタウロスは脚を回し、ベルを転ばせる。そして勢いのままベルの腹を蹴り上げた。

「ーーッ!!」

餌は間違いだ。だが此奴はまだ及ばない。今ここで——。

とどめを刺しに近づくミノタウロス。

今度こそと一歩一歩近づく。

ベルへ1メートルほどになった時、

ミノタウロスの腹、脚、腿、腕、そして首に光の線が走る。

ベルの間の抜けた声と共にミノタウロスは灰になった。

牛の怪物に代わってそこに立っているのは駆け出しの冒険者でも知っているような金眼金髪の少女だった。

【剣姫】アイズ・ヴァレンシュタイン

「大丈夫ですか?」

その言葉と共に手を差し出してくれている。

その姿が、ほんの一瞬だけ、ダブって見えた。走馬灯に現れたあの人に。

「…えと、大丈夫?」

見つめて固まるベルに再び声をかける。

恐らく、今さっきの一部始終を見ていたのだろう。

嗚咽を吐きながら立ち、腹を抑えながらベルはいう。

「大丈夫です。これでも結構頑丈なんですよ?」

「…本当に?」

そりゃもう、と言いちからこぶをアピールするように腕を曲げてみる。恥ずかしい。

「…ふふっ」

ちょっと笑ってくれた。でも羞恥心の方が勝っている。ここは早急に退散させてもらおう。

「本当にありがとうございました!」

手をブンブンと振って上層に繋がる道を走っていくその姿に。アイズも少しだけ、手を小さく振り返した。

 

上層に上がっていくのを確認してアイズは自身のファミリアと合流するために踵を返す。それと同時に見送った冒険者の方からゴスンッと音がした。

見に行ったら壁に頭をぶつけて口から泡を吹いて伸びていた。

「…大丈夫じゃない…」

ポーションをぶつけたと思うところにかけて、外まで運んであげることにした。背負ってから、考える。

「……そういえばこの子、名前なんて言うんだろう」

 




着々とお気に入り登録とか増えててうれしい。
感想待ってます。

…書いてて思いましたがここのベルくんは冒険者になって一週間足らずでミノタウロスに追われてるんですね。不憫だなぁ。
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