ベルくんが吸血鬼な話。 作:UNACCOUNT
棺桶で眠ること一夜。
本来、もう少し眠ることが必要だがその日暮らしの零細ファミリアにそんな余裕も甘えもない。
キシキシと音をあげる体を叩き起こし、早速ダンジョンに潜る用意をする。ヘスティアは何かをジロジロと眺めていた。
「神様?」
「ん、ああ」
呼びかけに気付き、先程まで睨みつけていた二つの羊皮紙を見せる。
一つは神の集会の招待状
一つはオラリオで行われる祭りの宣伝
「悩んでるんだベル君。行こうか行かないか。祭りは日中が一番盛り上がるイベントがあるし、神の集会に至ってはドレスが一着しかないし会いたくないヤツもいる」
「祭り行くんですか?」
「もちろん! 君とさ!」
待ってましたと言わんばかりに人差し指を突き刺す。
「一人で行って楽しいわけないだろ! でも君は日中に動けないし、祭りは人混みだし、悩んでるのさ!」
小さい体をブンブンと振り回す。
長いツインテールがベルの顔にペチペチと当たっていた。いたい。
一通り体をぶん回し、ソファにダイブした。
「…僕は」
「無理はするなよ」
ベルの発言の先を読んでか釘を刺す。祭りは行きたい。だが、今の調子で出かけて日にでも当たったのならタダでは済まないだろう。
「夜、はダメなんですか神様」
「盛り上がりに欠けるんだけど…まあロマンチックだからよし!!」
納得した様子でソファから立ち上がる。
「僕も用事があるんだ」
「…神様たちの集会ですか?」
よくわかったね。とこぼす。
ポケットに招待状を突っ込み、台所からタッパー一式を持ち出し始めた。
「…神様」
「なんだい?」
「恥をかくことは、しないで下さいね」
そんな様子のヘスティアを見て、ベルは遠い目をした。
わかってるさ! とわかっていない声が返ってきた。
ダンジョンに潜ることも、日常になりつつある。ここに来る道中の冒険者通りの抜け道も少し覚えるほどには慣れてきていた。
日常に組み込まれつつあるダンジョン内の生と死。
『ッギャァァア』
灰になり崩れるモンスター。
何故か、目が離せない。
もしかしたら、近々こうなってしまうのではないか。飲食店によるだけであれだった。
消えていくモンスターの一部が、自身の体のように感じてならない。日に当たれば溶け消える体も、おそらく最期はーー
「させないよ。ベル君」
路地で独り言を呟く。わざわざバイトを休み神の集会に行くのだ。ヘスティアにも目標もある。
そのためにもまず見つけなければならない相手がいる。いや見つけるのは容易そうだが頼むのがどうも心持たない。
まあまずは行ってみようか。
「ヘイタクシー!!」
ご馳走様抱えて、お宝抱えて戻るからな! ベル君!
場面が前後し、そのころのダンジョン内のベルは戦闘を続けていた。
すでにダンジョン内の冒険者は少なくなってきている。
今は夜。通常であればヘスティアの迎えに期待しながらホームへ戻るとこだが、今はいない。ならば戻る必要はなく、不眠不休で狩りに勤しんでいた。
ドロップアイテムを拾い集めている時、ソレは聞こえた。
「おい!さっさと動けクソガキ!」
咳き込む声が聞こえる。
聞こえた声から考えるに、関わるべきでもない。ダンジョンの影に隠れてやり過ごすこととした。気がかりだが。
「ーーッ」
自身の等身に合っていないようなバックパックを背負った女の子がつまづく。さしづめサポーターだろうか。
男、冒険者の方は、急いでるらしく地面を蹴り上げながら足早に進んでゆく。サポーターはつまづいた埃を落としながら周りを確認し始めた。
…一瞬、目があった?
「…待って、ください」
足早に去る冒険者を、そのサポーターは追いかけていった。
彼らは立ち去ったのに、しばらくの間動けなかった。
なかなかに嫌な物を見た。
冒険者の世にも多くの立場の違いがある。レベル、ファミリアの違い。稼ぎの額、容姿、種族。英雄譚で語られる多くの輝かしく眩しい物語も、蓋を開ければこんな物だ。
……。
安っぽいナイフを握る手に力がこもった。
「…僕は英雄を超えるよ」
自分に言い聞かせるように奮い立たせるようにつぶやく。
まるで英雄譚のような冒険をしたい。英雄が九十九を救うなら、ベルは百を救いたい。
だから。
「…もうひと頑張り」
夜はまだ明けない。
「頼む!ヘファイストス!」
「断る」
即答。
「てか、どういうつもりヘスティア?」
現在、ヘスティアは地に這うダンゴムシのように体を折り曲げ、頭を床につけていた。
「だいたい、追い出した時言ったじゃない。お金を貸すのはもうなし、ファミリアももう出来たのでしょう?」
「…家族について相談なんだ」
沈黙が部屋を支配した。
……集会の場で土下座されたから、わざわざここまで呼んだ。あれでは周りにも迷惑だから。お金関係の話かと思えば、それより大事な話をしそうになっている。故にヘファイストスは
「待った。アンタのファミリアの情報知っちゃったらダメでしょ。少し相談に乗るくらいならいいけど、詳しくは入れないからね」
「頼む!」
正直、こうなってから三時間経ってある。その間も土下座の体制から動いていない。頑固だ。あの動かなかったヘスティアが。あのニートが。
…少しなら、いいかな。
下界での友人の多少の変貌に嬉しさを寄せ、今回は頼みを受ける事とした。
地面で丸まっている背中をつつく。
「頼みは聞いてあげる。でもどんな話か聞いてないから期待しないでね」
「う、うん」
「早く立ちなさい」
「…腰が痺れて動けない…!」
今度こそヘスティアの背中をぶっ叩いた。
「で、どんな話なの」
お茶を出し、対面のテーブルに座る。ヘスティアはイタタっと腰をさすっていた。
「えっと、あー。まずウチの子の話なんだけど…」
相談しといて口籠るヘスティア。人差し指と人差し指をツンツンと合わせたり、髪の先をいじったり落ち着かない。
「早く話しなさい」
「わ、わかってるよぉ!」
硬い声にビビってか、ヘスティアも話す準備が出来たらしい。
「んと、ボクの子は…」
今より話されるこの話に、ヘファイストスは耳を疑うことになる。
「吸血鬼なんだ」