ベルくんが吸血鬼な話。 作:UNACCOUNT
「あの、大丈夫ですか?」
差し伸べられた手に目を向けることもできず、喉元の頭に力一杯手を当たる程度しかできず床に伏していた。
大丈夫な訳ない。今だってまともに息をできちゃいない。空気が通る度に喉に熱した鉄が当たるような熱さと肉を裂くような痛みが頭が響く。
痛くて、痛くて痛くて痛くて痛くて痛くて!!叫びたくても叫び声さえあげられない。
今さっきまで酒の匂いで、良い雰囲気に感じられた店の中が今はベルを追い込む痛い臭いと嫌悪を抱く喧騒に支配されている。
とにかく、返事をしないと、再生しないと。
喉に力を込めて…、早く。
「アイズたーん?って、なんやどチビやないか」
「今それどころじゃないんだロキ!退いてくれ!」
「なんやチビ助。食い逃げかってからに」
焦って外に出たいヘスティアに、大所帯のロキ。
入り口はまだ人がいた。
ロキは食い逃げなのか、従業員シルに目線を飛ばす。
シルは分からない、とジェスチャーしロキはまたヘスティアに視線を戻した。
「ロキ、本当に退いてくれ、頼むよ」
下を向いて、いつもの調子もなく体を震わせてロキに懇願する。
流石のロキもバツが悪くなったか退くように声をかけた。
「あの、この子大丈夫なんですか?」
いつの間にかアイズはしゃがみ込んだベルの背をさすりながら質問する。
「…言えない」
どちらかと言うと、分からない。
「おいドチビ。自分の家族に何したんや?」
「関係ないだろ!」
焦っているから、まともな返答ができない。早く外に出ないといけない。今この時間もベルの体内は焼けていっている。
やっとできた出口の隙間に、座り込むベルの手と肩を担ぐようにしてヘスティアは走りぬけた。
「…なんやアイツ」
滅多に見ないヘスティアの必死の形相に、そしてこんな店で死にかけのような様子の子供にあっけに取られたロキ。
「…悪いこと、したかな」
アイズの声は誰の耳にも届かず喧騒の中に消えた。
店の臭いが届かない場所で、そこらの路地にベルを連れていく。
向かい合って肩を掴み、顔色を確認する。
「大丈夫かベルくん!」
大丈夫、と返事をしたくても蚊の鳴くような声しかベルは発せなかった。
「ポーションっ!」
咄嗟に思いつき、ベルのベルトにあるポーションを取り出す。
そして口に流し込む。効果があるかは不明だったが何もせずにはいられなかった。
「…ーぁ、ぁぃ…ぁ」
「ーーはぁ…。良かった…」
ちょっと声が出て、少し笑った家族に安堵する。
でも心配なのは変わらず、もう一本ポーションを口に突っ込んでやった。
「ーぁあ、よし。ありがとうございます神様」
「…はぁぁぁ……。本当によかったベルくん…」
抱きつく。ちゃんとある。別に灰になった訳じゃない。
目尻に少しだけ涙が溜まってる。
「大丈夫ですか神様?」
今さっきまで一番まずい状況にあったのはキミだろうに。まったく。
「今日は、家に帰ろうか。ベルくん」
「…はい」
しっかりと手を繋いで帰ることにした。
ちょっとだけ、ベルくんの手が震えてる。ボクも、震えてるかな。
吸血鬼ってのは、こんなにも生活の中に溶け込みづらい。そして、脆い。
不安になって、また手を強く握り直した。
「…なんやアイツ」
あっけに取られた。ドチビに眷属が出来ていたのも、久しぶりにあって軽口を叩けるかと思っていたのにあの形相。流石に、何か悪いことをした気になってしまう。
「…まあ、早く席に着くか」
どこかで聞くことにしよう。アイズも知ってるようだし、どうせなら酒の席で。
「んじゃま、遠征ご苦労さん!」
まずはロキ・ファミリアの宴会を始めた。
「ところでロキ。今さっき神友に会ってたらしいけれど、どうだったんだい」
フィンはロキが何か考え事をしていることを見抜いたのか、”どうだったか”と聞いてくる。
「どうしたもこうしたもないわ!久しぶりに会った神友に逃げられて感傷に浸ってるだけや!」
そうか、とフィンは少し笑ってまた酒を煽った。
「アイズたんはあの子知っとんのやろ?」
「…ちょっとだけ」
「あんな病弱そうな感じだったんか?」
「冗談言えるくらいには、元気?だった」
腕を組み、唸り声を上げる。やっぱ少し気になる。まあいいか。色々と引っかかるが情報が少なすぎる。考えるなら、もうちょっと後でもいいだろう。
「とりまぁ、酒の勝負と洒落込もうや!」
いつも通りの宴会に専念することにした。
教会に帰ってから、ベルはまた棺桶で眠る訳ではなかった。
神様との、話し合いだ。
「まず、えっと、大丈夫なのかいベルくん」
「体は、問題ないです」
伝承でニンニクなどの匂いが弱点となる事は知っていた。だがあそこまで顕著に現れるとは、まだ焼けた喉が痛い。
そして、これはベル自身が一番気づいている事。体の変化。
再生力が、落ちている。
それも格段に。ミノタウロスに腹を蹴られた時もダンジョンで傷を負った時も、再生が遅い。今回喉を再生しようとしたが、時間がかかった。ましてやポーションに頼る始末。
そして最近、欲求が強い。血が欲しい。
「神様、僕もう寝ますね」
「ああ、ゆっくり休んでくれ」
棺桶の中の暗闇が、ベルを眠らせる。
とにかく、休もう。
休んで力を溜めないと。
明日だって冒険がある。きっと、明日は大丈夫。
そう信じて、眠った。