推しの子の世界に転生したけどVtuberしてる 作:文才パワーがない人
「〜っ…痛い…やっぱりボクサーみたいに顎先パンチで脳震盪は無理か…」
手を痛そうに振りながら、コンはフードの男を見つめる。
「な、なんだお前!?」
殴られた頬を抑え、フードの男は叫ぶ
「この階の住民です。不審な男が居るなと思って出て来たら、花束からキラッと見えたのでグーパンしました」
そのまま目線を下にして、落ちているナイフを使い古されたサンダルで踏み付ける。
「こんな危ないものなんで持って来た訳?事情は知らないけど、一時の感情で大事やらかすと後々大変だよ?」
「そ、そんなの…!」
フードの男が立ち上がってアイを指差し、声を上げる
「アイドルの癖に子供なんて作るからっ!ファンを…裏切るふしだらをしてっ…!」
「…それで?」
「は?」
激情に対して怒る訳でもなく、ただ真っ直ぐ見つめてそう言うコンに、フードの男はポカンとした顔を晒す
「聞いてる限り、ただアイドルである彼女が子供を産んで育ててるだけ、となるんだけれど…何か問題ある?」
「大アリだろ!アイは今じゃもう影響力が強くて少しの不祥事でも発見されたら終わるんだぞ!」
「じゃあ君、ファンなのに彼女のアイドル生命を終わらせに来たの?」
「…ぁ」
フードの男は、その言葉に顔から表情が抜け落ちる
「お、おれは…おれは…」
顔を手で押さえ、呻くフードの男に、アイはしゃがみ込んで話しかける
「…リョースケ君だよね?よく握手会に来てくれた」
「…ぇ…なんで、おれのこと…覚えて…」
「顔を見た時にちょっとだけ思い出したんだ。君がお土産でくれた星の砂、玄関に飾ってあるんだよ…ほら」
そう言ってアイが指差した先には、砂の詰まった小瓶が置かれていた。
「…おれの…渡した…土産…」
それを見た途端、フードの男…リョースケは涙を流す
「…おれは…なんでこんな事…」
その場で蹲り、啜り泣くリョースケに、コンはしゃがんで話しかける
「…一応、まだ未遂だ。…警察には既に通報済みだから、犯罪歴は付いてしまう…でも、ここで後悔出来たなら、君はまだやり直せる」
その言葉に、リョースケはぐちゃぐちゃな顔でコンを見上げる
「…やり直せる…のか?…こんなことをしたのに…?」
「やり直せるさ。しっかり罪を償えばね」
「…私も待ってるよ、リョースケ君」
「…わかった」
その後に来た警察によって、リョースケは逮捕された。
アイとコンはそれぞれ事情聴取を受けた後に解放となったが、事件を心配してキャンセルしようとする斉藤社長を押し切って、ドーム公演を行った。
無事に何事もなく、ドーム公演は終了した。
「…生存はした…したけれど…ここから先は知らないんだよな…」
事情聴取から解放され、自宅に戻ったコンは、ソファに座ってダラけながらそう呟く
何せ、コンが知るのはアイが刺されて死んだ所まで。そこから先は読んでいない。
「…まぁ、いいか、同じ階に住んでいたとは言え、流石にセキュリティ面や身バレ防止の為に引っ越すだろうし、もう会う事もない…」
そんな時、コンのスマホがムームーと振動し電話を知らせる。
「…何処からだ?僕に電話かける人なんてもう居ないはずなのに……もしもし?」
「…はい、はい…明日の1時頃にそちらへ向かえばいいんですね?…分かりました」
電話を切り、コンは天井を見る
「……株式会社苺プロダクションって……なんだろう…?」
コンは原作をほぼ忘れていた。アイの死が強烈過ぎて所属事務所すら忘れていたのである。
「…まぁ、明日マップ見て行けばいいか…今日もお風呂は入ってるから大丈夫だし…外に出る時は…適当な服でいいか…迷わんといいけど…」
そう言って、コンはさっさと眠りに付いた。