Persona The Crossover【ペルソナ3×ペルソナ4 クロスオーバー 本編後】 作:ベリーベリーハード
ーー六月十六日。???。???。
「……どこだ、ここ」
奇妙な息苦しさと圧迫感で陽介は目を覚ます。両手足を床に投げ出して大の字に倒れていた陽介の腹の上には、青くてデカくて丸い毛玉が乗っかっている。
息苦しさの正体に早くも気付いた陽介は、とりあえずその原因を床の上に転がし、ゆっくりと上体を起こした。
「……体育館?」
現状把握に努めた視線は見慣れた景色を映し出している。夕焼けが差し込んだ薄暗いその空間は、間違いなく八十神高校の体育館だった。
陽介は思う。ーーいや、何で?
「ーーんぅ」
「……里中?」
か細い声がした方に目を向けると見知った姿を発見する。里中千枝だ。おまけに彼女だけでなく、その周囲には天城雪子、巽完二も同様に床に倒れ伏していた。
戦いの記憶が蘇る。陽介は咄嗟に立ち上がり、千枝の側に駆け寄って上体を抱き起こした。
「お、おい里中! 大丈夫か! 天城! 完二! 全員無事か!?」
「……う、るせえなあ」
「……花、村くん?」
次々と起き上がる仲間の姿に陽介はホッと安堵した。そうして完二と雪子の安否を確認し、続けて千枝を見る。
いつの間に起きていたのか。千枝は陽介の腕の中でパチクリと目を見開いていた。
「おっ、起きたのか。大丈夫か? どっか痛む所とかーー」
「セイッ!」
「痛ェッ!?」
突然グーで額を殴られた。
両膝立ちにオデコを押さえて悶絶する陽介をよそに、千枝は何事も無かったかのようによっこらせと立ち上がる。
当然、陽介は抗議の声を上げた。
「て、めぇっ里中!! いきなり何しやがる!?」
「いや、ごめん。なんか起きたら目の前に顔面があったから、つい」
「つい、で殴るか普通!? しかもグーで!!」
涙目で怒りを向ける陽介に「たははっ」と空笑いを返してから、千枝は周囲に目を向けた。視線を右へ左へと動かして、首を傾げる。
「ここって、もしかして八高の体育館? 何であたし達こんな所で寝てたの?」
「……何でだろう。なんかいきなり目の前が真っ白になった所までは覚えてるんだけど」
やはり雪子の記憶はそこで途切れているらしい。陽介も同じだ。眩しさに目を閉じた直後がこの場所だった。
「……あん? クマ公とあの女はどこッスか?」
「あの女って、エリザベスさんの事か? そういやどこにも居ないな。って、そうだクマはーー」
陽介が慌てて振り返った先で、クマは床に座り込んでキョロキョロと周りを見渡していた。よかった。どうやらクマも無事らしい。これでメンバー全員の安否が確認出来たーーと、陽介が胸を撫で下ろした所で、
ーーガンッ!!
「わっ!?」
「なっ、なんだァ?」
千枝と完二が揃って視線を動かす。音がしたのだ。それも、物音なんてレベルでは到底収まらない大きな衝撃音。続けて『ガンッガンッ』と振動を館内に響かせるその音は、どうやら体育館端に造られた体育倉庫から発せられているようだ。
「だ、誰か居るの……?」
一歩、近づいて雪子が尋ねる。すると『ガンッガンッガンッ』激しくなる音に「ひっ!?」と雪子は飛び退いた。
明るさよりも暗さが目立つ夕陽の色がそこはかとない不気味さを演出している。断続して起こる、扉を殴りつけるようなSEはホラー以外の何ものでもなかった。
と、面々が怖気付く中で、陽介はふと思う。
「……もしかしてエリザベスさんか?」
「え? あっ、ひょっとして閉じこめられちゃったとか?」
よく見れば倉庫の扉は南京錠で施錠されている。自分達が揃っているのに、近くにいた彼女の姿が見当たらないという事は、つまりあの中に閉じこめられてしまったからなのか。
陽介は、そう考えた。
「皆、ちょっとここで待ってろ。職員室に行って鍵もらってくる」
「いや、やめといた方がいいッスよ。こんな遅い時間に先公と話しても門前払い喰らうか最悪説教されて終いだ。第一、もしも借りれたとしても先公が付いてきたらどうするんスか。部外者で、しかもめちゃくちゃ目立つ格好した女が体育倉庫に入ってたって知れたら色々面倒事になるッスよ」
「……あー、確かにそりゃあそうだろうけど。でも他にどうしようもねえじゃんかよ」
「ふっふっふ。まあオレに任せてくださいよ」
得意気に息を巻いて完二は大股に体育倉庫へ近づいていく。
扉の前に立つと、ポキポキと拳を鳴らして腰を落とす。重心を低く、両手で南京錠を掴んだ完二は幾つかの予備動作の末に、
「フンッ!!」
バキッ、と嫌な音を立てて南京錠を繋いだ金具が引き抜かれた。
「うわぁ……」
「めちゃくちゃ力技じゃねえか……」
「というか、コレはコレで後から面倒事になるんじゃないかな……?」
「あァ? 何とかなったんだから別にいいじゃねえスか」
不服そうに陽介達を見ながら完二は雑に扉を開く。そして視線を体育倉庫の中に戻した所で「ちぇすとおおおおおおおおっ!!」「ぐぼはァッ!?」下腹部に突き刺さる何かにぶっ飛ばされて完二は勢いよく床上を転がり回っていった。
開いた扉の先、腕を交差して前傾姿勢になっていたソレは、差し込む夕陽に照らされながらエモく笑う。
「フゥっ、やっと出られた。ベイビー達、ボクが居なくて不安になっていなかったかい?」
「……は?」
無風なのに風に揺れる金色の前髪。中性的なベイビーフェイス。陽介の奢りで揃えたブリリアントな服装を身にまとったクマ(美少年)が、舞台俳優さながらの足取りで体育倉庫から登場した。
謎のキラキラを振りまきながら周囲を見回すクマは呆然とする千枝と雪子の姿を確認するなり満開の笑みを浮かべて、
「あ、チエちゃん! ユキちゃん! 会いたかったクマよ! クマねえ、暗くて狭くて臭い場所で一人で寂しかったんだあ。だから、お慰みに頭をヨシヨシってしてくれないクマか?」
「……クマくん? 本当にクマくんなのよね?」
「んん? 何を言ってるクマか? こんなにもモチモチなお肌をしてるのはクマ以外の何者でもないクマよ!」
「そう、よね。そうだよね。えっ、それじゃあーー」
雪子が、千枝が、陽介が、同時に背後を振り返る。そこには置物のようにボーっと立ち尽くすクマの着ぐるみがあった。
困惑する三人を尻目に、本物のクマはその姿を見るなり「あっ!」と声を上げて、
「ちょっとちょっと! 誰が勝手に使っていいって言ったクマか! そのクマはクマ専用なんだから、誰であろうと無許可で入るのはNGクマよ! 今すぐ返すクマ!」
「……?」
着ぐるみは身動きなく、顔だけをクマに向けている。その無反応をクマは挑発行動と受け取った。
空気が変わる。ワキワキと手を動かしながらクマは「フフフフ」と笑みを浮かべ、
「そうですか……そっちがその気なら、こっちにだって考えがあるクマ! そおれっ、恥知らずなそのお顔を見せるクマァ!」
電光石火の右腕が即座にチャックを開放し、烈火の如き左腕が頭を剥ぎ取った。
そして着ぐるみに隠された顔が露わになる。その瞬間、誰もが驚き、息を呑んだ。
「ウソ……」
「お前……!?」
光景がフラッシュバックする。
長い前髪で片目を隠した特徴的な容姿。衣服を何も身につけていないその身体は、無機質な鈍色ではなくちゃんとした人間の肌に戻っている。
間違いない。
磔にされていた筈の少年がそこにいた。