ベルくんが吸血鬼な話。 作:UNACCOUNT
少し身じろぎして、ベルの意識は回復する。
起きて初めに視界に入ったのは夜空をバックにした剣姫の顔だった。
「…おはようございます…」
「……おはよう」
無表情な顔を向けられている何故だか照れて顔を逸らしてしまう。
…あれ?
場所はバベルの塔の前。ダンジョンに入る前の広場。しかしベルの視界には九十度違って見える。そういえば剣姫の顔は近かったし後頭部にやわらかな感触もする。ベルの体も横になっているしこれは。
「うわぁああ!? な何してるんですか!?」
「…起きなかった…から?」
起きなかったからって膝枕するのか!?
びっくりして頭は完全に起きたらしい。周りを見渡せば冒険者たちから殺意すら含みそうな視線が飛んできている。それに気づいて冷や汗を流すが、原因たる少女は気づいていないようだった。
「あ、あの! 助けていただき本当にありがとうございましたぁあああ!!」
とりあえず、ベルは逃げることにした。
恥ずかしさと周りの冒険者からの視線。とにかく今はホームに走った。
「…名前、聞けなかったな」
「…神様。外に食べに行きませんか」
「帰ってきて開口一口にそれかい? ベルくん」
神様は呆れた様子でソファーに沈んでいた。
それに、と言って。
「お金はどうするんだい! 贅沢は敵だぞベルくん!」
「そ、それが、聞いてください神様!」
どうして外に食べに行こうと提案したのか、どうして晩御飯を持って帰ってきたのに外に行こうと思ったのか。
約束を今、思い出したからだ。
「それでその、その人のお昼ご飯をもらう代わりにお店に来てくださいって言われてて。約束をもう破っちゃってるけど謝らないのはダメかなって思ってしまって……」
息を吐く音がする。
「…わかったよ。ベルくん」
「あ、ありがとうございます神様!」
そこからは色々。ステイタスを更新して、防具などは置いて、財布の中身を見て……。できる限り部屋から小銭などを集めて…。
ある程度まとまったお金になってから、出発する。
久しぶりのご馳走。
二人、口元に弧を描いて件のお店に急ぐことにした。
メインストリート。冒険者通りは夜には朝以上の活気を見せていた。その中を言われたお店の看板を探しながら二人で歩く。
「そういえば神様。バイトに遅れたのは大丈夫だったんですか?」
「今更過ぎないかい? 何日前の話をしてるのさ。……どやされる程度で済んだよ…」
程度で済んだと言えるのか分からないテンションの落ち込み様を見せサムズアップしながら答える。
その様子にベルは横目を逸らして話を切り出そうと口を開くと、神様が先に話し出した。
「安心しろよベルくん。約束破っちゃったのならボクも一緒に謝ってやるさ。何せボクはその手の謝罪をいっぱいしてきてるからね!」
笑うべきか突っ込むべきかスルーするべきか。判断に迷ったベルは苦笑いを浮かべた。
神様…それは誇れることなんですか…?
「…あ。そういえば神様に渡したいものがあるんです」
「お、おいおいなんだい改まっちゃって」
ま、まさかそう言うアレかい!? アレなのか!? ベルくん!!
頭の中でうるさく騒ぐヘスティアにベルは本を一つ渡した。
「…これなに?」
「えっと、最初に渡そうと思ったんですけど忘れちゃってて。先ほど掃除した時に見つけたんです。吸血鬼について調べてある本で、僕自身のことも書いてますから気が向いた時に読んでいただければ」
「ふーん…」
期待外れでガッカリした節もある。けどヘスティアは読み物は好きな方だ。今は歩いてるから読めないけど帰ったら読むかな…。
「神様今どこに本をしまいました?」
「ふっふっふ…知りたいのかいベルくぅん」
「いえ! いいですから神様っ」
「遠慮するなよぉ…と。アレが目的地じゃないかな?」
やいやいとつつき合っているうちに、着いたらしい。
『豊穣の女主人』
すごい名前だなと看板を仰ぎながら、店内を伺った。
シルさんは…いた。
少し、ベルは安心している気持ちがある。
自分一人なら入るのに相当な時間を要しただろう。約束を破る経験も、謝る経験もベルにはあまりなかった。
だけど今は、神様がいる!
「…行こうか。ベルくん」
「はい——ってなんで背中押すんですか! 先に入ってくれるんじゃ…ってうわッ!」
背中を押されて入口の段差に足をもたらさせる。そのままの勢いで店内に入って倒れた。
「…あーー! ベルさん! やっと来たんですか! 約束と違いませんか! 来るの遅くありませんか!」
倒れた頭上から声が聞こえてくる。シルさんだ。
「す、すみません。冒険者になるのが以外と大変で…」
立ち上がって謝罪する。ちらりと後ろを見たら神様は入口の方…知らぬ様子でわざとらしく口笛を吹いていた。
「ぷんぷんですよ! あの日私のお昼なかったんですから!」
「本当にそのことは…」
「……ふふ。本当はもう怒ってませんよ。その代わり、たくさん食べていってくださいね?」
「…努力します」
はい!っと元気よく答えられない自分の財布に悔しさを覚えながら、席につくことにした。神様は…ちょっと放置して。
でも一応、目の着きやすいカウンター席に座る。
ヘスティアはベルの謝罪が終わっていることにやっと気付いたのか、先に座っている眷属に突進した。
「ベルくーん! なんで声かけてくれないのさぁ!」
「神様こそ今さっきの謝罪の百戦錬磨みたいな自信はどこにいったんですか!?」
「どうでもいいだろベルくん!」
全然よくない。けど注文をとりに来たウェイトレスさんを待たせるわけにも行かないので、流すことにした。
そして渡されたメニューを二人で両端を摘んで覗き見る。
「「高いッ!」」
失礼だと思う。けど声をあげてしまう。高いものだとベルが一日に稼いだヴァリス全部でも足りない。
「お決まりですかー?」
シルさんにたくさん食べると言った手前。すごく、申し訳ないが神様と声を揃える。
「「この中で一番安いメニューで!」」
ウェイトレスさんにすごく微妙な顔をされてしまったけど、ごめんなさい。財布が膨れたらまた来ます——心の中でそう誓い、早く強くなることを夢見る。
ドカッ
目の前に突然、肉料理が置かれる。濃いスパイシーな匂いがすぐさま漂ってきた。
「えっと…頼んでないと思うんだけど」
「サービスだよ。そっちの坊主は冒険者なんだろ? 肉つけな肉!」
「そ、そうかい。ありがとう! ベルくん早速頂こうぜ!」
向き直ると、ベルは喉元を押さえていた。目も細めて、顔色がみるみる悪くなっているように見える。
「ベルくん?」
肩を揺すったらそのまま椅子から落下した。
「ベルくん!?」
そしてハッとする。
今出された肉料理…! まさか
椅子から落ちたベルは、激痛に悶えていた。
暑い。熱い。熱いッ!匂いが、気道を通ってからベルのはらわたを焼き尽くすように熱い。別の空気を吸おうとしても喉が焼けたようになって空気が通らない。
ヘスティアはベル手を引き、出口に急ぐ。
後ろから心配そうな声が飛んでくるが知ったことか。
あと少しで出口。
そんな時に、最悪は起こる。
出口に届くその前に、ゾロゾロと人が入ってくる。
その人たちに当たり、ヘスティアは尻もちついて倒れた。ベルは、まだ立てるほどの状態じゃない。
「いやー!やっぱ遠征後はここに限るなぁ!」
エセ関西弁を話す、神の声。
店内にゾロゾロと入ってきたのは、オラリオ最強名高い『ロキ・ファミリア』
そしてベルを助けたその人もいる。
「あの、大丈夫ですか?」
また、手を差し伸べてくる。
悪夢というか、最悪というか、どちらにせよベルには都合の悪い形で再会を果たした。
没話
灰狼「ほらいただろアイズ! あのミノタウロスにビビって伸びてた情けない冒険者がよ!」
剣姫「…ちがいます。あの子は帰る時に壁にぶつかって気絶したんです」
評価に色がついています!
嬉しいことですね。
それと誤字報告もありがとうございます。